※この作品は以下のものを含みます
- 原作キャラ(慧音・妹紅)
- 善良なゆっくり(今回は出ません)
- 悪辣なゆっくり
- 虐待要素よりも多めの制裁要素に見せかけたもこたんの虐待オンステージ
それでも良い方のみ、以下にお進みください
ゆっくり焼き土下座(後)
「こいつらどうしようかなぁ。一番ウザいのはもうやっちゃったしなー」
んー、と思い悩む。それを好機と判断したのか、ありすが声を上げた。
「ゆっ! おねーさんもまりさをいじめてすっきりしたでしょ!
そのくずまりさはすきにするかわり、ありすたちをにがしてくれてもいいのよ!
そっ、そしたら、かんしゃしてやらないこともないんだから!」
「うん、それ無理♪」
ボグシャア、とありすを殴りつけ、ついでにそのカチューシャを奪った。
「ゆべえええ!! ありずのおざれながじゅーしゃがえじでええええ!!」
「だが断る」
目の前で粉砕してやる。
「ん、これはキャンディかな? よくもまぁ蟻が寄ってこないもんだわ」
「うわ゛あ゛あああああああんん!! がわいいありずにどうじでぞんなごどずるのぉぉぉぉぉぉ!?!?」
そりゃお前がキモいこと言うからだよ、と言いたいのを堪えて、妹紅は訊いてみた。
「お前さー、自分で可愛いとか言ってるけど、何かチャームポイントでもあんの?」
「……ゆっ、そんなこといってもなにもでないんだからね!」
するとありすはすぐに表情を緩ませた。褒められたのが嬉しかったのか。何この百面相。あと褒めてない。
「はいはい出さなくていーから。で、何が自慢?」
「ゆふふ、ありすのちゃーむぽいんとはこのかみのけよ!
まいにちあのくされまんじゅうどもにけづくろいをさせて、つねにきれいにしていたんだから!
そこのくずまりさも、このわたしのかみのけにめろめろだったのよ!!」
つーんとすまし顔のありすの髪に、妹紅は手を差し込んでみた。確かにさらさらだ。
「ほほう、確かにこれは質がいいな」
「でしょう! ほめてくれたおねーさんには、とくべつにありすのさらさらのかみをぶらっしんぐさせてあげるわ!」
「あーそりゃ光栄だなー棒読みー。でも饅頭はさらさらというより、まっさらなのが正しいよね?」
「ゆっ?」
ボンッ、と何かが破裂するような音。
「……あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
数秒してようやく、ありすは自分の身に起きた異常に気づいた。
「ありずのがみがっ、ありずのぎゅーどながみがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ありすの頭頂部は、綺麗に髪の毛だけが焼き尽くされ、つるつるの饅頭の地肌を晒していた。
「ぶはははははは!! こりゃおもしれぇ、まるで落ち武者みたいだ! ぶっさいくー!」
「い゛や゛ああああああああああああ!!!」
ここに鏡がないのが心底惜しいと妹紅は思った。自分の今の姿を見せてやれば、さぞかし良い声で泣き叫ぶだろう。
「……おっと、自重自重。あんまりエキサイトしちゃうのはだめだよね」
妹紅、反省。こんなことがしたいのではないのだ。
妹紅にとって、ゆっくりはウザくて喋るでかい饅頭という以外の価値は、基本的にない。
慧音はそんなゆっくりにも、どうせ殺すにしても教えを授けるが、妹紅はそんなことはしない。畑を荒らそうものならすぐに殺す。
とはいえ何事にも例外というものはあるのであり。
例えば善良なゆっくりであれば、暇なときの話し相手にしてみたり、先日のように罪を働いても逃がすこともある。
逆に性悪なゆっくりであれば、泣くまで殴るのをやめなかったり、泣いても殴るのをやめなかったりする。特に輝夜に負けた時などはよくやる。
ならばこの三匹の場合はというと、そのどちらとも違う、もっと別の感情がそこにはある。
もっと、そう──徹底的に壊したい、というような。
妹紅は気を取り直すと、改めてありすに語りかけた。
「ところでさあ、お前、自分の子供殺してきたんだって?」
「……ゆっ、そうよっ!」
涙目だったが、プライドの高さからか、ありすは立ち直って答えた。
「可哀想とか思わなかったのか?」
「だって、どれもゆっくりできないこばかりだったんだもの!
