ゆっくりいじめ系2368 ゆっくりを嫌いになるまで





    ゆっくりを嫌いになるまで

              古緑







時は早朝5時半、ゆっくりが目を覚ますより少し早い時間、
ゆっくりまりさとゆっくりれいむが町の道路近くの叢で泣いていた。


「ごべんだなざい…ごべんだざいいあがぢぁん…」

「…れいむ…あきらめるんだぜ…
 あかちゃんのことはあきらめるしかないんだぜ…」


ゆっくりれいむの口が元々肌色に近い肌を
真っ白にした小さなゆっくりれいむの髪を銜えている。
寝ているのか、それとも死んでいるのか目は閉じたままだ。


「ごべんね…ごべんね…」


まりさはもう何も言えなかった。
れいむのあまりに悲しそうな顔を見てられなかったから。
まりさはれいむの悲しみが落ち着くまいつまでも側にいる事にした。




「……まりざ…もういこうね…
 ………………あかちゃん…………
 ……ゆっくりしていってね……」


「…………」


目を閉じた子に背を向けて跳ねて行く二匹のゆっくり。
れいむは時折死んでしまった我が子を振り返っては立ち止まり、
巣まで戻るのにいつもの倍近くもの時間をかけたが
まりさはそれについて何ら咎める事もしなかった。
口を開くと涙が止まらなくなりそうな気がしていたから。

れいむがそのお腹から産んだ二人の愛の結晶であるゆっくりれいむは
口を開かず、目も開かず、無理矢理にでも叢まで連れて行って
新鮮で美味しい虫や草を柔らかくして食べさせようとしたが、
それを飲み込む事の出来ない小さなゆっくりれいむは
最後にピクッと震えるとそのまま動かなくなった。
れいむが子を産んでから僅か二日後の出来事だった。










少年は部活の朝練の為に早朝から中学校までの道を歩いていた。
ワンダーフォーゲル部という、山に登る部活の朝練だ。
山に登るのに朝練?この田舎の中学では良く有る事。
朝から腕立て腹筋、階段昇降、ランニング、
熱心な顧問の情熱は通学路のゴミ拾いまで課す。

少年はゴミ拾いまでする程真面目では無かったが
通学路近くの山に繋がる叢の中、赤い何かが日に照らされて光っている。
無視して通り過ぎようとしたが何か気になって仕方が無い。


「………」


カサカサと叢の中に手を伸ばした少年はその日出会った。
赤いリボンを黒い髪に結び、目を閉じたままの『ゆっくりれいむ』に




「何だコレ」


初めはそれが何だか分からなかった。キーホルダー?ぬいぐるみ?
汚れ一つない綺麗な物だったので触ってみると
日に照らされていた為かかすかに温度がある。


「………」


ゴミだな。

少年はせっかく拾ったゴミなのでまた放置して他の部員に任せるのも悪いと思い、
振りかぶって山の方に投げ捨てようとした。
この時少年は学校まで持って行ってゴミ箱にいれよう等とは考えなかった。
(山を行く者としてあるまじき態度だが、多くの中学ワンゲル部員なんてこんなモノだ)

その時、手の中のゴミがピクッと動いた。


「うえ…?」

振りかぶった手を下ろして手を開いてみるとまたピクピクと動いている。
まさか…と薄々少年が感づき始めたその時
ドロッとそのぬいぐるみの口のあたりから黒いモノが吐き出された。

「うええぇぇ!?」

ゴミじゃない。生き物だこれ。
吐き出したこの温かいの何コレきもい。弱ってんのか?
混乱する少年はぬいぐるみが生き物だと分かり、
小動物が弱っている時にするべき行動の規範を混乱する頭の中で検索した。
助ける楽にしてやる捨てるダンボール人に任す先生に言う親に言う


その結果、部活も学校も休んで家に引き返して
後日顧問に怒られるという選択肢を取る事になった。










「かーさん!!」

「はぁ?何アンタ忘れ物?」

「コレ!」

「母さんちょっと○○サン家行ってから婆ちゃんの病院まで行くから、
 戻るの夕方だかんね、じゃ」

「いやコレ何か分かる!?」

「うっさいねぇ知らないよそんなアニメキャラクター
 かーさん急ぐから、じゃ」


母も何も知らない?どうしよう!?

