酔っ払い保護作戦

第二十四話≪酔っ払い保護作戦≫

私、一色利香(いっしき・りか)は、右手に自分の支給品である金槌を握りながら、
右手側に草原と海、左手側に木々が生い茂る森と山が見えるアスファルトの道路を歩いていた。
デイパックの中にはもう一つの支給品である除草剤が入っているけど、
別に除草作業をする訳では無いので今は必要無いだろう。
私の当面の行動指針は二つ、殺し合いに乗っていない人の救助と、この殺し合いからの脱出。
警察官である私が殺し合いなど出来るはずが無い。
ならば警察官として、出来る事をするべきと考えた。
名簿には私の知り合いの名前は無い。だけど、かと言って他の人はどうでも良いという事にはならない。
それに首にはめられたこの首輪……これも何とかしなければならない。
やらなければいけない事は山程ある。

「一色さん、あそこに酒場のような建物がありますよ」

そう言って遠方に見える建物を指差したのは、
この殺し合いが始まってすぐに仲間になったフリーカメラマンの富松憲秀(とまつ・のりひで)さん。
風景や野生動物の写真を主に撮影しているそうだ。
既婚で奥さんと娘さんがいるそうだが、幸いこの殺し合いには呼ばれていないらしい。
彼の支給品は……確か玩具のヨーヨーとセメダインだったと思う。
地図を確認すると、確かに酒場のようだ。

「あそこを調べてみましょうか……もしかしたら誰かいるかもしれないし」
「そうですね」

私と富松さんは、遠方に見える酒場に向けて再び歩き出した。


しばらくして、目的地である酒場の出入口に辿り着いた。
扉の取っ手に手を掛け、ゆっくり引く……鍵は掛かってはいないようだ。
私と富松さんはお互いの顔を見て頷き、意を決して扉を開けた。

「グゴオオオオオオオオオオ」
「え?」
「ん?」

まず聞こえてきたのは空気を揺るがすような大音量のイビキ。

「ウゲゴガアアアアアアアアア」

……これはイビキというより怪獣の鳴き声ね。

「オママアアアアアアアアアアアア」

……いや、これは無いでしょ流石に。
音の発信源は、バーカウンターの奥の席で、カウンターに前のめりになっている、
食堂の主人が着るような白い服に身を包んだ中年の男性だった。
音を立てないようにゆっくり男性に近付くと、物凄く酒臭かった。
見れば男性の周りにはウィスキーや焼酎の空き瓶が幾つも転がっている。
首輪をはめ、すぐ脇に男性の物と思しきデイパックが置いてあるので、参加者の一人だと分かる。
殺し合いという状況に絶望し、やけ酒でもあおっていたのだろうか?
しかし何と言う大音量のイビキだろう……犬獣人である私の人間より鋭い聴覚には堪える。

「……どうします?」

富松さんが困り顔で私に尋ねてくる。
この泥酔状態で爆睡中の中年男性、こんな大音量のイビキをかいていたら、
他参加者に発見される可能性が非常に高い。
それが私達のように殺し合いに乗っていない人だったら良いが、その逆だったら?
こんな爆睡してては無防備にも程がある。
このままにしておく訳にもいくまい。

「うーん、取り敢えず、奥の部屋に運んで寝かせましょうか。
ここだと外に近いから、イビキが外に漏れやすいわ。殺し合いに乗っている人を呼び寄せたら大変」
「そうですね、そうしましょうか。でも、この人、起きますかね?」

富松さんの言う通り、揺さぶって起きそうな感じでは無い。
無駄だと思いつつも揺さぶってみたり大声で呼び掛けたりしたが、
やはり徒労に終わった。
仕方無いので、二人で両脇を掴んで奥の部屋まで引き摺る事にした。
男性は意外に重く、二人掛かりでもかなり苦労した。
その間も男性はイビキをかきながら、全く聞き取れない意味不明な寝言を発しつつ爆睡していた。
そしてやっとの事で男性を酒場奥の厨房の先の小さな和室まで運ぶ事に成功した。

「ゼェ、ゼェ、やっと、終わった……」
「しっかし、全然起きないですねこの人……結構飲んでるみたいですから、当然か」

男性は畳の上に仰向けになり、涎を垂らして爆睡している。

「? 富松さん、そのデイパックはそこの男性の?」
「ええ。ついでに持ってきました。あの……中見たりするのはマズいですかね?」
「え? う~ん……見るだけ、見てましょうか」

私と富松さんは男性に申し訳無いとは思いつつも、男性のデイパックの中身を調べる事にした。
そして、基本支給品一式の次に出てきた物は、
何と全長が2メートル近くもある長大な西洋剣――ツヴァイハンダー。
そして次に出てきた物は古い型のアサルトライフル――ハーネルStG44とその予備マガジン数個。
自分達の支給品より遥かに上等な支給品である。
正直、男性も寝ている事だしこのままくすねてしまおうという邪な考えが頭に浮かんだが、
仮にも警察官なのにそんな事をしれはいけないと必死に自制した。
富松さんも自分と同じような事を考えたらしいが、やはり自制しているようだった。
私はツヴァイハンダーとハーネルStG44を男性のデイパックの中にしまい直した。

和室は男性のイビキが酷くうるさいので、
店舗部分に戻ってこれからの行動を決める事にした。

「しばらくここにいませんか? 下手に動くのは危険です」

富松さんはしばらくここに身を潜める事を提案した。
私は今すぐにでも他の殺し合いに乗っていない人達を助けに行きたかったけど、
焦って無闇に突き進むのは禁物だと思い、それにあの男性を放っておく訳にもいかないとも思い、
富松さんの提案を受け入れた。

「それじゃあ、この酒場を探索しましょう。何か武器になる物があるかもしれないし」
「そうですね」

私と富松さんは男性のイビキをBGMにしながら、この酒場内を探索する事にした。


【一日目/午前/B-3酒場】

【一色利香】
[状態]:疲労(小)
[装備]:金槌
[所持品]:基本支給品一式、除草剤
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。殺し合いに乗っていない人々の救助。
1:この酒場内の探索。
2:富松さんと行動を共にする。
3:あの泥酔状態の中年男性(川田喜雄)が心配。
4:殺し合いに乗っている人に出くわしたら、まず説得。駄目なら戦う。
5:首輪を解除する手段を探す。
[備考]
※泥酔中年男性(川田喜雄)のデイパックの中身を確認しました。

【富松憲秀】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、ヨーヨー、セメダイン
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。
1:この酒場内の探索。
2:一色さんと行動を共にする。
3:あの泥酔状態の中年男性(川田喜雄)が心配。
4:殺し合いに乗っている人に遭遇したら正当防衛の範囲での攻撃はやむを得ない。
[備考]
※泥酔中年男性(川田喜雄)のデイパックの中身を確認しました。

【川田喜雄】
[状態]:泥酔、爆睡中
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、ツヴァイハンダー、ハーネルStG44(30/30)、ハーネルStG44の予備マガジン(30×10)
[思考・行動]
基本:???
1:爆睡中
[備考]
※泥酔しながら寝ているため揺さぶっても声を掛けても起きません。後どれくらいで起きるのかは不明です。
※一色利香、富松憲秀の二人を認知していません。



※B-3酒場内和室に川田喜雄が寝かされ、
脇に川田喜雄のデイパック(基本支給品一式、ツヴァイハンダー、ハーネルStG44(30/30)、ハーネルStG44の予備マガジン(30×10)入り)が置かれています。
※B-3酒場周辺に川田喜雄のイビキが響いていた可能性があります。




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最終更新:2009年10月09日 23:01
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