ゆっくりいじめ系2561 怖い人間とゆっくりするには(前編)

「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」

「おいしいね!ありす!」

「まりさ!ご飯を食べたら一緒にひなたぼっこしましょうね?」


ある春の日の森の中
日に照らされた野原で2匹のゆっくりが仲良く食事を取っていた。
とても楽しそうにニコニコとお喋りをしながら草を食べる2匹は
誰が見ても幸せそうに見えるだろう。


「ゆふー!お腹いっぱいだよ!幸せー!」


ご飯を食べて直ぐにころんと野原に横になる二匹。
彼等の属する群れは(といってもたった4匹だけだが)
いつもこの様なゆっくりした生活を送っている。


日が昇ってからゆっくり外に出て、
その辺りに生えている雑草をついばみ、
お腹が膨れたら横になってお昼寝をする。
余りにも無防備でゆっくりとしたその姿は
獰猛な野生動物でさえゆっくりさせてしまう。

そしてお昼過ぎに起きては4匹で遊んで、
夕方になったらまた巣で食べる為のご飯を口の中や帽子の中に詰めて
巣へと持ち帰り、身を寄せ合って眠るのだ。

どこまでも争いの無い平和な森の中。
4匹のゆっくりは皆、幸せ一杯に暮らし、
どんな時でもゆっくりしていた。


只一つの例外を除いて









   怖い人間とゆっくりするには

               古緑









「ーゆッ!ありす、ありす、起きてね!」


「ゆ!もう起きてるわまりさ!」



何かカサカサと物音を聞きつけた2匹が
全くゆっくりせずにお昼寝から目を覚まし、
全くゆっくりせずに樹の陰まで跳ねて隠れる。

樹の陰に隠れたその2匹の視線の先には
30歳程の背の高い、籠を背負った人間の姿。


「やっぱちょっと探したぐらいじゃ
 見つからないモンだな…」


そう言って男は腕を組んで大きく溜め息を吐いた。
籠を背負った人間の目的は山菜探し。
しかし、他所の村の人間から聞いた『ゆっくり』という
人の言葉を解する生物を山菜探しのついでに一目見たくなった男は
少し山奥の方まで探索しに来たのだ。


「(やっぱり人間さんだね…)」

「(しー、まりさ、静かに
  ゆっくり出来なくなっちゃうわよ…)」


樹の陰にその身を隠して男を覗く二匹のゆっくりは
ゆっくりらしからぬ小声で話し合う。

かつてこの群れがここでは無い、違う山に居た時
ある事件から『人間はゆっくり出来ない』と言う事を思い知らされた結果
群れの4匹は人間に近寄らなくなり、
新しい住処も人の姿の見られない山の中に作られた。
この群れと人との交流は今までのところ全く無い。