自分でどうにかするしかない
手の中には口の端から餡子を垂らしたゆっくりれいむが横たわっている。
少年はあの叢の中じゃ寒かっただろうと思い、母が消して間も無いであろう
まだ暖かいストーブの近くに畳んであったバスタオルを敷いて
その上にゆっくりれいむを置き、また悩んだ。


少年が弱った小動物を元気にさせる方法を思い浮かべる時には
『とりあえず暖める』そして『とりあえず何か暖かい物を食べさせる』
この二つの事しか浮かんで来なかった。

その時またゆっくりれいむが黒いものを吐いたのを見た少年は
慌てて冷蔵庫の中を覗いた。
直ぐに食べられそうな物は朝食べたキュウリの塩漬けしかない。
混乱した少年はそれを掴み、手の中で暖めて
ゆっくりれいむの口に運んだが食うわけが無かった
(もし食べられたら塩分の濃さで死んでいただろう)
これは一時間程前にれいむの母親が同じような事を何度もやった事だったが
少年がそれを知る由もない。


キュウリを食べないゆっくりれいむを見て焦った少年は
キュウリの塩漬けを自分で食うとまた冷蔵庫へと走って引き返して行った。
そして少年は自分が馬鹿だったと気付く。
牛乳がある。
少年の頭の中を牛乳を美味しそうに飲む子猫のイメージが支配し、
底の無いお皿に少しだけ牛乳を注ぐとそれを電子レンジで温めて
ゆっくりれいむの口までスプーンで運んでみた。

今度は飲んだ。
段々と落ち着きを取り戻した少年はゆっくりれいむの体の大きさから
どの程度牛乳を飲めるかを推測し、
ある程度飲ませて吸い付きが弱くなるとスプーンを置いて
ストーブ近くの椅子の上で手を揉みながられいむを見守った。

それを2時間かけて7回に渡って繰り返すと
段々とゆっくりれいむの真っ白だった肌には赤味がさし、
への字を書いていた口の線は微笑みに変わった。


ゆっくりれいむの母達はごはんも食べられずに
動かなくなった我が子を見て死んだと勘違いしたが、それは間違いだった。
早産過ぎて口と目の成形が遅れたれいむは
咀嚼して柔らかくなった虫や草すら食べる事が出来ずに弱っていただけだったのだ。


もう大丈夫だろうかと少年大きく息を吐き、バスタオルごと自分の部屋へと持って行った。
中学校からの電話が来たのはれいむが眠ってから十分後。
無断欠席で母に怒られるのはその七時間後。
ゆっくりれいむの目が開いたのはそれから三日後だった。

こうしてこの日から少年はれいむの母親となった。











「ゆ~ゆんゆゆ~ゆゆ~♪」

「本当歌ヘタだよねーお前」

「ゆ~ゆ~ゆんゆゆ~♪へたでもいいよ~♪」


少年は助けたゆっくりれいむに情が湧き、部屋でひっそりと飼う事にした。
母に言わなかったのは反対すると思っていたからだ。
こんな得体の知れない生き物を飼う事を。

母に部屋に置いたれいむの事を気付かれるのは拾って来てから五日後。
毎日の牛乳の栄養が体に行き渡り、目が開くに続いてとうとう口も利ける様になったれいむの
初めての少年に向けての「ゆっくちちていっちぇね!!!」を聞きつけた母に見つかった。


「おにいさん!ゆうがたになったらふぁみこんしようね!」

「お前いつも見てるだけだろ」

「ふぁみこんはゆっくりできるよ!」


母は思っていたよりあっさりとれいむを飼う事を認めた。
息子にこんな得体の知れない生物を飼う事をあっさり認めるなんて信じられない事だが、
少年の母はゆっくりれいむの瞳の中の底抜けの無邪気を認めていたし
ゆっくりれいむが例え生首饅頭だとしても、
赤ん坊特有の可愛らしい姿を気に入ったのもあるだろう。

