ゆっくりいじめ系231 仲良しゆっくり一家

夏の日差しも強くなってきたある日、俺の家の縁の下に2匹のゆっくりが住み着いた。

ゆっくり。
低い知能と生首のような体が特徴の生きる饅頭。
畑荒らしから騒音被害まで、幅広く手がける害獣だ。

そんなゆっくりであるが、住み着いたゆっくりは他に比べて知能があるようで、俺のテリトリーを犯すことはなかった。

 「おにいさん!れいむ達をゆっくりさせてね!」
 「おにいさんのおうちをちょっとだけ貸してね!!めいわくはかけないよ!!」

初日には、玄関の前で待っていたゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙が丁寧に挨拶をしにきた。
エサは自分で取るから、子供を産むまでの間すこしだけ家を貸して欲しいという。

猛暑が続く中、この若いカップルは手ごろな巣を見つけられなかったのだという。

 「うるさくしないなら、縁の下でゆっくりしてていいよ」

その答えに納得し、2匹のゆっくりは生活を始めた。
約束を守っているのだろう、普段から何も騒音は聞こえてこなかった。
朝日が昇ったときの「ゆっくりしていってね!!!」という一言、ニワトリのような習性が気になったくらいだ。
また、交尾はうるさいだろうと覚悟してはいたが全く問題は無かった。

後で聞いた話だが、2匹は近所の森で交尾をしていたらしい。
ゆっくりプレイスである縁の下を離れ、いつ外敵に襲われるのかもわからないところで青姦とは、健気なゆっくり達である。





そんな生活も1週間が経った今日、ゆっくり霊夢は妊娠をした。
縁の下をたまたま覗くと、そこには頭に茎を生やしたゆっくり霊夢が昼寝をしていたのだ。
昨日までは2匹でエサを取りに行ったり、外を遊んだりしていたので、昨日のうちに受精(受粉?)したのだろう。

 「お、れいむ。赤ちゃんができたんだね」

声を掛けるとぴくっと反応し、目を覚ました。
すぐさま身を引き、警戒態勢を見せる。

 「ゆっ・・・!おにいさん、れいむたちは静かにしてるよ!」

そういいつつ周囲を見渡す。
身軽なゆっくり魔理沙はエサでも集めに行っているのだろう、そこにはゆっくり霊夢しかいない。

 「安心してよ。おにいさんはれいむをいじめないよ」

そう、俺はゆっくりを虐待などしない。
生き物を暴行したり、ましてや殺害するなど俺の趣味ではない。

 「ゆ、おにいさん。れいむは赤ちゃんがいるからあまり動きたくないよ」

ヘタに動くと茎が上部にぶつかって折れてしまうかもしれない。
それに赤ちゃんが実った大事な時期だ。力の強い人間にはあまり関わりたくないこともあるだろう。

 「そうだね。そこでゆっくりしててね。それと、赤ちゃんが生まれても少しの間ならゆっくりしててもいいから安心してね」
 「ゆっ!」
 「騒がないなら、ずっとゆっくりしててもいいからね」
 「ゆゆ!おにいさんありがとう!」
 「どういたしまして」
 「でも、森におうちを作ったから、もうすぐしたら出て行くね。赤ちゃんは元気にゆっくりさせてあげたいよ!」

エサ集めだけでなく、ちゃんと巣も作っていたようだ。
目先のことだけでなく、後のこともしっかり考えているあたり知能の高さが伺える。

 「そうか。じゃあお兄さんは家に戻るよ。もし敵が来たら騒いで教えてね。お兄さんが助けてあげるよ」
 「ありがとうおにいさん!おにいさんのおかげでゆっくりした赤ちゃんになりそうだよ!」

茎に気をつけながら顔を地面に近づけるゆっくり霊夢。
一瞬、何をしているのかと思ったが、お辞儀をしているのだと理解した。
もともとは飼いゆっくりだったのかもな、と思ったがどうでもよいことだった。

夕方、エサ取りから戻ってきたゆっくり魔理沙が丁寧にお礼を言いに来た。
感謝の気持ちということでエサのムカデを置いていこうとしたが、俺はそんなものを食べないので遠慮しておいた。

そんな賢いゆっくりに感動し、俺はお菓子を恵んであげた。

 「れいむとゆっくり食べるよ!」

ゆっくり魔理沙は喜んで持ち帰ってくれた。




瞬く間に1週間が経った。

ゆっくり霊夢の茎に実った赤ちゃんれいむはプチトマトほどのサイズになり、いまにも生れ落ちそうである。

 「ゆ~♪ゆっくり~♪」
 「ゆっくりした赤ちゃん~♪ゆ♪ゆ♪ゆ♪ゆっくりした子になってね~♪」

庭に出た2匹が燃えるような炎天下の中、楽しそうに歌を歌っていた。
一晩で実り落ちることもあると話には聞いていたのに、1週間もかかるとは。
歌詞の通り、ゆっくりした赤ちゃんだ。
目もまだ開いていないが、親ゆっくり達の声が聞こえるのか、にこやかな笑顔をしている。

