7-136 傀儡は尚も抗う

360 名前:傀儡は尚も抗う 1/5 投稿日:2006/07/26(水) 03:10:12
 ふはははは、馬鹿めが!
 あっさりと私を見失うような凡愚供には、こっそり後を付けている事など到底判るまい……

……体中に木の枝をくっ付けた司馬懿である。多分変装のつもりか。
やたら嬉しそうなので敢えて突っ込まない。おそらくロープで縛り付けてあるのだろう。
視線の先には、四人組。

 それにしてもあの馬鹿供はまったく行き先が定まらんな、いい加減私も隠れているのが疲れてきたではないか。
 特に愛弟子の方は昨日の夜うんうん唸っていた辺りからどうも様子が可笑しい、いよいよ脳に花でも咲いたか?
 その上、そろそろ驚かせてやろうと思っていた矢先に、何やら猛烈に怪しい二人組と一緒に歌いだすわ、
 四人で意気投合するわで、壮絶に訳が判らんな……

武器を持たない姜維と馬岱が戦闘の跡を見て躊躇していたとき、半ば自棄糞で輪唱しながら歩いて来た陸遜と陳宮に
つられて歌い出したのには流石にちょっと引いた。しかも見事な四輪唱を終えた後、ろくすっぽ武器の無い者同志で
すっかり馴染んでいる。全く以って緊張感の欠片も無いのはどうしたものか……
(とはいえ、私も釣られそうだったのは激しく内緒だ。くそう、羨ましいぞ。
 いやいや、羨ましくなんかないぞ!)
歌は人の心を豊かにするんだ、などと己の発想に言い訳を考え始めた司馬懿だったが、視線の先の四人が
不意に揉め始めたので、瞬時に緊張感を取り戻した。

 むう、そろそろ私が手助けしてやらんとならんか……?


361 名前:傀儡は尚も抗う 2/5 投稿日:2006/07/26(水) 03:11:22
「……では、少し行き先について熟考するということで宜しいですかね」
支給品(!)のぬいぐるみをなでなでしながら陸遜が他の全員を見渡しながら言った。
「ああ……だが、その前にふたつばかり気になる事がある」
少し億劫そうに口を開いたのは、陸遜のぬいぐるみに視線を移した馬岱である。
「まずひとつ目。集められたオレらに、献帝は『殺し合いをしろ』と言う。では何故、全員に普通の武器が
 行き渡ってない? 能動的に全員に殺し合いをさせたいなら、そもそも武器とは言えないようなものを
 渡されている時点で、ちょっと可笑しくないか?」
……それが実は武器だったら逆に驚くけどな、とレオ様(ぬいぐるみ)を改めて一瞥した。
他の三人は納得して頷く。姜維に初期支給されたものはともかく、他の3人のはどう大目に見てもそもそも武器じゃない。
本当にこれが武器だったらいいんですけどねー、と陸遜は笑った。
「つまり、本当に殺し合い“だけ”をさせたいのか、って話。で、もうひとつなんだが――」
ぐるりと巡った視線が姜維の前で止まる。
「……アンタだよ。最近、少し可笑しくないか?」
「え……えっと……」
あからさまに姜維が狼狽するのを全員が、もちろん司馬懿も見逃さなかった。
「正直、アンタが何をしたいのか全く見えてこないんだよ。情報集めをしたいといいながら、人のいるところを
 徹底的に避けている。何故だ?」
「そ、それは……ほら、武器を持ってませんし」
「それは解るけど、アンタ人の気配がするところ全部避けてるよな、その上、結果が出る前に行き先を何度も覆している。
 オレにはわざと人目を避けているとしか思えない。この二人だって歌ってなかったらスルーするつもりだったんだろ?」
「…………」
押し黙る姜維の目が泳いでいる。
「それに昨晩。あのうなされ方は尋常じゃない。寝言だって聞いたぞ。そんなうなされるような夢に丞相とか、オレとか……」
 なあ……アンタ、オレに何か隠してるだろ?」


362 名前:傀儡は尚も抗う 3/5 投稿日:2006/07/26(水) 03:13:41
「どうなんだ、答えてくれよ。……何か隠して無いか?」
「い、いえ、そんなことは……ないですよ。ない……です」
背を向けようとする姜維の肩を掴んで、乱暴に揺さぶる。
「アンタ、本当は何か知ってるんだろッ!?」
「知りません……知りませんッ! そもそも私は過去に一度たりとも核心には――」
言葉が途切れた直後、息を飲む音。一瞬の空白。
馬岱の瞳に炎に似た揺らぎが宿る。
「アンタなぁッ……!」
握った拳が姜維の左頬を捉える。それは力任せと言って良かった。
「何か知ってるんだったら、どうして黙ってるんだよッ……!」
さらに倒れ込んだ姜維の襟首を掴もうとする馬岱を、後ろから陸遜が羽交い絞めにして止める。話を聞くべきだ、と言う態度だ。
ややあって、口から少量の血と、何か白い石のような物を吐き出した姜維が訥々と話し始めた。
「……待って下さい、私自身、明確な手がかりになるような事は何も知らないのです。
 いや、“知らされて無い”なんでしょうね、おそらくは。
 私は、『以前にもこういったことが行われていた』という事を漠然と知っているのみです。ですが、その時のことを――」
答えた姜維が何かを言いかけて口を噤み、首輪に手を触れる。
「どうした?」
「いえ……『この首輪は主催者の意志一つで爆破できます。余計なことはしない方がいいでしょう』と言っていたのが
 ふと気になりまして。此方を監視しているのは確実ですし」
「会話も聞かれてるのか?」
「判りません。或いは聞かれて無いかも知れません。ただ、発信機と心電感知装置が付いている以上、他に何を監視されていても
 不思議ではないと思います」
申し訳なさそうに首を横に振る。だが、突如陸遜が右の拳で左の掌を叩いた。レオ様は小脇に抱えている。


