ゆっくりいじめ系1701 ある群れとドスの話

人里離れた野原に、小さなゆっくりの群れがあった。
そこでは誰もかれもが皆ゆっくりしていた。
あるゆっくりれいむはぽかぽか陽気の下で気持ち良くお昼寝。
あるゆっくりまりさは友達と共に元気に野原をかけ回る。
あるゆっくりありすは家族と一緒に歌を歌う。
あるゆっくりぱちゅりーは群れの子供達に様々な知識を教える。
ゆっくりを襲う捕食種のゆっくりや人間もいない。
そこはまさにゆっくりにとっての天国。ゆっくり達の笑い声が絶えることのない、最高にゆっくり出来る環境だった。

しかしそんな群れに転機が訪れる。
ある日、かつてないほどの豪雨がゆっくりの群れを襲った。普段の雨風なら防げるおうちも、全く役に立たないほどの強い雨。
その雨がやんだ後、辺りに広がっているのは地獄のような光景だった。
六割ほどのゆっくりが溶けてぐちゃぐちゃの餡子になり、何とか生き残ったゆっくり達も体力の低下が激しい。
群れの長ぱちゅりーは悩んでいた。このままでは群れは全滅してしまうと。一体どうすればいいのか、全く見当がつかない。
そうしている間にもゆっくり達は確実に衰弱していく。

「むきゅ、どうすればいいの…」

比較的外傷の少なかった長ぱちゅりーが食料や薬草を集めながら呟く。
そんな落ち込む彼女の姿を、大きな大きな影が覆った。

「ゆ? 一体どうしたの?」

それはとても大きなゆっくりだった。2m半はあるであろうその体長。頭に被る帽子と金色に光る髪からまりさ種だとわかる。
ゆっくりならば誰もが知っている、それはドスまりさと呼ばれるゆっくりだ。ゆっくりにしては知能が高く、その頭脳を駆使して群れに平穏をもたらすといわれている。
その姿を見た長ぱちゅりーはすぐさまドスまりさにお願いをした。

「むきゅ! おねがいよどす! ぱちゅりーたちのむれをたすけて!」


長ぱちゅりーに連れられて群れまでやって来たドスまりさが見たものは凄まじい光景だった。辺り一面に溶けた皮と餡子が散らばり、それらが黒い海を形成している。
生き延びはしてもほとんど動くことのできないゆっくりを、傷の浅いゆっくり達が介抱していた。

「おねがい! れいむたちのむれをたすけて!」
「このままじゃまりさたちぜんめつしちゃうんだぜ!」
「おねがいだよー! どすになってよー!」

生き延びたゆっくり達の言葉を聞いたドスまりさはしばらく考えるような顔をした後、笑顔になって答えた。

「わかったよ! まりさはこの群れのドスになるよ! それがドスの役目だからね!」

わぁーっとゆっくり達の歓声がわく。ドスまりさはまず動けるゆっくりに食べ物を出来るだけ集めるように指示した。
皆が食料を集めている間は、ドスまりさがゆっくりオーラを発生させつつ重傷のゆっくり達の看病をする。
しばらくそんな事を続けていると、重体だったゆっくり達も元気を取り戻し、動けるようになった。

「ゆっ! なおったよ!」
「やったね! これもどすのおかげだよ!」
「ありがとう! どす!」

それからというもの、群れに平穏が訪れた。ドスがきちんと群れを管理し、ゆっくり達もそれに従う。
群れにドスまりさがやって来てから数ヶ月経つ頃にはとても大きな群れになっていた。

「むきゅ! むれがすごくおおきくなったわ! これもどすのおかげよ!」

群れの長のぱちゅりーがドスまりさに感謝した。
自分達だけではここまでゆっくりした群れは作れなかっただろう。それどころか、下手をしたらあのまま全滅していたかもしれない。
長ぱちゅりーだけでなく、数多くのゆっくり達がドスまりさに感謝の意を述べ、その証として群れのゆっくり達はドスまりさに手製のリボンをプレゼントした。

