ゆっくりいじめ系320 雪中のゆっくり後編


 「こっちににげたよ!」
「ぜったいつかまえてころすよ!」
「ゆっくりできないにんげんはしね!」

ゆっくりの叫び声が廃鉱山の闇に溶けるように響く。
私が今隠れている食料庫の扉越しに聞こえるぐらいだから、相当な大きさで怒鳴っているようだ。
リーダーまりさと見張りの巨大れいむを殺されたために相当ご立腹の連中は巨大ゆっくりも通常ゆっくりも総動員してゆっくりできない人間を始末しに掛かっている。
その人間とは私のことだ、困ったことに。

今、こちらに接近中の連中は声の高さから判断するに、巨大1通常2の混成部隊らしい。
ガヤガヤと騒ぐ声がさらに大きくなってきた。
ゆっくりが跳ねながら移動するときに餅をつくような音が扉の前で止まった。
こちらは陰に隠れているために分からないが、どうやら巨大ゆっくりが扉に付いた小さな窓から中の様子を伺っているようだ。

「おにいさ~ん。もうあきらめてでてきてね~。いまならゆるしてあげるよ~。」

こちらを見つけて得意になったような声だが、実際のところ連中はこちらを見つけていない。
あわてて出てきたところを袋にしようとする程度の知能はあるらしい。

「ゆっ!ここにはいないみたいだね!むこうをさがそうね!」
「まりさはおおきくてかしこいね!これならすぐににんげんをみつけられるよ!」

でも見つけられてねえじゃん。流石通常ゆっくり、能天気なもんだ。

餅つき音が十分に遠ざかるのを待って、物陰を出て扉に近づく。
先ほど、巨大ゆっくりにフェイントを掛けられてすぐに扉に近づいた結果、こちらの姿を見た巨大ゆっくりが突撃してくるのを咄嗟に撃ち殺し、その音で更に多くのゆっくりを呼び寄せてしまった為に十分に注意しながら進む。
どうやら本当に向こうを探しに行った様だ。

ヒカリゴケがわずかな光を提供する通路に扉を開ける音が吸い込まれていく。
細心の注意を払いながら左右を素早く確認し、出口へ向かった。


何かを食べている通常ゆっくりのペアの後ろを慎重に通り過ぎ、巨大ゆっくりの巡回を隠れてやり過ごして進んだが、
後で吹き飛ばそうと先ほど決意した巨大あかちゃんゆっくりの寝室に差し掛かった所である物が視界に入ったために素早く姿勢を下げ、曲がり角に隠れる。
巡回をサボり中の巨大ゆっくり3匹が寝室に向いて何事かを話しかけていた。

「ゆー、べろべろばあ!」
「れいむのあかちゃん!もっとゆっくりしてていいよ!」
「こわいにんげんからまもってあげるね!」

困った事にこいつらのいる寝室の前を通らねば外には出られない。
手持ちの小銃は5発装填済みで巨大ゆっくりを倒すためには最低3発が必要。
距離は十分に離れているので2匹射殺するなら何とかなるが、発砲炎を見られたが最後、突進してきた3匹目に俺は踏み潰される。
畜生。何でデカいとはいえゆっくり如きを警戒せねばならないんだ。

どうする?どうやって多数の巨大ゆっくりを始末する?
そう思いながら悩んでいると、隣の里が少数の戦力で多数の巨大ゆっくりを屠った事を思い出した。
連中はどうやって交戦した?こっちの集落と違って隣の里に重火器は無い。
バリスタで交戦したとかいう話だが、連射速度と射程から考えて全速突撃するゆっくりを5回撃てれば御の字だろう。それでは十分に数を減らす前に蹴散らされる。
一体どうやって巨大ゆっくりの足を止めたんだ?

荷物から資料を素早く取り出し、交戦記録の記述を読む。程なくして目的の箇所を発見。
死んだゆっくりの帽子で同士討ちを誘発したようだ。
よし、これを応用させてもらおう。

実行に必要なゆっくりを調達するために物陰から離れ、来た道を引き返した。




 鉱山時代には採掘された鉱石をトロッコに積載する部屋だったそこは現在、食事の時間であれば多数のゆっくりで賑やかとなる「ゆっくり食堂」となっていた。
破滅的に下手糞な平仮名(というより、文字であるかどうかすら怪しい)を書かれた札がかかった入り口の更に奥、昼食の時間が終わった為に静まり返った食堂に二匹の通常ゆっくりがいた。

