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70 名前:1/3 投稿日:2006/07/10(月) 14:27:11
貂蝉は木の幹にぶつかるように寄りかかるとそのままずるずると崩れ落ちた。
喉が灼ける。さっきぶちまけてしまった胃液のせいだ。
義父の死を前にして悲しみよりも生理的な嫌悪を抱いてしまった自分に罪悪感があった。
あんな陰惨な光景を目にしているのだからそれは仕方のないことだ。誰が彼女を責められよう。
まして彼女は武人などではなくまだ若い娘なのだから。だが彼女は自分が許せなかった。
しかしそれよりも強く彼女を突き動かしているものがあった。
恨みと憎悪。
義父は誰よりも忠臣であったのに。見せしめの為だけに殺された。あんな、あんな…!
義父の死に様を思い出してまた吐き気がこみ上げてきたが、もう胃液すら吐けないようだ。
口元を押さえていた手を離し胸元をぐっと掴む。
反対の手は憎しみのままに武器を求めて鞄を漁る。
「………?」
しかし彼女の鞄の中にあったのは刃や銃器ではなく繊細な装飾が施されている小箱だった。
恐る恐る蓋を開けてみる。
中には不思議なからくりが詰まっていて、それが透けて見えるようになっていた。
ゆっくりとそのからくりが動き出す。
するとどうだろう。その小箱から、微かな旋律が流れ始めたではないか。


71 名前:2/3 投稿日:2006/07/10(月) 14:28:26
驚いて貂蝉は蓋を閉めた。すると旋律も止まった。
だが何故か懐かしさを感じるその旋律を求めて、再び蓋を開けてみる。
機械仕掛けの箱が囁くように奏でる、優しい旋律。
貂蝉の頬を涙が伝う。
義父と暮らした日々が鮮やかに蘇る。
他愛のない日常。しかしもう戻らない穏やかな日々。
旋律に洗い流されるように恨みが、憎しみが消えてゆく。
…そうだ、恨みに任せて殺戮に走って何になる。それこそ父の敵である献帝の思うつぼではないか。
怒りや悲しみまで無くなったわけではない。
恨みや憎しみや嫌悪、そんなどす黒い感情だけが消え失せていた。まるで憑き物が落ちたように。
戦おう。義父を殺したこの不条理な世界と。
だけど、今だけは。
「…お義父さま…!」
月の光と不思議な旋律の中、貂蝉はただ、泣いた。

駆け寄ってきた足音に、司馬孚はいよいよ覚悟を決めかけていた。
この傷、そしてまだ酷く痛む腰。…逃げ切れまい。
しかしその足音は何かにぶつかったような音とともに止まった。
非常に近い。だがこちらには気付いていないようだ。
このまま身を潜めていれば助かるかもしれない。あるいは…いけるか…?
吹き矢を握る手に冷たい汗が滲む。



73 名前:3/3 投稿日:2006/07/10(月) 14:29:59
甘寧との遭遇で司馬孚はこの異常な世界を身をもって実感した。実感しすぎてこの様だ。
殺さなければ、殺される…!
いやにさらさらした唾を飲み込み、吹き矢をそっと唇に当てようとした司馬孚。
そんな彼の鼓膜をくすぐるように微かな音が聞こえた。
…旋律?
その音色は司馬孚に染み込むように響いた。

彼の一族が害したまだ年若い皇帝たち。
いや違う。私も同罪だ。私が見殺しにしたんだ!
旋律に呼び覚まされる後悔の念。贖罪の思い。司馬孚の瞳に知らず涙が浮かぶ。

司馬孚はそっと吹き矢を下ろし空を見上げる。
…ああ、今初めて気がついた。今夜はこんなに美しい満月だったとは。
涙で、月は揺れている。

@貂蝉【オルゴール】

@司馬孚[左腕銃創・疲労・腰痛]【吹き矢(矢10本)】
※司馬孚は貂蝉に気付いていますが貂蝉は司馬孚に気付いていません。距離は非常に近いです。
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