ゆっくりいじめ系165 俺とゆっくり2(中編)


前編


「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
真夏の太陽を天に抱いた森の中、ゆっくりたちの声が木霊する。
大人のゆっくりのものが一つと、赤ちゃんゆっくりのものがたくさん。
群生する草を掻き分けて、最近の幻想郷ではよく見かけられるようになった、ゆっくり家族の姿が現れた。
「ゆっゆっ、おひさまきもちいいね!」
「ゆっくりできるね!」
「あ、アリさんがいるよ!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
生まれてまだ間もないであろう、ミニトマト程度の大きさしかない赤ちゃんゆっくりたちは、元気にはしゃぎまわっている。
種類は全てゆっくり霊夢種であり、小さなリボンをはためかせて元気いっぱい飛び回る姿は人間の子供たちと左程変わりない。
そしてそんな微笑ましい光景を、後ろから優しい顔つきで見つめるゆっくりが一匹。
「あまり遠くに行かないでね!」
ゆっくり魔理沙だった。
バレーボール程度もある身体を揺らして、四方八方に行こうとする自らの子供たちに注意を向けている。
「おかあさん、アリさんいっしょにたべよ!」
「お母さんはだいじょうぶだよ! みんなで食べるといいよ!」
「わーい♪」
「ゆっくりたべるね!」
「おかあさんだいすき!」
列を成して歩くアリの集団を見つけた赤ちゃんゆっくりたちは、小さな舌を伸ばしてアリを食べ始める。
近くに湖が存在し、生き物がたくさん生息しているこの場所は、ゆっくりたちが過ごすには快適すぎるほどのゆっくりスポットだった。
幸せそうにアリを頬張る赤ちゃんゆっくりたちの姿を慈愛の表情で見つめるゆっくり魔理沙。
その左頬は、他のゆっくり魔理沙と比べて、ほんの少しだけ歪な形をしていた。
二週間前、人間の手によって失われ、そして再生した結果だった。

そう――このゆっくり魔理沙は、あの無礼な態度のせいで『お仕置き』されたゆっくりだった。

あの後、怪我による衰弱で意識不明の重態に陥っていたゆっくり魔理沙は、偶然通りがかったゆっくり霊夢に助けられた。
一週間の看病の末、餡子の大半を失っていた身体は万全とはいかないまでも回復。
お礼を兼ねての親愛の表現として身体を寄せ合って揺すり合い、ついムラムラしてそのまま性交に発展してしまった。
助けてくれたゆっくり霊夢は黒ずんで朽ちてしまったが、代わりに可愛い赤ちゃんがなんと七匹も生まれたのだった。
それからゆっくり魔理沙は母として、赤ちゃんたちを育てている。
右も左も分からぬ森の中での生活だったが、暮らし始めてみれば今まで暮らしていた場所より遙かに快適で、既に安住の地と化している。
あの男が言っていた野良犬やゆっくりれみりゃ、ゆっくりアリスの姿も見かけない。
……あの男。
顔を思い出す度に、ゆっくり魔理沙の左頬がじくじくと痛み出す。
あの男には酷いことをされた。
――しかし、あの男を怒らせるようなことを、自分は仕出かしてしまったのだ。
そう考えるゆっくり魔理沙。別に知能が上がったわけではなく、単にトラウマが生じているだけなのだが、本人はそのことに気付いていない。
――今でも怒っているのだろうか。
あれ以来、人里には近付いていない。場所が分からないということもあるが、近付いてあの時と同じような目に合いたいとは、二度と思わなかった。
「おかあさん!」
思考に没頭していたせいか、ゆっくり魔理沙は自分の子供が目の前に来ていたことに気付かなかった。
慌てて思考を中段し、微笑みを作る。
「ゆっ、どうしたの?」
「みてみて、アリさん!」
赤ちゃんゆっくり霊夢が舌をべっと伸ばす。その先には、踏まれてぺしゃんこになったアリの死骸がくっついていた。
「えらいね! ちゃんととれたんだね!」
「ゆゆっ♪」
褒められたことが嬉しいのだろう、赤ちゃんゆっくり霊夢はその場で踊るように飛び回る。
その愛らしい姿を見て、ふと電撃のような閃きがゆっくり魔理沙の脳裏に浮かんだ。

この可愛い赤ちゃんたちを見れば、きっとあの男も許してくれるに違いない!

