人間失格


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雑木林をかきわけながら、菊丸英二はさ迷っていた。
もっとも、迷子になっているわけではなく、仲間を探そうとしてのことだ。
「手塚やーい。不二やーい。おチビやーい。……みんなどこだよぉー」
呼びかけにも関わらず、その声は限りなく小声だった。
本当なら、大声で名前を呼んで走り回りたい。
しかし、うかつに大声を張り上げることが不用心かつ危険だとは理解できる。
ようするに、己を鼓舞する為に声を出しているだけなのだった。
目印もない森の中だということに配慮されたのか、支給された地図には、菊丸のスタート地点を示すらしき赤い点がついていた。
その位置表示によると、菊丸がいるのはマップの北の端近くらしい。
なら、人を探す為にもとにかく南下すべきだと彼は歩き続けていた。
真夜中の密林は必要以上に孤独と恐怖を煽りたてたが、体力トレーニングを積んでいたおかげで足だけは軽快に動く。
(何とかする方法なんて分からないけど、怖いけど、でも絶対に何とかして帰らなきゃ。
……俺や手塚たちがいっぺんに行方不明になったら、大石だって心配して胃炎になっちゃうよ)
そして、森林が少しだけひらけた空間が見つかった。
休憩地点のように空いた場所に、進路が合っていると言われた気がして菊丸は急ぎ足になる。



空き地に、女の子が座り込んでいた。



「きゃっ……!」
「うわぁ! びっくりした……」
少女は茂みをかきわけ現れた菊丸を見て、固まる。
何だか大人っぽいというか、雑誌のグラビアでもやっていそうな感じの少女だった。それでいて、大きくぱっちりと開いた瞳が可愛らしい感じだ。
「……あの、あの、私」
ディパックを盾のように胸の前に抱え込んで、言葉が見つからないらしくうろたえている。
そんな少女の様子に、菊丸は胸をつかれる。
体力には自信のある菊丸だってこんな状況に混乱しているのだから、目の前の少女はもっと怖かったに違いない。
「だいじょうぶだいじょぶ、警戒しないで。俺もゲームには乗ってないから」
いつものおどけた口調で、にぱーっと笑ってみせた。
「ほんと……?」
潤んだ大きな瞳で、見上げて来る。
あ、可愛いな、と思う。
「ほんとうほんとう」
警戒を解くためにディパックを地面に落とすと、しゃがみこんで、少女と目線の高さを同じにした。
「だいじょうぶ。俺は、絶対に人殺しなんてしないから」

ぱん、と破裂音が鳴った。
何の音だろう、と菊丸は思った。
それが、最後に思ったことになった。



※  ※

袖口から取り出したポケット・ピストルを再び袖口にしまいなおした。
まずは、一人。
ディパックには他にも武器があったが、初手は『いつもの手段』――可愛らしい演技をして油断させてズドン――で殺害することを選んだ。
ちゃんと前のプログラムと同じようにできるかを、試す意味もあったし。
彼をしばらく味方につけて、盾として使おうとも思わないではなかった。
そうしなかったのは、彼が光子のことを――ディパックを抱えたままだったのに――欠片も警戒しなかったからだ。
こんな状況でも簡単に人を信じてしまうようなお人好しのそばにいたら、危なっかしくてしかたがない。
だから相馬光子は彼を殺すことを決めて、躊躇なくそれを実行した。
このゲームに呼ばれる前の、『前のバトルロワイアル』でもそうしていたように。
演技力には自信がある。
力では女子中学生の域を出ない光子にとって、それは最大の武器だ。