母はれいむに名前をつけたがっていたが、
『れーみゅはれーみゅだよ』と力強く言うれいむを見て
やっぱりれいむの名はれいむとなった。

母も少年もあのピンボン玉より少し大きい程度だったあのゆっくりれいむが
ここまで大きくなるとは思っていなかった。
今では控えめだが体高20センチ程の成体となった。
少年もまた中学を卒業して今では高校生。
隣町の高校の山岳部に所属する高校一年生だ。


「れいむ、散歩の時間が短くなってゆっくり出来なくなってないか?」

「そんなことゆっくりないよ!
 おかあさんといっしょだからゆっくりできるよ!」


口を利き始めたれいむを初めは五月蝿いと思っていた少年だが
直ぐにゆっくりれいむの、そのゆっくりした雰囲気を愛するようになった。
自分もゆっくりした気分になれるからだ。

ゆっくりれいむを溺愛するようになった少年は
学校に行く前に毎朝れいむを散歩に連れて行き、
ご飯もれいむの好きな牛乳を使って自分で工夫した料理を作った。


「ゴホン…!ボ…、ボヘ~ミヤ~のか~わよ~♪モ~ルダ~ウよ~♪」

周りに人が居ない事を確認してから少年が歌い出す。

「ゆ?ゆゆ~ゆゆ~ゆゆ~ゆゆ~♪も~るだ~ゆよ~♪
 おかあさん!そのうたはゆっくりできるね!」


れいむは初め少年をお母さんと呼んでいたが
少年もまた母の事をお母さんと呼ぶので、紛らわしくなって少年が矯正した。
少年をお兄さんと呼ぶようになったれいむは
今でもたまにお母さんと呼ぶ事がある。
心の中では少年は母親なのだろう。



第三者がこの場に現れたのは少年達が歌を終えて直ぐの事。




「ゆっくりしていってね!
 れいむ、まちとにんげんさんはゆっくりしてる?」



不意に叢の方から声がかかった。
叢からちょっとだけ飛び出たトンガリ帽子…
あれはまさかゆっくりまりさか?

「珍しいなこんなトコに…」

あれから二年、かつて珍しい生き物だった
ゆっくりの情報を得る事は困難な事ではなくなっていた。
この辺の山にもいくらか居る事が分かっていたし
山の近くで迷っているのを見る事は何度かあった(直ぐに山に入っていってしまうが)
だが野生のゆっくりに話しかけられたのは初めてだ。

というか、あいつは俺じゃなくてれいむに話しかけたのか。
イキナリ町と人間がゆっくりしているかどうかとは…変な奴だな。
ゆっくりまりさもそうだが、れいむもなんだかモジモジしてこっちを見ている
初めて同族に話しかけられた為にどう対応していいか分からないのだろう。
まぁ人見知りなれいむの事だ。俺が仲介役を務めてやろう。


「れいむ、ゆっくりまりさが訊いてるぞ
 町と人間はゆっくりしてるかどうかだってさ」

「まちとにんげんさんがゆっくり?」


ゆっくりまりさが緊張した面持ちでこっちを見ている。
恐らく人間が近くに居るから緊張しているんだろうな、と少年は思った。


「良くわかんねぇかな
 つまり俺達がゆっくりしてるかどうかと、
 れいむが住んでるところがゆっくり出来るかどうか訊いてるんだろ」

「れいむもおにいさんもゆっくりしてるよ!」


少年はこれ程に直接的な事を言われる事は普段はあまり無いのか
それを聞いて思わず笑顔になってしまった。
それを聞いたまりさも初めての笑顔を少年に見せた。
同族であるれいむから『人間は安全』と言われてホッとしているんだろう。