「わぁ! みんなありがとう!」

ドスまりさはとても嬉しそうに、自分の髪に付いた数多くのリボンを眺めた。
それからもドスまりさは、群れに困った事があれば解決案を出し、長ぱちゅりーはそれをそのまま実行した。
おかげで群れはこの周辺では類を見ないほどの大きさになり、それに加えて誰もが皆ゆっくりできているという理想の群れとなった。
そんなある日の事。
季節は秋。そろそろ越冬の準備をしなければならない時期である。
しかし、その年は異常気象により山や森に生えている食料が例年より少なかった。大きくなった群には到底足りない。
これはドスまりさにも予想外だったらしく、難しい顔をしながら長ぱちゅりーと話し合っていた。

「むきゅ…。どす! どうすればいいかしら?」
「うーん、そうだねぇ」

長ぱちゅりーに聞かれ、少し悩んだ後にドスまりさは次のように言った。

「そうだ! 人間の里に行こうよ! あそこなら沢山食べ物があるよ!」
「むきゅ!? にんげんのさと!?」

あまりの予想外の言葉に、長ぱちゅりーは大声をあげてしまった。
この群れは人里から離れているため、人間が来る事はほとんど無く、ほとんどのゆっくりはその恐ろしさを知らない。
しかし、長ぱちゅりー等の群れの創設メンバーは人間の強さと理不尽さを知っている。だからこそ人の手の届かないこの離れた地に群れを作ったのだ。
人間が沢山いる場所へ行くなんて自殺行為以外の何物でもない。
だが長ぱちゅりーは思った。ドスも何の勝機もなく人間の里に行こうとは言わないだろうと。
確かに人間は強い。しかしドスまりさがいれば人間に勝てるのではないか。いや、間違いなく勝てるに違いない。
これまでドスの言うとおりにしていればゆっくりできたのだ。だから今回もドスが言う事は正しいに決まっている。

「むきゅ、わかったわ! にんげんのさとへいきましょう!」
「そうと決まれば善は急げだね! 早速群れの皆を集めよう!」

こうして広い野原に群れのゆっくり達が集められた。大小様々多種多様なゆっくり達が所狭しと並んでいる。
どのゆっくりも、これから一体何が始まるんだろうと期待半分不安半分のような顔つきだった。
ざわつくゆっくり達の前に、長ぱちゅりーとドスまりさが姿を現した。

「みんな! ゆっくり聞いてね!」

まずはドスまりさが口を開き、群れのゆっくり達に言った。
群れの注意が二匹の方へ向いたのを確認すると、長ぱちゅりーが続く。

「むきゅ! いまからにんげんのさとにいくわ!」

その予想外の言葉にゆっくり達は再びざわつき始めた。

「ゆっ! にんげんさんはとてもこわいよ!」
「そうだよ! ゆっくりできないよ!」
「ぱちゅりー! あたまがおかしくなっちゃったの!?」

年齢の高いゆっくり達が長ぱちゅりーに向かって言う。群れの初期からいる彼女達は身をもって人間の恐ろしさを知っているのだ。
それをいきなり人間の里に行くといわれても受け入れられるはずがない。それは仲間達を危険にさらすことなのだから。
だが長ぱちゅりーはそんな同期のゆっくり達の言葉にも落ち着いて対処した。

「しんぱいいらないわ! これはどすのていあんよ!」
「ゆゆっ! どすの!?」

それを聞いた老ゆっくり達に動揺が走った。
人間の里に行くなどばかげている。だがそれをドスが提案したのだ。ドスはいつも正しい。だが人間は強くて恐ろしい。
群れは混乱に陥った。一体どうすればいいのか。何をするのが正しいのか。

「どすがいうことなんだぜ! ぜったいにまちがいないんだぜ!」

そんな時、ある一匹のゆっくりまりさが声を上げた。そしてまりさの言葉は徐々に波紋を広げ、群れのゆっくり達に伝染していく。
ついには多くのゆっくりがドスまりさに賛成した。

「にんげんなんてまりさたちにかかればいちころなんだぜ!」
「たべもののひとりじめはよくないよね!」
「それにわたしたちにはどすもついているわ!」
「とってもたよりになるんだねー! わかるよー!」

ワイワイと騒ぎだす群れの、主に若い世代のゆっくり達。
だがそれも仕方のないことだった。彼女達は人間など話でしか聞いたことがないのだから。
いくら人間が強かろうと、自分達は数が多い。それに加えてドスもいるのだから負けるはずがない。そう考えたのだ。
そんな群れの雰囲気にのまれた老ゆっくり達もドスの提案を受け入れた。
いくら年の功があるといえど所詮は餡子脳、自分の経験よりドスの言うことのほうが絶対に正しいと決め付けてしまった。

