Nearer My God To Thee

第三十三話≪Nearer My God To Thee≫

エリアE-5の山道を、巨乳狼娘・藤堂リフィア、シスター・岸部淑子、活発仔猫娘・長谷堂愛の
女性三人パーティーが歩いていた。
三人が向かうのは会場東南部に位置する市街地である。
温泉旅館にて、淑子と愛が温泉を満喫した後、三人はこれからの行動について討議した。
仲間を集めるのであれば、恐らく市街地が最も人が集まりやすいだろうという、
三人が考えた末の結論に基づく行動だった。

「ふう……大丈夫、愛ちゃん」

リフィアが息切れし始めているアメリカンショートヘア種の猫獣人の少女、長谷堂愛を心配する。

「ん、大丈夫。ありがとうリフィーちゃん」

気丈に振舞う愛だが、明らかに疲労の色が強くなっていた。
ちなみにリフィーとはリフィアの事である。

「あそこに倒木がありますから、一休みしましょうか」

淑子が前方数メートル先にある倒木を指差して言った。
リフィアと愛の二人は淑子の提案に賛同し、一時休息を取る事にした。


同じ頃、紫色のショートヘアの少女(の外見の中年女性)、島村露柏は、
全く他の参加者と遭遇出来ない事に苛立ちを募らせていた。
折角殺し合いに乗って優勝しようと言うのに、肝心の獲物が見付からないのでは話にならない。
どれだけの人間がこの殺し合いをやる気になっているのかは分からないが、
さっさと人数を減らしておく事に越した事は無い。

「あら」

木陰から露柏は、休息を取っていると思しき三人の他参加者の姿を確認した。
銀と白の狼獣人の女子高生、シスター、仔猫の女子高生の三人。
三人は露柏の存在には気付いていないようだった。

「チャンスね……」

小声でそう呟き、不敵な笑みを浮かべると、露柏は姿勢を低くしつつ、
茂みに隠れながら、三人に接近していった。


淑子、リフィア、愛の三人は、それぞれデイパックの中に入っていた
食糧と水を取り出し、軽い食事を取っていた。
淑子は鮭おにぎり、リフィアはコロッケパン、愛は玉子サラダサンドイッチである。

「小学校の時に行った山登りを思い出すなー」

愛がサンドイッチを頬張りながら言った。

「私も行ったな~中学校の時の学校行事で。滅茶苦茶嫌だったけどね」
「そう? 私はすっごく楽しかった! 岸部さんは山登りした事ある?」
「私は……無いですね」

非常に和やかな雰囲気の会話である。
これが殺し合いの中で無ければ、ごく普通のピクニックか何かの会話に聞こえるだろう。
三人共、この時だけは、自分達が殺し合いの中にいると言う事を忘れているようだった。
だが、この殺し合い――バトルロワイアルでは、ちょっとした油断が命取りになる可能性がある。
そして三人は気付かない。自分達が座っている場所の前方の茂みから、
鋼鉄製のクロスボウの矢が狙っている事に。
三人は軽食を終え、後片付けをして立ち上がった。
愛が元気良く号令をかけた。

「それじゃあ、れっつごー!」

右腕を空に向けて掲げ、満面の笑顔を浮かべる愛。

ガシュッ!!

まさかそんな明るい笑顔を浮かべる仔猫の頭部に、鋼鉄製の矢が突き刺さるとは、
誰が想像し得ただろうか。
こめかみから刺さった矢は愛の頭部を串刺しにし、
愛は倒木に足を躓かせ、倒れ込んだ。
両目と鼻から血を流し、白目を剥いて、息絶えた。
淑子とリフィアは突然の出来事に理解が追い付かず、しばし呆然としていた。
そしてふと、倒木前方の茂みの方に身体の正面を向けた、その時。

ザシュッ! ドスッ!

リフィアの喉と胸元に矢が刺さり、リフィアは大量に吐血し、崩れ落ちた。
そして直後に、

グサッ!!

「がっ」

淑子の腹部に矢が突き刺さる。
喉の奥から、鉄錆の味がする熱い液体が込み上げ、淑子は身体中の力が抜けていくのを感じた。
そして、ガクリと膝を突き、そのまま横倒しに倒れた。

「やったわ……一気に三人仕留めたわ」

茂みからクロスボウを持った紫色ショートヘアの少女が現れた。

「それじゃあちゃっちゃと支給品と食糧頂いて行こうかしらね」

そう言って少女――島村露柏は、リフィアが持っていたライフル、モシンナガンM1891を
拾い上げようとした。
露柏は三人とも間違い無く死んだと思っていた。
特に獣人女子高生の二人。猫少女は頭部を矢が貫通しているのだし、
狼少女だって、首を矢が貫通し、胸元に深々と矢が刺さり、白目を剥いて口から大量に血を流して、
倒れたままピクリとも動かない。
どう見たって間違い無く死んでいる。
少なくとも露柏はそう信じていた。だから、次の瞬間起こった事が彼女は信じられなかった。

――狼少女の右手が、自分の右腕を掴んでいる、という事など。

「え?」

露柏は目の前で起こり、自分の身に降り掛かっている超常現象に目を見開いた。
ついさっきまで、完全に死人の顔だったはずの狼少女。
それが今では、眉間に皺を寄せ、牙を剥き出しにし、獣の表情で自分を睨み付けているではないか。

「……な、に、してる、の、かな、かな?」

何かが喉に詰まっているのような、くぐもった声だが、
底冷えするような、低く、ドスの利いた声で、狼少女――リフィアは口を開いた。
そして凄まじい力で露柏の右腕を掴んだまま、
ガクガクと震えながら、しかしゆっくりと、確実に立ち上がった。
露柏はあまりの事態に、声も出せず、ただただ驚くばかり。
リフィアは自分の首と胸元に刺さった矢を、唸り声をあげながら引き抜き、投げ捨てた。
傷口から血が噴き出し、リフィアの青い制服が赤く染まっていく。
そんな事はお構い無しに、リフィアは今自分が右腕を掴んでいる少女――露柏を再び睨み付ける。

