永遠のゆっくり19(後編)

「しんっぱんっ」の日は、やがて訪れた。
その日、十三匹の家族に対して「しんっぱんっ」が行われることが宣せられた。

最後の試験、「しんっぱんっ」によって、
十三匹はここで犯した罪を暴かれ、それに応じた罰を与えられることになる。
そうして罪を清算し、最後の訓練を経て、ついに人間さんに飼われることになるのだ。

緊張しながらも、十三匹は浮き立っていた。
いよいよ、いよいよ、人間さんに奉仕できるのだ。
そのためには、少しぐらい辛い罰でも耐えよう。

それに、罪など犯していない自信があった。
このゆっくりぷれいすに来てから、ずっとかいがいしく赤ちゃんの世話をし、
勉強と訓練に勤しみ、最低限のあまあましか口にせず、遊びさえしなかった。
周囲の仲間たちから尊敬されるほどの、品行方正な生活を送ってきたはずだ。
罪などないだろうし、あるとしても些細なことだろう。

部屋に入ってきた人間さんに向かって整列しながら、
十三匹は自信に満ちた表情を浮かべていた。

「ゆっくりいらっしゃいませ!!きょうもおつかれさまです!!」
「はい、こんにちは。
知ってのとおり、今日はあなたたちの「しんっぱんっ」よ。
心構えはできてるみたいね?」
「ゆっくりじゅんびできてます!!がんばってばつをうけます!!」
「いいお返事ね。
さて、この中にあなたたちのした悪いことが記録されてます。
謙虚な気持ちでしっかり受け止めてね」
「ゆっくりわかりました!!」

お姉さんは、十四匹で世話をしたあの赤ちゃんも籠に載せて連れてきていた。
赤ちゃんが自分たちに笑いかけてくれている。
この赤ちゃんの目の前で恥ずかしい姿を見られるわけにはいかない。
粛々と罰を受け入れ、正々堂々と罪を償うのだ。
決心を固め、親れいむ達はにっこり笑って元気に挨拶をした。

十四匹がテレビの前に整列する。
その周囲を、遠巻きにY飾りの仲間たちが取り囲んで見守っていた。

ビデオデッキに、円盤型のソフトが差し込まれる。

どんな悪いことをしたっけ。
こっそりしーしーをした?
あまあまをぬすみぐいした?
ゆっくりどうしでけんかをした?

よくおもいだせないけど、ぜんぶにんげんさんにはおみとおしなんだ。
がんばっておしおきをうけて、ゆっくりできるゆっくりになるんだ。

十四匹は気を引き締めて、テレビの画面を食い入るように見つめていた。


『ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!』
『ゆっ!まりさ!!あっちにおうちがあるよ!!』
『ゆゆゆっ!!すごいんだぜ!!
すごくおおきくてゆっくりできそうなんだぜ!!』
『ゆっ!だれもいなかったられいむたちのゆっくりぷれいすにしようね!!』
『いてもおいだしてやるんだぜ!!まりささまはとってもつよいんだぜぇ!!』
『ゆゆぅ~ん、まりさはゆっくりできるね~♪』


「ゆっ?」

何が映っているのか、しばらくは状況が掴めなかった。

テレビに映っているのは、二匹のゆっくりだった。
子ゆっくりから成体になったばかりといったサイズの、れいむとまりさ。

映っている風景は、想定していたような、このゆっくりプレイス内の景色ではなかった。
それは外の、街中の風景だった。
草をかきわけ、道路を飛び跳ね、二匹は人家の敷地に侵入している。

「ゆ?ゆ?ゆ?」

親れいむは首をかしげ、傍らにいた親まりさの方を見る。
二匹の目が合った。
二匹は互いに困惑の表情を浮かべていた。


テレビの中の二匹は、人家のガラス戸にべちゃりと顔をぶつけて叫んだ。

『ゆっ!!いだいいぃ!!』
『ゆっ!!みえないかべさんがあるんだぜ!!』
『これじゃはいれないよ!!
ゆっくりどいてね!!かべさんはゆっくりどいてね!!』

ぼんぼんと体当たりを繰り返すれいむだったが、
まりさの方は庭にあった大きな口を咥えて戻ってきた。

『ゆっへっへ!!まりささまにかかればこんなかべさんはいちころなんだぜ!!
みえないかべさんはいしさんをぶつければこわせるんだぜ!!』
『ゆぅ~ん、まりさすごいよおぉ!!』

