「こっちの方向でいいんだね?」
「そうだよ、ゆっくりついてきてね!!」
木々が覆い茂る森の中、私は親れいむと一緒に道なき道を進んでいた。
ちなみに他の家族達は、怪我して動けないまりさと一緒に運んであげる、っと言って車の中で待たせてある。
今日は日差しが鋭く全体的に暑い、エンジンを切っている車の中は蒸し地獄だろうが……、まぁ天然サウナとして楽しんでもらおう。
れいむが進んでいく道を見れば僅かに草が倒れ、細い二本の線が残っていた。
草の倒れと二本線はスィーが通った跡だ、跡の残り方から見て昨日ぐらいのモノのようだ、れいむの道案内は間違いなさそうだ。
れいむの飛び跳ねる後姿にウザさを感じる事しばらく、木々の間でれいむはこちらをぴょこりと向いた。
「ここがれいむたちのゆっくりプレイスだよ!!」
「ほほぅ……」
見れば木々と草の間に土を掘って作った穴がある、それなりに見つけにくいであろう中々悪くない巣だ。
ふと気が付いて歩を進めてみる、すると木々の間から街の光景が見える、おそらく夜の明かりなどならそれなりのものが見えるだろう。
なるほど、夜の光など煌びやかな光景を見て街に憧れ出てきたのだろう、その侵入先が私の家だったのは運の悪さか神様の悪戯か。
とりあえず辺りを探るが、この辺りには他のゆっくり達の気配は無い。
れいむに聞いてみると、一家は餌の確保のため他のゆっくりの住まいからは少し離れて住んでるとの事、実に好都合。
私はれいむに待つように告げると、通ってきた時につけた目印を元に車へと戻った。
暫くして私は手にはまりさと子ゆっくりを入れた木の檻を、背には大きなシャベルを背負って帰ってきた。
良く全員が入った木箱を担いで山道を歩いたなって? まぁ根性と努力だ、うるさい中身に何度も投げ捨てたくなったが。
「いやいやれいむ、待たせたね」
「おにいさんはゆっくりしすぎだよ! はやくまりさたちをだしてね!!」
「出す? 何を言ってるんだい……?」
「……ゆ?」
不思議そうに此方を見るれいむ、どうやら約束の内容を忘れているようだ。
「れいむ、忘れたかい? 私は君たちをずっと一緒に居られるようにしてあげる、って約束したんだよ?」
「ゆ、だかられいむたちをおうちに……」
「此処から出て生活したら、いつか家族ばらばらになっちゃう。『ずっと』一緒にって約束が守れない。……なら、此処から出る必要は無いよね?」
「ゆ……、ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
「おっと」
瞬間、目を見開き凄まじいとも言える形相でれいむが突っ込んできた。
その行動を予想していた私は、慌てる事無く片足でれいむを踏みつけ動きを止め、そのまま髪の毛をつかんで持ち上げる。
「はなぜぇぇぇ! だぜぇ!! おじびじゃんやまりざをだぜぇぇぇぇぇ!!!!!」
「何を嘆いてるんだい? 約束をし納得したのは君だ、私はソレを守るだけだよ?」
そう言って笑いかけると、そのまま檻の蓋を開いてれいむも中に投げ入れる。
「ゆべぇし!?」
「ゆゆっ! おかあさん、どうしたの!!」
「だいじょうぶおかあさん!? どこかいたくない!?」
「れい……、む。だい……ぶ?」
まだ事態を理解していない子供達が、投げ込まれた母親に心配そうに擦り寄って行く、ボロボロの親まりさも心配そうだ。
私はその光景を微笑ましそうに見ると蓋を閉め、背負っていたシャベルを手に巣へと近づき……
「ふん!!」
気合一発、シャベルを使って巣をより大きく掘っていく。
「あああああああ、れいむどまりざのあいのおうじがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「やえ……て、まり……た……の……おうち……が」
「どんじでぞんなごどずるの、ねんげんざぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「ゆぇぇぇん!!!! ゆぇぇぇぇぇん!!!!!!」
「ゆ? ゆ? ゆ? ゆ? ゆ? ゆ?」
「まりさがあつめたきれないしさんが! たからものさんが!! やめてね、ひどいことしないでね!!!」
「うんうんが! まりさがいままでためたうんうんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
最後の一匹あのまりさか!?
