無自覚の殺意(24バトルロワイアル)


   , n / ̄ ̄\ .n
 . / / j.´_ノ  ヽ、u'l lヽ、とんでもないゲームに巻き込まれちまった
  /,イ / (○)(○) .l i i i   俺は絶対に死にたくないぞjk
 〈 .r {u (__人__) .i. } } 〉
 ', i.  ',   ` ⌒´ /   /
  .i   l.      ,'  ./
.  ヽ、_.イ、.    人 ノ
    ヽ     〈_ノ ノ
     |     ./
     |    .   |
やらない夫は頭を抱え、苦悶する。やる美の事を思い出すと悲しくて悲しくて思わず涙が出そうになってくる。
一人しか生き残れないのだから、自分も高い確率でああいった結末を迎えることになる。
己の死を想像すると、恐ろしくて仕方がない。なんとかして生き残りたいのだが、だからと言ってどうすればいいのだろうか。
やらない夫は目をつぶり、憎たらしいケツホルデスの姿を思い起こして、自分を奮い立たせる。
これからは生きるために、最善の事をしなければならない。ミスは直、死に繋がる。

「まずは支給品の確認だろ。常識的に考えて……」
デイパックに手を突っ込む。やらない夫のランダム支給品は草刈り用の鎌だった。
それを見てやらない夫はまた絶望した。草なんて刈ってる場合じゃねえんだよ、と心の中で突っ込みを入れたがどうにもならない。
生き延びようと思うのなら、最低一人は殺さなければならない。それなのに、武器がこれでは心もとない。

どうすりゃいいんだよ畜生。これでどうやって人を殺すんだ!?

続いて名簿に目を通す。クラスメイトの名前が多々あった。ルール説明の際にやる夫や翠星石の姿は目にしていたが、
まさかここまで多いとは考えてもいなかった。全体の三分の一以上がやらない夫のクラスメイト。
それはやらない夫にとって、絶望的な事実だった。見るからに危険そうな、殺し合いに乗っている『赤の他人』を正当防衛気味に殺し、
24時間ルールをクリア出来ればいいなと楽観していたのだが、まさか知り合いがこれだけいるとは……
殺し合いに乗っている赤の他人を見つけるのに、苦労するかもしれない。

          _______
        /          \
      __/             \
    /.            、    |  くそ……なんでこいつら参加してんだよ。
    |.         ,(⌒(○)ヽ    |   やらない子まで…… いくら殺さないと死ぬからって、
    l  lヽ      )>       /友達や妹を殺せるわけがないだろ。良心的に考えて   
   /    ヽ\   `(__,(○) / /  とはいえ死にたくもないし……もうどうすれば……
   |      \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  \
   |     |ヽ、二⌒)、          \

本来なら修学旅行に行っていたはずのやらない夫達。バスで走っているところまでは覚えているが、
そこから先はどうも思い出せない。何かあったとするならば、やはりバスの中なのだろう。
突然誘拐でもされたのだろうか。思い出せない。

不思議なのは、同じバスに乗っていたクラスメイト全員がゲームに参加していないという事だ。
クラスメイト全員の内、やらない夫達15名が選ばれた理由は何か……
改めて名簿に目を通す。よく気の弱い連中を苛めるハルヒとナギの名前が目に留まる。
こいつらは殺し合いに乗るのだろうか。普段の所業を考慮に入れると、やはりこいつらは危ないのかもしれない。
やらない夫はデイパックからパンを取り出し食べる。ケツホルデスはデイパックの中に食料が二食分入っていると言っていたが、
まさかコッペパンがたった二つしか入っていないとは思いもしなかった。
この騒動に巻き込まれてから、誘拐?されてからはずいぶん時間がたっているような気がする。
それくらいの空腹をやらない夫は感じていた。あっという間にコッペパンを一つ食す。
それなりに大きなコッペパンだったのでそれなりの満腹感は得られた。残り一個しかないコッペパンを見てやらない夫は主催者の悪意を感じる。
どう考えても足りない。いずれ食糧不足になってしまう。育ち盛りの男子がこんなもんで満足できるわけがないだろ常識的に考えて……

腹が減ったなら殺して奪いなさい……ケツホルデスの声が聞こえてきたようで、やらない夫はぶるっと体を震わせた。

「あーあ……夢じゃないのか?最悪……本当に最悪だろjk」
デイパックを背負い、とりあえず移動を始める。
「なにはともあれやらない子が心配だな。さっさと見つけるべきだろ兄貴的に考えて」
不安そうに鎌を握りしめ、やらない夫は移動を始める。


「ん? あれは……?」
歩いてすぐに、やらない夫は海に面した崖の発端に立つ人影を見つけた。見覚えのあるシルエットだ。
よくよく眼を凝らしてみると、人影の正体は柊つかさである事が分かった。

つかさちゃん、崖の端に立って何をするつもりだ? そこから落ちたら普通に死ぬだろ。まさか、自殺しようとしているのか?
いつの間にか声を潜めるやらない夫。つかさは今にも崖から飛び降りそうだった。

突然後ろから背中を押してやれば、間違いなく落ちていくだろう。そしてつかさは死ぬ。

────俺は、何を考えているんだ?