漬物石のような大きな石を、
二匹は協力して持ち、勢いをつけてガラス戸に叩きつけた。
たちまちガラスはひび割れ、粉々になった。

開けられた穴から中に侵入したまりさは、
周囲を見渡したあと、高らかに宣言した。

『ここはまりささまのゆっくりぷれいすにするんだぜぇ!!』


「ゆぅあああああぁぁぁぁ!!!?」
「ゆえええええぇぇーーーーーーっ!!?」

親れいむと親まりさは困惑のあまりに絶叫した。

そこに映っているのは、まぎれもない自分たちだった。
その二匹がつけている髪飾りは、見間違えようもない、自分たちのそれだった。

「なにしてるのおおおぉぉ!!?ゆっくりできないよおおぉぉぉ!!!」
「にんげんさんのおうちにはいっちゃだめだよおおぉぉぉ!!!」
「ゆっくりできないいいぃ!!ゆっくりできないいいいいいぃぃぃ!!!」

遠巻きに見ていたY飾り達が、
それまでの「しんっぱんっ」で暴かれた罪とは全くケタ違いの悪行を目の当たりにして悲鳴をあげていた。
その家は、人間社会のことを勉強したY飾り達にとって、
人間の住む家であり、その中に入るのは不法侵入、領域侵犯であることは自明だった。

観衆の絶叫を背中に聞きながら、
親れいむと親まりさの脳裏、餡子脳の奥の奥に、
きっかけがなければ一生思い出さなかったであろうほど、
完全に忘れていた過去が今、頭をもたげる。
ゆっくり教の教えを学ぶことに必死で、長いこと思い浮かべることさえなかった遠い記憶。

二匹は、がたがたがたがたと震えはじめた。


人家に侵入した二匹は、
部屋の中を我が物顔で転げまわり、
冷蔵庫の食料を漁り、辺りのものを散らかしてまわった。

やがて、家の主である二人の人間が帰ってきた。
荒らされた部屋の様子を目の当たりにして困惑する人間に向かって、
れいむとまりさは口を揃えて叫ぶ。

『ゆっくりしていってね!!』
『ゆっ!!ここはまりささまのゆっくりぷれいすなんだぜ!!
にんげんさんはさっさとあまあまをもってくるんだぜ!!』
『それからゆっくりしないででていってね!!』


「ゆがああああぁぁーーーーーーーーっ!!!」
「にんげんさんにそんなくちををきくなああぁぁ!!ごみくずううううぅぅ!!」
「なにさまのつもりなのおおぉぉ!!?」

観衆が激昂して叫び散らすが、
お姉さんに静かに見ろと注意され、ぎりぎりと歯噛みしながら黙りこんだ。

親れいむと親まりさは青ざめてがたがた震えながら画面を凝視していた。
家主の二人、お兄さんとお姉さん。
その二人のことを二匹は覚えていた。
そしてその二人に、自分たちは何をしたのか。


家主のお姉さんに頬ずりをされ、
れいむとまりさは家族として迎え入れられる。

しかし、二匹は自分たちが人間を飼ってやるのだと主張し、
傍若無人に振る舞った。

『ゆっくりうんうんするよ!!』
『にんげんさんはまりささまのうんうんをそうじするんだぜ!!
さっさとするんだぜぇ!!』

『それをよこすんだぜ!!
ゆっくりぷれいすのものはぜんぶまりささまのものなんだぜ!!』

『かわいいれいむにゆっくりしないでごはんさんをちょうだいね!!
かわいいれいむがおなかをすかせてるんだよ!?
なにぼさっとしてるの!?れいむをくるしめてへいきなの!?ばかなの!?しぬの!?』

『くそどれい!!ここをつかわせてやるんだぜ!!
よばれるまでここからでてこないで、きたないかおをみせるんじゃないんだぜぇ!!』
『ごみくずにはもったいないけどとくべつにつかわせてあげるんだよ!!
ゆっくりかんしゃしてね!!』

『なにいってるのおおおおぉぉぉ!?
かわいいれいむのごはんをじゃまするほうがめいわくでしょおおおぉぉ!!
なんでそんなこともわからないのおおぉぉ!!?』


「ゆぎぎぎぎぎぎぎぎぎいいいいいい!!!ゆううぐぎいいいいいい!!」
「ゆがあああ!!ゆぅがあああああ!!」
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」