「はぁ…はぁ…おいしー!」
「ゆっ!まりさ!しずかにしなきゃだめだよ!」

摘み食い中らしき2匹は他のゆっくりに見つかることを恐れ、音を立てぬように注意を払っていたが、ゆっくりの本能に抗うことはなんとも難しかった。
慌てて周囲を見回す2匹だったが、幸いな事に気づかれた様子は無い。
体を食料に向けて食事を再開する。

「ゆっくりしずかにたべようね。」
「む…しゃ…む…しゃ…」

食事はすぐに中断した。入り口から地面を踏みしめる音が聞こえてきたのだ。
モチモチとした体を飛び跳ねさせて移動するゆっくりの立てる音ではない事をれいむは知っていた。
これは人間が歩くときの音だという事もれいむは知っている。

「ゆっ!みん…ゆっ!」

入り口を向いたれいむは大声で助けを呼ぼうとしたが、そもそも自分たちがここで何をやっているか、それを見た仲間が自分たちをどうするだろうかという事に気づき慌てて口をつぐむ。

「れいむ?どうし…ゆっ!」

遅れてゆっくりまりさが入り口を向き、人間の姿を認めて驚く。
2匹は視線を交わし、ヒソヒソと話し合ったあと、侵入者の方を向いてこう言った。

「「おにいさんもいっしょにたべていいからしずかにしてね!」」
「断る。」

「「…ゆ?」」

侵入者の返答の意味が分からず体を傾けて疑問の声を上げる2匹。
彼女たちにとってこの提案は自分たちの取り分を減らすことになる痛い物だったが、それだけに必ず効果があるだろうという物だっただけに拒否されたことが理解できなかった。
残念なことに、提案を考えたのは結局餡子であるという事だった。

2匹が正気に戻ると侵入者が近づいて来たところだった。

「おにいさん、ほしいならあげるからゆっくりまってね。」
「も~くいしんぼさんだねおにいさん!」

提案が受け入れられたと勘違いしたセリフ。しかし、侵入者は足を止めずに近づいてきた。
まるで無視されたように感じたゆっくりまりさが膨れる。

「おにいさん!はなしきいてるの?!ゆっくりとまってね!」

それでも侵入者は足を止めない。聞こえていないかのように反応すら見せない。
まりさはついに実力行使に出た。

「ゆっくりとまってね!ゆっくりとまってね!ゆっくりとまっヘェヒュ!!」

侵入者の足に体当たりを開始したまりさだったが、3回目の体当たりを放つためにセリフを放ちながら飛んだとき、妙な声を上げて彼女は落ちた。

れいむは訳がわからなかった。
いっしょにゆっくりする筈のお兄さんはまりさに棒を突き刺したような体制だったし、さっきまで元気に跳ねて体当たりしていたまりさはピクりとも動いていなかったから。

「お、お兄さん…。まりさをどうしたの?」
「こうしたんだよ。ゆっくり見てね。」

れいむの疑問に答えた彼はまりさから白色の細い板──三十年式銃剣を引き抜き、まりさを足でれいむの方に押しやった。
ぐにゃりと歪みながらまりさは半回転し、れいむの方を向く。

「ゆぅーーーーーーーーーーーっ!!!」

まりさの額がぱっくりと裂け、そこからどろどろと流れ落ちる餡子を見たれいむは悲鳴を上げる。

「まりさっ!ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
「れ…ぃむ…。この…ひとは…ゆっく…りできな…ガプッ!!」
「はいそこまでー。永遠にゆっくりしてね!」

まりさが最後の力を振り絞って親友に警告を発しようとしたが、頭上から差し込まれた銃剣に途中で阻止された。

「まりさ゛あ゛あ゛ぁ゛ーーーーーーーーっ゛!!!」

もはや摘み食いを仲間に見られる事など忘れ泣き叫ぶゆっくりれいむ。
しかし彼女が悲しみを完全に吐き出すことはできなかった。
正面から高速で襲来したつま先が彼女を乱暴に蹴飛ばし、壁に叩きつけられたのだ。

「ゆっくり静かにしていってね。すぐ終わるから。」
「ゆっ…ぐっ…まりさ゛あ゛ぁ…。」

れいむは甘い死臭を放つまりさの帽子を強制的に口の中に入れられた後、猿轡をかまされ喋れなくなった。
自身の運命を悟った彼女は必死の抵抗を試みるが、その抵抗が重心を移動させて転がるというものでは何の意味も無かった。