「しょうがねーか…帰ろっと…」


そう独り言を言って引き返していく男を4つの目で見つめながら
2匹のゆっくりは音を立てない様にそろそろと樹の陰から這って出ていった。


「「(そろーり…そろーり…)」」


「人間さん、もう行ったのかな…?」

「(しー!まりさ、まだ油断しちゃ駄目よ!)」

「(ご、ごめん…)」


2匹のゆっくりは念入りに、
男が見えなくなるぐらい、ゆっくりとその背中を見送ると


「誰もいないよ!またゆっくりしようね!」

「れいむとぱちぇも起こしてきて
 皆でゆっくり大会しましょ!」


念には念を入れて、
場所を移してまた遊び始めた。



あの男は決して、ゆっくりに対して悪意を持って来たなんて事は無かったし
この二匹のゆっくりも、あの男が自分達を殺しに来たとまでは考えていなかった。

だが、それでもゆっくり達は今の群れの皆で平和に暮らせていれば十分幸せだし、
この群れの4匹にとっては今でも人間と接触する事は恐怖でしかない。


「皆でず~っとゆっくりしようね!」

「明日も、明後日もず~っとゆっくりしようね!」


このゆっくり達は今のまま4匹だけの群れで、
今のままこの野原で暮らすだけで十分幸せなのだ。



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「父ちゃん!ゆっくりは見つかった?」

「あーいや、駄目だな、
 諦めな、多分あの山にはいねぇよ」

「ちぇー…」

「まぁそうむくれんな
 そういや○○んトコの犬が子犬産んだって言うからよ
 一匹貰って来てやるよ!欲しがってたろ?」

「本当!?飼っても良いの!?
 やったぁ!流石お父さん!!」

「世話はちゃんとお前がやれよ」

「あぁアンタ!帰ってたの!
 もう風呂出来てっから
 ○○と一緒にちゃっちゃと入ってきちまいなよ」

「ただいまカーちゃん!
 ま、取り敢えず風呂入ろうぜ
 お前も入りな」



人もまた、
ゆっくりがいなくても十分幸せだった。




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しかし4匹のゆっくり達の
不満も不安も争いも無い、平和なゆっくり達の群れはある日
唐突にその姿を変える事になった。


「「「ゆっゆゆー!」」」

「「ゆっくりしていってね!!」」



「ゆゆ!何なの?何なの?」


ある晴れた日。
騒がしい音によって4匹のゆっくりはお昼寝から起こされた。

起きた4匹のゆっくりの視線の先には
ゆっくりプレイスである野原の中で歓喜の声を上げる、20数匹のゆっくり達。
その種はれいむ、まりさ、ありす、みょん、他様々。

冒頭のありすとまりさ、そしてぱちゅりーとれいむの4匹だけでゆっくりしていた
このゆっくりプレイスに、他所の山から急に20数匹程のゆっくりの群れがやって来たのだ。


「ゆー!ぱちぇ!
 ここはすごいゆっくりぷれいすだね!
 ここをまりさ達のゆっくりぷれいすにするよ!」


新しくこの群れに来た大きなゆっくりまりさが
元々のこの小さな群れのリーダー的存在であったぱちゅりーに向かってそう言った。
先住者に対して礼儀も遠慮もないその台詞から
『どんな群れ』なのかは聡明なぱちゅりーにはある程度想像がついた。


「む…むきゅぅ…」


このぱちゅりー、目立たないがよく見ると頬に酷い傷痕がある。
ぱちゅりーだけでは無く、まりさやれいむ、ありすの4匹のゆっくりは
かつて人間に群れごと殺されかけた過去を持ち、
生き残った4匹で命からがらこの山へと逃げてきた末に、群れを築いたのだ。
『人とはゆっくり出来ない』と言う4匹の考えはこの過去の経験から来るものだった。


「わ…分かったわ…ゆっくりしていってね…」


まるで脅迫を受けた様に怯えた表情で
ぱちゅりーは大きなゆっくりまりさに向かって承諾の返事を返した。
実際にこの群れに反抗しても無駄だと確信しての返事だったが、これは正解だった。
反抗しようものならそれを上回る反撃が待っていた事だろう。

その返事を聞いた大きなゆっくりまりさは満足そうに頷くと
周りのゆっくりに向かって次の様に言った。


「やったね皆!これでゆっくり出来るよ!」

「「「ゆゆ~ん♪」」」

「まずは住むのに良さそうな巣を探そうね!!
 今日のご飯はぱちゅりー達から御馳走になろうね!」


新しく来た群れのゆっくり達がそれぞれに散って行き、
住み着くのに良さげな穴を探して行く。
その様を不安げに眺める4匹のゆっくり。


「ぱちぇ、コレは一大事だよ…」

「分かってるわ…」


人に恐怖を抱く4匹は皆、この事態に対して不安を抱いていた。
なんせたった4匹だったぱちゅりー達の群れは
一挙に30匹近くの群れに膨れ上がったのだ。
こんなに急に群れの人数が増えるとさぞ目立つ事だろう。
かつて自分達の生まれ育った群れを滅ぼした人間に見つかる可能性が増してしまう。