「だってよまりさ。町も人間もゆっくりしてるってさ」


笑顔のまま少年がゆっくりまりさにそう告げると
ゆっくりまりさは嬉しそうにこちらへ近づいて来た。





話を聞くところこのゆっくりまりさは町の事に関して
強い興味を持っているらしく、
町の人間と一緒に居るれいむを見て我慢出来なくなって話しかけてしまったという。


「そうだな…まぁいいトコなんじゃないかな?
 車もあんま通らないし獣の居る山よりは安全だろうし、
 ご飯も山のよりきっと旨いだろうな」

「おうちはどうなってるの?ゆっくりおしえてほしいよ!」

「家は…まりさの家がどうなってるか知らないけど
 風は通さないし、温かいぞ」

「まりさ!おにいさんのつくるごはんはすっごくゆっくりできるんだよ!」

「ゆう~…うらやましいよ!やっぱりまちはゆっくりできそうだよ!」


少年には同族の友達が出来て、
今までに見た事の無い種類の笑顔をれいむが見せているのが分かった。
少し複雑な気分だったが、れいむが笑っているのは良い事だ。


「おかあさん!こんどまりさにもゆっくりたべさせてあげようよ!」

「ン……?」


その時少年はまだれいむが小さい頃の事を思い出していた。
野生のゆっくりが草や虫を食べるとテレビで見て知ったまだ幼い少年は、
ゆっくりが本来食べているモノをれいむに食べさせた方が良いのではないか?
そう思ってれいむに呼び、テレビに出たモノと同じ草を煮込んで与えてみた。

口に含んだ瞬間、ゆっくりせずに草を吐き出して(れいむが何かを
吐き出すのを見るのは拾って来た時以来だった)
涙目になったれいむを見て少年はれいむに謝りながら

『れいむの舌はきっと肥えてしまってもう野生と同じ様にはいかない』
そう考えた。



「あぁーそうだな…アレは外に持ち出すと直ぐに痛んじゃうから
 別のモノ御馳走するよ」


乳製品が痛み易いのは事実だが、
家からこの場所まで持ってくる程度の間だったらそう痛むモノではない。
まりさの舌をおかしくさせない為に、少年は適当な嘘でごまかしたのだ。


「ゆっくりたのしみだよ!にんげんさんのたべてるもの!」

ゆっくりまりさはそこら中を飛び跳ねて喜んでいた。

「お、そろそろ行かなきゃだな
 まりさ、俺等はこれから毎朝ここを通るから暇なら来いよ」

「ゆっ!ゆっくりしていってねまりさ!」

「れいむもおにいさんもゆっくりしていってね!」

飛び跳ねてさよなら代わりの挨拶をするゆっくりまりさを
名残惜しそうに見るれいむの顔から、
れいむは本当はもっと遊びたいんだろうな、と少年はれいむの心の内を読み取った。

そして少年はこの日偶然、気まぐれに選んだこの散歩コースを
今度はれいむの為に定番コースにしようと決めた。

その日から少年達とゆっくりまりさは友達となり、
雨の日を除いて、毎朝ゆっくりまりさと十分程度のお喋りをするようになった。
会話の内容は大体がまりさの町への質問、山の中の群れの話、
時にはまりさの家族の話、れいむの話、それに色を付ける少年の話。

家族が居るとまりさから聞いた少年は
いつかの約束を叶える為にまりさの帽子の大きさを見て、
レタスを運び易い大きさに切ってまりさに持たせた。
これは運良く成功した。まりさは家族が裕に2日は持つであろう
美味しい野菜を貰えた事に少年に感謝していたと言い、
また、家族が過剰に舌を肥えさせる事も無かったみたいだ。


「おにいさん…まりさがまちにゆっくりいったら
 にんげんさんたちはまりさをいじめないかな?」

「大丈夫だろ、お前が良い子にしてれば人間はお前を虐めたりしないよ」


まりさの控えめで優しい、そして少し恥ずかしがり屋な性格は
一週間程度の付き合いでも少年には分かっていたし、
そんなまりさを虐める人間は少なくとも自分の住む団地にはいない。
少年は真剣にそう思っていたし、
実際に何もしないゆっくりまりさを虐める人間は少年の住む団地にはいなかっただろう。

日が経つに連れて、まりさは段々と
『もしまりさが町に行ったら』という話をする様になり、
少年は想像力を働かせてまりさが町に来るところを話してみた。
なるべく良い様に、まりさが幸せになれる様に話したのはまりさの笑顔の為だけでなく、
れいむの為でもあった。友達であるまりさの喜ぶ見るとれいむも笑うからだ。



しかしある日を境に朝の散歩道からまりさの姿を見なくなった。
寂しがるれいむを抱き抱えながら歩く少年は、
もしかしたら…と薄々感づいていた。
まりさが実際に町を見に行ったのではないかと。




                    (続く)

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最終更新:2009年06月03日 04:11
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