「じゃあ出発するよー! 新しいゆっくりプレイスを目指して頑張ろうね!」
「「「えいえいゆーーー!」」」

こうして群れの大移動が始まった。野を越え山を越え、ドスまりさ率いるゆっくりの大群が人里を目指して進む。
途中でれみりゃやふらんの襲撃にあったが、ドスまりさが全て撃退した。

「やっぱりどすはすごいね!」
「すごくたよりになるよ!」
「どすがいればにんげんもいちころだね!」

恐ろしい捕食種に勝利したドスまりさを、ゆっくり達は次々と褒め称える。
ドスは無敵だ。ドスの言うとおりにしていれば自分達はゆっくりできるんだ。
そして数日後、ゆっくり達は人里近くまでたどり着いた。
まずゆっくり達の目に入ったのはとても大きな、自然界では見たこともない建物だった。その建物から伸びている煙突からはとても美味しそうな甘い匂いが漂ってくる。

「ゆっ! おいしそうなにおいだね!」
「きっとあまあまがたくさんあるんだぜ!」
「すっごくとかいはのふんいきだわ!」

その甘い匂いに涎を垂らすゆっくり達。我先に建物へと突撃しようとする彼女達を、ドスまりさが制止した。

「みんな! ちょっとここで待っててね! 人間は危険だからまずまりさが偵察に行ってくるよ!」

群れのゆっくり達は少し残念そうな顔をしたが、これまでドスの指示に従っていればゆっくりできた事を思い出し、その場で待機する事にした。
そんなゆっくり達にドスまりさは頬笑みかけ、人間の建物へとゆっくり向かって行った。
その場に残されたゆっくり達は未だ見ぬ最高のゆっくりプレイスに胸躍らせていた。
あんなに大きなおうち。そしてそこから漂ってくるとても美味しそうな甘い匂い。
一体どんな甘い食べ物があるのだろう。どんなゆっくりできる場所なんだろう。早くあの場所へ行ってみたい。ゆっくり達の期待は膨らむばかりだ。
しかし、待てども待てどもドスまりさは戻ってこない。
元々忍耐力がほとんど無いゆっくりである。もう我慢できない、とばかりに一匹のゆっくりまりさが群から離れようとした。
とその時、突然群れの周囲の草木がガサガサと揺れ、次の瞬間には地面の下から大きな網が勢いよく飛び出してゆっくり達を捕らえた。

「ゆぅぅ! どうなってるのおぉぉぉぉ!?」
「うごけないよおぉぉぉぉ!!」

突然の出来事に混乱するゆっくり達。網の目は非常に細かく、赤ちゃんゆっくりでさえ通り抜けることが出来ない。
そんな動けない彼女達の周りには何人かの作業服を着た人間がいた。
それを見てゆっくり達は理解した。自分達は捕まったのだと。
そして多くのゆっくり達は人間に捕らえられたゆっくりがどうなるのかと聞いたことがあった。
即ち、ゆっくりできなくなると。
その事を思い出し、群れのゆっくり達は次々に泣き叫び始める。

「だずげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「うごけない゛よ゛おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「まり゛さをはやぐここから゛だすんだぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「おかぁぁぁしゃぁぁぁぁぁん!! ゆっくちできにゃい゛よおぉぉぉぉぉ!!」
「も゛うやだぁぁぁおうぢかえ゛るうぅぅぅぅ!!」

そんな中、一匹のゆっくりが周りの人間達に言った。

「ゆ、ゆっ! にんげんさんなんて、どすにかかればいちころだよ!」

その言葉に我を失っていたゆっくり達も正気を取り戻した。
そうだ、自分達には強いドスが付いている。ドスより小さい人間なんて恐れるに足らないんだ。

「そ、そうなんだぜ! もうすぐどすがもどってくるんだぜ! いのちごいするならいまのうちだぜ!」
「にんげんなんてどすにやられちゃえばいいのよ!」
「どしゅはとっちぇもちゅよいんだよ!」