不安になったぱちゅりーは、大きなゆっくりまりさに怯えてはいたが
新しくなるであろう環境に直ぐに適応出来る様にゆっくりまりさに対して質問をする。


「ねぇまりさ…どうしてあっちの山からこっちに来たの?
 ゆっくり教えてね?もしかして…」

「ゆ?そんなの決まってるよ!
 ご飯が少なっちゃったんだよ!
 あっちのお山さんはゆっくり出来ないね!
 それに人間さんまで意地悪するんだよ!」


どうやら群れに新しく来たゆっくり達は
あまり物事について深く考える事はしない様だった。
そして『ゆっくりしてない』、そう4匹は感じていた。

この時、今度は『人間』と言う言葉を聞きつけて
不安になったゆっくりれいむが大きなゆっくりまりさに向かって質問しようとした。


「ねぇ、『人間さんの意地悪』って…」

「とにかく!
 あんなゆっくり出来ないお山さんになんて居られなかったんだよ!
 …ゆ!あそこは良さそうな穴だね!
 ここをまりさのゆっくりプレイスにするよ!」


疲れてお喋りが面倒になったのか、大きなゆっくりまりさは強引に話を打ち切り
近くにある最も大きな穴に向かって跳ねて行った。

そこはぱちゅりーとれいむのお家。
初めてこのゆっくりプレイスに辿り着いて皆で家を探した時、
まりさとありすが見つけたお家なのに
まず体の弱いぱちゅりーにと、譲ってくれた大事なお家だった。



「むきゅぅ!駄目よまりさ!
 そこはぱちゅとれいむのお家なのよ!」

「ゆ?何言ってるの?
 まりさが見つけたんだからここはまりさのお家だよ?
 ぱちゅりーは馬鹿なの?」

「…むきゅぅ~……」


反抗しようにも、どう見てもこのゆっくりまりさは
自分達よりも体格も大きいし、また新しく来た群れの数も多い。
それに元々この群れにいた4匹のゆっくり達は皆気が弱く、
戦いには向かない性格だった。


結局、争いなんてゆっくり出来ない事は真っ平御免な4匹は
新しく来たこの大きなゆっくりまりさに群れの主導権を任せ、
暫く様子を見る事にした。

この時点で4匹の頭の中には『群れを出よう』等という考えは無かった。
なにせあの日、人間から命からがら逃げ出した先で
ようやく見つけたゆっくりプレイス、4匹の新しいゆん生の始まりの地。
見捨てるには愛着を持ち過ぎてしまっていたのだ。



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幸運な事にぱちゅりー達が思っていたよりも
新しい群れのゆっくり達は身勝手では無かった。
暫くの間はぱちゅりー達にも不満は無く、ゆっくり出来ていた。

だがやはり先住者と余所者との混じり合の中で
ゆっくり間の違いはあらゆる所で生じてしまう。
その中で最も目立ったものは食生活のギャップだった。



「ぱちゅ達はいつもそのご飯を食べてるね!
 そんなのでゆっくり出来てるの?」

「むきゅ…?この草さんは美味しいのよ?」

「あんまり美味しくないよ…
 この辺のご飯はゆっくり出来ないよ!」

「あっちで採れたご飯は
 もっとゆっくり出来たのにね!」


4匹が新しく来た群れに対して感じた、自分達との最も大きな違い。
それは新しく来た皆は揃ってグルメな事だった。

新しく来たゆっくり達は
この辺の草を食べる事はせず、美味しい虫や花ばかりを食べている。
しかしそれらの美味しい物を食べても尚、彼等は不満そうにしていた。

元々の群れのれいむやまりさは不思議に思っていた。
草は美味しいし、滅多に食べられないけど花や虫なんてもっと美味しいのに、と。



「………」

しかしぱちぇとありすは薄々感づいていた。
彼等の求めている物に。
新しく来たゆっくり達はかつての生活の中で『あれ』を食べていたのではないかと。


ぱちゅりー達の嫌な予感が的中するのは
それから少しゆっくりしてからの事だった。



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風の強い日だった。
新しいゆっくり達が来てから3週間程経ち、
段々と新しい群れにも馴染み始めてきた頃。

暮れて行く太陽の下、ぱちゅりーはゆっくりしながら
大きなゆっくりまりさがやけに嬉しそうに野原に跳ねて来るのを見た。


「ゆゆー!皆!見つけて来たよ!
 ちょっと遠かったけど、この辺にもあったよ!
 ゆっくり出来るご飯だよ!」


「………?」


そう言って狩り(元々の群れには無かった言葉)をして来た
現リーダーであるゆっくりまりさがその帽子の中から出したもの。


「ほらこれ!
 久しぶりのゆっくり出来る美味しいご飯だよ!」



「む”む”ぎゅう”う”ぅ”ぅ”!!?」



大きなまりさが帽子から出したそれを見て
ぱちゅりーは少量の中身と共に驚愕の悲鳴をその口から吐き出した。
まりさが嬉しそうに持ってきた物は、かつて見た人間の主食である野菜。