「じゃあ、今から仲間のところでゆっくりしようね。」
「ん゛ー!ん゛ー!ん゛っん゛んう゛うう゛う゛んう!」

リボンを捕まれ持ち上げられたれいむは痛みに耐えながら必死に揺れて自己主張をしたが聞き入れられなかった。




 思い付きを実行する為に必要な物を入手した彼は、あの巨大赤ちゃんゆっくりの寝室入り口を見渡せる物陰に戻ってきて再び隠れた。

「れいむのあかちゃんはほんとうにかわいいね!ずっとみててあげるね!」
「まりさのあかちゃんもかわいいよ!」
「「おかあしゃん!ゆっきゅりしちぇっちぇね!!」」

彼は未だに寝室の前で子供に話しかける巨大ゆっくりに呆れながら、持ってきた痣だらけのゆっくりれいむを手元に置き、腰を下ろして小銃を構える。
彼はれいむの猿轡がゆるくなっているのに気がついていなかった。

──れいむがしゃべれるようになってるのにきがつかないなんてほんとうにばかなにんげん!これでゆっくりできるよ!

「みんなー!れいむをはやくたすけてね!」

ゆっくりれいむのくぐもった救助要請に一斉に振り向く巨大ゆっくり。
れいむの口からただようゆっくりの死臭はまだ届いていないようで、巨大ゆっくりはれいむを助けようと突進を開始した。

「ゆゆ!いまわるいにんげんからたすけるよ!」
「ゆっくりまっててね!もうちょっとだよ!」
「ゆっくりできないにんげんはしね!」

巨大ゆっくりが3匹で己の方へ突っ込んでくるのはそれなりに恐ろしい物である筈なのに、彼は全く関心が無いように引き金を引いた。


「ゆぶっぅ!」
「まりさっ!まりさのかたきはれいむがトビャッ!」

3発の銃弾を受けて先頭を進んでいた巨大まりさが粉砕され絶命する。
それを見た巨大れいむが気勢を上げるが、更に飛来した銃弾で全身を貫かれて速度をガクンと下げる。
しかし、最後尾を進んでいたため無傷の巨大まりさが2匹を追い越して突撃を継続する。

「もうばーんってできなくなったね!あきらめてゆっくりしんでね!」

勝ち誇った顔で勝利宣言をする巨大まりさ。
その時、正面から何かが闇の中から飛んできてまりさの顔に当たり、ぼよんと跳ねて地面に落ちた。
飛んできたのは捕まっていたゆっくりれいむだった。

「ゆっ!れいむをかえしてももうおそいよ!ゆっくり、し…ね…?」
「れいむをなげるなんてばかなおにいさん!まりさ!あんなやつゆっくりころしてね!」

れいむの口から覗く黒い物体とその匂いに気が付いた巨大まりさが表情を変えていく。
勝利宣言のニヤけた笑顔から憤怒の表情へと。

「ゆっくりしねえぇ!」
「まりさ!にんげんはこっちじゃないよ!ゆっくりきづいてね!」

れいむの体から漂う甘い死臭で同属殺しと判定した巨大まりさがれいむを潰しに掛かる。
当然、黙って見ているれいむではなく必死で逃げだした。
彼は巨大ゆっくりと通常ゆっくりが追いかけあってる間に小銃を再装填し、再び構える。

銃声が3つ響き、無傷だった巨大まりさが物を言わぬ餡と皮の複合体へと変えられた。

「おにいさん!れいむをたすけてくれてありがとう!」

そのお兄さんが自分に何をやったかもう忘れたゆっくりれいむは4発目の銃声を最後に動かなくなった。
最後の1発で巨大れいむの息の根が止められ、彼の前を阻むゆっくりはいなくなった。




 彼は立ち上がって静まり返った巨大赤ちゃんゆっくりの寝室へと入って行きこう言った。

「君たちには悪いけど君たちの親が悪いから死んで貰います。ゆっくり親を恨んでね!」

大小混合編成の赤ちゃんゆっくり達は入ってくるなりそう宣言した人間の言うことが分からず、頭に?を浮かべたような表情をしていたが、人間に一番近かったゆっくりが刺し殺された時点で狂乱の渦に落ちた。