泣くのをやめ、驚くほど素早く罵倒に切り替えるゆっくり達。その顔には余裕の表情が張り付いている。
が、人間達は謝るどころか全く動くそぶりもない。
そんな人間達の様子にゆっくり達が腹を立てていると、大きな建物の方から白衣を着た人間がやってきた。その横には大きなドスまりさが笑顔で付き従っている。
とても頼りになるドスの姿を見たとき、ゆっくり達は自分達の勝利を確信した。ドスが人間を従わせたのだと。
その白衣の男は捕らえられたゆっくり達の前で立ち止まり、その数に驚愕した。

「へぇ、こりゃあ…。今回はまた数が多いな」
「でしょ? ここまで連れてくるのに苦労したよー」

品定めするような視線をゆっくりの群れに対して投げかける白衣の男。その表情は生き物というよりまるで実験材料を見るような目つきである。
それもそのはず、近くに見えるあの建物はゆっくり加工場で、この男はそこの職員なのだから。
ゆっくり達の頼みの綱のドスまりさはその男の隣で楽しそうに笑っている。

「ゆゆっ! どす! はやくれいむたちをここからだしてちょうだいね!」
「ゆっくりしないでにんげんたちをやっつけてね!」

しかし、当のドスまりさはそんな彼女達の言葉などまるで聞こえないかのように隣にいる男と話し込んでいる。
何度助けを呼んでもずっとドスまりさの様子は変わらない。
ここにきてようやくゆっくり達に違和感が生まれ始めた。
一体何故ドスは自分達の言う事を聞いてくれないんだろう。何故ドスは人間なんかと楽しそうにおしゃべりしているのだろう。
考えれば考えるほど、ゆっくり達に焦りが生じる。

「どずぅぅぅぅぅぅぅぅ!! たずげでぇぇぇぇぇ!!」
「にんげんなんてはや゛ぐやっづけでよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

だがドスまりさは助けるどころか捕まっているゆっくりの方を見ようともしない。
横にいる白衣の男と楽しげに話し合っているだけである。

「どぉぉぉじでだすげでぐれない゛の゛ぉぉぉぉぉぉ!!」
「どすのばかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「まり゛さたぢがこんなことになったのもどすのせいなんだよおぉぉぉぉぉぉ!!」
「どすがだいじょうぶだっていうからついできたのに゛いぃぃぃぃぃぃ!!」

と、様々にドスまりさを罵倒するゆっくり達。
するとドスまりさは大きく溜息を吐いて囚われたゆっくり達と向き合った。
やっと自分達の言葉が届いた。これでドスが助けてくれる! そう思ったゆっくり達だったが、直後におかしな事に気付く。
自分達を見るドスの顔。それはさっきまでの優しくて頼りになるドスの顔ではなかった。
心の底から不快そうな、まるで汚物でも見るような、相手を完全に見下した目をしている。
そんな冷たい視線をゆっくり達に投げつけたまま、どすまりさは面倒臭そうに口を開いた。

「どうしてかって? 原因はそれだよ! 未だ状況を把握できていないその頭の悪さ! まだ騙されたことにも気づいてない愚鈍さ!
 自分で物事を考えようとしないで、強いものに従順に従う愚かさ! それがこうなった原因だよ!」

今まで聞いたことのないほど凄みの籠ったドスの言葉の後、ゆっくり達に静寂が訪れた。あまりの事に餡子脳が処理できないでいるのだ。
そして群れの賢いゆっくりから順々に全てを理解し始めた。自分達はドスに騙されたのだと。

「ゆがぁぁぁぁぁぁ!! ぞんな゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゆ゛っぐり! ゆ゛っぐり゛ぃぃぃぃぃ!!」

大混乱を引き起こしたゆっくり達を、ドスまりさは冷ややかな目で見下ろしている。
このドスまりさはゆっくりという存在が大嫌いだった。
だからゆっくり達を騙し、加工場へ連れて来て人間に引き渡すという事を今までも何度か繰り返している。
かつてはこのドスまりさもゆっくり達の味方だった。きちんと群れの中でドスの役目を果たそうと努力していた。
だが何度繰り返し言っても他のゆっくり達は言う事を聞かず、好き勝手に暴れたりしていた。
それだけならばまだ良い。誰にも束縛されたくないという心情は理解できた。
しかしゆっくり達は好き勝手やるくせに、何か困った事が起きるとすぐにドスまりさに助けを求めに来るのだ。
自分のしでかした行動に責任を持たず、すべてドスまりさに転嫁する。来る日も来る日も他のゆっくり達の尻拭い。
そのうちドスまりさは全てが空しくなった。何度説明しても理解せず、自分のことだけしか考えていないゆっくりにドスまりさは絶望した。
それと同時にかつては自分達ゆっくりの命を簡単に奪い、楽しんでいた人間の心情も理解できるようになっていった。
こんな連中はまともに相手をしてても意味がないのだと。
そしてドスまりさはゆっくりを見限り、人間側についたのだった。

