7-128 それを互いに埋めるように


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328 名前:それを互いに埋めるように 1/3 投稿日:2006/07/23(日) 20:46:15
「ああ、君か。王允の事は残念だったね」
薄笑いを浮かべた献帝はそう言い放った。
「規則違反をした朕にも不手際がありましたからね。
 君には特別に王允に支給されるはずだった物もあげましょう。
 まあ朕の慈悲というかお悔やみの気持ちというか、そういうやつかな?」
献帝は楽しげにザックを漁る。恐らくそれが王允のザックだったのだろう。
「おや、救急箱か。でもさすがに頭が吹き飛んでいては役に立たないね。
 あはははははははは!」
目も眩むほどの怒り、というものを貂蝉はその時初めて知った。
睨む視線にそんな力がこもったのだろう。献帝はフンと鼻を鳴らした。
「歌妓風情があまり調子に乗らないことだね。さもないと、」
献帝は握った手を手のひらを上にして開くゼスチャーをした。
それの意味するところは、
つまり、
 お前の 頭も、
    爆  ぜ    る


「…さん。貂蝉さん!」
恐怖の叫びが喉に貼り付く前に、貂蝉は悪夢から救い上げられた。
「貂蝉さん、大丈夫ですか?」
お義父さま?
まだぼんやりとした意識の中、貂蝉はそう思った。
「酷くうなされておいででしたよ」
心配そうな顔で貂蝉をのぞき込んでいるのは司馬孚だ。
司馬孚が差し出してくれた水をゆっくりと飲みながら、
義父はもういないということも、殺しあえと言われたことも、
この首輪の感触も全て現実なのだ、と漠然と実感した。
「…ありがとうございます、叔達様」
いえ、と答えて司馬孚は微笑んだ。
穏やかで優しいその微笑が義父にどこか似ていて、貂蝉は泣きたくなった。


329 名前:それを互いに埋めるように 2/3 投稿日:2006/07/23(日) 20:49:08
「ご気分が優れませんか」
はい、ともいいえ、とも言えず貂蝉は曖昧に微笑んだ。
「あの小箱の楽でも聞いてみてはいかがですか。
 気が紛れるかもしれません」
確かにそうかもしれない。貂蝉は小箱を開けた。
静かな邸内に、優しい音色が響きわたる。
貂蝉はその旋律をなぞるように喉を震わせた。
司馬孚は貂蝉の憂いを含んだ横顔とその美声に魅せられる。
ゆっくりと立ち上がった貂蝉は優雅に舞い始めた。
どこか懐かしい旋律に身体は自然に馴染む。
風に吹かれるように、感じるままに舞っていると、貂蝉は本当に思うのだ。
自分は、歌い、舞い踊るために生まれてきたのだと。

司馬孚の拍手に、貂蝉ははにかむように微笑んでお辞儀をした。
「本当に素晴らしい舞でした!」
晴れやかな笑顔で司馬孚は言った。
このゲームが始まって以来、こんなに清々しい気持ちになったのは初めてだ。
「こうなると、その楽に相応しい詩が欲しいところですな。
 私に詩才があれば良かったのですが」
そこまで口にした司馬孚は、やはり彼が仕えた曹植のことを連想した。

曹植。その後、彼が後継者から外れると、まるで乗り換えるように仕えた曹丕。
狂った皇帝。殺された皇帝。廃された皇帝。
司馬一族が繁栄すればするほど、葛藤した彼の心。
本当に、本当に久方ぶりのことだったのかもしれない。
自分がこんな風に笑ったのは。


司馬孚の左腕の傷は少し開いてしまったようだ。
血が滲む包帯を外し、さらにきつく新しい包帯を巻き直す。


330 名前:それを互いに埋めるように 3/3 投稿日:2006/07/23(日) 20:51:06
「お手数をかけます、貂蝉さん」
司馬孚は申し訳なさそうにそう言うが、貂蝉が逆に礼を言いたいくらいだった。
完全に自己満足だということは解っている。
だが、義父のための支給品―簡単な応急処置の手引きのついた救急箱―で、
どこか義父に似た雰囲気の司馬孚を助ける。
贖罪めいたその行為で、貂蝉は今無力感に捕らわれずに済んでいるのだ。
そんな風に打ち明けた後、貂蝉も司馬孚に詫びた。
「この傷が開いてしまったのも、
 叔達様がここまで私を背負って下さったせいでしょうから…」
「良いのです」
司馬孚は微笑んだ。自分もまた同じなのだ、と。
「多分私は、貂蝉さんを背負うことで償った気になりたかったのですよ。
 …私が背負った、この罪を」



<<しばてん/2名>>
貂蝉【オルゴール・救急箱(応急処置の手引き付)】司馬孚[左腕負傷、手当済]【吹き矢(矢10本)】
※救急箱(手引き付)は本来は王允の支給品でした。
※現在地は河内の司馬邸。もう少し休憩したらギョウへ。
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