「いやた゛あああぁぁあ!」
「まりし゛ゃは゛こ゛ろし゛ゃないち゛ぇ!やめち゛ぇ!」
「ゆ゛ーゆ゛ーゆ゛ーゆ゛ー」

それから3分後。
かつて赤ちゃんゆっくりが最も安心できるゆっくりプレイスだった筈の寝室は、赤ちゃんゆっくりの死骸が転がる餡子の池地獄と化していた。

入ってきた人間がまた1匹、ゆっくりを捕まえて刺し殺す。
その周りには鋭利な刃物で殺傷された赤ちゃんゆっくりや踏み潰された赤ちゃんゆっくりが3ダース近く転がっていた。
一部のゆっくりは息があるのか「ゅ…ゅ…」と呻いていたが、どう見ても助かりそうには無かった。

生きている赤ちゃんゆっくり、その数およそ120匹は部屋の隅に固まって泣き、怯えながら震えていた。
更には自分こそ奥へ行こうと他の赤ちゃんを押しのけ、自分より小さい赤ちゃんを踏み潰しているゆっくりまでいる。
人間がそちらへ近づいていくたびに、殆どの赤ちゃんゆっくりが意味の無い単語を叫びながら逃げて行き、運の悪い赤ちゃんゆっくりが公開処刑されていた。

これだけの数が居れば人間に勝てそうなものだが、彼に向かっていくゆっくりは一匹も居らず、ただ逃げ惑うばかり。
そのような勇気ある赤ちゃんゆっくりは真っ先に死骸となっていた。


さらに2分経過して赤ちゃんゆっくりの数が3桁を切ろうかという頃、赤ちゃん達の耳に待ち望んでいた声が聞こえてきた。
頼もしい群れのリーダーと、彼女が引き連れる巨大ゆっくりの声だ。
急に強気になった赤ちゃん達は偶然にも彼女達の親の1匹が取った行動を再現した。

勝利宣言である。

「ゆゆ!おにいさん!りーだーにつかまってころしゃれてね!」
「りーだーはつよいんだよ!おにいしゃんなんかかちぇないね(わらい)!」
「あきらめてあやまっっちぇね!」

しかし、彼は赤ちゃんゆっくりの言葉に聞く耳持たずといった様子で寝室から出て行った。

「にげちゃうんだ!あかちゃんあいちぇににげちゃうんだ(わらい)!」
「しゅごしゅごにげてね!まけいぬ!」
「おうちでゆっくりないちぇいっちぇね!」
「りーだーからはにげられにゃいよ!ゆっくりつかまっちぇね!」


寝室から出た彼は荷物から最後のセムテックスを取り出し、信管を幾つか差し込んでデトコードを素早く伸ばしていく。
彼が角の向こうに姿を消すのと、彼を始末に来た巨大ゆっくり一行の先頭集団が寝室入り口に差し掛かったのはほぼ同時だった。

その瞬間、セムテックスが起爆してあまり頑丈ではない通路に強烈なダメージを与えた。
自身の重量とその上の土を支えきれなくなった通路が急速に崩壊し、寝室で惨殺されている赤ちゃんゆっくりを見てショックを受けていた巨大ゆっくりが押しつぶされた。
彼は通路が塞がれたのを確認した後、悠々と外へ出て行った。
土砂の向こうから僅かに漏れてくる、ゆっくりがこんな事をした人間のおうちは必ず破壊すると宣言しているのを聞いてから。


仲間の巨大ゆっくりに殺されかけたものの九死に一生を得たリーダーまりさは目の前の光景を呆然として眺めていた。
切り札の精鋭巨大ゆっくり部隊があの人間を殺そうと加速したとき、爆発が起こって天井が崩れ、彼女の切り札が生き埋めになってしまったのを。

「な、なんでぇ…れいむ!まりさ!」ぱちゅりー!おきてよ!ねえへんじをしてよ!」
「まりさ…もうしんじゃってるよ…ゆっくりさせてあげなきゃ…」
「そんなこといわないでよ!れいむもまりさもぱちゅりーもいきてるよ!へんなこといわないで!」

切り札にして親友のゆっくりを一挙に3匹も失ったまりさは暫くの間、錯乱しながら叫んでいたが徐々にその顔が赤く染まってきた。
まりさにとって己の命と同じぐらい大切だった仲間を無残に殺戮した人間に憎悪を抱いたのだ。

「ゆるさない…まりさのしんゆうをころしたにんげんはぜったいにゆるさない!ゆっく゛りさ゛せ゛す゛にこ゛ろし゛てやる!!にんけ゛んのおうち゛をにと゛と゛ゆっく゛りて゛き゛ないようにし゛て゛やる!!」