「あな、たが、やったの? ねえ、あ、なた、なの?」
「……」

呆気に取られていたせいか、露柏はリフィアの問いに答えなかった。
次の瞬間、リフィアが露柏の腕を掴む右手に更に力を込めた。

「ぎゃああああああああああ!!!」

骨が折れそうなくらい強い力で握られ、露柏が悲鳴を上げる。

「こたえろ……ッ!」

リフィアが再び低い、ドスの利いた声で言う。
その表情は、もはや直視出来ない程、憤怒に満ちていた。

「そ、そうよ! 私がやったのよ! けど、恨むのはお門違いよ! それがこのゲームのルールだって事ぐらい、アンタ達だって分かってるでしょうが!」

露柏は右腕の余りの激痛に涙目になりながら喚き散らした。
それを聞いたリフィアは俯き、しばらく何かを考えるように沈黙した。
そして、再び露柏の目を見て、言った。

「死ね」

正真正銘の死刑宣告を下し、そして死刑の執行は早かった。
リフィアの鋭い狼の牙が、露柏の喉元に付き立てられ、皮膚、気道、食道、声帯、頸動脈、
首の内部に存在する生命維持機関を根こそぎ引き裂いた。
噛み千切られた喉から二メートル近い、鮮血の噴水を噴き上げ、周囲を真っ赤に彩りながら、
露柏は物言わぬ屍と化し、地面に崩れ落ちた。
その様子を、返り血で真っ赤に染まったリフィアは、非常に冷静に見ていた。
口の中に溜まっていた血を吐き出し、右手で口元を拭うと、リフィアは愛に駆け寄った。

「愛ちゃ……」

確認するまでも無かった。愛の小さな身体はもう完全に機能を停止していた。
リフィアは無念そうに歯を噛みしめながら、同じく倒れている淑子に駆け寄った。

「う……」
「!! 岸部さん!」

僅かな望みが見えた。淑子はまだ息があった。しかし。
淑子の腹部、矢が刺さった場所からは夥しい量の血が流れ出ていた。
淑子の顔色も悪く、体温も徐々に下がってきている。
もう長く無い事は明らかだった。

「リフィア、さん……愛、さん、は……」

しかし、淑子は自分の命が消え行こうとしている時でも尚、他人の事を心配していた。
彼女にとってみればそれはごく普通の事だったが、中々出来る事では無い。
リフィアは本当の事を言うべきかどうか迷ったが、隠してもどうにもならないと判断し、
目を瞑って首を静かに横に振った。

「……そう、ですか……」

淑子はリフィアの意図を察した。
そして、リフィアの喉元と胸元に矢が刺さった跡があるのを見付け、淑子が心配そうに言う。

「リフィアさん……お怪我、は……」
「わ、私は大丈夫です。あの、結構、丈夫なんで……」
「そ、そうですか、良かったです……ごめんなさい、リフィア、さん……私も、ここまでの、ようです」
「そんな……! しっかりして下さい岸部さん!」

淑子の声が段々弱弱しくなっていく。リフィアは目を瞑ろうとする淑子に必死に呼び掛けた。
だが、そんな想いも空しく、淑子の肉体は生命活動を停止しようとしていた。
大量の血液の流出により、もはや生命活動を維持する事が困難になっていたのだ。
リフィアの目から大量の涙が溢れていた。ほんの短い間だとは言え、
一時は一緒に行動した仲間だった。笑い合って、他愛も無いお喋りをして、
とても仲が良くなれた。死んで欲しく無かった。死なないで、とリフィアは心の中で何度も叫んだ。
淑子は最期の力を振り絞り、リフィアの頬のそっと自分の右手を添えて、
優しく微笑みながら、言った。

「貴方に、神の御加護が有らん事を」

それが最期だった。直後に淑子の右手がリフィアの頬から滑り落ち、
淑子の瞳は完全に閉じられ、全ての力が抜けていった。

「岸部さん? 岸部さん!?」

リフィアは呼び掛けるが、もう、返事は返ってこなかった。

「……う、あ、あああ……」

淑子の死を実感したリフィアは、もう、涙を抑える事など出来なかった。
リフィアは淑子の死体に縋り、号泣した。

静かな森に、悲嘆に暮れる狼の少女の泣き声が木霊した。


【一日目/午前/E-5森】

【藤堂リフィア】
[状態]:首、胸元に貫通創(命に別条無し)、返り血(大)、口元が血塗れ、深い悲しみ
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/5消費)、モシンナガンM1891(5/5)、7.62㎜×54R弾(50)、直刀
[思考・行動]
基本:(号泣)
[備考]
※生命力が異常に高いです。頭部破壊、焼殺、首輪爆発以外で死ぬ事はまずありません。
但し一定以上のダメージが蓄積すると数十分~一時間ほど気絶します。


【長谷堂愛  死亡】
【島村露柏  死亡】
【岸部淑子  死亡】
【残り35人】


※三人のデイパック及び装備はそれぞれの死体の傍に放置されています。
概要は以下の通り。
岸部淑子=デイパック(基本支給品一式(食糧1/5消費)、参加者詳細名簿、ピコピコハンマー)
長谷堂愛=日本刀、デイパック(基本支給品一式(食糧1/5消費))
島村露柏=クロスボウ(0/1)、デイパック(ボウガンの矢(86)、ダイバーズナイフ、入間あやなの水と食糧)





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最終更新:2009年10月04日 21:44
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