そんなゆっくり達の悲鳴をBGMに掘っていく事数分、檻がそのまま入るぐらいの穴へと拡張された巣が完成した。
私は満足そうに一度うなづき、一家に笑顔で振り返る。
「さぁ、待たせたね。巣に入れてあげよう」
「いやだぁ! だじで、ごごがらだしで!! ばいりだぐないぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ははは、ホントは嬉しいくせに。レイパーありすが相手によく言うツンデレってやつかな?」
「なにいっでるの! ばかなの!? ばやくじんでね!!!!」
「そうだな何時かは死ぬかもな。……よいしょっと」
私は穴の中に檻を入れると、その上に土をかけていく。
「やめろぉぉぉぉぉ! だぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
埋め、埋め、埋め、埋め、埋め。
「おねがいじまず、やめでぐだざいぃぃぃぃぃ!!」
埋め、埋め、埋め、埋め、埋め。
「ぜめで、ぜめでごどもだじだげでもだじでぐだざい、おねがいじまずぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
埋め、埋め、埋め、埋め、埋め。
「……! ……!!」
埋め、埋め、埋め、埋め、埋め、……ふぅ。
穴が完全に埋まったのを確認し、顔に付いた土と汗を手で拭う。
これで一家は巣の中で、ずっと一緒にゆっくりできるはずだ、いい運動にもなったし実に喜ばしい。
と、そんなふうに一仕事終えた満足感に浸っていると……
「ゆゆ、なにかさわがしいわね。まりさ、れいむ、かえってきたの? ……って、どうしてにんげんさんがいるの!?」
「おや、驚かせたかな? ゆっくりしてってね!!」
「ゆっ! ゆっくりしてってね!!」
がさがさと茂みを掻き分けて出てきたのはレイパーの代名詞ありす、今まりさとれいむと言っていたが、もしかして……
「今まりさとれいむと言ってたけど、君はここに住んでるまりさ達の知り合いかい?」
「ゆ、そうよ。ありすはれいむとまりさのおさななじみなのよ! れいむたちがおちびちゃんとおでかけしてるから、おうちのおていれをしてあげてるの!!」
ゆっへんと胸(?)を張って言うありす。が、何かに気付いたようにはっ! っとすると、恥ずかしそうに顔をそらす。
「べ、べつにまりさやれいむのためにしてるんじゃないわよ! ただみすぼらしいおうちをもったゆっくりがおさななじみなんて、ありすがはずかしいだけなんだから!!」
ありす種のツンデレキター!!
思わず心の中で唸ってしまう、実際に今時ここまでテンプレなツンデレ台詞を言うアリス種は珍しい。
ツンデレ台詞は『相手を思いやれる心を持つありす』のみが言うものである。
レイパーは言うに及ばず、街の野良ゆっくりも自分が生きるのに精一杯であり、飼いゆっくりは素直な性格に調教され、それが餡にまで染み付いたモノが大半である。
そのため自然のに住まう余裕がある野生のありすでなければ中々見られないのだが、それでも相手を助ける状況を目撃すること自体滅多に無いので、これはかなり貴重な体験なのだ。
「さ、さぁありすはおうちのおていれがあるから、にんげんさんはあっちにいってね」
ある種の感動に浸ってる私を横切って、巣があった場所へと跳ねていくありす。
「……ゆ?」
が、すぐに在るべき巣への穴が無くなって居る事に気付き、不思議そうに体を傾げる。
「ゆ? ……ゆゆ!? ゆゆゆゆゆ!!!??? どうじでまりざどれいむのおうじがないのぉぉぉぉ!!!!!???????」
穴のあった場所を必死に探し回るありす、見れば掘り返されて埋められたのが分かるだろうに混乱しているようだ、なかなか滑稽な絵だ。
事実を教えて反応を見るのも楽しそうだが、珍しいものを見せてもらったお礼もある、何も知らず楽に逝かせるとしよう。
私は今だ混乱するありすの後ろにそっと立つと、そのありすを足で引っ掛けるように蹴って宙へ浮かす。
「ゆゆ!? おそらをとんでるみた~い!!」
「……ふん!!」
「ゆぶゅ……!?」
ありすが御約束の言葉を言いながら自分の胸の辺りまで来たのを確認し、その後頭部に拳を打ち込む。
金色の髪にめり込む拳、だがありすの体は飛んでいかない。ただ目を見開き、膨らんだ口元は中のものを出すまいと必死に閉じられる。
「……ゆべはぁ!?」
だがすぐに限界が訪れた、ありすは目や口から中身であるカスタードクリームを撒き散らし、大地をクリームで染める事になった。
「……うん、久々だが悪くない」
私はその結果に満足すると、手に残ったありすの皮を投げ捨てる。
今やった事はそれほど難しい事ではない、ゆっくりはその特殊な皮の皮膚で包んだ中身を常に流動させている。