「わかった? あんた達はまりさに騙されたの。これからは加工場でゆっくりしていってね!」

ドスまりさはこれが最後とばかりに群れを一瞥し、背を向けた。その大きな背中に罵声が飛ぶ。

「よぐもだまじたなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「お゛まえ゛なんでどすじゃな゛いんだぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ゆっぐりできないどすはじねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

ゆっくり達の罵倒もどこ吹く風。ドスまりさは完全にそれらを無視し、捕らわれたゆっくり立ちの周りにいる人間、加工場の職員達に話しかけた。

「今回は数が多いから少し面倒だと思うけど、いつものお願いできますか?」
「はいはい、おまかせあれ」

ドスまりさの言葉に職員達は愛想よく答えてテキパキと動き始める。
ある者はドスまりさの背後に周り、またある者は脚立を持って来てそれに上る。
こうしてドスまりさの後ろ半分を職員達が囲むという形が出来あがった。

「それじゃあ始めますよ」
「ご迷惑おかけします」

ドスまりさの返事を聞くと、彼女の周りにいた職員達は次々とドスまりさの美しい金髪に付いているリボンを取り外し始めた。

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ま゛り゛ざのあげたおりぼんがあぁぁぁぁぁ!!」
「どぼじでごんな゛こどずるの゛おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

泣き叫ぶゆっくり達の目の前で、職員達は素早くリボンを髪から外していく。
やがてすべてのリボンを取り終えると、地面に落ちたそれを一か所にまとめた。

「はい、終わりましたよ。このリボンはいつも通りの処分方法で?」
「ええ、まりさが片付けます。危ないので離れていてください」

そう言うとドスまりさは、自分の背後に積まれている外されたリボンの山に向きなおった。
その間に職員達はそそくさとその場から離れる。そしてドスまりさが大きく口を開けた。

「えいやっ!」

掛け声と共にドスまりさの口内から眩しい閃光が発射された。ドススパークである。
今はその威力と範囲は小さく狭められていたため、ほんの一瞬の輝きだった。それでも生物にとって眩しいものは眩しい。
職員やゆっくり達が瞑った眼を開けると、そこには先程まであったリボンの山が一瞬にして消え去っていた。

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! おりぼんが、おりぼんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「でいぶのあげたおり゛ぼんがなくな゛っちゃったぁぁぁぁぁ!!」
「じね! じね! どすはゆ゛っぐり゛じねぇぇぇぇぇぇ!!」

信頼の証として渡したリボンを、あろうことかドスまりさ自身に破壊された。その事実がゆっくり達の心を深く抉る。
当のドスまりさが自分達を無視し、何事もなかったかのように横にいる白衣の男と談笑している事もっくり達の神経を逆なでした。

「それでは、我々はこれらを加工場へ持っていきますので」
「おう、頼んだ。俺も後から行く」

職員達は上司である白衣の男に言い、ドスまりさに一礼してからゆっくり達が中に入っている網を近くに用意していた荷車に乗せた。

「かごうじょいや゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どずぅぅぅ゛! はやぐまり゛ざをだずげるん゛だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ゆ゛っくりじたけっかがこれだよぉぉぉ!」
「ゆ゛えーーん! ゆ゛えーーーーん!」