 「ゆっ!!!?」

突然、歌うのをやめるゆっくり霊夢。
それと同時に2匹は茎の上の赤ちゃんを見上げる。

ゆらゆらと動き始める赤ちゃんゆっくり。それは霊夢種であった。
ついに出産(?)の時が来たようだ。

俺は縁側でその様子をのんびりと眺める。

ゆらゆらと動いていた赤ちゃんれいむは、どんどんとゆれを強くし、ついに地面にぽとりと落下した。
ぴっちりと閉ざされていた目がゆっくりと開いていく。

親ゆっくり達は赤れいむに真剣な顔をにじり寄せ、一言も喋らない。

赤れいむは親の姿をゆっくりと確認すると

 「ゆっくちちていってね!!!」

と第一声をあげた。
ぱあっと笑顔になる2匹の親れいむ。

 「「ゆっくりしていってね!!!」」

お決まりの文句を返しながら、赤れいむと頬と頬をすり合わせる。
幸せそうな光景だ。

 「ゆっくりしようね!!!ずっとゆっくりしようね!!!」
 「れいむに似てすごくゆっくりした赤ちゃんだね!!!」

ぽろぽろと涙を流す親れいむに顔を摺り寄せる親まりさ。

1匹が生れ落ちると、その後は早かった。
次々に生れ落ち始め、10分もすると茎には赤ちゃんがほとんど無くなった。

そして今、ついに最後の一匹が揺れ動いている。
ゆっくり魔理沙だ。

 「最後までゆっくりした赤ちゃんが落ちそうだよ!まりさ!」
 「ゆっくりうまれていいんだよ!」

親まりさの言うことなどお構い無しに、早く生まれたいという欲求を感じる揺れ動き方であった。
すぐに生れ落ち、他の姉妹のようにお決まりのフレーズの第一声をあげた。

 「ゆゆうう!!!れいむの可愛い赤ちゃん、すごくゆっくりしてるよ!!」
 「こっちの子はまりさにそっくりでとってもゆっくりした子だよ!」

互いに子供をパートナーに似て可愛いと言うあたり、人間の出産後のようだ。
生まれたのは計10匹。赤れいむが6匹と赤まりさが4匹。

 「ゆっくち!おかあさんおなかすいたよ!ゆっくちしたいよ!」
 「まりさもゆっくち!」
 「ゆっくちさせて!」

お腹を空かせた赤ゆっくりに気がついた親れいむ。
縁の下のエサでも取りに行くのかと思ったら、いきなり親まりさが親れいむの頭に乗りかかった。
もう交尾をするのかと思っていると、親まりさは親れいむの茎を根本から噛み切った。
ばさりと音を立てて倒れる茎に困惑する赤ゆっくり。

 「それが最初のごはんだよ!!みんなでゆっくり食べようね!!」

親れいむの茎はどうなるのかと思ったが、ちゃんと再利用されるようだ。
案外おいしいようで、赤ゆっくり達は必死で貪り始める。

 「ゆ!おいちいよ!!」
 「ゆっくちできるう!」

そんな様子を眺めていると、親まりさが俺の方に跳ねてきた。

 「おにいさん、お話があるんだよ!」
 「ん、なんだい?」
 「まだ赤ちゃん達が小さいから、もう少し大きくなるまでここでゆっくりさせてほしいよ!」

詳しく話しを聞くと、森の中の巣はかなり奥のほうにあるらしく、そこまで赤ゆっくりを連れて行くのは大変だと判断したとのこと。

 「すこしうるさくなっちゃうかもしれないけど、ゆっくりさせてほしいよ!」
 「れいむもおねがいするよ!!できる限り静かにさせるよ!!」

いつの間にか親まりさに寄ってきていた親れいむまで懇願する。
そして2匹が顔を地面に近づけた。これは土下座の意味かもしれない。

 「うるさくしないんだったらいいよ。でも早いうちに出て行ってね」

赤ゆっくりは相当うるさいので、きっとムリだろう。
だが俺は赤ゆっくりを可愛がりたいとも思っていたので丁度よかった。

 「ゆ!できるかぎりがんばるよ!!!おにいさんありがとう!!」
 「お兄さんはゆっくりできるいい人だね!!ありがとう!!」

親ゆっくりが喜んでいることに、赤ゆっくり達も意味は分からないが嬉しいようだ。
きゃっきゃとはしゃいで俺に寄ってきた。

夕方、玄関のところでフラフラしている親まりさに会った。
なんでも、出産の後、体力回復のために親れいむに全ての備蓄を食べさせてあげたとかでエサがないという。
今からエサを取りにいっては、生後、茎しか食べていない赤ゆっくりには酷であろう。
俺は出産祝いということで、お菓子を親まりさに譲ってあげた。