あんなのといっしょにくらしてたんじゃゆっくりできないよ! ころさないと、ありすだってたいへんだったんだから!」
「……まぁ、奇形児を殺したり隠したりするのは、人間社会でも割りとありふれたことだしな。かくいう私もそんなもんだしさ。
だからお前は殺してきたんだな? どいつもこいつも、自分と一緒にいるのにふさわしくないから」
「ゆっ! そうよ! ありすのこどもは、うまれたときからもっときれいでぷりちーじゃないとだめなのよ!
なのにどのれいむもまりさも、ぶさいくなこしかうんでくれなかったのよ!」
胸を張って、自らの正当性を主張するありす。だがどうしてか、その頬は小刻みに震えていた。
何かを隠すように。
「ふーん、でもそれってさー」
妹紅はそんなありすに、さっきからずっと思っていたことを口にした。
「──お前が、そんな奇形児ばかりしか孕ませられないんじゃねぇの?」
「ゆっ──」
ありすが息を詰まらせた。ああやっぱりか。妹紅は思う。こいつ、ちゃんと自分で気づいていやがった。
「お前が何度子供作らせたか知らないけど、一回や二回じゃきかないんだろ?
それ全部が出来損ないだったって、どう考えてもおかしいじゃないか。
だったら、父親役のお前のほうが異常だったと考えるのが普通だ。違うか?」
「ゆっ、ちっ、ちがうわよ! そんなことな、な、ないわよ!」
どもりながらありすは否定する。その態度が、逆にありす自身の理解の程を表していた。
実際は相当前から、本能的にその事実に気づいていただろう。だがプライドの高いありすは、それを認めたがらなかった。
自分が、『子供が作れない出来損ない』という事実を、認めたくなかった。
そして子供を作るたびに、己の異常をまざまざと見せ付ける子供達を殺し続けてきた──そんなところだろう。
「あっ、あっ、ありすはどこもおかしくなんかないわ!
とかいはのうつくしいありすが、できそこないしかつくれないなんてそんなのうそよ!」
「そう言うがね、じゃあ、お前の隣のれいむはなんなんだ」
「ゆっ……!?」
急に矛先を向けられて、れいむがびくりと震える。
「なぁ、さっき話してたよな。動けなくなった母親をこいつにくれてやったって。
それで生まれた子供も、おかしな子供ばかりだったって。
それは本当にお前の母親のせいだったのか? いや、確かに餡子に異常が出ていないとも限らないけど。
でも、考えてみなよ。お前の母親の餡子が腐ってた可能性と、ありすが出来損ないしか作れない可能性と、どっちが高い?」
「ゆぅ……」
れいむは、何も言えなくなって押し黙ってしまった。
恐らくこのれいむも事実に気づいていた。だがありすに気を遣って、言わなかったのだろう。
「れいむぅ!? どうじだのっ、なにがいっでよぉぉぉぉぉ!!!」
ありすは叫ぶ。ありすにとって、一番長く暮らしてきたのはこのれいむだ。
そのれいむからも、自分自身がおかしいのだと断言されてしまったら、どうすればいいのだろう。
妹紅はそんな二匹をせせら笑った。こんな連中にも仲間を気遣う気持ちがあったというのが、何よりも可笑しい。
「ほら、ちゃんと答えてやれよ。仲間なんだろ?