泣き叫ぶ事しか出来ないゆっくり達を、職員達が加工場へと運んでいく。
白衣の男が遠ざかっていくゆっくりの群れを見ながら、隣にいるドスまりさへと話しかけた。

「相変わらずえげつないことするねぇ。自分と同じ種族相手にさ」
「全く、あんなのと同じ生き物だと思うと悲しくて涙が出てくるよ」

ドスまりさが溜息を吐きながら返す。冗談めかして言っているが、その顔にはどこか哀愁が漂っているようにも見える。

「今回も駄目だったのか?」
「うん。もしかたら、とは思ったんだけれどね」

今回の群れは非常に優秀なゆっくり達が揃っていた。無闇に人に近づかず、自分達のテリトリーの範囲内で暮らしていた。
もし人間の里を襲うという提案に群れの皆が反対し、自分達の力だけで何とか工夫して冬をやり過すという選択をしていたならば、
ドスまりさはこの群れは加工場に引き渡さないつもりでいたし、少しはそれに期待していた。
だが現実はこの通り。ゆっくりと人間の力の差を身をもって理解しているゆっくり達や、話を聞いて知っている筈のゆっくり達も最終的には賛成した。
それも全て"ドスの言う通りにすればゆっくりできる"などと信じ込み、自分で考えることを放棄したからだ。
結果、落胆したドスまりさは群れをまとめて加工場へ連れてきたのである。

「賢いゆっくりって中々いないよねぇー」
「本当に賢いのなら、そもそもドスの力なんて借りないと思うがね」
「それを言っちやあおしまいだよ」

男とドスまりさが談笑していると、加工場から新しい職員が荷車を引いてやって来た。その荷台には山盛りの野菜クズや餡子が載せられている。
それらは痛んでいたりする野菜や、ゆっくりを加工する過程で生まれた餡子カスだった。
食堂で使う野菜の方はともかく、毎日大量のゆっくりの加工過程で発生する餡子カスの量は馬鹿にならない。
以前ドスまりさが、どうせ捨てるなら欲しいと言ってきたのをきっかけに、こうして報酬のような形で渡すことになったのだ。
加工場側は残飯処理をしなくてもよいし、ドスまりさは人間の食べ物が手に入るので両者両得である。

「本当にこれでいいのか? ほとんどが腐りかけているが」
「うん、大丈夫だよ。体のつくりが単純だからね。少しぐらい痛んでても何にも問題ないの」

こういうところはゆっくりで良かったかな、とドスまりさは自嘲気味に苦笑いした。

「じゃあもうまりさは行くね! 食べ物をありがとう!」
「おう。まあ、そのうちまたゆっくりの補充を頼むわ」

まかせといて!とドスまりさは笑顔で答え、山盛りの残飯を乗せた荷台を引いて山奥の巣へと帰って行く。
徐々に小さくなる彼女の背中を、哀れなものでも見るような視線で追いながら白衣の男は呟いた。

「悲しくて涙が出る…ねぇ。中途半端に知恵を得るからそうなるんだ」

本当に賢いドスならばゆっくりや人間に関わらず、山奥でひっそりと暮らすだろう。
逆にもう少し頭が悪ければ、ゆっくり達にちやほやされていい気になれただろう。
あのドスまりさはその中間だった。
他者との関わりを捨てるにはまだ未熟で、ゆっくり達に祭り上げられるほど馬鹿ではない。正に中途半端な存在だった。

「まあ、利用できるうちは利用させてもらうさ」

このままずっと加工場にゆっくりを提供してくれるならそれも良し。良き協力者として扱おう。
悟りを開いて山奥でゆっくりひっそりと暮らすならそれも良し。こちらからは一切干渉しないだろう。
調子に乗って人間に喧嘩を売るならそれも良し。せめてもの情けに全力で叩き潰してやろう。
と、男は考えている。
やがてドスまりさの姿が見えなくなると、くるりと踵を返し、彼は自分の職場へと歩を進めた。

人里近くの加工場に、大きなゆっくりの群れが入荷された。
そこでは誰もかれもが皆ゆっくりできないでいた。
あるゆっくりれいむは灼熱の鉄板の上で身を焼かれた。
あるゆっくりまりさは友達と共にベルトコンベアを延々と走らされた。
あるゆっくりありすは一家そろって口を潰され、家族饅頭セットとして加工された
あるゆっくりぱちゅりーはその知識の詰まった中身を絞り出され、残った皮は焼却された。
そこはまさにゆっくりにとっての地獄。ゆっくり達の悲鳴が絶えることのない、最高にゆっくり出来ない環境だった。


終わり

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最終更新:2008年12月10日 23:59
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