その日の夜。
なにやら騒がしいので外に出ると、縁の下をゆっくりレミリアが襲撃していた。

 「ゆ!おにいさん助けて!まりさが死んじゃうよ!!」

跳ね寄ってきたのは親れいむと赤ゆっくり10匹。
どうやら親まりさが囮になって、俺に助けを求めにきたようだ。

急いで縁の下を覗くと、半分くらいになった親まりさが俺を見つめていた。
胴体つきのゆっくりレミリアは縁の下に入りにくいようで、中々食べられないでいる。

 「こら、人の家で何をしているんだ」

ゆっくりレミリアの足を掴み、思い切り地面に叩き付けた。

 「うあ!!ぶびっ!!!」

顔面から突撃したゆっくりレミリアが妙な声を上げ、気絶した。
ゆっくり霊夢達にとっては凶悪な捕食者であっても、人間から見ればゆっくり霊夢と対して変わらない。

 「ま゛りざあああ!!!」

ゆっくりレミリアが気絶しているのを確認すると、親れいむが物凄い勢いで縁の下に飛び込んだ。
しかしそこにいたのは半分に千切れた親まりさ。

 「まりざああ!!!ゆっくりしようよ!!!!赤ちゃんとずっとゆっくりするんだよ!!!」

親れいむが引きずり出してきた親まりさを見ると、息も絶え絶えでいつ死んでもおかしくない様子だった。

 「れいむ・・・まりさはもうだめだよ・・・ぶぴっ!」

ごぽりと餡子を吐き出す親まりさ。
その姿にぷるぷると震える赤ゆっくり。

 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!!ゆ゛っぐりして、ま゛りさ!!!まりさが死んじゃゆっくりできないよ!!!」
 「ゆっ・・・れいむには赤ちゃんがいっぱいいるよ・・・ゆっくりできるよ・・」
 「やだよ!!まりさがいないとゆっくりできない!!まりざああああ!!!」

必死で頬をすり合わせるが、反応を示さない親まりさ。
もう死が間近に迫っているのだろう。

 「れいむと一緒でまりさはゆっくりできたよ・・・ありがとうれいむ・・・」
 「ゆっ!!!??やだよ!!もっとゆっくりしたいよ!!!!」

親れいむが傷口を舐めても、もはや餡子は止まらない。

 「あかちゃんと、まりさのぶんも・・ゆっくりしていってねぇ・・・」

そういうとまぶたをゆっくりと閉じ、もう親まりさは目を覚ますことはなかった。

 「ゆうううううう!!!!!」

生まれたばかりの赤ゆっくり達も、親れいむの様子から何かを察したのだろう。
ぽろぽろと涙を流している。

空気が重かった。
俺はゆっくりレミリアを縄で厳重に縛ると部屋に戻った。



次の日、玄関で待っていたのは目を真っ赤にした親れいむであった。

 「おにいさん、まりさがいなくなったけど、れいむは頑張るよ。きのうは助けてくれてありがとう」

いつものような元気が無かったが、赤ちゃんのために頑張らなければならない。
そんな気迫を感じた。
それにあの赤ゆっくりは親まりさが遺した唯一のものだ。
なんとしても育てなければならないのだろう。

 「またレミリアが襲ってきたら、すぐに助けを求めてきていいんだからな」
 「ゆっくり理解したよ。れいむは今からご飯を取りにいくから、もし何かあったら助けてね」

熱い日差しの中、燃えるような地面を親れいむは跳ねていった。


ゆっくりの巣の前にくると、縄とゆっくりレミリアの服が落ちていた。
特に気にもせずに、赤ゆっくりを呼ぶ。

 「ゆっくち!?」
 「おにさんはゆっくちできる!?」

ぞろぞろと縁の下から湧いて出てくる赤ゆっくり。
昨日、ゆっくりレミリアを撃退したのを見ていたからだろう、まるで警戒などしていない。
親が食われたというのに、昨日よりぷっくりとしている。