それは人間からすれば何とも愚かな考えだったが、今のゆっくり魔理沙にとって天啓ともいえる閃きだった。
早速赤ちゃんたちを全員呼び集め、高らかに宣言する。
「今からお兄さんのおうちへしゅっぱつするよ!」
「ゆ?」
「おにいさんってだれ?」
「ゆっくりできるの?」
「とてもゆっくりできるよ! おいしい食べ物があるし、れいむたちよりも大きなれいむもいるよ!」
「ゆゆっ!?」
「いきたい!」
大はしゃぎする赤ちゃんゆっくりたち。「ゆっ♪」「ゆっ♪」と楽しげにその場で飛び跳ねている。
それが静まるのを待ってから、ゆっくり魔理沙は記憶を頼りに道を歩み始めた。
「それじゃ、ゆっくり行こうね!」
「「「ゆっくりいこうね!!!」」」





時は少し遡り、早朝。
俺は知人の美鈴さんから習った太極拳を練習していた。
別に拳法に目覚めたわけではなく、ここのところ働き詰めだったので、健康のためにやっているだけだ。
ゆっくり魔理沙に『お仕置き』してから一週間くらい経ったころだろうか、俺の勤め先でちょっとしたトラブルが生じた。
それ自体は解決したのだが、それの尻拭いのために俺や同僚たちは朝から深夜までずっと駆り出され、今日まで一週間ずっと働きっぱなしだったのだ。
おかげでゆっくり霊夢には寂しい思いをさせてしまった。こういうとき、畑仕事をしている人が羨ましいと思ったりもする。
だけどまぁ、五年前に外の世界から迷い込んできた外来人である俺に土地なんてあるはずもなく、こうして家を持てただけでも大したものなのだろう。
「……ゆ?」
ゆっくり霊夢が眠りから目覚めたようだ。きょろきょろ周囲を見渡し、俺と目が合うや否や、
「ゆっくりしていってね!」
とお決まりの挨拶。
うぅん、相変わらずぷりちーなナマモノだ。
頬ずりしたくなる衝動をグッと堪えて、朝食の準備に取り掛かる。
その間ゆっくり霊夢はずりずりと腹ばいで俺の足元に近付き、ずっと身体を摺り寄せていた。
普段こいつが起きる前に家を出ていたので、久しぶりのスキンシップが取りたいのだろうか。
萌え死ぬ。
足の親指で頬のあたりをくすぐってやりながら、てきぱきと料理を作る。
外の世界のガスコンロと比べて竈は使い辛い(そもそも使ったことが無かった)が、今ではすっかり慣れたものだ。
今日は夕飯にも再利用出来るシチューを作る。
器に注ぎ、おひたしに鰹節を振りかけて醤油をかけた皿と丁度炊き上がったお米を並べて完成。
テーブルの上に乗せ、少量を別の皿によそうと、ゆっくり霊夢が食べやすいように床に置いた。
「いただきます」
「ゆっくりいただくね!」
ゆっくり霊夢は舌を器用に使い、零さず綺麗にご飯を平らげる。うーん、美しい。
おっと、感心してないで俺も早く食べなくてはな。
外の世界にいた頃と比べてずいぶん質素になった朝食を手早く食べ終え、皿を水の入った桶につけておく。帰ったら洗おう。
「じゃあ、行ってくる。今日は通常業務だからいつもの時間に帰れるよ」
「ゆっ、本当!?」
「ああ。それに明日はお休みも貰っている。一緒に遊ぼうな」
「ゆっくり待ってるね!」
ゆっくり霊夢に見送られながら、俺は家の扉を閉めようとして――
ごしゃん。
「……」
忙しくて修理する暇のなかった扉が、ついにご臨終なされたようだった。
なんか変な方向に曲がっており、動かそうとしてもビクともしない。
どうしよう、時間をかければ直せそうではあるが、そうすると仕事の開始時間に間に合わない。
扉は中途半端に開いたままだ。別に泥棒に盗られて困る貴重品はないが、野犬やゆっくりたちが入り込んでくる可能性もある。
仕方無いので、雨漏りの修理用に何本かストックしてある木の板を裏から持ってきて、扉の前に置いた。
あとは野犬の目の高さくらいの位置にいらなくなった新聞紙を米を糊代わりにしてくっつける。
突撃されたらすぐ剥がれてしまうが、多少の目眩ましにはなるだろう。
「いいか、知らない人が来ても追い返すんだぞ。お前のリボンにつけたペット証があれば、誰もお前を傷付けないからな」
「わかったよ!」
ちょっと心配だったが、仕事はしないといけない。
俺は何度も振り返りつつ、家を後にした。