私はありすに上手い具合に衝撃を与える事で中身の動きを狂わせ、体の外へと排出するようにしたのだ。
ゆっくりを殴り続けている間に習得した技、久々に使うがまだ衰えてはいないようだ。
「さて、一度準備に戻ろうか」
スタート地点の目印代わりに巣の跡地にスコップを突き刺し、私は再度車へと戻っていった。
準備を終えて森を歩き始めてしばらく、何か話し声らしきものが聞こえてくる。
私は物音を立てないように注意しながら音の方へと近づくと、木に体を隠してそっと様子を伺った。
「まさり、おはなしってなぁに?」
「れ、れいむ。ま、まりさは、まりさは……」
そこに居たのは花を加え顔を真っ赤にしたまりさと、そんなまりさを不思議そうに見るれいむだ。
二人の様子と聞こえてくる言葉から察するに、まりさがれいむに告白しようとしているのだろう、これはお祝いをくれてやらねば。
「まりさはれいむのこ「ふたりともー!!」……ゆ?」
私は二匹へと全力で駆け、ダッシュの勢いを殺さぬように思いっきり足を振りかぶる。
「幸せにぃぃぃぃぃ!!!!!」
そしてそのままれいむの顔面に、体重の乗ったキックを食らわせた。
家に侵入したまりさの時とは違う本気威力、丈夫に作られた靴の硬いつま先がれいむの顔面を抉る。
私は足にかかる衝撃から、れいむの顔面を完璧に叩き潰した事を確信した。
「ゆぶぇ!?」
れいむは潰れた顔面から中身のあんこを撒き散らし、勢い良く飛んで近くの木に。
そしてまりさはまだ状況を頭が認識する事が出来ないのか、呆然とした顔でれいむの姿を見ていた。
其の光景に多少の満足感を得たところでふと気付く、今の、まだ告白の途中だったのでは……?
「れ、……れいむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!! ゆべぇ!?」
気恥ずかしさを紛らわすため上げてた足を勢いよく戻し、我に返ってれいむへ駆け寄ろうとしたまりさを踵で叩き潰す
「あー、えっと、……あの世でゆっくり返事を聞いてね!!」
せめてもの詫びにとまりさの帽子を引っつかみ、れいむの死体の上において置く。
「急いだ結果がこれだよ!! ……あ、ついでにっと」
私は潰したまりさの死体を木の枝に引っ掛けると、ポシェットから瓶を取り出し中の液体を軽くかける。
私には変化は分からないが、これであるゆっくりの感覚器官的に強烈な甘い匂いがする様になったはずだ、この作業は他の場所でも行わねばならない。
一通りの作業が終わると、気を取り直すため軽く咳払いをし、次の獲物を探しにこの場を後にした。
次の獲物は途中で見つけたれいむを小脇に抱え、指先で表面の皮を摘み取りながらどう始末するか考えてる時に見つけた。
「おちびちゃんたち、まりさがさきにいくからゆっくりついてきてね」
「ゆゆゆ、ゆっくりうかぶよー」
「おかーしゃーん、まってー」
「ゆー、ぷかぷかゆっくりできるよ!!」
泉に浮かべた帽子に乗る親まりさと、そのまりさを追いかける子まりさ3匹。
「さすがはありすとまりさのこどもたち、とってもとかいはなおよぎね!!」
「ゆー、まりさおねえちゃんたちばかりずるいわ、ありすもおぼうしほしい!!」
それに子まりさを微笑ましそうに見る親ありすと、羨ましそうに見る子ありすか。
どうやら泳ぎ方を教える親と、ソレを見守る家族のようだ。
親ありすは別のゆっくりを襲うのに使えそうだから追いとくとして、泳ぐ親まりさはシンプルに決めるとしよう。
私はすでに白目をむいているれいむを、親まりさに向かって思いっきり投げつけた。
「ゆ? ゆぐぅ!?」
「「「「おとうさーん!?」」」」
「ま、まりさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
高速で飛んできたれいむに対して、水上では木のオールを使ってゆっくり進む事しか出来ないまりさが避けられるはずも無い。
哀れまりさは帽子を残し、れいむと共に川の中へとダイブする事になった。
れいむがぶつかった時の口から餡子を吹き散らす様子と、体のへこみ具合から見て確実に意識が飛んでいたと判断、水煙から上がってくる事は二度と在るまい。
突然の事にゆっくり達が硬直している間に、私はありすへと近づいて親アリスを動けないよう片足で踏み、テニスボールぐらいの子ありすを摘み上た。
「「ゆぎゅ!? なに、なにがおぎでるの!?」
「ゆゆ、おそらをとんでるみたーい!!」
私は状況を忘れてのんきな言葉を放つ子ありすを、顔が向き合う高さまでもってくる。
「ゆ? おにいさんは……」
「ありす、君は今泳ぐまりさ達を羨ましがってたね?」
