とある不良の反逆物語(カウンターストーリー)

「……何だよ、これ……」

 真っ暗闇の森林にて男は一人茫然と立ち尽くしていた。
 もう少しで掴める筈であった。
 あの学園都市を相手に交渉せしめるだけの特大の情報を。
 大切な人を守るための、大切な人との居場所を創るための、必要不可欠の情報。
 あと一歩の所まで迫っていたのだ。
 長い逃亡生活と数多の戦いを経て、ようやく掴み取れる位置まで来た筈だった。
 その末の―――コレだ。
 まるで悪夢を見ているかのようだ。
 千載一遇のチャンスが前触れもなく消え失せ、代わりとして殺し合いという狂気のゲームが開始される。
 何もかもが分からない。
 気付けばあの部屋にいて、気付けば首輪が装着されていて、気付けば殺し合いは始まっていた。

「……ザけんなよ……」

 自分のしてきた事は何だったんだ、と男は思う。
 ロシアでの過酷な戦いでは何度も死を覚悟した。
 それでも希望をもぎ取る為に、悲劇では終わらせない為に、ガラにもなく死に物狂いで足掻いた。
 足掻いて、足掻いて、足掻いて……ようやくだったのだ。
 因縁の超能力者とも和解ができた。
 想い人も治癒する事ができた。
 毒ガス兵器の発動も阻止でき、学園都市からの追っ手も振り切った。
 そうして見えた、希望。
 学園都市を相手に交渉が可能な、圧倒的な価値を持つ情報。
 掴んだと思ったのに。
 元の居場所に戻れると思ったのに。

「……ふっざけんな!」

 ゴン、と鈍い音が周囲に響いた。
 男は思わず拳を側にあった木へと叩き付けていた。
 苛立ちが、動揺が、隠せない。
 ともすれば涙すら、その両眼に浮かんでいるように見える。

「ちくしょう、ちくしょう……!」

 何度も、何度も、拳を叩き付ける。
 感情をぶちまける。ぶちまけなければ、いられない。
 摘み取られた希望に、男は感情を爆発させる。

「ちくしょうーーーーーーーー!!」

 夜天にこだます男の慟哭。
 男の名は、浜面仕上。
 ちっぽけな無能力者であり、愛する者の為ならば命を擲てる強固な心の持ち主である。

「ハアッ……ハアッ……くそ、諦めてたまるか」

 長い雄叫びに息を切らせながら、浜面は思考する。
 諦めなどしない。
 何度絶望しようと、何度挫折しようと、浜面の決心は揺らがない。
 大切な人を守るために、
 大切な人との居場所を守るために、
 浜面は行動すると決めていた。
 それはこんな殺し合いの最中でも、首輪により命を握られているとしても、変わらない。
 もはや変えようがない。

「……まずは現状の把握だ。どうにかして生き延びねーと」

 浜面はいつの間にやら右肩に下げられていたデイバックをひっくり返す。
 幾ら何でも殺し合いに乗るつもりはなかった。
 こんな殺し合いはおかしいと思うし、狂っているとさえ思う。
 それ以外の方法で―――、それが具体的にどういった方法なのかは皆目見当も付かないが、浜面は出来るだけ皆が幸福に終わる結末を望む。
 単純、単純が故の決断。
 だが、それは常人には困難といっても良い程の決断である。

「武器になりそうな物は……と」

 だがそんな浜面の願いも虚しく、デイバックから出て来たのは、到底武器になるとは思えない支給品の数々であった。
 煙草に、玩具のようなベルト、そして細いワイヤーの束。
 どうにも武器には使えなそうな物品の数々であった。

「おお、こりゃラッキーだ」

 しかし、その支給品を見て浜面は小さくガッツポーズをする。
 武器にはなりえないが、この支給品を使用する事で武器の調達は出来ると考えたからだ。
 浜面は不良時代にピッキングの技術を会得しており、車の盗難を特技としていた。
 その腕前は、電子錠でなければどんな車であっても盗めると言っても過言ではない程だ。
 支給品にはワイヤーの束があった。 あとは車があれば何とでもなる。
 適当にかっぱらえば、有益な移動手段となるだろう。
 『一方通行』や『超電磁砲』などの超能力者には無意味だろうが、車に載っていればある程度の安全は確保できる筈だ。
 銃撃を受けたとしても普通に歩いているよりは安全だろうし、逃亡もし易い。
 ひとまずは足の確保が先決だ。

(まずはこの森ん中から脱出するか……こんなんじゃ何処にいるのかすら把握できん)

 バックの中にあったランタンで場を照らし、ランダム支給品以外の物品を確認していく浜面。
 他には、食糧と紙切れが二枚あった。
 紙切れの片方はこの殺し合いが行われている会場の地図のようであった。
 もう一枚には紙一面にビッシリと名前が記されている。
 最初は何のこっちゃと首を傾げていた浜面であったが、目を通すにつれその意味が理解できてくる。

「っ、な……!?」

 そして、浜面は言葉を失う。
 記されていた名前の数々には、浜面も良く知る人物の名前が複数含まれていた。
 学園都市が誇る最強のレベル5・一方通行。
 『超能力を吐き出すだけの塊』となったらしい第二位・垣根帝督。
 レベル5にして最強の発電能力者・御坂美琴。
 更に、

「……麦野……滝壺……」

 長い長いすれ違いの末にようやく手を取り合えた仲間・麦野沈利。
 こんな頼りない自分を想ってくれ、こんな頼りない自分を救う為に命すら賭けてくれた恋人・滝壺理后。
 どちらも掛け替えのない存在であった。
 その二人が、自分同様に殺し合いに参加させられている。
 その思考が行き着いた瞬間、浜面は行動を始めていた。
 全ての支給品をデイバックへと詰め、全力で走り出す。
 方角など考えちゃいない。
 ただ、走る。
 まずは足となる車を。
 車を入手した後は、それで会場を探し回る。
 誰も死なせやしない。
 『アイテム』はもう誰も欠けさせやしない。
 無能力者の青年は疾走する。
 守るものの為に、ただそれだけを想って、疾走する。


 ―――悲劇では、終わらせない。



【一日目/深夜/F-5・森林】
【浜面仕上@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、煙草@現実、ブレイバックル(ブレイド)@仮面ライダー剣、ウォルターのワイヤー@ヘルシング
[思考]
0:殺し合いには乗らない。滝壺と麦野と合流する
1:森から出て、車を手に入れる。
2:滝壺と麦野を探す
[備考]
※原作22巻終了後から参加しています



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最終更新:2011年08月25日 23:40
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