時間は過ぎて、三時を過ぎたころ。
ゆっくり霊夢が主人の作ってくれた手製の滑り台で遊んでいると、何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた。
どうやら玄関の方かららしい。この家に来客は滅多に来ないので、ゆっくり霊夢は多少警戒しながら扉に近付いた。
「ゆっ、誰かいるの?」
「れいむ! まりさだよ!」
「ゆゆっ、まりさ!?」
聞こえた声は、懐かしい知人のものだった。
二週間前、たった一日だけ遊んだ友達。主人から家に帰ったと聞かされて残念な思いをした記憶が蘇る。
板と新聞紙の隙間から外を覗くと、確かに見覚えのあるゆっくり魔理沙の姿があった。
「どうしてここに?」
「遊びに来たよ! ゆっくりさせてね!」
「ゆゆっ! ゆっくりしていっ……ん……」
「……? れいむ、どうかしたの?」
ゆっくりしていってね、とお決まりの台詞が聞けると思ったゆっくり魔理沙は、訝しげな視線をゆっくり霊夢に送る。
ゆっくり霊夢を引き止めたのは、主人が出かける前に言った言葉だった。
『知らない人が来ても追い返すんだぞ』
何者かがこの家に来たのなら、自分は追い返さなければならない。
しかし……
「ゆっくり入れてよ! れいむに見せたいこどもたちもいるんだよ!」
「ゆっ、子供!?」
ゆっくりとしての本能を刺激する単語に、ゆっくり霊夢はぴくりと反応して顔を上げた。
「そうだよ! みんな、れいむにあいさつするんだよ!」
ゆっくり魔理沙の言葉に、板の向こうから赤ちゃん特有の甲高い声が幾重にも折り重なって唱和された。
「ゆっくりしていってね!」
「おねえちゃん、おかおがみえないよ!」
「はやくいれてね!」
「そこはゆっくりできるところなの?」
「ゆっくりさせてね!」
ゆー、ゆーと甘い鳴き声。ゆっくり霊夢は理性と本能のせめぎ合いでおろおろする。
主人は、ゆっくり魔理沙たちが部屋に入ることを是としないだろう。
しかし、赤ちゃんたちを見たい衝動が心の内よりどんどん溢れてくる。
主人への忠節を取るか、自身の抑えがたい興味を優先させるか。
悩みに悩んで、ゆっくり霊夢が取った行動は、
「今、この板をどけるよ! ゆっくり下がってね!」
ゆっくり魔理沙たちは知らないゆっくりじゃないから大丈夫だという、後先を考えない愚者の選択だった。