「ゆゆっ!? そうよ、ありすもおにいちゃんたちみたいにおよぎたいわ!!」
「でも泳ぐためには帽子が必要だ。そして立った今、持ち主が居なくなった帽子がある」
「!? だめよ! やめなさい!! おちびちゃんとありすをはましなさい、このいな、……ゆっ!?」
何をするか気付いた親ありすが必死に叫びを上げるが、踏む足にさらに力を込めることで耳障りな言葉を止める。
「さぁありす、行っておいで!!!!」
「ゆ? ……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!???????」
水面を漂う主無き帽子に向かって、子ありすを投球する。
投げ方は軽くであるが、まだ小さな子ありすにとっては十分恐怖の対象だろう、断末魔のような悲鳴を上げてとんでゆく。
くるくる宙を回りながら飛んでいった子ありすは、狙いの通り親まりさの帽子の中へと落ちていた。
「ナイスショット♪」
「ありずのごどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ありすー! 望みの通りぷかぷかしてる気分はどうかなー!!」
「せまくて、くらくて、ゆれててゆっくりできない! こんなのとかいはじゃないわー!!」
体が小さすぎたのだろう、帽子の中に完全に入ってしまい、身動きが取れないようだ。おお、滑稽滑稽。
動かすもののいなくなった帽子は、川の流れにどんどんと流されていく。
それに気付いた親ありすは、必死になって私へと訴えかけ始めた。
「ぎはずんだでじょ! ばやぐありずのごどもをだずげなざい!! ごのいながもの!!!!」
「酷いなぁ、私はありすの望みをかなえただけだよ? それに助けに行くにはうってつけの子が居るじゃないか。そうだろ! まりさ達!!」
私の声に、事態についていけず呆然していた子まりさ達が我に返る。
「ゆ! ゆっくりせずはやくたすけにいくよ!!」
「ありす、まっててね! まりさたちがすぐにゆっくりたすけるよ!!」
「かわさん! ゆっくりとまってね!! ありすをかえしてね!!」
まだ稚拙な動きながらも、オールを必死に動かして子ありすを追いかけ始める子まりさ達。
川の流れはまだ穏やかなので問題なく時期に追いつくだろう、うん、実に宜しくない。
何の困難も無く終わるのは楽しくないので、私が困難になってやる事にした。
私は近くにあった平たい石を手に取ると、手首のスナップを利かせて投げ放つ。
「!? おじびじゃん、あぶないよげでぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
失礼な、簡単に当てはしない。
水面を幾度かはねるように飛んだ石は、子まりさ達の間をすり抜けると、子ありすの乗ってる帽子の手前で水へと沈んでいった。
生まれた水の波紋は小さい、体より大きな親まりさの帽子に乗った子ありすは問題ないだろう。
だが未熟で小さな子まりさ達に取っては、突然生まれた帽子を揺らす波は十分に脅威だ。
「ゆゆ! ぼうしさんがゆれるよ!?」
「おちちゃう! みずさんにおちちゃう!!」
「やめてね! ゆっくりゆれないでね!! ゆっくりしずまってね!!!」
必死にバランスを取ろうとする子まりさ達の滑稽な姿に、多少は笑いがこみ上げてくる。
「お、おじびじゃんだじ……。やめで! いじをなげるなんでどがいはじゃないわ!!」
「ん? やめろ? ああ、分かった、一昔前のバライティで流行った押すな押すなってやつだね? ちゃんとお約束通り石投げるから心配する事はないよ、しかしありすは古いの知ってるね」
「なにいっでるのぉ!? いみがわがらないわよごのいながものぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ははは、いい顔芸だ、これならお笑いの道は入れるかもね」
そんな微笑ましいやりとりをしながら、次の石を親指で弾いて放つ。
「……ゆ!?」
指弾の要領で放たれた小さな石は、先頭に出ていた子まりさの頬を掠った。
「まりさ!!」
「ゆゆ! だいじょうぶ? まりさ」
「ゆゆ、……ま、まりさまけないよ! まりさはおねーちゃんだから、ありすをたすけるよ!!」
そう言うと石が掠った子まりさは、離された距離を縮めようと再び前進を始めた。うん、なかなかいい根性してるな。
「まりさ掠りボーナスゲット、めげないのもポイント高いな。うん、私だけここでジッとするのは彼らに失礼だね」
流される彼らを追うことを決めると、私は踏んでいた親ありすを手で持ち上げてクルリと上下反対にひっくり返した。
うにゅうにゅ動く底の部分が気持ち悪いが、こうされるとゆっくりは一人では動けなくなるので、捕獲道具を持ってくる手間が省けるのだ。