復讐に燃えるまりさは崩落箇所を修復した翌日の朝、発言を実行に移すこととなる。




 「連中の侵攻予想時刻は明日午前9:00と思われます。」
日が落ちたために電灯で照らされた広い部屋。
その入り口から反対側に設置された黒板の前で一人の男が何か図らしき物を描きながらそう発言した。
セムテックスで巨大ゆっくりを生き埋めにしてきた彼だ。

「この時刻想定は連中が洞窟の復旧にかかる時間、巨体で森林を通過する時間を入れて計算してありますから、まずまずの正確さと思われます。」
「それで、どうやって対応するつもりなんだ?流石に陣地防御だけでは難しいだろ。最低200匹の想定なんだろ?」

彼が黒板の『廃鉱山』と書かれた箇所に『08:00』、『主防御線』と書かれた所に『09:00』と記入しながら発言したとき、1人の男が疑問をはさんだ。

「そうですね。確かに陣地だけじゃ厳しいです。なので、連中が巣から出てきた時点で砲撃を開始します。」
「砲撃?加工所の連中か?」「またあいつ等に頼るのか?良い連中ではあるんだがな。」
「廃鉱山入り口を見渡せる場所に夜明けと同時に観測班が移動する予定です。使用装備は毎度おなじみ155ミリ榴弾砲3門を予定しています。」

彼は質問者に答えつつ、黒板の『主防御線』より下に長方形を書き、その中に塗りつぶされた小さい丸を書く。

「連中がこちらに接触するまでに砲撃を継続し、100は削るつもりです。」
「あの巨体だろ?効果が通常のゆっくりよりも落ちるというのは?」
「勿論想定しています。加工所研究開発部に増援を要請した所、彼らは快く応じてくれました。」

そう言いながら、『主防御線』の所に長方形と横に潰れた楕円を組み合わせた記号を書き込み、その上に縦棒を1つ加えた。

「彼らなら巨大ゆっくりの50や100何する物ぞ、必ず蹴散らしてくれます。」
「その記号は…!それなら大丈夫か、安心した。」「彼らならやってくれるだろうな。」
「ご理解頂き感謝します。それでは作戦会議を終了致します。すでに斥候ゆっくりとの小競り合いが起きていますので、各員、情報漏洩に注意してください。では、解散。」

会議に参加した男たちが一斉に腰を上げ、挨拶を交わしながら外へ出て行く。
男たちは愛する家族が待つ家へと帰るために扉の外の吹雪へと次々姿を消し、後に残ったのは彼と里長だけになった。

「それでは、私もこれで。向こうで加工所の皆様とうち合わせをしなければならないので。」
「ああ、武運を祈る。」

彼もそう言って外へ出て行き、最後に残った里長は冷えた体を温める為、茶でも飲もうかと立ち上がっていった。




 まりさは勝利を確信していた。
昨日おうちを破壊してくれた愚かな人間は赤ちゃんゆっくりをかなりの数惨殺しており、それ自体は群れの存続に影響があるほどのダメージだったが、現有戦力──つまり成体ゆっくりの殺害数は2桁にすら届かないというレベルだったので、人里侵攻には何の影響もなかった。

あかちゃんをころしてもつよいゆっくりをころさないなんて、あのにんげんはほんとうにばかだね!

昨日その人間のせいで死に掛けたのだが、餡子脳はそのような自分に都合の悪いことは覚えておらず、昨日の人間はまりさの中で雑魚ということになっていた。

それに、おともだちのありすやみょんもたすけにきてくれたからぜったいまけないね!

友好関係にある巨大ありすや巨大みょんの群れから結構な数の巨大ゆっくりが増援に来ており、その事もまりさの自身を増大させていた。

自分たちの後方で爆発が発生するたびに、巨大ゆっくりが数匹に通常ゆっくり1ダースが脱落している事にまりさは気づいていなかった。
巨大ゆっくりが大量に動くとき発生する音と巻き上がる地吹雪のせいでまりさの視覚と聴覚が半ば麻痺していたから。

