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24 名前:1/3 投稿日:2006/10/10(火) 16:58:35
「ふんおーーーーーーっ!」

許チョの巨大な体が大地を蹴る。その姿はさながら小さな彗星。凄まじい衝撃で、流石の夏侯惇も押しつぶされたかに見えた――。しかし、夏侯惇はまだ生きていた。

「さすが将軍だぁ。これはかわせるかぁ!?フンフンフンフンフン!」

その巨体からは信じられないスピードで攻撃が繰り出される。全力を尽くし全ての攻撃を捌ききったように見えた夏侯惇だったが……。

(なんて力と速度だ…!得物で無くともこの強さとは!おまけに、受け流したはずなのに手に痺れがきている!)

今更ながら、何故この許チョが典韋の後を任せられたか理解した。無類の忠誠心と、純粋にして最高の膂力。これこそが許チョを許チョたらしめていたのだ。……だがな。

「許チョ!!孟徳を守りたいならば、まず俺の屍を超えてゆけ!!」

ああ、おかしな話だ。目的も、守るべきものも同じなのに、歩む道が違うだけで殺し合わねばならないとは。それが乱世の習いかもしれんが、気づいていても闘いを止められぬ俺も、お前も大馬鹿よ。

「行くぞ!受けられるか!?」

夏侯惇が渾身の一撃を放つ。受けるでも引くでもなく同等の力をぶつけて相殺する許チョ。

「驚いた、あれも効かんとはな…」

痺れで段々と手の感覚が無くなっていくのが分かる。このまま打ち合い続けたらバットが持てなくなり、負けるだろう。
死は覚悟するところだが、まだ死ねないのだ。

「一つ…大博打を打ってみるか」

左手に添えた右手を、バットの根元に移した。そして自分の間合いから離れた。

「なぁんだぁ?そんな構えじゃ、おらの攻撃は避けられねぇぞぉ」

「いいんだ…。これ以上逃げる気はない。来い!許チョ!!」



25 名前:2/3 投稿日:2006/10/10(火) 17:00:19
「ふんおーーーーーーっ!」

いつも通りに大地を蹴り、いつも通り敵を叩き潰す。それがおらの戦い方。――でも、今度の敵は楽じゃねぇ。
相手はあの夏侯惇将軍。手応えのあった一撃にも平然としてた。…楽しめそうだぁ。

「さすが将軍だぁ。これはかわせるかぁ!?フンフンフンフンフン!」

力と速さの限りを尽くし、大斧を繰り出すも全て正確に受けきられる。
すごい、すごいだ。曹操さまがお認めになるのもわかる気がするだ。でも、こんな強くて危険なやつは、曹操さまにとっても危ねぇだ。
なら、おらがここで仕留める!

「許チョ!!孟徳を守りたいならば、まず俺の屍を超えてゆけ!!」

言われなくても、そうするだ…。新たに許チョに闘志が漲る。

「行くぞ!受けられるか!?」

恐ろしく速く、強い一撃。でも、力なら誰にも負けねぇ!2つの力がぶつかり、弾けた。まだやれる。
おらは負けねぇ。例え将軍のが強くても、曹操さまを守る意志がある限り、おらは負けねぇ!

……ん?
将軍が構えを変えた。でもあれなら、おらの一撃で破れそうだ。他に魂胆はあるんか?

「なぁんだぁ?そんな構えじゃ、おらの攻撃は避けられねぇぞぉ」

もしなにかあったとしても、おらの力で叩き潰す!

「いいんだ…。これ以上逃げる気はない。来い!許チョ!!」

将軍、これが最後だ!



26 名前:3/3 投稿日:2006/10/10(火) 17:09:06
「いい覚悟だぁ!ふおおおおお!!」

第一撃に劣らぬ、いや、それよりも勝る力だった。
――しかし、次の瞬間に起こったことを許チョは理解できなかった。右腕の感覚が無い。力が入らず大斧を握れない。
(おらは…いったいどうしちまっただ…?いや、それよりも攻撃を!)
「ぬぅあああアァあぁァあ!」

野獣の断末魔のごとく叫び、夏侯惇へ向き直り、残った左腕で斬り掛かる。

「まだ動くか!だが最後の一撃と見た!」

振り下ろす左の手首ごと金蔵バットではね上げ、大斧は空しく宙を舞った。
それと同時に、許チョが崩れ落ちる。今まで体を支えてきたものが抜け落ちるように。

「…どうして、おらの攻撃が…?」

「お前の斧が、俺の棍に当たると同時に、体ごとお前の右側に回り込んで衝撃を受け流した。
最初の一撃で力と速さを見ていなければ、到底そんなことは不可能だったがな。
あの時構えを変えたのはそのためだ。それでもさっきの一撃は、初撃以上のキレだったから、受け流したと言っても手の痺れは半端じゃなかった」

「…じゃあ、おらは間違ってただか…?」
「いや、俺がお前でもああして攻撃しただろう。
あの構えじゃ左右の攻撃には対応できないから、左右の連携が来たら立場は逆だったろう」
「……ほんの少し、俺に運があっただけだった…」

最後の言葉は、言葉を絞り出すようだった。





27 名前:4/4 投稿日:2006/10/10(火) 17:11:01

「…将軍」

「何だ、虎痴」

「…その斧でおらを殺してくんろ…」

夏侯惇は無言で大斧を拾いにいった。ものいわぬ背中は何かに耐えているようだった。

「虎痴……何か遺す言葉はあるか…?」

分かっていた。出会った時からどちらかが道を降りなければならない事など。
だから俺は冷静に振る舞わなければならない。虎痴の最期を誇り高きものにするためには。動揺してはならない。

「………曹操さまをおねがいしますだ」

「承知。さらばだ、虎痴!」

ドシュッ!

………………なぜだ

「どうして俺がこいつを殺さねばならん!!??」

闇の中に、星が一つ流れていった。

【許チョ 死亡確認】

@夏侯惇【金属バット、大斧】
※すいません。四部作でした。

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最終更新:2007年11月17日 19:52
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