老いてなお

10:老いてなお

病院は何か災害や事故が起きて負傷者が大量に運び込まれない限り、大抵静かなものだ。
それは殺し合いと言う状況下においてもまず変わりは無い。
消毒液の臭いがする病院の廊下を一人の高校制服を着た細身の虎獣人の少年が歩いていた。

「誰かいるのか…ここは?」

右手に支給品の一つである苗刀を携え、少年、紫前武尊は病院内を探索していた。

ガチャ

「!」

不意に前方の病室の扉が開き、杖を持った和服姿の白髭の老人が姿を現した。

「おや…君も殺し合いの参加者の一人かね」
「……」

老人は穏やかな雰囲気で武尊に話し掛ける。

「いやあ、困ったものじゃな。首輪をはめられて殺し合いをさせられるとは」
「…そうっすね」

武尊は適当に返事をしつつ、苗刀を親指で少しだけ鞘から抜き出した。

「君、名前は?」
「…紫前武尊っす」
「しぜん、たけたか、か…良い名前じゃの。わしは額賀甲子太郎と言うんじゃ。聞いた事無いか?」
「ぬかが…かしたろう…?」

老人の名前に聞き覚えのあった紫前だったが、どうも思い出せない。
剣道をやっている者なら大抵知っているような気がしたが。
だが、よくよく考えれば今はそんな事を考える必要は無かった。
武尊は苗刀を鞘から完全に引き抜く。ぎらりと、鋭い刃が窓から差し込む日光により光った。
切っ先を老人に向け、真っ直ぐに見据えた。

「ほう…そう言う事かね」
「悪いけどじいさん、死んで貰うわ」
「…君はこんな殺し合いに甘んじると言うのかね?」
「うるせぇな。死にたくねぇんだよ。んな所で。老い先短いんだから若い俺に人生譲れやジジイ」
「酷い事言うのー。老い先短いからこそ幸福な余生を送りたいじゃろうが…」
「…喋り過ぎたな……じゃあな、あばよ!」

刀を構え、武尊は一気に甲子太郎に向かって斬り掛かった。
正に俊足と言うべき速さで、とても老人が捉えられるものでは無い――ように思えたが。

ガキィ!!

大きな金属音が病院の廊下に響く。

「…ッ!?」
「…いかんよ。こんな所でそんな風に刀を持っては」

虎少年の顔が驚愕の色に染まる。自分が振るった刀の刀身が、
甲子太郎の持っていた杖の中から現れた細身の刀身によって防がれていた。
いや、甲子太郎の杖は元々ただの杖では無く、中に細身の刃が仕込まれた、仕込杖と言う類の物だった。
だが、武尊が驚いた理由はそれだけでは無い。

「くっ!」

一旦甲子太郎と距離を取る武尊。
まさか防がれるとは思っていなかった。仮にも自分は剣道大会で何度か優勝した経験もある、
剣の扱いにはそれなりに自信はある方だった。少なくともただの老人相手に後れを取るなど。
いや、この老人は、ただの老人では無さそうだった。

「そうじゃ思い出した…君は剣道大会で何回か優秀な成績を収めておるな?」
「……? 何でそれを…?」
「大会にわしも足を運んでるんじゃがのう…と言うより剣道やってるのなら知らんか?
少しは聞いた事無いか? わしの事を? ん? さっきも聞いたが」
「……」

そこまで言われ、武尊は必死に記憶の糸を手繰り寄せた。
目の前の老人の容姿と名前を過去の記憶の中の様々な人物と照合した。

「……あ」

そして思い出す。そして一気に脂汗が沸いて出るのを感じる。

「…あ…ああ」

目の前にいる老人は、自分などが到底敵うような人物では無い事を思い出したのだ。
だが――今更後には退けない。

「…くそっ…今更退けるかよ! う、うおおおおああああああああああ!!!!」

恐怖心を振り払うかの如く絶叫して再び武尊は甲子太郎に斬りかかった。
しかし先程のような冷静さは明らかに欠いていた。

「…馬鹿者が」

底冷えするような冷徹な口調で甲子太郎が呟く。そして、仕込杖の刀を一閃した。

「…ぐぁ…」

呻き声を上げ、武尊は白目を剥き泡を口から噴いてその場に崩れ落ちた。

「安心せい、峰打ちじゃ…と言っても、既に伸びておるか」

気を失い床に倒れる虎獣人の少年を一瞥すると、甲子太郎は仕込杖を元に戻し、
階下へ降りるため階段に向かい歩き始めた。

「全く、もうとっくに隠居しておると言うに…だいぶ鈍っておるわい。だが…まだ若い者には、負けんよ」

先程まで穏やかだった眼差しは、いつの間にか鋭い眼光に取って代わられていた。
例えるならばそれは、刀――――。


【早朝/F-3病院三階廊下】
【紫前武尊】
[状態]気絶、腹部にダメージ
[服装]高校制服(着崩している)
[装備]苗刀
[持物]基本支給品一式、???
[思考]
1:殺し合いに乗る。絶対に生き残る。
2:(気絶中)
[備考]
※額賀甲子太郎を知っています。

【額賀甲子太郎】
[状態]良好
[服装]着物
[装備]仕込杖
[持物]基本支給品一式
[思考]
1:殺し合いを止める。首輪をどうにかしたい。襲われたら戦うが出来るだけ殺したくは無い。
2:これからどうするか……。
[備考]
※紫前武尊を知っています。


≪オリキャラ紹介≫
【紫前武尊(しぜん たけたか)】
17歳の虎獣人の少年。スリム体型の黄色い虎。剣道部所属で剣の腕はかなりのもの。
大会で何度か賞に輝いた事もある。しかし剣道一筋と言う訳では無く友人達と一緒にゲーセン通いや
夜遊びに耽ったり授業をサボったりと素行不良な面が多い。大昔の武将の末裔でもある。

【額賀甲子太郎(ぬかが かしたろう)】
71歳の人間の老人。見事な禿頭と長い白髭の好々爺だが、かつては最強の名を欲しいままにしていた
凄腕剣士だった。現在は国の剣道協会の終身名誉会長となっている。意外と知名度は低いが、
協会や多くの剣道家、剣士に対する影響力は未だ大きい。本人は「若い頃に比べると鈍っている」と
言っているが現在でもかなり強い。


ある日森の中、猫に出会った 時系列順 死者の眠りは妨げない事
ある日森の中、猫に出会った 投下順 死者の眠りは妨げない事
GAME START 紫前武尊 SAD GIRL SO BAD
GAME START 額賀甲子太郎 怖心忘我

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最終更新:2011年03月27日 14:44
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