縁の下を見ると、アイスの棒が突き刺さったお墓が見えた。
親れいむが作ったお墓だろう。小さなたんぽぽが供えられ、綺麗なつくりをしている。

 「おにいさん!まりさおなかすいたよ!!」
 「まりさ!そんなこといっちゃだめだよ!!」

まだ赤ちゃんだというのに、妙に行儀が良い。
親の教育が良いからだろうか。
きっともう、この家の主が俺だと教えたのだろう。

 「れいむは頭がいいね、ご褒美にお兄さんがおいしいものをあげるね!」

俺は用意していたホールのショートケーキを赤れいむ達の前に置いた。

 「ゆ!?いいにおいだよ!!」
 「ゆっくちできそう!!」
 「おにいさん、ほんとうにたべてもいいの!?」

すぐに飛びつくかと思ったら、全然飛びつかない。
何度も俺に食べていいか確認してくる。

 「いんだよ。これはまりさやれいむ達のために用意したんだよ」

もしかしたら、親れいむに人間からエサを貰うことを禁止されているのかもしれない。
里の人間の中には、ゆっくり虐待が趣味の人間が多数存在する。
彼らは大抵、おいしいお菓子や、ゆっくりプレイスの提供でゆっくりを連れて行き虐待する。
あの賢い親れいむはそれを知っていて、人間は恐ろしいものだと教えたのかもしれない。

 「お母さんれいむには内緒にしておいてあげるよ!だからみんなも秘密にしようね!!」

内緒ならいいだろう。
赤ちゃんゆっくりはお菓子が大好きなのは知っている。
俺はいじめたりなんかしないし、親れいむの教育はしっかりしているから大丈夫なはずだ。

ただ、親れいむが怒るかもしれないので釘は刺しておく。

 「みんな、絶対にお母さんれいむには内緒だよ!それと、他の人間から食べ物を貰っちゃダメだよ!
  それが分かったら、ゆっくり食べてね!!」

そう言ってもしばらくそわそわとしていたが、赤まりさがかぶりついたのをきっかけに、一斉にケーキを食べ始めた。

 「ゆっくち!!!おいちい!!!」
 「うっめ!!めっちゃうめ!!!」
 「ハムッ!!ハフハフ!!ハフッ!!」
 「ゆっくちぃー!!!」
 「ゆっ♪ゆっ♪ゆっ♪」



赤ゆっくりの食欲は恐ろしいもので、あっというまに巨大なケーキを食べつくしてしまった。
俺は近所でお菓子を買ってきて、お腹がいっぱいになるまで食べさせてあげた。

 「みんな、約束は覚えてるかい?」

満腹でゆっくりしていた赤ゆっくりに質問する

 「ゆっ!おかあさんにはないしょだよ!!」
 「ぜったいにいわないよ!!」
 「だからおにいさん、もっとゆっくりしようね!!!」
 「いわないよー!!!」

さすが、あの親れいむと親まりさの子供だ。
ちゃんと覚えていた。

俺はその答えに満足すると、部屋へと戻った。
もう日も暮れ始めている。
そろそろ親れいむも戻ってくるはずだろう。





親れいむはエサを確保し、帰路についていた。
昨晩はゆっくりレミリアに最愛のパートナーを食べられてしまい、気分はどん底であった。

しかし、自分には最愛の赤ちゃん達が残っていた。
それだけが親れいむの希望だった。

その赤ちゃん達のためなら、どんな気分でもエサを取りにいける。

口には大量のご馳走が入っている。
これを見た赤ちゃん達の喜ぶ声が楽しみだ。

歌いだしたいのをこらえ、里の真ん中を通って帰る。

家を出るときに、あの優しい人間がリボンにバッヂをつけてくれた。
飼いゆっくりにつけられるバッヂで、これがあれば人間はイジワルをしてこない。
安心してエサを取ってきなさい、人間は優しく撫でてくれた。