ついでに位置を使って土台を作り弾みでもどらないように固定して準備完了だ。
先も考えたように後でこの親ありすも使うので、しばらくここで天地逆さまライフを楽しんでもらおう。
「な、なにするの! もどしなさい! こんなのとかいはじゃないわ、このいなかもの!!」
「では私は彼らを追いかけてくるから、しばらくそこでゆっくりしてってね!!」
「ゆっくりしてってね!!……って、そうじゃないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
私は親ありすの叫びを無視して、そのまま流されるゆっくりたちを追って行った。
もっとも此処から先特に変わった事をするわけではない、私は追いかけて石を投げる、子まりさ達はそれに注意しながらありすの乗った親まりさの帽子を追いかける、それの繰り返しである。
もっとも、そんなゲームもすぐに終わりは見えてきた。
「ゆぅ……、ゆぅ……」
最初に石が掠り、それでも挫けず一番頑張った子まりさはすでに限界だ、体の各所から餡子が盛れ、体力気力共に限界を迎えてフラフラになっていた。
「まりさは……、ありすを……」
ぐらりと体が傾くと、そのままドボンと水の中へと沈んでいった。
「まり、……さ? ゆ、ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
続いて終わりを迎えたのは、一番後方を泳いでいたまりさだった。
恐怖で神経をすり減らしたところに兄弟の死、精神がイッたのかオールを口から放し、ただ流れに流されていくのも気付かずに悲鳴を上げ続けた。
この様子だともう一匹ももう終わるだろう。
「……こんなものか」
それなりにワクワクしてきた所だっただけに、あっさりとした終わりに落胆を感じ手を止めた。
「ゆ、ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
それが一瞬の隙となった、最後に残った子まりさが最後の力を振り絞るように一気にオールをこぎ始めたのだ。
「おお! まだ楽しませてくれるかい!?」
僅かな喜びと共に石を投げる、だが子まりさが僅かに速い、石は子まりさの後ろに落ち、その波紋に乗ってついに親まりさの帽子へとたどり着いたのだ。
「ゆっ……、ゆぅ!!!!!」
「おお!!」
親まりさの帽子に乗り移り、勝利の雄叫びを上げる子まりさに、私は感動にも似た気持ちを持って石を下ろした。
これ以上の邪魔は無粋だろう、何故なら……
「まりさ、おねーちゃん……?」
「ゆ、もうだいじょうぶだよありす、さあまりさのおーるにつかまって!!」
「ゆっ! ゆっ! っ!! おねえちゃんありすこわかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「すーりすーり、もうだいじょうぶだよ、まりさといっしょにありすおかーさんのところにかえるよ!!」
破滅という結果は、変わらないのだから。
「ゆ、おーるさんでおとーさんのぼうしさんをこぎこぎするよ。ゆっ! ゆっ!! ……ゆ?」
親まりさの帽子を己のオールで動かそうとする子まりさ、だが帽子が動く事は無い。
「「どうじでおぼうじざんうごがないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!??????」」
簡単な話だ、その大きな親まりさの帽子を動かすには、疲れきった子まりさの力はあまりに非力なのだ。
「ゆ! そうだ、まだまりさおねえちゃんのぼうしがのこってるわ!!!」
「ゆ!! さすがありすだね、あたまがいいよ!! じゃぁまりさのおぼうしさんに……、どおじでまりざのおぼうじざんがないのぉぉぉぉぉ!!!!!!????」
これも簡単、取りもせず、引っ掛けもせずに親まりさの帽子の隣に浮かべてただけの子まりさの帽子は、とっくの昔に流されたのだ。
見れば二匹が乗った親まりさの帽子は、少しずつふやけ始めている、此処からは早いし結果は見えた。
「じゃぁね、ゲームウォッチみたいで、それなりに楽しかったよ」
二匹に感謝の言葉を捧げると、私は踵を返して放置していたありすの元へと戻っていく。
私の後ろには、二匹ゆっくりの叫び声が響き、そしていつしか消えていった。
つづく
此方の不手際でかなり間が空いてしまいました、しかも短い、申し訳ないです。
しかも虐殺といいながらもそんなに殺してないのもますます申し訳ないです。
宜しければもう少し、この物語にもう少し御付き合いくださいませ。
【今まで書いたもの】
ゆっくり出来ない時代
ゆっくり育て
週末には良い殺戮を
最終更新:2011年07月29日 18:06