「おねえちゃん!」
「ゆっくりしていくね!」
「ゆっ、ゆっ♪」
赤ちゃんゆっくりたちに纏わり付かれながら、ゆっくり霊夢は幸せだった。
加工所で生まれ、この家に引き取られてからずっと、ゆっくり霊夢は赤ちゃんというものを見たことがなかった。
ペット用のゆっくりは英才教育を受けるために誕生してすぐ親元から引き離され、ゆっくりブリーダーと呼ばれる人間の下で厳しい訓練を受けることになる。
だが、生まれたばかりの蜂が教わらなくても狩りの仕方を熟知しているように、種族の本能的な部分は親と子の愛情関係を完全に理解していた。
赤ちゃんゆっくりたちを見てゆっくり霊夢の中に浮かんでくる感情は、間違いなく『愛』と呼ばれるものだった。
「うわー、すごいね! ゆっくりできるものがたくさんあるよ!」
「みんなでゆっくりしようね!」
ゆっくり赤ちゃんたちは大はしゃぎで、家の中を飛び回っている。
特に目を引いたのは、主人がゆっくり霊夢のために作ってあげた手製の玩具の類だった。
滑り台にブランコ、蛙人形やシーソーなど、さながら小さな遊園地といった風情である。
赤ちゃんゆっくりたちは玩具に駆け寄ると、思う存分ゆっくりし始めた。
列を作り、順番に滑り台を滑り。
ブランコに乗って、どちらがより高い場所まで行けるか競い合い。
蛙人形に群がって、ゆっくりれみりゃ退治ごっこをして。
シーソーを使って、自分の身体が沈んだり持ち上がったりする感覚を楽しんだ。
生まれて一週間、森の中でこんな遊びをしたことはなかったのだろう。赤ちゃんゆっくりたちは終始はしゃぎっぱなしだった。
ゆっくり霊夢もそんな赤ちゃんたちに付き添うように遊んでいたのだが、
「ゆ~……ふぁ……」
急に眠気を感じ、ふらふらと壁にもたれかかってしまった。
今日までの一週間、ずっと帰りの遅い主人を待ち続け、早く寝ないで夜遅くまで待っていた結果がこれだった。
眠ってはいけないと思いつつ、意識が闇の中へと沈んでいく。
やがてくぅくぅと寝息を立て始めたのを、離れて赤ちゃんゆっくりたちを見守っていたゆっくり魔理沙が発見した。
「れいむ、れいむ?」
「ゆっ……くぅ……」
揺すっても起きない。
赤ちゃんゆっくりたちが、心配したかのように駆け寄って来る。
「おかあさん、おねえちゃんどうしたの?」
「つかれて眠っちゃってるだけだよ! しんぱいしないでゆっくり遊んでてね!」
ゆっくり魔理沙はゆっくり霊夢は起きないよう、小さな声で告げる。
だが赤ちゃんゆっくりたちは動かない。集まってきたのは、ゆっくり霊夢が心配だったからだけではないからだ。
「おかあさん、おなかすいたよ!」
「なにかたべさせてね!」
朝食の蟻を食べてから、この家に来るまでずっと移動中だったゆっくり魔理沙たちは、その間何も口に入れていなかった。
それに加えて、今激しい運動をしてきたばかりである。
空腹を訴えるのも当然の行動だった。
「ちょっと待ってね! お兄さんが帰ってこないと……ゆっ?」
言葉の途中で、ゆっくり魔理沙は鼻をひくつかせる。
漂ってくる、いい匂い。
食欲を促すその香りは、台所の竈の上に置いてある鍋のほうからしていた。
「あっちに、ご飯があるよ!」
ゆっくり魔理沙は竈のほうへと近付いた。
そこにはこの家の主人が今朝方作ったシチューの入った鍋がある。
だが、鍋はかなり高い位置に置かれており、普通は届く距離ではない。
ただ竈は角の部分が先に行くほど少しずつ丸みを帯びていく構造になっており、角の先端はゆっくりにとってただの坂と呼んでも差し支えない形状になっている。
あの部分まで飛ぶことが出来れば、鍋に届くかもしれなかった。
「いくよ!」
ゆっくり魔理沙は助走をつけ、竈の少し手前で思い切りジャンプした。
浮遊感。一瞬の空白の後、坂道の部分にギリギリ身体が届いた。
間髪入れず、もう一度ジャンプしようとする。
だが坂道での踏ん張りが効かずにバランスを崩し、そのまま床に落下してしまった。
「ゆぶっ!」
衝撃。口から餡子が少しはみ出る。
「おかあさーん!」
赤ちゃんゆっくりたちが心配して駆け寄ろうとするのを、ゆっくり魔理沙は静かに押し留めた。
「だ、大丈夫だよ! ゆっくりそこで見ててね!」
ゆっくり魔理沙は何事もなかったかのようにニッコリ笑うと、もう一度チャレンジするために距離を取る。
無論、痛くないわけではないが、それでも子供たちを心配させないために我慢しなくてはならない。
それは親になったゆっくりとしての本能だった。
「……ゆっ!」
気を落ち着かせ、もう一度トライ。タイミングを見計らって、竈の坂道へ一直線に跳躍する。
べしゃっ、と身体が押し付けられる感覚。その感覚を維持したまま、ゆっくり魔理沙はもう一度ジャンプした。
一瞬の緊張。果たして自分はどうなった?
答えは、身体に触れる床の感触で分かった。
ゆっくり魔理沙は、見事に竈の上に着地していたのだった。
「ゆっ! ゆっ!!」
「おかあさん、すごい!」
遙か下方で、赤ちゃんゆっくりたちがやんややんやの喝采を母親に送る。
その声に満足しながら、ゆっくり魔理沙は鍋に近付いた。
この鍋を持って床に降ろすのは、物理的に不可能だということくらいゆっくり魔理沙の知能でも分かった。
ならば、方法は一つしかない。
「ゆっくり落ちていってね!」
体当たり。がん、という衝撃と共に鍋の位置が少しずれる。
もう一度アタック。ずず、ずず……と少しずつ鍋がぐらつき、そして……