そんなまりさでも森の向こうが徐々に明るくなってくるのは分かった。森の出口だ。

「ゆっ!みんな!もうすぐにんげんのところだよ!ゆっくりじゅんびしてね!」

まりさは走行中の巨大ゆっくりの上から指示を出す。
それを聞いた仲間たちは巨大ゆっくりが前面に出るように加速し、通常サイズがその後ろに隠れるようにやや減速した。

まりさは今まで敵対してきた群れをいくつも滅ぼしたこの陣形に絶対の自信を持っていた。
だから、森を抜けた瞬間に人間たちの攻撃で足元の巨大ゆっくりごと吹き飛ばされ、高速で木の幹に叩き付けられても何が起こったかわからなかった。




 リーダーまりさ自ら率いる最初のゆっくり集団は森を抜けると同時に待ち構えていた人間の一斉射撃によってリーダーを残し全滅した。

雪の色と餡子の色が絶妙なコントラストを作り出す。

「みんな!にんげんたちをころすよ!」
「ゆっくりできないようにしてやる!」
「あやまってもゆるさないよ!」

第2集団がすぐに現れ、最初の集団の成れの果てが見えないのだろうか同じような陣形で突撃していく。
その集団は最初の物より5メートルほど先に進めたが、そこが限界だった。


「ゆぶぶぶぶぶぶぶっ!」
「ゆ゛ーーーーーーっ゛!!」
「もうし゛ないか゛らゆるし゛へ゛っ!!」

重厚な音を立てて機関銃が弾を吐き出していく。
何発かに1発の割合で混ぜられた曳光弾の放つ光が巨大ゆっくりへと吸い込まれ、瞬時に穴だらけの巨大饅頭へと変化させた。
そればかりか、巨大ゆっくりの柔らかい体を反対側まで突き抜けた7.7ミリ弾はその後ろを進んでいた通常ゆっくりに命中し、そこでやっと運動を止めた。
その運動エネルギーを受け止めた通常ゆっくりは既にバラバラになっていた。

このような光景が防御陣地に三箇所据え付けられた機関銃によって現出させられていく頃、同時に他の光景も現れ始めた。
陣地中ほどで待機していた加工所研究開発部の戦車中隊が侵攻してくるゆっくりの増大を見て攻撃を始めたからだ。

「目標!前方の巨大ゆっくり!弾種榴弾!撃ぇーーーーっ!」

「ゆっく゛りし゛て゛て゛ね!こっち゛こないて゛ねへ゛っ!?」
「みんなはれいむがまもってあげるほ゛おぉっふ゛っ!!」

合計10門の戦車砲が咆哮をあげ、灰色に塗装された様々な形の鋼鉄が振動するたびに巨大ゆっくりが体を貫通されて悲鳴を上げ、その後ろの通常ゆっくりが榴弾の爆発により木っ端微塵にされていく。

「みんなはまりさのかわりにしんでほしいんだゼゴブッ!」
「ゆっくりしんでいっぺぺぺぺぺっ!」

仲間が次々と穴だらけのオブジェにされるのを見たゆっくり(特にまりさ種)がその場から逃げ出す。
だが、機関銃の弾は勇敢なゆっくり臆病なゆっくり誠実なゆっくり卑怯なゆっくり大きいゆっくり小さいゆっくりを区別せず平等に死を与えていく。

「おか゛ーち゛ゃーん!た゛す゛け゛へ゛っ!!」
「まりさ゛をこ゛ろし゛て゛もいいか゛らみんなをた゛す゛け゛く゛っこ゛ーーっ!!」
「ころさ゛ないて゛えヘ゛フ゛ヘ゛ーーーッ!!」

幻想郷においては美しさの点でおそらく最底辺に位置する弾幕が展開されるたびにゆっくりの命が刈られ、白化粧の風景が飛び散る餡子に汚されていった。




 5個集団100匹のゆっくりの突撃を粉砕した陣地に僅かな静寂が訪れた。
5個目のゆっくり集団が突撃を中止、仲間の死骸や仲間だった物の一部を引きずり、口に入れて回収し始めた事に陣地の人間が気づいた段階で射撃は停止されていたからだ。
突撃と射撃の中止タイミングが少しずれていたために回収役のゆっくりが10匹以上回収される側になっていたが。

機関銃陣地の人間は加熱し磨耗した銃身を取り替える為に、大量に消費された機銃弾を補給する為に僅かな人間を残して後方へ必要な物資を取りに行ってしまった。

戦車隊は横付けされたリヤカーから砲弾を受け取っている為に全員配置についていたが、ハッチから砲弾を受け取っている為に直ちに戦闘可能と言う訳ではなかった。

全員、機関銃と戦車砲の前に無謀な突撃を繰り返して餡子の山を築くゆっくりに油断していた。

だから、陣地から最も突出していた九七式中戦車の車体前方で火花が散って甲高い衝撃音が発生したとき、それに乗車していた人間は気のせいだと無視した。
ゆっくりが戦車の装甲を打ち抜くなど無理だと思っていたから。