お姉さんに抑えられ、必死に耐えてはいたが、
それでも観衆のゆっくり達は歯軋りをして唸り声をあげ続けていた。
すでに殺意をはらんだ視線が二匹に向けられている。

親れいむと親まりさはぶるぶるがたがた震えながら見ていたが、
ついにお姉さんのほうに向かって懇願した。

「お、おねえさん!!ごめんっ、ごめんなさい!!
わかりました!!ゆっくりわかりましたから!!はんせいじまず!!もうっ」
「静かになさい!!」

今度は親れいむ達が一喝される。

「黙って見ていなさい!!「しんっぱんっ」の邪魔は許さないわよ!!」
「ゆぐうううううううううぅぅぅぅ!!!」


『ゆふぅぅ~~………くそどれいがばかそうなかおでみてるよおぉ』
『だからなんなのぜぇ~?
ごみくずにはまりさたちがやってることのこうけつでしんせいないみなんかわからないのぜぇ』
『ゆふっふ……そうだね……
かわいそうなごみくずでも、みられるとこうふんするよおぉ』
『ゆほっほっほっほっ……いくのぜ……いくのぜぇぇ!!』

『はながつまってるのぉぉ!?
ふとんがくさくなってるでしょおぉぉ!!
こういうときはどうするの!?いわれなくてもあたまをうごかしてねぇ!!』

『ゆふんっ、とってもとかいはなゆっくりぷれいすね!!
ありすがすんであげてもいいのよ?』
『あたりまえなんだぜ!!ありすはここでまりささまをすっきりさせるんだぜ!!』
『ばりざああああーーーーーっ!!でいぶどのあいはうぞだっだのおおおぉぉ!!?』


映像の中ではありすが登場し、親ありすが呻き始めた。

「ゆぁ、ゆ、ゆ、ゆっぐ、う…………」


『しらないようだからおしえとくんだぜ。
すべてのゆっくりとにんげんさんは、まりささまにつかえるのがいちばんゆっくりできるのぜ!!』
『ゆふん、だーりんったらわいるどでとかいはね!!』

『なにみてるのおおぉぉ!!?
ごみくずにはれいむのかわいいあかちゃんをみるけんりなんかないんだよぉ!!』

『ゆっ!!ごみくじゅがこっちをみちぇるよ!!』
『こっちみりゅな!!くちょどりぇい!!』
『くちょどりぇいにはきゃわいいれいみゅたちはもっちゃいにゃいよ!!』
『ばぁ~きゃ!!ばぁ~きゃ!!』

『いちびょういにゃいにあまあまもっちぇきちぇにぇ!!』
『いち!!まにあわなかっちゃね!!ばつとしちぇどげざしちぇにぇ!!』

『ゆっきゅりできにゃいかちくにぇ!!』
『あちゃまのわるちょうなかおにぇ!!みっちょもにゃいこちょ!』
『おちびちゃんたちはままのとかいはなあんこをうけついだこうきなゆっくりよ。
あんなげせんなかちくとはくちをきいちゃだめよ?』
『ゆっきゅりりきゃいしちゃわ!!』

『ごみくじゅ!!ゆっきゅりしにぇ!!』
『まりしゃのあたっきゅのいりょきゅをおもいちるんだじぇ!!』
『ゆゆっ!!くちょじじいがないちぇるのじぇ!!おもちろいんだぜぇ~♪』


映像の中では家族が揃い、十三匹のゆっくりは、
テレビの前で全員が震え、歯をがちがち噛み合わせていた。

その映像の中で自分たちがしている事がどういうことなのか。
それは、このゆっくりプレイスで過ごした数か月の中でいやというほど学んできていた。


まりさの親子が、赤ありすの死骸をむさぼり食っている。

『なにをいってるのぜぇ!?あれはあかちゃんなんかじゃなくてあまあまなんだぜ!!
うすのろはかんがえなくていいからだまってもってくるんだぜぇ!!』
『うっみぇ!!きょれめっちゃうっみぇ!!ぴゃねぇ!!』

ありすが赤まりさにのしかかって顎を振っている。

『まりさかわいいよまりさあああああぁぁ!!!ゆっほっほおおおおお!!』
『ゆびぇえええええ!!ぎぼぢわりゅいいいいいい!!
おぎゃあじゃあああああああん!!!』


「ゆぅええええええええ!!!?」

親れいむが叫んだ。

そこに映っているのは、お兄さんに強要して、
自分たちの寝床から眠っている我が子を運び出させているまりさとありす。
運び出された我が子を、ありすが犯し殺し、まりさが貪り食らっていた。