外敵の心配のない人の作った道を堂々と通れることは、親れいむにとって幸せなことだった。
片親であの大所帯を養えるか不安であったが、しばらくは何とかなりそうだ。


 「ゆっくり帰ったよ!!ゆっくりしてた!?」

 「ゆ!おかあさんだ!!」
 「ゆっくちおかえりなさい!!」

縁の下に入ると、帰りを待ちわびていた赤ゆっくり達が寄ってきた。
嬉しくて涙が出そうになるのを必死でこらえる。

子育ては初めてだが、あの賢いパートナーとの子なのだ。
自分の知識を全て教え、賢くゆっくりできる子にしてみせる。

昨晩は、「人間は危険だから絶対に油断してはならない」ということだけを教えてあげた。

ゆっくりレミリアを一撃でしとめたあの人間を見て、人間の強さはすぐに理解してくれた。


 「みんな!おいしいご飯だよ!ゆっくり食べようね!!!」

 「ゆっ!ごはん♪ごはん♪」
 「ゆっくちたべたい!」

寄ってきた赤ゆっくりの前に、口の中からエサを吐き出した。

ムカデ、ダンゴムシ、たんぽぽの葉にモンシロチョウ。
ご馳走の山だ。

 「ゆっ・・・!?」
 「ゆ!なにこれ!?」
 「ゆっくち!?」

そのご馳走を見た赤ゆっくり達が、困った顔をしてこちらを見ている。
ゆっくり種が日ごろ食べるものを食べるのは、今日が始めてなのだ。

これまでの食事は、茎と、親まりさが持ってきたお菓子だ。
親まりさは特に何も言わなかったが、あれはきっとあの優しい人間が分けてくれたのだろう。
それに昨晩は、おいしい肉まんもあった。

