36:脆く砕ける宝石
浅井うららの希望で、石黒雅則は再び学校を訪れる。
恐らく、と言うより間違い無く、自分が殺してしまった猫少女の死体が残っているだろう。
雅則はうららには自分が――正当防衛だった可能性が高いとは言え――参加者を一人、
殺害しているとは言ってはいない。もっともその死体をうららが発見したからと言って、
自分に疑いがかかるとは限らないだろうが。
昇降口から中に入ると、微かに血の臭いが漂ってきた。
(…あの猫娘のものにしては新し過ぎる…もしかしたら…)
「……石黒さん、あれ……」
「……」
うららが指差す先、廊下の中央付近に人狼種の男の死体が横たわっていた。
明らかに、雅則が最初にこの廃校を出た後に、ここで死んだものだろう。
「……?」
「どうしたんだ、うららさん」
「……え?」
「? お、おい」
廃校の裏口方向を見ていたうららが何かを見付け、足を進める。
そして彼女が見たものは。
「……嘘」
「……!」
裏門付近の二体の死体。ハイエナ獣人の少年と、首の無くなった少女の死体。
すぐ近くに首が落ちていた。うららはその首に近付き、顔を覗き込み、
「……きゃあああぁぁああぁあぁああああぁああああ!!!!」
悲鳴を上げた。
「嘘…嘘よ!! こんなっ…こんな事って……!!」
「うららさん……!? ! こ、この子……」
雅則もその首に近付き、その少女が誰なのかを確認する。
それはうららの妹、さららだった。
「嫌ああああ……さ、さららああああ……うっ……ううっ……痛かったでしょ…怖かったでしょ……。
ごめんね……ごめんね……」
妹の生首を抱えながら、うららは妹を助けられなかった絶望感に襲われ嗚咽を漏らす。
雅則はどう言葉を掛ければいいのか分からなかった。
「……石黒さん」
「?」
不意にうららが泣き止む。さららの首を静かに地面に置くと、持っていた回転式拳銃コルトローマンを雅則に向けた。
「!? うらら、さん」
ダァン!
「がはっ……!」
腹に一発の銃弾を食らい、雅則は大きく仰け反る。
うららの目からは光が消えていた。
「もう嫌……もう疲れちゃったよ私……生きる希望が、沸いてこない……石黒さん……一緒に、死んで?」
「や、め……」
ダァン! ダァン! ダァン!
雅則の懇願も空しく、続けて三発の.357マグナム弾が放たれ雅則の身体を抉る。
口から血を吐き出し、その場に膝を突き崩れ落ちた。
(…最初に、あの猫娘を殺した…報い、なのか……?)
遠退く意識の中、雅則はそう思っていた。
そして。
「さらら…今お姉ちゃんも逝くからね……きらら…お姉ちゃんと妹がいなくても、あなたなら大丈夫よね」
この殺し合いには呼ばれていないもう一人の妹、さららの姉にあたるきららの名前を口にし、
ローマンの銃口を口に咥えた。
(綺麗な青空……あの向こうにさららはいるのかな)
ダァン!!
一発の銃声を最後に、風が吹き抜ける音のみが響くようになった。
【♂03番:石黒雅則 死亡】
【♀01番:浅井うらら 死亡】
【残り4人】
最終更新:2011年05月03日 20:15