52話:誰にも見せられない傷
「おはよう……」
「おお、榛名。おはよう。早いな今日は」
いつものように、叔父さんに朝のあいさつをして、顔を洗いに洗面所へ向かう。
その後は適当に朝食を取って、部屋に戻って毛並みを整えたり、着替えたりする。
いつもと変わらない、平穏な、登校前の朝。
あの殺し合いは全て夢だったんじゃ無いかとも思った。
だけど……学校に行って、その考えは間違いだと言う事に気付かされる。
「……中村? 平池? 誰だそれ」
「そんな子うちのクラスにいないよね」
「やだー榛名、ちょっと寝ぼけ過ぎじゃない?」
「……!」
死んでしまった、中村さんと平池さんが、最初からいなかった事にされていた。
二人がいた席には自分は全く知らない人が座っていて、
でもその二人はずっとこのクラスにいたとみんなが言う。
(そんな…中村さんも平池さんも、私の記憶の中にしか存在しないって事…!?
そんなの…悲し過ぎる…! 二人が生きて来た今までって…何だったの!?)
余りに残酷すぎる。みんなの記憶の中にさえ残っていないなんて。
これから先、私はあの殺し合いの事を、中村さんと平池さんの二人の事を、
胸に秘めて生きていかなくちゃいけない。
あの殺し合いは何のために開かれたのか。
結局、主催者から満足な答えを聞く事も出来なかった。
私は生きて帰れた。でも、決して幸せなんかじゃない。
幸せな結末では、無い。
◆
「ふぅ…お疲れ様っす、セイファートさん」
「ええ、柴田さん」
「いやあ、おかげで大成功しましたよ、今回の殺し合いは」
「死んだ人の存在はとりあえず消して、因果律とかも色々やっておいたから」
「ありがとうございます。これで依頼者達も満足してくれるでしょう。
しかしまぁ…大勢の人々を集めて殺し合いをさせるとは、本当に悪趣味な事を考える…。
しかも賭け事してたみたいですからね。優勝者の伊賀榛名に賭けていた人、
あんまりいなかったみたいで、悔しがってた人多かったみたいですよ」
「ふぅん…まあ、あの子はほとんど戦わ無かったものねぇ」
「それじゃ、俺は色々後始末するんで…」
「そう…私はこれで失礼するわ。もし機会があったらまた」
「ええ。宜しくお願いしますよ」
【新訳俺のオリキャラでバトルロワイアル 完】
最終更新:2010年12月27日 23:14