 「これがれいむ達のいつものご飯だよ!おいしく食べていってね!!」

食べそうにない赤ゆっくり達に食事を促す。

そして、一匹の赤まりさがダンゴムシに口をつけた。が、

 「ゆ!おいちくない!こんなの食べられないよ!!」

ぺっ、とダンゴムシを吐き出す赤まりさ。
他の赤ゆっくりも違うものに手を出すが、結果は同じであった。

 「まじゅい!!ゆっくちできない!!」
 「こんなのいらないよ!!!」
 「ぜんぜんごちそうじゃないよ!!」

次々にご馳走を吐き出す赤ゆっくり達。

 「そんなことないよ!!!おいしいよ!!ゆっくり食べてね!!」

お手本を見せようと、ムカデを食べてみせる。

 「ゆ!そんなきもちわるいのいらない!」
 「おかあさんだけたべていってね!!」

ぷいっと奥に行ってしまう赤ゆっくり。

 「ゆ!ちょっと待ってね!!ご飯を食べないとゆっくりできないよ!!」

そんな声も無視され、ぽつんと1匹、親れいむは取り残された。
孤独感が襲ってくる。

 「ゆっ・・・。せっかくご馳走を用意したのに・・・」

ダンゴムシはこんなにおいしいのに。ムカデはあまり手に入らない御馳走なのに。
たんぽぽの葉は自己流の調理をした自信作なのに。

目の前に刺さったアイスの棒を前に、ひっそりと親れいむは涙をこぼした。





次の日、俺が縁の下を覗くと赤ゆっくり達が跳ねて来た。

 「ゆ!おにいさん!まってたよ!!」
 「おにいさんれいむおなかすいたよ!!」
 「きのうのをまたたべたいよ!!」

親れいむはエサでも取りに行っているのだろう。出てくる気配はなかった。

 「みんな、お母さんれいむには内緒にしてくれたかな?」

 「ゆ!ちゃんとれいむないしょにしたよ!!」
 「まりさちゃんとだまってたよ!ゆっくちできるよ!」

ちゃんと約束を守っている。やはり親に似ているんだな。

 「よーし、お兄さんは今日はもっとおいしいものを用意してあげるよ!」

ゆー!と歓声が上がった。
俺は用意していた完熟マンゴーを取りに部屋へと戻った。







夕方、傷だらけの親れいむはエサ取りを終え、家に向かっていた。

昨日はいきなり虫や草を用意してしまったからビックリしたのだろう。
今日はちゃんと食べられるよう、危険を冒しながらも木苺を取りにいった。

なんとか木苺を取ったものの、帰る途中に野良犬に襲われあと一歩で食べられてしまうところだった。
生き残れたのは子供を守らなければという強い母性があったからだ。

遠出をしても大丈夫なよう、おうちには昨日のムカデやダンゴムシを置いてきた。
空腹に我慢できなくなったら食べてくれるはずだ。

口内の木苺を飲み込まないよう注意して跳ねながら、喜ぶ赤ちゃんの顔を思い浮かべた。



 「すっぱい!こんなのいらないよ!」

そう言ったのは赤れいむであった。
それを皮切りに、他の赤ゆっくりも続ける。

 「こんなの食べられない!もっと甘いのを用意してね!!」
 「おかあさんもっとゆっくちさせてね!!」

次々に木苺を吐き出す。
あまりのショックに、傷だらけの体が痛んだ。

 「どうじでぞんなごと言うのおお!!おがあざんががんばっでどっでぎだんだよ!!!」

自分のしつけが悪いのだろうか。
地面に吐き出された木苺を見ていると、胸が締め付けられる想いだ。

 「いっしょうけんめいとってきてもおいちくないよ!!」
 「そうだよ!ゆっくちできない!」

心まで傷つけられる親れいむ。
自分は何のために頑張って木苺を取ってきたのだろう。

ふと、昨日のご飯を置いた場所を見ると、何もなくなっていた。

 「ゆ!みんな、昨日のご飯を食べたんだね!だからお腹いっぱいなんだよね!!」

そうであって欲しい。
切なる願いだった。

しかし、そんなことを知らない赤ゆっくりはこともなげに答える。

 「ゆ?あんなきもちわるいのすてちゃったよ!!」
 「あんなのがここにあるとゆっくちできないよ!!」
 「おかあさんはゆっくちできない!!!」

あれほど必死になって集めた御馳走が捨てられた。
無意識に涙がこぼれた。

パートナーをなくしてから、いったい自分はどれだけ涙を流せばいいのだろう。

 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛・・・・」

それに、あの優しい人間との約束だ。大きな声で泣くこともできない。
そんな親れいむの姿を疎ましく思ったのか、赤ゆっくり達は奥へと姿を消した。

また1匹になった親れいむは、丁寧に木苺を集めて昨日と同じ場所に置いておいた。
もし自分がいないときにお腹を空かせては、ゆっくりした親まりさに申し訳が立たない。

アイスの棒の前で今日も一人、親れいむは眠りについた。





それから1週間、赤ゆっくり達は親れいむのエサに一切手をつけることはなかった。
それなのに日々、どんどんと成長し、今ではソフトボールほどになり子ゆっくりといえるほどになった。

なぜお腹が空かないのかと尋ねたが、

 「ゆっくちできないおかあさんにはおしえない!」

と一蹴された。

しかし、どんな形であれ子供が大きくなることは嬉しいこと。
親まりさもきっと喜んでくれるはずだ。


毎日、きっと今日こそはご飯を食べてくれる、と信じてエサを取り、全て捨てられた。
最近では見ただけで口もつけてくれなくなったが、それでも親れいむは懸命にエサを運び続けた。

今日のエサはハチミツとハチノコだ。
全身を毒針で刺されながら確保した。

甘いハチミツならきっと口をつけてくれる。そう信じたから頑張ることができた。

しかし、夕方に散々、メイプルシロップたっぷりのホットケーキを食べた子ゆっくり達はハチミツだけで我慢ができるワケがなかった。
ハチノコを地面に吐き捨てながら、言う。

 「ハチミツしかおいしくないよ!!!」
 「もっとハチミツをとってきてね!」

ぴくぴくと動くハチノコを見ながら、親れいむはまた胸が締め付けられる。

ハチノコにハチミツをかけたものは、親まりさの大好物だった。
いままでに2回しか食べたことがない。

飼いゆっくりであった親れいむと、同じく飼いゆっくりであった親まりさが出会ったのは、蜂の巣を狩ろうと木の下で作戦を練っていたときだ。
2匹で協力して蜂に刺されまくりながらもなんとか確保したとき、親愛の情が芽生えた。
子供を作ろうと誓い合ったあの日も、蜂の巣を狩り、2匹で祝いあった。