がしゃーーーん!!!

豪快な音を立てて、鍋が竈から転がり落ちた。
床にぶちまけられるシチュー。掃除するのにかなり苦労することになるだろうが、無論ゆっくりたちはそんなこと知ったことではない。
赤ちゃんゆっくりたちは歓声を上げてシチューに群がり、ぱくぱく食べ始める。
「ゆっゆっ、つめたいけどおいしいね!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」
その様子を幸せそうに眺めていたゆっくり魔理沙は、床に水の入った桶が置いてあるのを発見した。
後で皿を洗うために浸けていたものだが、ゆっくり魔理沙にとってその桶は飲み水にしか見えなかった。
「みんな、お水もあるよ!」
地面に慎重に下りると、ゆっくり魔理沙は躊躇無く桶も引っくり返す。
水が一面に溢れ出し、勢いよく流れ出た皿は地面を擦って何筋もの傷を付けた。
「ゆゆっ、ちべたーい!」
「おみず、きもちいいね!」
「ごくごく、おいしーい♪」
赤ちゃんゆっくりたちは大はしゃぎ。風呂代わりに水浴びしたりするゆっくりまで現れる。
皆にとって、ここは最高にゆっくり出来る環境だった。
「……ゆっ!? みんな、何してるの!?」
と。
先程鍋を落とした音で目を覚ましたゆっくり霊夢は、台所の惨状を見て驚愕の声を上げた。
「あ、れいむ!」
ゆっくり魔理沙はぴょんぴょん飛び跳ね、フリーズしているゆっくり霊夢に近寄る。
そしていかにも自分は幸福です、というような顔で、
「おにいさんがまりさたちのために用意してくれたばんごはん、美味しいね!」
「……」
ゆっくり霊夢は口をぱくぱくさせるだけで反応しない。
「……? どうしたの、れいむ?」
不審そうな表情を浮かべるゆっくり魔理沙。気付いた赤ちゃんゆっくりたちも二匹の周囲に駆け寄った。
「おねえちゃん、どうしたの?」
「ゆっくりしていってね!」
「おねえちゃんのぶんもまだあるよ!」
悪意のない赤ちゃんゆっくりたちの言葉。
ゆっくり霊夢は何とか餡子の底から声を絞り出そうとして、