それとも、あれか? 実はお前も、最初から出来損ないのゆっくりなのか?」
妹紅の言葉に、れいむは劇的に反応した。
「ゆっ! それはちがうよ! れいむはりっぱなゆっくりだよ!」
「でも、ありすがお前の母親に生ませた子供は出来損ないだったんだろ? 同じ母親から生まれたお前も、やっぱり出来損ないなんじゃないか?」
「そんなことないよ! わるいのはありすだよ! ありすがおかしなこどもしかつくれないんだよ!」
言ってしまって、れいむは気づいた。
はっとして横を見ると、ありすが涙を流しながら震えている。
「れいむぅ……どぉじで……」
「ゆっ、ち、ちがうよっ、いまのは──」
「違わねぇーだろー?」
ニヤニヤしながら妹紅は言う。
「そのれいむの言うとおりなんだよ、きっと。出来損ないなのはお前なんだよ。
あとさ、間違ってたら悪いんだが、そのれいむも、こっちのまりさも、決してお前との間に子供作ろうとしなかったんじゃないのか?」
ありすは言葉を喪った。その通りだったからだ。
何度も、これまでまりさやれいむを誘ってみた。だが愛撫しあうことはあっても、すっきりー!して子を創ることだけは頑なに拒まれた。
自分が母親になって産んで育てるまで言っても、だ。
まりさはそれを『こどもなんかできたら、いままでみたいにすきかってできないんだぜ!』と断った。
れいむはそれを『れいむたちはまだちいさいよ! もっとおっきくなってからたくさんつくろうね!』と断った。
ありすは、不満ながらも、一応はその理由で納得していた。
だからすっきりー!したいときは、群れに属さない適当なゆっくりを見つけて襲ってきたのだ。
もしそれが──まりさやれいむに見られていたとしたら。
ありすが奇形児しか孕ませられないことを知っていて、子作りを断っていたのだとしたら。
「とんだ道化だな、お前」
ありすの気持ちを妹紅が代弁した。口を三日月のように歪め、嗤いながら。
「い、いや」
「屑みたいな連中だが、中々どうして、仲間思いなところもあったんだな。二匹ともお前が可哀想で、ずっと黙ってたんだ」
「いや」
「殺された子供達は可哀想になぁ。連中を理解してやれるのは、お前だけだったのに。
同じように出来損ないだった、お前だけだったのに」
「いや、いや、いや、いや」
「なぁ。
自分と同じ出来損ないを殺した気分はどうだ? この──出来損ないの腐れ饅頭」
「い゛や゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
白目を剥いて、ありすは慟哭した。
「おいおいどうした出来損ない。答えてくれよ、出来損ない」
「ぎぎだぐないっ! もうぎぎだぐないっ! でぎぞごないなんでいばないでええええええええ!!!」
「ほう、そうか、聞きたくないか。──じゃあこうしてやらんとな!」
妹紅が、赤熱した両手をありすの両側から押し付けた。
残った髪まで全て燃やして、そしてその下にある、ゆっくりの聴覚を司る部分まで焼き焦がす。
「!!!??? あ、あ゛あ゛っ、ぎごえないっ!! なにもぎごえないよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「それがお前の望みだろう?」
「だべがああああ!!! ごだえで!! じゃべっで!!
れいぶっ、どうじで!! どうじでなにもいっでぐれないのおおおおおお!?!?」
ありすは怯えるれいむに詰め寄ろうとするが、足を焼かれてしまっているためその場で悶えるしかできない。
「さーてお次は」
妹紅はれいむからありすを引き離してやり、れいむと向き直った。
前の二匹の惨状を目の当たりにして、れいむは哀れなほどにガタガタ震えている。
「おいおい、そんな怯えなくてもいいってー」
しかし妹紅は苦笑しながら、れいむの頭を撫でてやった。
「……ゆ?」
きょとんと、れいむは妹紅を見上げた。
「お前は他の二匹に比べりゃ、口が悪い以外はまだまともそうだしな。こんだけ怖い目見て反省したろ。
だからまぁ、このまま何もせずに帰してやらんこともない」
「ゆっ!」
許される、と思ったのか、れいむの顔が途端に喜色を浮かべた。
「ゆっ、ありがとうおねーさん! まりさとありすのぶんまでれいむはがんばっていきるよ!
あとよくみればおねーさんきれいだね! そこのありすなんかよりずっとびじんだよ!」
放してやると言われたわけでもないのに、れいむははしゃぎだした。お世辞まで飛び出すほど嬉しいらしい。
ついでに仲間も、もう死んだことになっているらしい。酷い話だ。一応まだ生きているのに。
妹紅は笑い、
「ははは、そうか、そんなに嬉しいか。そうだな、そこまで言われちゃ、私としても逃がさないわけにゃいかない──」
そして、
「──と言いたいところだが」
「ゆばぁ!?」
れいむの口を無理矢理開かせると、その中に手を突っ込んだ。
手が、れいむの舌の付け根を掴み、めりめりと力を込めていく。
どぉして、とれいむの目が問いかける。
ゆるしてくれるんじゃなかったの? にがしてくれるんじゃなかったの?