どてっと人が転ぶ音がした。



「きゃうんっ!」
子犬のような鳴き声。
「ふぅ~。は、はにゃが……鼻が……」
新たな闖入者に、光子は少し驚く。
さっき少年が走り込んできた場所に、小さな少女が頭から倒れていた。
光子と同じか、少し年下ぐらい。
アニメの声優みたいな、幼く可愛らしい声をしている。
少女は、鼻をおさえながら立ち上がると、光子と目が合い――
――光子の傍に転がる死体を凝視。
「ひっ……!」
子犬のように大きな瞳に、恐怖が宿る。
「あ、あ、あなたが――」
疑念を宿した声。
光子は一瞬で表情を切り替え、懇願する演技をした。
「違うの! ……私も、今来たところなの。倒れていたから触ったら、死んでて……びっくりして……」
瞳に涙をためておくのも忘れない。
涙なんか、いつでも流せる。
純真な人格を作ることなんて簡単だ。
「はぅ……本当、ですか?」
子犬のような目が、まっすぐに光子を見つめた。
恐がりながら、しかし光子を置いていけないという葛藤でせめぎ合っているのが分かる。
冷静に考えれば、死体のディパックが持ち去られていないから、別人が犯人の可能性は低いと分かったはずだけど。
もうひと押しだと、光子は内心だけでほくそ笑む。
「ううん、信じてくれないならそれでもいいわ。でも、危ない人が近くにいると思うから、すぐ逃げて。私は私で逃げるから」
「……そ、そんなことないです! 信じます! 一緒に逃げましょう!」
ぶんぶんと頭を横に振って、ぎゅっと両手を握りしめて力説する。
いい子だなぁ、と光子は思う。
きっと、愛情のある家庭で育ち、普通に友達をつくり、健全な恋をしていたのだろう。
光子の元に駆け寄って、光子の射程距離まで近寄り、疑うことを知らない子犬のように笑いかけてくれる。
「ありがとう」
光子は我ながら極上の笑顔で微笑むと、さっきと同じ動作で袖口からピストルを取り出した。



ざしゅっ



グレープフルーツの果肉にナイフを入れたような気持ち良い音が響いた。

「え……?」
相馬光子が最期に見たのは、自らの首に刺さっている小刀だった。
ひどく、既視感を誘う光景だった。
どこで見たんだっけと記憶をたぐって、
ああ、あの時は、小刀じゃなくて除草用の鎌で、光子は『刺す方』だったのだと思い出して……。

それが、最後に相馬光子の思ったことになった。

小刀を抜いて大量の返り血を浴びた竹田千愛は、子犬のような演技をやめて素の顔に戻った。
小刀の血を丹念にぬぐって、隠し場所だった袖口にしまう。
とても冷静に、死体に向かって謝った。
「ごめんなさい。本当は撃つところから見てました」
演技には自信がある。
純真な人格を作ることなんて簡単だ。
もう動かなくなった少女に向かって言った。
「それと、もうひとつごめんなさい」
あどけない顔立ちには似合わない、感情の欠落した声。
仮面のような無表情で、恐ろしいほど理性的な瞳だった。


「私もあなたを殺そうとしていたんですよ」

【菊丸英二@テニスの王子様 死亡】
【相馬光子@バトルロワイアル 死亡】

【残り68人】

【C-1/森の中の開けた場所/深夜】

【竹田千愛@“文学少女”シリーズ】
[状態]健康、無感情モード、服に返り血(聖条高校の制服)
[道具]基本支給品一式、ナイフ@現実、不明支給品残り0~2(確認済み)
ポケットピストル(残弾5/6)@スパイラル~推理の絆~、相馬光子のディパック(支給品残り0~2)
菊丸英二のディパック(支給品1~3)
[思考]基本:井上心葉を生還させる。櫻井流人は殺す。
1???
2コノハ先輩の生存を優先
3流くんは私が殺す
※参戦時期は、少なくとも『神に臨む作家』で流人を『殺す』以前からです。

【ポケット・ピストル@スパイラル~推理の絆~】
袖口に仕込める超小型拳銃。簡単な動作で袖口から飛び出して手に収まるように仕掛けられているので、一瞬で奇襲に移ることができる。

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