「ゆっくり霊夢っ!!!」

叫び声と、ぶち壊す勢いで開けられた扉の音にびくりと身体を硬直させた。
それは、ゆっくりが進入しないように置いておいた板が外れているのを発見し、慌てて帰宅した主人の声だった。
「ゆっ……ゆっ!?」
これはマズい、とゆっくり霊夢は思った。
何がマズいのかは分からなかったが、とにかく本能的な危険をゆっくり霊夢は感じていた。
どたどたという足音、そして、
「ゆっくりれいっ……む……」
惨状を見つけてしまう。
目を見開き、硬直する主人。
ゆっくり霊夢は固まったまま反応出来ない。
「……ゆっ!」
だが、大きな声に少し驚いたゆっくり魔理沙は、自分がここに来た目的を思い出した。
「みんな、来て!」
「ゆっ?」
「おかあさん、どうしたの?」
突然闖入してきた初めて見る人間の姿を興味津々に眺めていた赤ちゃんゆっくりたちは、母の言葉を受けてゆっくり魔理沙の周囲に集まる。
「みんな、お兄さんに『挨拶』するんだよ!」
「「「ゆっ!!!」」」
朝、ここに来る道中で母に教わった『挨拶』。
赤ちゃんゆっくりたちはぽかんと口を開けっぱなしの男に向かって、精一杯の愛らしい顔で、
「「「ゆっくりしていくね!」」」
言った。
ゆっくり魔理沙は順繰りに赤ちゃんたちを見渡し、
「お兄さん、この前はごめんね! 赤ちゃんたちをとくべつにかわいがっていいから許してね!」
そして、
「だから、みんなでここに住まわせてね!」









その日、ゆっくり霊夢はゆっくりれみりゃやゆっくりフランなど足元にも及ばない恐怖を味わった。
それはいつかの『お仕置き』すらも凌駕する、圧倒的なまでの修羅の形相だった。