口をぱくぱくさせながら、親れいむは隣の夫と妾のほうを向いた。

「ま、ま、ま……まりさ………まりさとありすが………
れいむのあかちゃんをころしてたの!!?」
「ゆあ………あ………」

親まりさと親ありすも、同じように口をぱくぱくさせて冷や汗をだらだらと流していた。
親れいむはそこでようやく、
自分のお兄さんに対する苛めを決定的なものにしたその事件の真相を知った。

苦く重く、そして激しい後悔が餡子脳を切り刻む。


『じね!!じね!!じね!!ぐぞじじい!!ゆっぐりごろじはじねえええええーーーーっ』

『れいむたちのうんうんをたべていってね!!どうぐはつかわないでね!!』

『ずっとかべさんにあたまをぶつけていってね!!』

『くそじじいはいっしょうたべなくていいよ!!それをれいむによこしてね!!
む~しゃ、む~しゃ!!しあわせぇ~~♪』


テレビの画面の中には、
お兄さんを怨み、憎悪し、苛めをエスカレートさせていく自分の姿があった。

「ゆぁあああああああ!!!あああああああああーーーーーーっ!!!」

お姉さんに制止されるまで、親れいむは泣きながら叫び続けた。

観衆の歯軋りと怨嗟に囲まれながら、十三匹はがたがた震えてテレビを凝視する。
映像は終盤に差しかかっていた。


『はあぁぁぁ!!?なにをいってるのかしら?
かちくのあかちゃんなんてみたくないわよ!
いいからあまあまをもってきなさいよ!!ぐずないなかものね!!』
『のろくさしてるんじゃないのぜぇ!!
まりささまのべっどめいくをさっさとすませるんだぜ!!』
『にんげんさんのあかちゃんなんかいらないでしょおおぉ!?
れいむのかわいいかわいいあかちゃんがいるでしょ!!こっちのめんどうをみなさいよぉ!!』


場所は変わっていた。
その部屋には見覚えがあった。

その部屋の中で、
十三匹は、屈みこんだお姉さんと話していた。

自分には赤ちゃんがいる。
赤ちゃんが生まれる前に、ここから引っ越さなければいけない。
だからいつもついていてあげることはできなくなるけど、
新しい家からここに通うからね。

お腹の大きくなったお姉さんは、十三匹にそういったことを話していた。
十三匹のゆっくりは、そんなお姉さんを嘲笑っている………


「ゆわああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

全身を震わせて親れいむは絶叫していた。

「ゆあああああああ!!ああああああああ!!!ゆうううぅああああああーーーーーーっ!!!
みないで!!みないで!!みないで!!みないでええええぇぇぇ!!!」

テレビに駆け寄り、必死に叫びながらその画面を全身で塞ごうとする。

「下がりなさい!!」

お姉さんの手に弾かれて転がったが、親れいむは叫び続けた。

「やめて!!おでがい!!おでがいでずううぅぅ!!
ゆっぐりごべんなざい!!ごべんなざいいいいいいい!!みぜないでええええーーーーっ!!!」
「ゆぁああああああああ!!!ゆぁぎゃああああああああ!!!」
「ゆびぃ!!ゆびぃいいいいーーーーーーーっ」

何が起こるのかを察知した十三匹が叫び、テレビの画面に駆け寄ろうとする。
その度にお姉さんに張り倒され、蹴り飛ばされた。

「ゆぐぅあああああああああああああああ!!!」


絶叫する十三匹に頓着することなく、映像は続いた。

『ゆっくりころぶんだぜぇ!!』
『ゆゆっ!!やったよ!!
おちびちゃんたち、おねえさんのおなかにのってあかちゃんをだそうね!!』


「あああああああ!!!いやだああああああああ!!!」


『ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!』


「ごべんなざいっ!!ごべ、ごべんなざいいいいいいい!!」


『ゆふんっ!!でてきたわね!!
あら、なんだかとかいはなはだしてるじゃな~い?
ありすがあじみしてあげるわあああああ!!んっほおおおおおおおぉぉ!!!』


「ゆぐじで!!ゆぐじでええええええぇぇーーーーーーーーっ」

十三匹が身悶えし、転げまわる。

「ゆぎゃああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「やべで!!やべで!!やべで!!おでがいいいいいい!!!
にんげんざんのあがぢゃんごろざだいでええええええええええ!!!」
「ゆぁぁぁぁぁあああああああゆっぐじでぎだいいいいいーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「じねええええ!!!にんげんざんごろじいいいいいいい!!!
よぐも!!よぐも!!よぐもおおおおおおおおおお!!!!」