食べると非情にゆっくり出来ると言われているご飯だが、
コレは人間の食べ物であり、人間はこれしか食べない。
そしてこれを自分達が食べると
食い扶持を減らされた事に腹を立てた人間達が自分達を皆殺しに来る。

つまり、美味しいご飯だが
これを群れの誰かが食べ続けると人間が自分達を滅ぼしに来る悪魔の植物。
そういう災厄を呼ぶ植物だとぱちゅりーは認識していた。
(人間達がぱちゅりー達4匹の群れを滅ぼしに来たのは
 群れの中の一部のゆっくりがこの植物を何度も何度も人間の近くから取って来たからだと
 ぱちゅりー達は知っている)



「「む~しゃ!む~しゃ!しあわせ~!」」

「うっめコレめっちゃうっめ!まじぱねぇ!」



呆然とその災厄の植物を食べ始める皆を眺める4匹のゆっくり達。

この4匹は決してその植物に手をつけよう等とは考えない。
かつてそれを食べた仲間のゆっくり達が殺された過去の記憶が
それを食べる事を拒否するのだ。

そうとも知らずに野菜を頬一杯に詰め込んだ大きなゆっくりまりさは
ぱちゅりー達に向かってニコニコと笑いながら言った。


「ゆ?どうしたのぱちゅ?
 れいむも、まりさも、ありすも、
 遠慮しないで食べて良いよ!
 コレは美味しい草の在処がまた見つかったお祝いだよ!」

「「これからはずっとゆっくり出来るよ!」」



草や虫を食べてる時にも見せない笑顔を見せながら群れの皆はそう言った。
『これからはずっと』
これからはずっとそれを食べるつもりなの?
その災厄の植物を。


ぱちゅりーは新しく来た群れのゆっくり達の嬉しそうな食事風景を
虚ろな表情で眺めながら気を失い、ころんと横に転がった。




『む~しゃ♪む~しゃ♪しわせー♪』




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「む…きゅ…むきゅぅ…」

「ぱ…ぱちゅ…しっかりしてね…?
 ゆっくり気を確かにね…?」


元々の群れの3匹が失神したぱちゅりーを巣まで運んでいく。

この3匹は皆、もうここには居られない事を確信していた。
直ぐに、とは言わないがやがて人間達はここに来るだろう。

あの日の様にー





『だずげで!!許じでぇ”え”ぇえぇえ!!』

『喧しいんだよゴミ虫が
 群れの在処まで案内すりゃ助けてやるっていってんだろうが』


何かしら?騒々しいわね…
れいむ、ゆっくり起きてね?もうお昼よ?


『ゆゆぅ…』



『ごごをまっずぐだよ”!!』

『おぉ、アレか!
 オイ皆!見つかったぞ!』




むきゅ?人間さん?ゆっくりしていってね!
ほられいむ、挨拶しなさい、お客さんよ


『ゆゆー!ゆっくりしていってねー!』


人間さんが群れに来るなんて初めてだわ!
遠慮せずにゆっくりしていってね!
ねぇ、人間さんはー


『…フン、じゃあな金髪饅頭
 お務めごくろーさん』

『ゆぴ』



…む…きゅ…?まりさ…?

『……ゆ?まりさお姉ちゃん…?』



『これ以上俺等の食い扶持を減らされちゃたまんねーんでな
 悪く思うなよ』




ぱちゅりーの夢の中、今にも降り出しそうな曇り空の下。
目の前に広がる光景。人間の足の下のもの。
『ゆっくり出来るご飯を見つけたんだぜ』と自慢していたまりさだったもの。
人間に向かって命乞いした末に群れを売って結局殺されたまりさ。
そして男の脚と脚の間から見える、次々に殺されていくかつての仲間達。