「おにいさん、ここからだして!」
「おなかすいたよ!」
「ここじゃゆっくりできないよ、おうちかえる!」
赤ちゃんゆっくりたちの声。
俺はいらついた風を装い、ゆっくりたちを閉じ込めた透明の箱を蹴り上げる。
「五月蝿い、殺されないだけありがたく思え!!!」
「ゆゆっ!!?」
衝撃と振動。
赤ちゃんゆっくりたちは怯えて隅に固まり、震えながら泣き出してしまった。
「やめてね! 赤ちゃんたちに酷いことしないでね!!」
と、こっちはゆっくり魔理沙。
赤ちゃんゆっくりたちを入れた箱とは別の小さな透明の箱に詰められ、ずいぶんと苦しそうだ。
子供たちを庇おうとするその姿勢は、いつかの自分勝手な姿からは想像出来なくて少し吃驚する。
「お兄さん、まりさたちを許してあげて!」
更に別の箱、こちらは少し空間のゆとりがある透明の箱の中で、ゆっくりれいむは俺に温情を訴えかける。
ゆっくり魔理沙たちを家の中に入れてしまった罪で閉じ込められてなお、友達の安否を気遣うとは……流石我がペット。
ぶっちゃけた話、俺は別にそこまで怒り心頭というわけではなかったりする。
確かにあの惨状を目にした瞬間、ちょっと怒りの沸騰点が限界を超えかけた。
でもそこを鋼の精神でぐっと堪え、ゆっくりたちを閉じ込めるだけに留めている。
何故殺さなかったのか?
勿論『殺害』という直接的な攻撃を俺が嫌っているというのもある。
だがそれ以上に、
「ほーれほれ」
「ゆゆっ!? お、おかあさーん!」
「ゆっくりやめてね! 赤ちゃんを放してね!!!」
こいつらの泣き叫ぶ声と必死の表情が、最高に俺の心を満たしてくれる。
殺してしまったら、この愉悦は味わうことは出来ない。
自分の唇がすごい勢いでひん曲がっているのを感じる。
蓋を少し開き、赤ちゃんゆっくりの一匹を掴み上げた。
ああ、ゆっくり魔理沙の懸命な顔……そそる。
「しかしぷにぷにしてんなー、こいつ」
掌に乗せた赤ちゃんゆっくりの頬を突く。
最初は優しく、そして少しずつ力を込めて。
「ゆ、ゆゆっ、いたいよ! ゆっくりできないよ!!!」
最初はくすぐったそうにしていた赤ちゃんゆっくり霊夢だったが、力が入ると苦しそうな声を上げた。
その様子を見て、ゆっくり魔理沙が半狂乱で泣き叫ぶ。
「な゛ん゛でごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!?」
「何故? 分からないのか?」
いつかのような質問。あの時の痛みを思い出したのか、ゆっくり魔理沙がびくりと震える。
「ここは、誰の家だ?」
「お……お兄さんのおうちです……」
おぉ、覚えていたか。感心感心。
「で、お前は何をしていた?」
「あそんでました……」
「それは別に構わん。その次だ」
「お兄さんが用意してくれたおゆうはんを」
「違う」
赤ちゃんゆっくり霊夢にデコピン。
結構本気で叩いたからか、「ゆ゛ーっ!!!」と泣き出してしまった赤ちゃんの姿を見て、慌ててゆっくり魔理沙が訂正する。
「まりさたちのじゃないおゆうはんを勝手に食べてしまいました!」
「そして?」
「お水も勝手に飲んでしまいました!」
「ふむ」
もう一度デコピン。赤ちゃんゆっくり霊夢の泣き声が激しさを増す。
ゆっくり魔理沙は俺の動きを止めようと必死に箱をガタガタ揺らした。
無駄な努力ご苦労さん。
「さっき言ったよな? ここは俺の家だって」
「そ、そうです、だから赤ちゃんをゆっくり放してね!」
「あ?」
「は、放してください!」
ゆっくりが敬語を使ってるのは面白いなぁ。
「で、お前は人の家で、俺が俺のために作ったシチューを床にぶちまけたわけだ? お前の都合のために?」
「あやまります! あやまりますからまりさの赤ちゃんにひどいことしないでぇぇぇ!!!」
ゆっくり魔理沙の顔はもう涙で皮がべちょべちょになっていた。
うはぁ、やべぇ。超快感。
だけど台所の掃除と扉の修理で時間を使いすぎた。
はっきり言って俺は眠い。
今日はゆっくり魔理沙に『絶望』を知ってもらうだけで終わらせてしまうか。
俺は泣きながら俺の手を逃れようとする赤ちゃんゆっくり霊夢を指で掴むと、
「あーん」
「ゆ゛ゆ゛っ!!?」
大きく口を開き、奥歯に挟んだ。
「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ゛ぇ゛ぇ!!!」
そんなに騒がなくても食わないよ。
まだ。
俺は奥歯に挟んだ赤ちゃんゆっくりを見せ付けるように、ゆっくり魔理沙と他の赤ちゃんゆっくりたち、そしてゆっくり霊夢の箱を順繰りに回る。
「いいか、今からお前に問題を出す」
うっ、しゃべりづらい。
「お前が十秒以内に答えられたら子供は助けてやる。答えられなかったら子供は食われる。分かったな?」
「わ、わかったからいそいでもんだい出してね!」
歯と歯の間で母の名を呼びながら泣き叫ぶ(口の中に振動が起きて少し気持ち悪い……)赤ちゃんゆっくりを見つめて、ゆっくり魔理沙は俺を急かす。