悶える十三匹に、観衆のゆっくり達が口々に罵声を浴びせつけていた。


『くそじじい!!あかちゃんはしんだよ!!
じじいもれいむのあかちゃんをころしたんだからね!!
ゆっくりりかいしてくるしんでね!!ざまああぁぁ!!ざっまああああぁぁ!!!』

『ごみくずのたくらみなんておみとおしなんだぜぇぇ!!
げらげらげらげら!!ふっきんほうかい!!ゆぴゃぴゃぴゃぴゃ~~~♪』

『あかちゃんのおはだすべすべよおおおぉぉぉ!!!
んほほほほほおおおおおぉぉぉすっきりいいいーーーーーっ!!!』

『ごみくずのあかちゃんはありすにころされたよ!!
くやしい?くやしい?ねえねえ、いまどんなきぶん?ゆっゆっゆ~~♪』

『げらげらげら!!そしてこのかお!!
ないてるときがいちばんばかづらなんだぜえぇ!!!』

『ごみくずはむせびなき~♪れいむたちはいいきぶん~♪』


「ゆぅげぇええええええーーーーーーーっ!!!おごぇええええええええええ!!!」

ついに嘔吐するゆっくりがいた。
そのゆっくりとは、誰あろう親れいむ自身であった。
あれほど愛らしい人間の赤ちゃんに対する、あまりに残酷で凄惨な所業。
そしてそれを行ったのが他でもない自分自身であるという事実。
その嫌悪感に、親れいむはえんえんとえずき続けた。

それが引き金となり、十三匹は全員が餡子やカスタードを吐いてのたうちまわった。
涙を流し、餡子を吐き散らし、絶叫する。
そうすることで罪を振り切ることができるかのように。
言うまでもなく、どれだけ暴れたところで無意味だった。

「にんげんさんごろし!!にんげんさんごろし!!にんげんさんごろし!!」
「しね!!しね!!しね!!しね!!しね!!しね!!そくざにしねえぇぇ!!!」

吐き続ける十三匹に、Y飾りのゆっくり達が殺意と罵声をぶつけてくる。
しかし、それらすべてを合わせたよりも絶望的で苦痛だったのが、この一声だった。

「ゆっくりできないごみくずはしね!!」

自分たちが世話してきたあの赤ちゃんが、自分たちに殺意を向けていた。

「あああああああああああああ!!!ゆぐぅああああああああああああああああ!!!」

大切に大切に築き上げてきた、何よりも愛しくかけがえのない存在からの完全否定。
その殺意は、何よりも深く親れいむ達の精神をえぐった。


「効いてるぅ~~~~~♪」
「うーん。ものの見事にはまってるな。
本当に見分けがつかないのか」
「眠っている間に十三匹の髪飾りをとって、訓練された他のゆっくりにつける。
そのゆっくり達と圭一さんと、メイクで似せた由美さん役の女の人で、
圭一さんの記憶をもとに再現ドキュメンタリーを作ったわけだけど。
見事に成功しましたねー。完璧に昔の自分たちだと思ってるよ」
「説明的なセリフだ」
「はて、なんの事やら?」
「なんでもない。
しかし、赤ゆっくりに演技をさせたシーンもあるが、
成体サイズの子れいむ共から取ってきた髪飾りじゃ、サイズが全然合ってないだろう。
そんなんでもおかしいと気付かないもんなんだな」
「そのへんは実験済み。髪飾りで個体識別するわけで、
本体の大きさはそれほど問題じゃないみたいよ。
ゆっくりの不思議ってところね」
「ご都合主義にも思えるな」
「はて?
それにしても圭一さん、細部までよく覚えてたねー。ゆっくりのセリフとか」
「根に持つタイプなんでな。
それでもだいぶうろ覚えだったと思うが、見事に騙せたようでよかった。
由美と話すシーンとか、創作も入ってるんだが」
「本人だって、自分の昔のセリフを正確に覚えちゃいないもんだよー」