ゆっくりぱちゅりーは夢の中でうなされながら
その日の光景を再度見ていた。

そして夢の中の場面は変わり今の群れの野原。
あの日の様に群れに来た人間が、あのリーダーまりさを野原に放り投て踏みつぶす。
そして一人、また一人と殺される群れの皆、壊されるお家。

『ありす!!まりさぁああぁ!!ゆっぐりじで!!ゆっぐりじでいっでぇ!!』
『逃げでばちゅりぃ!!逃げでええぇぇえ!!』

ーーそして幼馴染みのまりさやありすまで踏みつぶした
  人間達の無表情な目が、自分に向いたかと思うと
  大きな足の裏が自分の帽子に向かってゆっくりとーー





「む”ぎゅゅうううぅぅうぅぅ!!!」






「ぱちゅ!?大丈夫!?
 ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」


「む…きゅ…」



ぱちゅりーが悪夢から目覚めると
体には何枚もの葉っぱが掛けられており、子供の頃より共に育ってきた皆が
心配そうにぱちゅりーの顔を覗き込んでいた。


「ぱちゅ…?起きたの…?
 ゆっくり出来なくなっちゃったよ…」


ゆっくりまりさが悲しそうな顔でぱちゅりーに向かって唐突に言った。
それは何もかも省略した台詞だったが、
ぱちゅりーにも、他の2匹にもその言葉の意味は容易に理解出来た。
皆あのリーダーまりさが持ってきたものを見て、同じ危機感を覚えたのだ。


ぱちゅりーはそれを聞いて、迷う事無く決断した。
あの悪夢を正夢にしたくない。
それは何よりも優先させるべき心からの願いだった。


「分かってるわ…皆、群れを出るわよ…」

「…ゆん、ぱちゅもそう言うと思ってたよ」

「残念だけどここではもうゆっくり出来ないわね…」

「他にもゆっくり出来るところはあるよ!
 頑張って皆で探そうね!」


4匹の心は通じ合っており、誰もNOは言わない。
同じ環境で育ち、同じ地獄を見て来た仲間達なのだから。

恥ずかしがりやで皆と中々打ち解けなかった、でも本当は優しいありす。
社交的な性格でこれまでずっと皆を笑わせてくれたまりさ。
前向きな性格でいつも自分を元気づけてくれたれいむ。

その皆で必死に探し出したゆっくりプレイス。
捨てるのは余りに惜しいけど命には代えられない。
あの日の惨劇を繰り返すわけにはいかない。


「また、皆でゆっくり探しましょう…
 ぱちゅ達の、本当のゆっくりプレイスを!」


「「「ゆっくり頑張るよ!!」」」




次の日の朝、ぱちゅりー達4匹は
新しく来た群れの皆とも相談する事無く、
ひっそりと群れを出て行った。


かつて、ぱちゅりーはありすと一緒に『話題のご飯』を食べに行った際に
畑の近くで、野菜を持ち上げている人間の姿を見た事があった。

『人間もあそこに生えているご飯を食べるのね』
二匹がそんな感想を抱きながら人間を眺めていると、
その齧られた野菜を見た瞬間、人間が見た事も無い様な怖い顔に変わったのを見て
怖くなったぱちゅりーとありすは群れへと引き返し、
あそこに行くのを辞める様に皆に説得しようとした事があったが、それは徒労に終わった。

群れの皆にとって、ゆっくり出来るものが近くにあるのに我慢する道理は無い。
それはきっとリーダーまりさ達の群れも同じ。

ぱちゅりー達はあの草に魅入られたゆっくり達に
何を言っても無駄だと知っていたのだ。




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「ゆゆー?ぱちゅ達がいないよ?」

「またお昼寝でもしてるんだよ!
 そんな事よりゆっくり狩りに行こうね!」


それから数日が過ぎ、群れの皆はぱちゅりー達4匹が居なくなった事に気付くが
そんな事には全く気にせずにまた人里まで降りて行く。

だが、群れのゆっくり達は気付いていなかった。
段々と自分達の群れの数が減っていっている事に。






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ぱちゅりー達が新しいゆっくりプレイスを探し出したのは
群れを捨ててから僅か4日後の事だった。