突然脳裏によぎった黒い考え。つかさの背中を押して、殺害してしまえ。
今なら簡単に殺せる。一人殺せば24時間ルールのノルマはクリアだ。そして今なら周りに誰もいない。
やらない夫は殺人鬼として危険視されることもない。背中を押して、それでお終いだ。
つかさだって、死にたいからあそこに突っ立っているんだ。それを軽く一押しするだけじゃないか。何も悪い事はない。
誰かを殺さなければ自分が死ぬんだ。つかさの命よりも、己の命の方が重いに決まっている。

────やめろ。俺は、ただつかさちゃんを抑えつけに行くだけだ。
今にも自殺しそうなつかさちゃんを止めに行くだけなんだ。自分の命は確かに重いけど、
だからと言ってクラスメイトを犠牲にする程、俺はクズじゃない。押さない。自殺を止めに行くだけだ!

────押せ!押してしまえ!ここでノルマを達成してしまえ!

────嫌だ……絶対に嫌だ!

「つかさちゃん……自殺なんてするなよ……」
脳内でつかさを殺すという考えが激しく燃え上がる。やらない夫は殺すつもりなんてなかった。
しかし、殺せ殺せという悪魔の声がやらない夫の内側から響いてくる。

────ここで殺せば早々にノルマ達成……だからと言ってつかさちゃんを殺すわけにはいかねえだろ……

▼ ▼ ▼

やる美の肩から上が目の前で弾け飛んだ時、もう何もかもがどうでもよくなった。
こんな恐ろしいゲームに巻き込まれては、もはや自分には何も出来ない。自分など一番に殺されるに決まっていた。
名簿を見ると、クラスメイト達が沢山参加していることが分かった。お姉ちゃんやこなちゃんまで……
彼らの命を犠牲にしてまで、生き延びたくなかった。誰も殺したくなんてなかった。

つかさは崖の端に立ち、海を見下ろす。波の音は聞こえたが、闇に包まれているため、海自体は見えない。

「やっぱり、いざとなると怖いな……」

自殺しようと決意したのは、名簿に目を通して少し経ってからの事だった。
いや、潜在的にはやる美が死んだ時点ですでに自殺の計算を始めていたのかもしれない。
自殺への恐怖は勿論あるが、つかさにとっては殺し合いという最低のゲームに参加する事の方がもっと恐ろしかった。

「お姉ちゃん……こなちゃん……みんな……」

クラスメイト達の事を考えると涙が止まらなくなる。
いつも元気だったやる夫君と、やる夫君にツッコミを入れつつもいつも振り回されているやらない夫君。
頭が凄く良くて、誰にでも優しかったできる夫君……クラスの纏め役だった圭一君。
クールでカッコイイやらない子ちゃんに、意地っ張りなところが凄く可愛い翠星石ちゃん……
いざという時に頼りになる阿倍さんと、何を考えているのかよく分からないキョン君と月君……
そして────こなちゃんと……お姉ちゃん。

そんなみんなと、殺し合いなんか出来ないよね……みんなが死ぬところなんて見たくなんかないよね……
つかさの目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。今までの思い出が溢れて、涙が止まらない。

「ごめんね……皆ごめんね。でも私は、殺し合いなんて……嫌だよ」

────さあ、死のう。

つかさは意を決して片足を上げる。過去の思い出の、楽しかった部分だけが奔流のように脳内に流れる。
この片足を、前方、何もない空間へと踏み出せばそれで全てが終わる。

「つ、つかさちゃん!やめろ!」
突然後ろから声が聞こえてきた。やらない夫君の声だ。つかさはもう空中へと片足を踏み出そうとしている。
このまま何もしなければ、そのまま奈落へと落ちていくだけだ。

────やらない夫君は、私を助けてくれるのかな……助ける必要なんてないよ……

どの部分でもいい。つかさの体を掴めば、助けられない事もなかった。しかし、やらない夫がとった行動は────

その時、つかさの背中に衝撃が加わった。跳ね飛ばされる形でつかさの体が宙に浮く。

落ちていくつかさとやらない夫の目が合う。やらない夫は顔面蒼白だった。
自分が何をしたのか分からない、という表情だ。

────やらない夫くん……今、私の背中を押したの? どうして……?

海が迫る。つかさは死ぬ直前まで、やらない夫の顔を凝視していた。


自分の意思に反して、体が動いてしまった。つい魔が差してしまった。わざとじゃない、思わずだ。殺意なんてなかった。
言い訳ならいくらでもできる。しかし、どれだけ喚いても自分が殺人という罪を犯した事実は覆せない。
やらない夫は頭を抱え蹲り、つかさの最後の表情を思い出し、自分が犯してしまった罪の重責から、涙を流して震えていた。

────俺は……何故……?

【柊つかさ@やる夫スレ常連 死亡】
【残り41人】

【一日目/深夜/C-7 崖】
【やらない夫@やる夫スレ常連】
[状態]:健康
[装備]:鎌
[所持品]:基本支給品一式(パン残り1個)
[思考・行動]
1:何故俺はつかさちゃんを殺してしまったんだ……
※24時間ルールのノルマを達成しました。
※つかさのデイパックは近くに放置してあります。

Back::第二話 時系列順で読む Next:全てはチャンス!?
Back::第二話 投下順で読む Next:全てはチャンス!?
GAME START 柊つかさ GAME OVER
GAME START やらない夫 Next:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月17日 23:44
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。