妹紅は答えた。
「お前は、言っちゃいけないことを一つ言い、やっちゃいけないことを一つした」
起伏のない声で、妹紅は言う。
その顔に浮かんでいるのは、嘲笑でも、苦笑でも、狂笑でもない。悦びでなければ哀しみでもない。
怒りだった。
まりさにもありすにも向けなかった、静かな赫怒の色だった。
みしり、と妹紅の指がれいむの舌に食い込む。
「一つ。お前は私を、妖怪と言った。
ああ、確かに私はまともな人間じゃあない。千年生きて、死んでもすぐに生き返るようなやつの、どこが人間だ。
だけどね、どんなにまともじゃなくても、私は人間だ。人間のつもりでいる。慧音だってそう言ってくれたんだ。
それをお前は、妖怪呼ばわりした。それがまず許せない」
れいむの舌が端から裂けていく。その感覚にれいむは悶えようとするが、上顎を固定されている今、まともに言葉を紡ぐこともできない。
「そしてもう一つ。お前、親を殺したんだってな。
……私にも、この世にいる以上、親がいたさ。お前の親と違って、ちっとも私を顧みてくれなかった父親だったけど。
だがそんな父親愛しさから、父を辱めたあのバ輝夜に一矢報いろうとして──その結果がお前の言う『妖怪』だ。
今となっちゃもう遠い思い出だが……それでも、それだけがあの時の私の行動原理だったんだ。
だからね、親を大事にしないやつを見ると、虫唾が走るんだ。
特に、お前のような、親の愛に報いないやつは」
だから、と妹紅は笑った。
華のように。
「薄汚い言葉しか吐かないお前の口は、もう永遠に開かせない」
ぶづん、とれいむの舌が千切れ飛んだ。舌は大きく弧を描いて、畑の傍を流れる用水路に落ちた。
「びゅばあ゛あ゛あ゛あああああああああああ!!!???」
体内を暴れまわる激痛が、れいむの喉から音となって迸った。
さらに、妹紅はれいむの歯を一本一本折り取っていく。
ばきんぼきっぼりっべきっべきんっ。
「がびっ! ぼっ! べっ! べびぃぃぃ!!!」
べきゃっめしっぼきんばきっばきばきっ。
「ごばっ! べっぶ! ぼげげぇっ! ばべええええ!!!」
ぽとぽとと妹紅の足元に、餡子で汚れた白い飴細工の歯が落ちていく。
全ての歯を抜かれたれいむの口内は、まるで洞窟のように平坦でのっぺりとした姿を晒していた。
「ははッ」
妹紅は楽しげに笑う。れいむはただただ恐怖する。
「びゅびっ!!! びゅっびゅべばああああああ!!! あばああああああ!!!」
「ふふっ、舌まで喪ったってのに、相変わらずやかましいね、お前」
妹紅は無理矢理れいむの口を押さえつけると、炎を纏った手で顔の下半分を念入りに焼いた。
手を放すと、れいむの上唇と下唇は完全に融合していた。
「────!! ────!! ────!!」
「さてこれでようやく静かに「でいぶのおぐぢがあああああ!!!!」なってねぇな」
ありすは、口を喪ったれいむを見て泣いていた。音は聞こえなくても、目が見えていれば充分に現状は把握できていた。
「どぉじで!! どぉじでえええおごぼぇっ!?」」
「こっちもうるさいし、黙らせとくか」
ありすのほうは歯は抜かず、熱で溶かして上と下を癒着させる。しばらく押さえつけてやると、歯が溶けて固まった。
「フシュッ! フシュッ!」
わずかにできた歯の隙間から息が漏れるが、それはもう意味のある言葉にはならない。
「さてこれで、お前は『見る』ことしかできないゆっくりになったわけだ。
おっと、そうだ、ついでにこいつも同じ目に合わせよう」
妹紅は再びれいむに手を伸ばす。れいむはいやいやをするように身体を揺するが、当然、妹紅は頓着しない。
両手の親指を、同時にれいむの両目に突き込んだ。
「──────────────────────!!!」
れいむの声にならない叫びが、振動となって妹紅の親指を伝わってくる。その感触に、妹紅はにやりと笑みを浮かべる。
「これでお前は『聞く』ことしかできないゆっくりだな。
そう怯えるなよ、すぐにもう一匹も同じにしてやるからさ。お揃いだ。嬉しいだろう」
そう言って、妹紅は最初のまりさに向き直った。
「ありずぅぅぅぅぅ!!! れいむぅぅぅぅぅ!!! ふだりどもどごいっだのぉぉぉぉぉぉ!!!???」
突然、さっきまで聞こえていた二匹の叫びが消えてしまって、まりさは恐慌状態に陥った。
こんな状況になっても、いやだからこそ、まりさは二匹に縋ろうとしていた。
今のまりさにとって、そんなものしか縋れるものがなかったからだ。
まりさをまりさとして成立させていた『強さ』は、全てまやかしだったのだから。
「おお、情けない情けない。あの日、私達に向かって唾を吐いたあの不敵なゆっくりはどこにいったんだい?」
終始偉そうだった口調も、もうまりさからは消えてしまっている。
このまりさは、最早、一山いくらでそこら中にいる、ただのゆっくりまりさに過ぎない。
「おねぇざあああああああん!!! ふたりはどごおおおおおおおお!!??」
音に頼るしかないまりさは、唯一聞こえた妹紅の声に劇的に反応した。
「ははは、安心しなよ。二人ともお前のすぐ傍にいるさ。ちゃんと生きてる。
──ま、死んだほうがましって状況だがね」
「どういうごどぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」
「二匹とも、口塞いでやったよ。もう二度と飯は食えないな。ゆっくり餓死していってね、ってところだな」
「うばあああああああ!!!???!?」
喉も涸れよと泣き叫ぶまりさを、妹紅はずっと笑顔で見つめていた。
そして不意に耳元へ口をやると、こう囁いた。
「──ねぇ、死にたい?」
閨に誘う遊女の声で。
「ゆ゛っ!?」
「死にたいか? 無様を晒して、仲間を喪い、光を喪い──そろそろ死にたくならないかい?