363 名前:傀儡は尚も抗う 4/5 投稿日:2006/07/26(水) 03:18:28

「いい事を思いつきました、この場合は声さえ通ってなければ問題ないですよね。
 会話している間、誰か一人が大声で歌って邪魔をしていたら良いかと」
「バッ……それじゃ歌ってる奴に会話が聞こえないじゃないか」
もっともらしいが著しく論点のズレた馬岱のツッコミに、今までただ和やかにしていた陳宮がにこやかに答えた。
「いえいえ、私は後程話を聞きます故、その間精一杯歌いますよ」
そう言うと、少し離れたところで歌い始めてしまった。何で歌なのかとか、そもそも大声を出すリスクには誰も突っ込まない。
それに陳宮が楽しそうに歌っているので止める気にもなれない。……別の方法ないのか?
諸々の客観的な疑問は他所に、馬岱と陸遜は姜維が語り出すのを待った。
「ええと、昨日の夜中の事ですね。あのとき、ずっと酷い夢を見ていたのですが、その中で――」

 ……殺しちゃいなよ。
 どうせひとりしか生き残れないんだからさ。

 大体、あんたの大事な丞相さまだって、かつてあんたを撃ち殺したんだ。
 今あんたと一緒にいる奴だって、あんたをそそのかしたり、しょうもない理由で離反したり。
 人間なんてロクでもないものだよ。信頼していた奴ですらこんな感じなのに、他人なんて誰も信じられやしない。
 最後に立ってた奴が笑うのさ。だったらその最後のひとりになってみなよ……
(厭だ、そんなことは……信じない。私は、信じないぞ――)

「以来、何者かが私を嗾けようとしているのを、ずっと感じるんです。誰かに遭ったら不用意に傷つけてしまいそうな気がして」
一気にまくし立てた後、深い溜息をつく。
「真実を知らねばならないと思う反面、その真実から逃げたいという気持ちがある。
 もしそこにある真実が私にとってとても残酷なものなのだとしたら、結論なんて出ない方がいい、などと思ってしまうのです」
ああ、だからなのか。人を避け、結論を避けたその意図が奈辺に在ったのか、その疑問がやっと氷解した。
魏延に必要以上にダメージを与えてしまった時も、抱えて跳ぶまで彼はうろたえたままだった。
歌につられたのも、渦巻く悪意から逃れたかったからなのか。


364 名前:傀儡は尚も抗う 5/5 投稿日:2006/07/26(水) 03:22:24
「――ひとりでいた時は武器が欲しかったのですけど、今となってはまともな獲物を与えられなかったのは何よりの
 幸福かも知れません。武器を持った状態で誰かに遭ったら――」
弱々しく呟く声が唐突に止まる。ついでに陳宮の歌も止まる。
停止させたのは、茂みだった。いや、茂みなんだけど。

「ふはははは、情け無いぞ姜伯約!」ばさーっ。
最初、茂みから新たな茂みが出てきたように見えた。どう見てもそのように見えた。
いや、それは茂みじゃなくて体中に木の枝をくっつけた司馬懿な訳だけど。
「貴様がそんなことでは諸葛孔明が泣くぞ! 少しは気をしっかり持ち給え」
「ちょ、いつからそこに」
「ずーっとおったわ、たわけが! まったく貴様らは突然歌いだすから何事かと思ったではないか!」
そんなことよりその木は何なんだ。というか何でそんなに嬉しそうなんだ。すんでのところで馬岱は新たなツッコミを飲み込んだ。
「いやその、ずっと付いて来ててたんなら何で今このタイミングで出てくるんですか」
「そんなことはどうでもいい、少しは前向きになる気になったか、未熟者。現実が如何に過酷でも、そこに目を向けられる覚悟は出来たか?」
「はい……ええ、はい」
頬を摩りながら若干気を持ち直した姜維の脇で、死亡者と禁止エリアを伝える放送が流れてくる。禁止エリア!?
「禁止区域に入ると首輪がどーん……って話だったよな、確か。もうすぐ交州と青州が立入禁止区域か……
 なあ、万が一禁止になる前に、可能性を信じて益州に寄っておかないか? 何も無い、あるいは危険がある可能性もあるけど」
馬岱の提案に全員が頷く。

……なんでアンタまで頷いてるのかなぁ。すんでのところで馬岱は司馬懿へのツッコミを飲み込んだ。


<<めるへんクインテット>>(<<丞相を捜せ!>>+陸遜+陳宮+司馬懿)
陸遜【レオ様(ぬいぐるみ)】
陳宮【ゴスロリドレスセット(黒いワンピース、白いペチコート、コルセット、ヘッドドレス、ネックレス、香水)】
姜維[左下第三臼歯破折]【なし】
馬岱【赤外線ゴーグル】
司馬懿【シャムシール・ロープ】(木の枝を多数装着中)
※諸々のリスクを度外視して益州に行きます(但し人数が増えたので行軍速度は若干遅いです)。情報収集優先です。
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最終更新:2007年11月17日 20:15
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