森から巨大ゆっくりが再び姿を見せたとき、戦闘可能なのは陣地中央の1輌のみだった。


「ちいさいゆっくりはいしをどんどんあつめてね!」
「おっけー!ありすにまかせて!」
「おおきいゆっくりはもらったいしをどんどんはきだしてね!」
「ばかなにんげんはおどろくだろうね!」
「たのしみだね!」

木の根元で潰れていたところを救出されたリーダーまりさが生き残りに指示を出す。
巨大ゆっくりの肺活量をいかして砲台にしようとしているのだ。

ぽんっ、という二重の意味で気の抜ける音が森に反響し、陣地へ数十個のこぶし大の石が飛来する。
殆どの石は一番目立つ戦車へ向かって発射され、甲高い音を立てて戦車の装甲に弾かれたが幾つかの石は効果を発揮した。

『こちら第1機銃座!石で機関銃がゆがんだ!射撃不能!』
『7号車から1号車。今の投石で履帯が切れたようだ。自走不能。指示を請う。』

どのみち弾薬切れで射撃できない機銃要員が指示を受けて下がっていき、唯一戦闘可能な四式中戦車がエンジン音を上げて陣地の前方に出る。

「ばかなにんげんだね!それだけでかてるわけないじゃん!」
「はやくあやまってね!くるしまずにころしてあげるよ!」
「あやまってね!」「あやまってね!」
「ゆーっゆっゆっゆっ!」

勝ち誇るゆっくりが戦車に対して罵声を浴びせる。
満面のいやらしい笑みをうかべた巨大まりさだったが、返事は彼女の期待に沿った物ではなかった。

巨大まりさにオレンジ色に光る物体が突入した瞬間、彼女はくぐもった悲鳴をあげながら巨大な虐待お兄さんに蹴り飛ばされたかのように中央がへこみ、瞬きする間もなく後頭部が膨らみ炸裂した。
一式破甲榴弾が巨大まりさ自慢の分厚い皮をちり紙のように貫通し、そのまま後ろへ抜けて行ったのだ。

五式七糎半戦車砲から放たれた砲弾はこのような光景を5回再現し、6匹目の通常ゆっくりに突入してからやっと炸裂した。
リーダーまりさの小間使いをやっていたゆっくりれいむが破裂する。
後方で他のゆっくりに指示を出していたリーダーまりさに加熱された餡子の酸化物が降り注いだ。

「よ゛っ゛、よ゛く゛ほ゛れ゛い゛ふ゛を゛!!」

滝のような涙を流し、リーダーまりさは人間へと突撃。
何事かと振り向いた巨大みょんの横をすり抜け、石を集積中だった赤ちゃんれいむを飛び越して駆けた。
最も先頭にいる巨大ゆっくりを追い抜いたとき、目の前の惨状に気がついた。

まりさの目の前にあるのは餡子と皮の山。森の出口正面の為にここで無残に撃ち殺されるゆっくりが多かったことを物語っている。
苦痛の表情をした顔の皮とまりさは目を合わせてしまった。
背中に何か冷たい物を感じるまりさ。

まりさの右にはたくさんの瀕死ゆっくり。「い゛た゛い゛よ゛お゛ぉ゛。」「ゆ゛っく゛り゛し゛た゛い゛よ゛」「ま゛り゛さ゛。た゛す゛け゛て゛よ゛は゛り゛さ゛」ゆっくりのうめき声がたくさん流れてくる。
元気なゆっくりが葉っぱを貼り付けてあげ、言葉をかけるなど治療行為を行っているが餡子の流出が止まらず、どう見ても助かりそうに無かった。

まりさの左には形が残っているゆっくりの死骸が集積されていた。
話しかければ今にも起き上がるんじゃないかという安らかな顔で目を閉じたゆっくりれいむが運ばれてきて、死骸の山に加えられた。

まりさは再び正面に顔を向けた。
餡子と皮の山の向こうには灰色の塊が鎮座している。人間の乗り物だ。
後部から煙を噴き出し、その塊がが次々とまりさの方へ向かってくる。

あれが、あれがまりさのともだちを!あれがまりさのかぞくを!あれがまりさのなかまをころしたんだ!

