ゆっくりいじめ系8 創造主誕生

専業農家の朝は早い。
日の出と共に起床し、服を着替え顔を洗い、香霖堂で購入した道具が発する声に合わせて体操して畑に向かう。
と、畑で奇妙な球体が二つ、蠢いているのを発見した。
―――これが噂の「ゆっくり」か。
近頃新しい甘味やペットとして流行りだしたらしいが、実物を見るのは初めてだ。
畑を荒らされたと言う知人は『黒大福だけは逃がすな。仲間を連れて戻ってくるぞ』と言っていた。
……黒大福とは、あの黒い帽子を被った方だろうか?もう一方の紅白と楽しそうに食事をしている。
奴らは臆病だが警戒心が皆無らしく、にこやかに対応してやればあっさり懐いて来ると言う。
内心の悔しさを抑え、笑顔で近付く。
「やあ、おはよう。今日もいい天気だねぇ」
何だか人間相手の挨拶のようで、少々間が抜けている。
食うのに夢中だったのか、声をかけて初めてこちらに気付き、振り向いた。
「「ゆっくりしていってね!!!」」
話に聞く通り、何とも不快な笑顔である。
顔の造形自体は可愛らしいと思うのだが、その表情はまるでこちらを馬鹿にしているかのようである。
加えて、耳障りな甲高い声で意味不明な言葉を喚く。
言葉を解し、意思表示すらできるらしい生き物が食べ物として流行している事にかねてから疑問を抱いてはいたが、
成る程これ程憎たらしい奴らなら屠殺するのにも食うのにも躊躇しないだろう。
「おや、食事中だったかい?邪魔して悪かったねぇ」
我ながら白々しいな。ゆっくり共に怪しまれないかと一瞬心配したが、
「ゆっくりたべてるよ!!!」
「おじさんもいっしょにたべよう!!!」
こいつらにそのような心配は無駄だったようだ。
それにしても一緒に食べようと来たか。狙っている訳ではないのだろうが、一々的確に神経を逆撫でしてくる奴等だ。
「ああ、私は食事を済ませたばかりだからいらないよ。
 それより君達、そんな物よりもっと美味しい食べ物があるよ。良かったら食べていかないかい?」
「ほんとう!!?」
「ゆっくりたべていくね!!!」
噂通りの愚かさだ。ここまで間抜けでよく絶滅しないものだ。よほど繁殖力が強いのだろうか。
ともあれ、これ以上の作物の被害は食い止められたようだ。後はこいつ等を始末するだけだ。
「家の中から持って来るから、ここで待ってなさい」
「ゆっくりまってるね!!!」
「ゆっくりもってきてね!!!」
勝手口の前で待たせておき、山菜取り用の篭と重石を取って来る。
「やあ、お待たせ。食べさせてあげるから目を瞑ってごらん」
「ゆっくりつぶるよ!!!」
「ゆっくりたべさせてね!!!」
流石に疑われるかとも思ったが、そんな事は無かった。
会って数分の相手にここまで油断するとは、滑稽を通り越して哀れですらある。
持ってきた篭を素早く紅白に被せ、重石を乗せる。そして黒大福を持ち上げる。
両者とも未だに何をされ、何をされそうになっているのかまるで気付いていない。
「まずは黒白の子からだよ。紅白の子はそのまま待っててね」
「ゆっくりまってるよ!!!」
「ゆっくりはやくしてね!!!」
どっちだよ。
思わずツッコミを入れそうになってしまった。
ひょっとしたらこいつらの言う「ゆっくり」とは一般的な意味の「ゆっくり」とは違うのかもしれない。
そんなどうでもいい事を考えながら黒大福を蔵の方へ連れて行く。
……私は甘い物は苦手だが、一度試してみたい事があったのだ。
以前香霖堂で買い物をした際店主から聞いたのだが、何でも外の世界には酒を入れた菓子があるのだとか。
なるほど料理に酒を入れるのなら菓子にも入れて不思議な事は無い、と感心したものだ。
甘い物は苦手だが酒は大好きだ。ひょっとしたら苦手な物を克服できるチャンスかも知れない。
一応なるべく安い酒にしておこう。
「さあ着いたよ。口を開けて」
「ゆっういあえはへへへ!!!」
柄杓で樽から酒を汲み、間抜け面の大福の口へ流し込む。
「どうだい、美味しいかい?」
「おいしい!!!もっと!!!もっとちょうだい!!!」
どうやら気に入ったようだ。饅頭のくせに酒を嗜むとは生意気だ。もっとも、そうでなくてはこちらは困るのだが。
「ハハハ、気に入ってくれて嬉しいよ。そらもう一杯」
「おいひい!!!こんなおいひいものはじめへらよ!!!」
もう酔ってきたらしく、呂律が回っていない。まあ、この体の大きさでは当然か。
それにしてもぐいぐい飲むな。飲んだ分は一体何処へ消えてるんだろう。
と、そろそろ食べ頃かと考え柄杓を置き、大福に手を伸ばした時、異変に気付いた。
……先程まで金色だった髪が、みるみる黒く変色していくではないか。
一体どういう事かと驚き硬直している隙に、大福が酒樽へと飛び込んだ。
「あっ!何しやがるこの饅頭!!」
「ゆっくいおいひい!!!ゆっくいおいひいよ!!!」
文字通り酒に溺れながら物凄い勢いで酒を飲んでいく。容姿の変化も髪だけではない。
すっかり黒く染まった髪は短くなっていき、帽子も体(?)と一体化していく。
瞳の色も黒く染まり、眼の周囲が盛り上がり眼鏡のような形を作っていく。
「い、一体何が起こっているんだ……!」
呟く間にも変化は進む。顔の下部が触手の様に長く伸び、そこから更に4本の触手が生える。
酒樽の中身を空にする頃には、黒大福は一人の人間の男性へと姿を変えていた。
「いやぁご馳走様。美味しかったですよンフフ」
「あ……あぁぁ……」
どうやら私は、呼び起こしてはいけない物を目覚めさせてしまったようだ。
「まだまだ沢山ある様ですね。せっかくですからこれらもいただきますよンフフ」
男は蔵の中を見回すと次の酒樽を開け、抱え、中身を一気飲みする。
嗚呼、まさかあの大福がこの様な怪物へ変身するだなんて……
薄れ行く意識の中で確信する。―――アレは、この世界全ての酒と言う酒を喰らう魔物なのだと。


GOD END





この物語は妄想と書いてフィクションです。
実在する人物、事件、団体、Project、神主とは一切関係ありません。

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最終更新:2011年07月28日 00:47
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