楽に、なりたくないかい?」
「……ッ、じでっ」
「なぁに、聞こえないなぁ」
本当は聞こえているはずなのに、妹紅は問い返した。
まりさは搾り出すように懇願する。
「ごろじでっ!!!!!」
それだけが、自分に許された救済だと、まりさは信じた。
死ねば楽になる。こんな、地獄のような現実は、全て嘘になる。そう思った。
それを見て、妹紅は満足げに頷いた。
「そうかそうか。そんなに死にたいかぁ。──だが断る」
「どぉじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! ごろじでっ!!! ごろじでよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ざっぎはあんなにずぐにごろじでぐれだのにぃいいいいいいい!!!」
」
ようやく訪れると思った安寧を、目の前で奪われ、まりさは慟哭した。
ただし、それを教えたのは妹紅であり、与えられるのも妹紅であり、奪ったのも妹紅だ。最初から、まりさに選択権などない。
「嫌だね。お前らは、簡単に殺してなんかやんないよ。何故だか分かるか?
最初の三匹は、自分で自分の罪を認めることができた。それは、人間にも中々できることじゃない。
私はそこに敬意を抱いた。だから、一瞬の痛みも与えず殺してやった。
次の大勢は、慧音が教えを授けた連中だからだ。慧音は連中の死後を想って、ああして教えを授けた。
ならば、現世で私が無闇に苦しみを与える意味はない。慧音自身も、それを望まない」
だが、と妹紅は氷点下の瞳でまりさを見下ろす。
「お前らは違う。お前らに、一厘の情さえかける意味を、私は見出せない。慧音もきっと同じだった。
だから、殺してあげない。お前の望みなんて叶えてやらない。ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり、苦しませてやる。
──それにだ。何より私が、お前達を虐めているとすごく愉しい」
慧音にもよく窘められることだが、妹紅はゆっくりを痛めつけるのが好きだった。
普段は喋って動くウザい饅頭程度の認識でしかないが、それが吐く傲慢な言葉は、いたく妹紅の心の奥底を刺激する。
もしかすると──羨ましいのかもしれないと、妹紅は、たまにそう思う。
永遠に死ぬことのない我が身からすれば、すぐにでも死を得られるゆっくりが、羨ましいのかもしれない。
しかもゆっくりの行動は、わざわざ自分から死に飛び込んでいくようにしか見えない。
たった一度しかない、大切な大切な死を、連中はひたすら無為に消費していくのだ。
それが羨ましくて妬ましくて──妹紅の心を掻き乱すのだ。
「い゛や゛ああ゛あぁぁあぁぁぁぁあぁあああ!!! ごぉろぉじぃぃぃでぇえええええええええ!!!」
だから、ぞくぞくする。死に最も近いこのナマモノが、それを得られないでいるこの光景に。
「ははっ、あははっ、そんなに死にたいか? そんなに死にたいんだな」
「ごろじでぇ! ごろじでぇえええ!!!」
「ふぅん、でもそれが人にモノを頼む態度か?」
「ごろじでぐだざい!!! おねがいじまずっ、ごろじでぐだざい!!!」
「誠意が足りんなぁ。お前、本当に死にたいの? 死にたいフリしてるだけなの?」
「おねがいじばずっ!!! ごのうずぎだないまんじゅうのぐぞまりざを、どうがごろじでぐだざいっ!!!」
「おお、今日は星が綺麗だな」
「おねーざんなにいっでるの!!?? はやぐまりざをごろじでよぉぉぉぉおお!!!! ごのばがぁああああ!!!!」
「──あ? 今なんつった?」
「ごべんなざいいいいい!!! うぞでずううううう!!! ばがはまりざでずうううううう!!!」
「おいおい、馬鹿なんて言葉、お前には上等すぎる言葉だよ。それは人間用の修飾子だぞ?