いわば、これは親ゆっくりの絆の食べ物なのだ。
それなのに、子ゆっくりは食べてくれない。

 「ゆ!おかあさんのもってくるものは、ぜんぜんゆっくりできない!」
 「しんじゃったおかあさんのほうが、おいしいものもってきてくれた!」

出産後、初めてエサとして食べたものは親まりさが持ってきた、人間から貰ったであろうお菓子。
子ゆっくりの中では親まりさは狩りの達人という位置づけになっていた。


 「おかあさんがたべられればよかったのに!!!」
 「ゆっくちできないおかあさんより、しんじゃったおかあさんのほうが、まりさたちはゆっくりできたよ!!」

ぼろぼろとこぼれる涙。
どうして自分はここまで嫌われてしまったのだろう。

一生懸命エサを運んだのに。
ただ、子供達を喜ばせたかっただけなのに。

 「まりさ・・・」

もういないパートナーを呼ぶ。
しかしそれに答える声はない。

また始まったよ、とばかりに子ゆっくり達は離れていった。





それからさらに1週間が過ぎた。
さすがにゆっくりも大きくなり、うるさくなってきたので親れいむを呼んだ。

 「なあ、れいむ。もうそろそろ森の巣に移動してくれないか?子供達も大きくなったろう」

しばらく見ない内に、妙に親れいむはやつれていた。

 「ゆ・・・、分かったよ。すぐに移動するね」

そういうと、縁の下に跳ねていった。

 「みんな、ここからお引越しをするよ!」

縁の下から親れいむの気丈な声が聞こえる。
そして子ゆっくり達のブーイングも聞こえた。

 「やだよ!」
 「ここはれいむたちのゆっくりプレイスだよ!おにいさんはやさしいからここにおいてくれるんだよ!」
 「おにいさんとはなれたくないよ!!」

もはや、親れいむよりも人間に懐いてしまっている。

 「引越し先はここよりもゆっくりできるよ!」

 「うそだよ!おかあさんはいままでいっかいもゆっくりさせてくれなかったよ!」
 「しんじないよ!」
 「ここがゆっくりできるよ!!」

随分しつけがなっていないようだ。
俺と遊んでいるときはちゃんとしているのに。
なめられっぱなしだ。

 「みんなお母さんの言うことはちゃんと聞こうね!森の巣は死んじゃった魔理沙が作った巣だよ!ゆっくりできるよ!」

俺は助け舟を出した。
少し、親れいむが可哀想すぎる。
しつけはできているのに、なぜなめられているのだろう。立派な親ゆっくりだというのに。

 「ゆ!?しんじゃったおかあさんがつくったの!?」
 「それならゆっくりできるね!」
 「ゆっくりできそうだね!」

子ゆっくりの中では、親まりさは狩りの達人だ。
そんな達人が作った巣ならここよりもゆっくりできるのではないか、単純な考えであった。
それに前に子ゆっくりは聞いたことがある。
この場所は親れいむが最初に見つけたのだと。

子ゆっくりは思う。
無能な親が見つけた巣と、有能な親が作った巣。どちらがゆっくりできるかといえば後者だろう。

 「みんな、早く引越しの準備をしてね!」

苦い顔をする親れいむを尻目に、そそくさと引越しの準備を始める子ゆっくり達。
もともと持っていくものなどたかが知れている。10分もしないうちに引越しの準備は終わった。

 「じゃあみんな、お兄さんにさよならの挨拶をしてね!」

 「ゆ!おにいさんいままでありがとう!!」
 「またゆっくりしにきてもいい?」
 「おにいさんだいすきだよ!」
 「おにいさんはゆっくりできるひとだったよ!」

決して自分には向けられない笑顔を見て、親れいむの胸が苦しくなる。
しかし、この人間は優しい。
それを一番知っているのはきっと自分だろうと親れいむは思う。

 「お兄さん、いままでありがとう。これからは森でゆっくりするね」

 「おう、また何かあったらいつでも来てくれてかまわないからな」


そして、親れいむと子ゆっくり達は森の中へと消えていった。







森を進むのは困難を極めた。
ゆっくりと平和に育った子ゆっくり達は足場の悪い森の道に、不満を爆発させた。

それを必死でなだめ、ゆっくりできるから、と道なき道を進んだ。

移動途中、どんなにエサを持っていっても決して食べてはくれなかった。
長い道のりだから体力が必要だというのに。

子ゆっくり達は思っていた。
親まりさの巣には、いままで以上の御馳走が用意されていると。
だから、こんな親れいむが取ってくるような虫などとても食えたものではない、と。



親まりさが作った巣についたのはそれから2日も経ってからであった。

苔がこびりついた洞窟を見た瞬間、子ゆっくり達はかつてないほどの不満を爆発させた。

 「ゆ!なにこのきたないところは!?ゆっくりできないよ!!」
 「ぜんぜんゆっくりプレイスじゃないよ!!!」
 「おかあさんのうそつき!!!」

最愛のパートナーが作った愛の巣。
ボロボロになりながらも、ようやく他のゆっくりが住んでいない洞窟を見つけ、2匹で頑張って綺麗にした。
やわらかい苔を泥だらけにながら集め、子供達のベッドを作った。

当然、人間の家と比べれば汚いし、みすぼらしい。
しかし、言葉では言い表せないほどの思い出がつまった巣だ。


それをゴミのように罵倒する子ゆっくり達に、親れいむは我慢がならない。

 「ゆ!なにこのきたないの!!すてちゃえ!!!」

先に洞窟に入った子れいむが、小さい木のカケラを投げ捨てた。

 「ゆっ・・・!」

それは親れいむと親まりさが生涯を誓い合ったとき、記念に作った木の人形であった。
不恰好だが、2匹にとっては愛の証拠であったのだ。

それがメチャメチャに破壊され、子れいむに捨てられた。

 「ゆゆっ!なにこれ!こんなのいらないからおいしいごはんをよういしてね!」
 「きたないごみだね!はやくすてようね!」


その瞬間、親れいむの母性は、怒りに押しつぶされた。

どうして、なぜ、自分はここまでゆっくりできなくなったのか。
全てこいつらのせいではないのか。
まりさがいてくれれば幸せだったのだ。
今にして思えば、こいつらが騒いだからゆっくりレミリアが声をききつけて襲ってきたのかもしれない。