憔悴しきった表情で、十三匹のゆっくり達はお姉さんの後について這いずっていた。

ゆっくりプレイスから連れ出され、お姉さんと十三匹は廊下を歩く。
自分たち自身完全に忘れていた過去の罪は白日のもとに暴かれ、
その取り返しのつかない大きさと深さに、十三匹は狼狽した。

人間を傷つけ殺した十三匹に対し、
殺そうとして飛びついてくるY飾り達を制止して、
お姉さんは、十三匹にもまた、罪を贖う機会が与えられると宣した。

これほどのことをした十三匹が更生などできるはずがない。
Y飾りたちはいますぐ殺せと口々に要求したが、人間さんに一喝されると歯噛みしてこらえた。
当の十三匹は、どうすることもできずに成行きに任せるしかなかった。


「自分たちがどんな事をしてきたのかわかった?」

その部屋に招き入れ、ゆっくり達を並ばせるとお姉さんは言った。
十三匹は答える気力もなく、ただうなだれた。

「で、どうする?お仕置きと最後の訓練、する?」

腕を組んで聞いてくるお姉さんの顔を、卑屈な瞳で見上げる。

お仕置きと最後の訓練。
罪を贖い、訓練することで、
十三匹は飼いゆっくりとして人間に奉仕する機会を与えられる。

しかし、こんな自分たちに飼われる権利などあるのだろうか。

「知りませーん。
お姉さんはそういうこと決める立場にないからさ。
君たちさえやりたいと言えば、できるよ」

結局、やりたいです、と答えた。

自分たちが、世界で最もみじめであさましく醜い生き物であると知った今、
潔く殺してもらうことが正しいのだろうとも思った。
それでも、親れいむ達は、最後の希望を捨てられず、
決定を人間に委ねることを選んだ。

「はいはい。
じゃあ、これからこの部屋で、訓練役の人間さんと一緒に過ごしてもらいます。
その人間さんにまず罰を与えてもらって、
その後は一緒に暮らしながら、人間さんに奉仕する作法を教わってね。
じゃ、がんばってー」

そう言い、お姉さんは部屋を出ていってしまった。


その部屋は、よく知っている部屋だった。
人間の住む一般的な住居の体裁をとり、必要な家具も揃っている。
ゆっくりプレイスで見せてもらったライブ映像で、
こういう部屋で人間と一緒に暮らし、訓練をするゆっくりを見てきた。

自分たちも、ここで人間さんに訓練してもらうのだ。
十三匹は互いに目配せをして、かすかにうなずいた。

人間さんはチャンスをくれた。
そのチャンスにしがみつき、今からでもやり直そう。
どんな厳しい罰でも耐えて、訓練をやり通すのだ。

そして、人間さんに飼われ、
今度こそ、今度こそ、人間さんにゆっくりしてもらうのだ。

悲壮な決心を胸に秘め、親れいむ達は唇を引き締めた。


やがて扉が開いた。

入ってきたその人間の姿を見て、その人物が誰かを知ったとき、
十三匹は、自分たちが置かれた絶望的状況を正しく理解した。


「ゆぅあああああああああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

その人は、とてもとてもゆっくりした人間だった。
その姿を一目見た瞬間に、ゆっくりしたい、ゆっくりさせてほしいというあの渇望が沸き上がる。

人間はゆっくりできる。
中枢餡の奥の奥まで刷り込まれた認識が、
十三匹にその人間を崇拝させた。

なぜ。
なぜ、こんなに尊くゆっくりできる人間に、
自分たちはあんなことができたのだろう。
いくら思い出そうとしても思い出せない。
記憶を探ろうとしても、抗えないゆっくりへの欲求がそれを遮る。

ゆっくり達は無我夢中で人間ににじり寄り、その足元にへばりつき、
びたんびたんと体を振りながら床に頭を打ちつけこすりつけ、
ほとんど無意識のうちに、喉も裂けよと声を振り絞って絶叫していた。

「ごべんなざい!!ごべんなざい!!ごべんなざい!!ごべんなざい!!ごべんなざい!!
にんげんざんをばがにじでわるがっだでず!!ごびぐずっでいっでずびばぜんでじだ!!
おにいざんのあがぢゃんをごろじでごべんなざいいいいいいぃぃーーーーーーーーーーっ!!!!」


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最終更新:2011年07月28日 19:53
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