ほれ、お前はなんだ。言ってみろ。はっきりと、聞こえるように」
「……!!!! まりざばっ、うずぎだなぐでっ、ごみぐずのっ、ぞんざいずるがぢもないぐざっだまんじゅうでずっ!!!
ごうじでじゃべらぜでもらえるだげで、ぜがいいぢじあわぜなっ、なまごみでずっ!!!
ごんなぐぞのようななまごみまりざに、どうがっ、おねーざんのおじひをおあだえぐだざいぃいいい!!!」
「よぅしよし、中々上等な自己評価だ。それじゃあ、ゆっくり殺してやろう」
「はやぐごろじでぐだざいいいいい!!!!」
「お礼は?」
「ありがどうごじゃいまじゅっ!!! まりざをごろじでぐれで、ありがどうごじゃいまじゅっ!!!」
「──うん。よし。じゃあ、殺してやろう」
妹紅はそっと、まりさの両頬に手を当てた。
じんわりとした熱がそこに宿り、少しずつ、まりさを暖めていく。
「……ただ、そうだな、最後に一つだけ、言わせてくれないか」
まりさが聞いた妹紅の声は、少し哀しげだった。
まりさは静かに、言葉の続きを待った。
「 誰が殺すか、ばぁーか 」
一瞬。
妹紅の手から発せられた高熱が、まりさの両耳を焼き尽くした。
「 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ! ! ! ! ! ! ! ! 」
絶望の叫声。
「あァ────────────────────────────────────ッッハッハッハァ!!!
あははははははっ、あっはっはっはっはっはっはははははははは!!!!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァ──────────────!!!!」
狂喜の哄笑。
「ごろじでええええええええええええええええええええええ!!!!!
だれがまりざをごろじでええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
「ハァーーーーーーーーーーーハハハハハハハハッ、アハハハハハハハァーーーーーーーー!!!!!」
滑稽滑稽、実に滑稽。嗚呼、我を殺すと謳った饅頭は、最早死を乞う道化となった。
「カハッ、カハッ、カハッ、いやはははは、愉しくてしょぉがねーよお前ぇー!!!
馬鹿じゃねーの? バッカじゃねーの? 誰が殺してやるかっつーんだよてめぇみてぇな腐った饅頭をよー!!」
夕闇にこだまするまりさの叫びの中、妹紅は笑い転げた。
「くふふぅ?」
そこで、あるものを見つける。
瞳を喪い、口を喪ったれいむだ。
「そぉか、そうだったな。お前はまだ聞こえてるんだった。
どうだ? いい声だろ。お前がクズっていったあいつ、こんなにもいい声を上げて哭くんだよ」
妹紅はれいむを抱いた。物言わぬ饅頭は、ただ腕の中でぶるぶると震えている。
「ははっ、いや、久しぶりにすっきりしたな。
こんなに笑ったのは、輝夜のケツから口まで竹槍ブッ刺して殺したときいらいだっけ?
ありゃあ傑作だったなぁ、黒焦げの屍体が、まるで焼き鳥みたいでさ!」
思い出し笑いをしながら、妹紅は三匹を透明な箱に詰め込んでいく。
蓋を閉じても、まりさの声が箱を通してびりびりと伝わってきた。
それを感じて、にっこりと妹紅は笑う。
「さてと、久しぶりに輝夜んとこ行って泊めてもらうかぁ。餡子臭いし、こんなんじゃ慧音の世話にはなれんしね。
土産にこいつら持っていけば、永琳も許してくれるだろ」
それに、と妹紅は笑う。
喋ることしかできないまりさ、見ることしかできないありす、聞くことしかできないれいむ。
この三匹を組み合わせたら、きっと面白いものができるだろう。
それを肴に、今宵は酒盛りとしゃれ込むのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、妹紅は竹林の方角へ飛翔した。
最終更新:2009年03月06日 19:12