おやおや、ゆっくりのくせにゆっくりしないでいいのかな?
まぁいいや。
「問題。ゆっくり魔理沙には七匹の子供がいます。ある日ゆっくりれみりゃに襲われて二匹殺されてしまいました――」
逃げた先でゆっくりフランの群れに遭遇してしまい、また二匹無残に殺害されました。
更に発情期のゆっくりアリスと出会ってしまい、ゆっくり魔理沙は子供の一匹を犠牲にして逃れました。
しかし家に帰ると、そこはゆっくり霊夢の一家に占拠されていました。
ゆっくり霊夢たちに押し潰され、また一匹子供が死んでしまいました。
そうこうしてるうちにお腹が空いてしまったゆっくり魔理沙は、残った子供をぺろりと食べてしまいました。
さて、子供は現在何匹残っているでしょう――?
「ゆっ!? ゆ、ゆっくり……」
ゆっくり魔理沙は顔を顰めて考え出す。
くくく、所詮ゆっくりブレイン、答えられまい。
しかもゆっくりれみりゃなどの天敵の名前をわざわざ出している。本能的な恐怖で冷静な思考なで出来ようはずもない。
「なーな、ろーく」
「ま、まってね! ゆっくりかぞえてね!」
「ごー」
焦ってるゆっくり魔理沙も可愛いなぁ。
その頬を引っ張りたい。
「さーん、にー」
「ゆゆゆゆっくりしてね!!! ゆっくりして」
「いーち」
「ゆ……う゛わ゛あ゛あ"ああぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛!!!」
「ぜろー、残念でしたー」
やっぱり無理だったか。
ゆっくり魔理沙は何とかしようと、目に見えて暴れ出した。
だが狭い箱の中、己を苦しめるだけだ。
俺は口の中から聞こえる赤ちゃんゆっくり霊夢の泣き声を聞きながら、他の赤ちゃんゆっくりたちを閉じ込めた箱の前に移動した。
「おにいさん、なんでこんなひどいことするの!?」
「はなして! いもうとをはなしてね!」
「ゆっくりできないおにいさんはゆっくりしんでね!」
口々に喚きたてる赤ちゃんゆっくりたち。だけど俺が箱を蹴ると大人しくなる。
「非常に残念だが、こいつは死ぬ。あーあ、残念だなぁ。お前たちのお母さんがちゃんと問題に答えられてれば、こいつも助かったのになぁ」
まるでゆっくり魔理沙が全て悪いような言い方。
勿論、どう考えても悪いのは俺なのだが、ゆっくりの餡子脳ではそんなこと分かるはずもあるまい。
「お前たちのお母さんのせいでこいつは死ぬのかぁ。あーあ。酷い親だよなぁ」
「ゆっ!?」
「そんな、おかあさん!?」
赤ちゃんゆっくりたちが一斉に母親の方を振り向く。
ゆっくり魔理沙は違うと言いたげに身体を少しだけ揺らした。本当は首を振りたかったのだろうが、箱が狭くて身動きが取れないのだ。
「ち、ちがうよ! おかあさんは赤ちゃんをたすけようとしたよ!」
「それなら赤ちゃんは助かってるはずだよなぁ。もしかしたら、お前たちも見殺しにされるかもなぁ」
論理の破綻した言葉。
だが、それは赤ちゃんゆっくりたちを突き動かす原理になる。
「ひどいよ、おかあさん!」
「ここにつれてきたのもおかあさんだったよね!」
「れいむたちがひどいめにあってるのもおかあさんのせいなんだ!」
「おかあさんはゆっくりしね!」
「「「ゆっくりしね!!! ゆっくりしね!!!」」」
「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! ぞん゛な゛ごどい゛わ゛な゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇぇ!!!」
子供を護ろうと必死だった母親が、護ろうとした子供たちに糾弾されて泣き叫ぶ。
人間ならば同情を誘う光景だが、こいつらはゆっくり。
快感しか生まん。
「さて」
俺は再びゆっくり魔理沙の前に戻り、口の中を見せた。
相変わらず、奥歯に挟まってがたがた震えている赤ちゃんゆっくり霊夢の姿がそこにある。
「こいつを助けたいか?」
「だずげであ゛げでぐだざい゛ぃ゛ぃ!!!」
「うん、でも駄目」
ぷちん。
俺は口を開けたまま、見せ付けるように奥歯で赤ちゃんゆっくり霊夢を押し潰した。
飛び散る餡子。意外と美味しいが、それよりも生命を奪った生理的な罪悪感を覚えてしまうのは俺がゆっくりを愛している所以か。
「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!!」
ゆっくり魔理沙のこれ以上ないという悲鳴。
いいね、ゾクゾクする。
先程の罪悪感はそれで消し飛んだ。
さて、じゃあ眠るとするか。
明日は休みだ。
もっと遊ぼうな、ゆっくり魔理沙……








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最終更新:2008年09月14日 05:56
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