許せない。
もう許す必要なんてない。
こんなゆっくりできない子は自分の子供ではない。

 「ゆ?なにをしてるの?はやくごはんをよういしてね!」
 「ごはんがあるなら、きたないとこでもがまんしてあげるよ!」

怒りを爆発させ、信じられないほどの跳躍をみせる親れいむ。
落下すると、ぶちゅりと餡子をはじける子まりさがいた。

 「お゛ね゛え゛ぢゃん゛があああああ!!!」
 「ゆ・・・!?なにをするの!?ゆっくりあやまってね!」

 「ゆ゛っくり死ね!もうれいむの子供じゃないよ゛!!!死ね゛え゛え゛え゛!!」


かつて、誕生を喜んだ子供達に襲い掛かる親れいむ。
その目に浮かんだ涙は、誰のためのものなのか。

最愛のパートナーとの繋がりは、親れいむにとって許せないものへと成長してしまった。
許せないのは子供達なのか、満足に育てることができなかった自分なのか。

そんな問いを全て押しつぶし、子供を次々と押しつぶす。
つらい思い出を全て押しつぶしたい、親れいむは止まらない。

 「ゆ!おねえちゃん!にげるよ!!」
 「わかったよ!みんなまりさについてきてね!!!」

必死で逃げ始める子ゆっくり達。
この森で満足に虫も食べられないゆっくりがどう生きていくのか。

ふふふ、とゆっくりらしからぬ笑い声を上げる親れいむ。

もう追いかける気もしない。


死んでしまえ。
自分達の愚かさを呪いながらゆっくりと死ね。

静寂な森に、いつまでも親れいむの笑い声が響いた。












逃げ切った子ゆっくりは5匹であった。
子れいむ2匹と子まりさ3匹。10匹姉妹は半分になってしまったが、希望はまだ捨てていない。

 「あんなバカなおやは、ゆっくりしねばいいのにね!」
 「そうだよ!ゆっくりしね!」

見えなくなった親れいむへの怒りをあらわにする子ゆっくり達。

 「はやくおにいさんのところにもどってゆっくりしようね!」
 「そうだね!だいすきなおにいさんにはやくあいたいね!」
 「おなかすいたよ!はやくあいにいこうね!」

子ゆっくりだけで抜け出せるほど、自然の森は易しくない。
同じところをぐるぐると回っていることに気がつくものは、1匹もいなかった。






雨が降っていた。
どんどん、と何かを叩く音が聞こえ、俺は扉を開けた。
そこにいたのは1匹のゆっくり霊夢であった。

 「ん?お前、こないだのれいむか?」

ゆっくり一家が出て行ってから、1ヶ月が過ぎていた。
目の前にいるのはあの時の親れいむだろうか。酷くやつれて、皮は傷だらけだ。
雨に濡れたせいか、全体的にぶよぶよとしている。

 「大丈夫か?いまご飯を食べさせてあげるから、ゆっくりあげれ!」

何も返事をしないゆっくり霊夢を部屋にあげ、あまいお菓子を用意した。

 「どうしたんだ?子供たちは?」

ふるふると体を左右に揺らす。それ以上は答えない。
きっと外敵にでも襲われて逃げてきたのだろう、俺はそう結論付けた。

そっと頭を撫でてやると、ぶわっと涙を出した。

 「つらかったな。ゆっくりしていっていいんだよ」
 「ゆ゛う゛う゛う゛!!!れいむ、もういやだよお゛お゛お゛!!!ま゛りざあ゛あ゛あ゛!!!!」

泣き出したゆっくり霊夢を抱きしめ、傷口に水で溶かした小麦粉を塗る。
餡子もあまり漏れていないし、しばらくすれば元気になるはずだ。

 「れいむ、お前さえよければここでずっとゆっくりしていっていんだよ。まりさもここに眠ってる」

子供達を失った悲しさを少しでも和らげてあげたい。俺は純粋にそう思った。

 「ゆっ・・・ゆっ・・・」

顔を俺に向ける。
その顔は涙が溢れているものの、明るい笑顔だ。

 「お前の笑顔、なんだか久しぶりだなあ」

そういえば、出産の時以来久しく見なかった。
なぜだろう。
あんなに可愛い赤ちゃんゆっくりがいたのに。

まあ、きっと晩御飯のときや寝るときは親子仲良くゆっくりしていたのだろうから、偶然だろうな。

 「ゆっくりしていくね!!」

雨が屋根を叩く中、ゆっくり霊夢の声が部屋に響いた。



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最終更新:2011年07月28日 00:17
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