「ゆぅ…ゆぅ…」

「頑張ってねれいむ!きっともう少しでゆっくり出来るよ!」


傷つき、消耗し、もう跳ねるのも辛そうに眉を垂らすゆっくりれいむ。
それを励ます帽子無しのゆっくりまりさ。
4匹はもう満身創痍。
体力は既に限界を迎えつつあった。


「ごめんね…まりさ、ありす、ごめんなさい…」

「いいよぱちゅ!ゆっくりしていってね!」


そして誰よりも、
元々あまり運動に向かないぱちゅりーの体は碌に動けるものでは無くなっていた。
移動の際に誤って底部を尖った石に突き刺してしまい、殆ど動けなくなってしまったのだ。
まりさの帽子を地面に敷き、それを二匹がかりで引っ張るその姿は
まるで人間が怪我人を担架で運ぶかの様。


あまりにも速度を失ったゆっくりプレイス探し。
だが、それもようやく終わろうとしていた。


「…ゆゆ?ぱちゅ!ここは…?」

「むきゅ…!そうね…皆、ここはきっと良いゆっくりプレイスになるわ…」


『ゆっくり』を嗅ぎつける勘に従って移動する事4日。
ようやく前のゆっくりプレイスにも劣らぬゆっくりプレイスを見つけ出した4匹。
川も近くにあり、柔らかい草も沢山生えており、近くに広場もある。
嬉しい事に4匹皆で暮らせそうな小さな洞窟まである。
何よりも4匹の勘が『ここはゆっくりプレイス』と教えている。
洞窟の事も考慮すれば、数日前に捨てたゆっくりプレイスよりも良い所かもしれない。


「でも…ぱちゅ、ここは…」

「………ゆっくり出来ないよ…」



だがそれは、近くに人間の家さえ無ければの話。

そのゆっくりプレイスから僅か100m足らずの所に人の民家らしき建物がある。
その上そこと洞窟との間には障害物も無く、
人が見ようと思えば自分達は丸見えである。


「ゆうう…こんなにゆっくり出来そうなのに…!」

「静かにしてれば気付かれずに暮らせないかしら…?」

「駄目だよ…!見つかっちゃったら
 今度こそゆっくり出来なくなっちゃうかも…」

「…残念だけどここは駄目ね…他の所を…
 ゆ…いたぃ…!」



しかし、ぱちゅりー達の体力は限界を迎えつつある。
何しろあの群れから抜けてから4日間もの間ゆっくりしてないのだ。
4匹全ての体力、そしてゆっくり分は直ぐにでも枯渇しようとしていた。


「…ぱちゅ、人間が近くにいるけど
 今日だけは静かにここでゆっくりしよう?
 このお家の中でゆっくりしてればきっと見つからないよ!」


「むっきゅ…」


『ゆっくりしたい』と言う本能から来る
『一晩でもここに留まりたい』と言う欲求。
しかし人間に対する恐怖もある。

その狭間でぱちゅりーは葛藤したが、
自分が余りにも足手まといになっていると言う自覚から
今回は僅差で本能が勝ったようで、ぱちゅりーはまりさのその言葉にゆっくりと頷いた。



「むきゅ…何か…何かゆっくり出来ないわ…」


しかしぱちゅりーは頷く瞬間、
周囲の雰囲気がゆっくり出来ないものに変わったのを感じ取った。
ゆっくりプレイスの中にいるのに何故かゆっくり出来ない。
何かゆっくり出来ない雰囲気がこの辺りに立ちこめている。


「ゆ…ゆ…」


ふとぱちゅりーがその顔を上げると3匹が皆、
ぱちゅりーの後ろを見て目を見開いている。
まるで人間の様に、とんでもなくゆっくり出来ないものがぱちゅりーの後ろにいるかの様に。


「…むきゅ?」


不思議に思ったぱちゅりーは深く考える事もせず、
ゆっくりと後ろへと振り返った。







「おい皆!!これゆっくりじゃねぇの!?」

「ああ?本当だ!?何でこんなトコに4匹もいんの?」



「       」
「       」
「       」
「       」






振り向いた先にいたのは人間の子供達が数人。
恐れていた人間にあっさりと見つかってしまった事で
ぱちゅりー達の残り少ないゆっくり分は一瞬で無くなり、
4匹は仲良く揃って気を失った。



後編

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最終更新:2009年05月02日 01:56
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