怒りの視線を射殺さんばかりに灰色の塊へと向けるまりさ。
ふっと、何かを決意して口を開く。

「ひ゛んは゛!ひ゛んけ゛んはゆっくりし゛て゛るみた゛いた゛よ!いは゛のうち゛にこ゛ろせ゛えええぇぇ!!」

20を切るまでに減った砲台ゆっくりがリーダーの命令を受けて口を開けた。
次に石を頭に載せた通常ゆっくりが近づき、砲台ゆっくりがそれを受け取る。
本来ならば砲台ゆっくり1に対し、石運びゆっくりは3を確保して迅速な射撃を実現していたはずだったが、急速な石運びゆっくりの消耗により射撃間隔がひどく開いてしまっていた。

でも、これまでだよ。にんげんののりものがすごくてもこんなにたくさんのいしをふせげるわけないよね。

砲台ゆっくりが一斉に空気を吸い込むと言う頼もしい光景にまりさは勇気付けられた。
今までにその自信が何回打ち砕かれたかはもう忘れて。

「みんな!いくよ!ゆっくり~!」

「装填よし!」
「目標!砲撃ゆっくり!弾種徹甲!」


「うってね!」
「テェッ!」

砲台ゆっくりと戦車隊の射撃はほぼ同時だった。
しかし、ゆっくりが放った石は放物線を描き、それに対して砲弾はほぼ一直線に突き進んでいく。
どちらが先に効果を発揮するかは明らかだった。
ゆっくり達にとって幸いだったのは、石が効果を発揮したかどうか判別する前に死んだ事だった。




 「は゛ぁ…は゛ぁ…な゛ん゛て゛ぇ!?な゛ん゛て゛ぇっっ!????」

リーダーまりさは僅かな手勢を引き連れて廃鉱山へと泣きながら逃げ帰っていた。
切り札を人間に悉くつぶされた挙句、新しく開発した「投石」作戦すら無効だったから。
強靭な悪い巨大ゆっくりの皮膚すら貫通する「投石」を防がれたのはショックだった。



あの時、自分達の放った石よりも先に人間達の攻撃が到達して砲台ゆっくりを粉砕、餡子と白雪の混合物が舞い上がったが、それでもまりさは口をゆがめて笑うのを止めなかった。

試しうちした時に見た、放物線を描く石が悪いゆっくりの上から降り注いで、餡子の飛沫を上げながらゆっくりが絶命した光景。
それが今度は人間相手に起きるだろうと確信していた為だ。

しかし現実は厳しかった。
威力を期待された石は戦車の一番薄い上面装甲すら貫徹できず、火花を上げて跳ね返された。



必殺の攻撃すら防がれたゆっくりの群れはその光景を目にした時点で壊乱。
残り少ない巨大ゆっくりが人間の前に立ちふさがり、通常ゆっくりがまりさを援護しながら脱出を開始した。
巨大ゆっくりの断末魔を聞きながら全速力で「おうち」を目指しているのが今の状況、というわけだ。

まりさが後ろで何かはじけるような音がしたのに気づくと同時に、横を走っていたゆっくりみょんが顔をはじけさせながら前につんのめる。

「ま…さ…ゆ…くり…にげ…て…ね…」

まりさはみょんを見ない。見ると追いつかれて殺されると知っていたから。

再び後方で音が発生。ついでまりさのまわりを高速で何かが飛びぬけていった。
高速で飛ぶ何かが木に当たり、木片を高速で周囲に撒き散らす。
ゆっくりちぇんが木製の散弾を食らって倒れた。
ありすの群れから来てくれたゆっくりありすが高速で飛ぶ何かに全身を貫かれて吹き飛ぶ。

それでもまりさは前を見続け、前進し続けた。
まりさを救うために散ったゆっくりの命を無駄にしない為に。

そうするうちに追撃がやんだが、それに気づかずリーダーまりさは森を駆け抜けていった。




 「撃ち方やめ!撃ち方やめ!」
逃走した指導者まりさとその取り巻きを追撃していた加工所職員達に停止命令が伝わる。
停止させた理由が分からず疑問に思ったが、彼らはそれを態度に表さずに帰っていった。
それが彼ら加工所研究開発部実験隊の仕事だから。



ごめんね。ぜんぜん「雪中」じゃないね。

by sdkfz251

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最終更新:2008年09月14日 05:39
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