どうだい?新しい体は気に入ってもらえたかな?」
心底楽しそうに、爽やかに、元気よく話しかける。
「どぉゆうこどぉなの゙おぉ!?」
「うん、実はこれ、昨日僕がやったんだ♪」
「どぼぢでぞんなごどおおおぉぉぉぉ!」
「君たちが僕の家で暴れたから、そのお仕置きだよ」
「だがらごごはでいぶだぢの…べうっ!!」
親れいむを殴って黙らせる。それを見て一斉に静まりかえるゆっくり一家。
「今から説明するからゆっくり聞いてね。
まず親の君たちは、周りの金属を引き寄せる体にしたよ。
だから歩く時は注意してね。じゃないとこうなっちゃうんだ」
おもむろにパチンコ玉を取り出し、親まりさに向かって投げつける。
「ゆ゙、いだいっ、いだっ、ゆっ、やめてね、なげるのやめでっ、やめてね!」
親まりさの磁力に引きつけられ、加速したパチンコ玉が次々に襲いかかる。
「それと君たちの赤ちゃんなんだけど、本人達に言っても分からないだろうから君たちに説明しておくね。
君たちの赤ちゃんもこの玉と同じようになったんだよ」
そう言って手近な赤ゆっくりを掴むと、今度はれいむの方に放り投げる。
「れいむのあかちゃんになにずるのっ!!いまたすけるから…ねべっ!!」
重い赤ゆっくりが親れいむの眉間にめり込んだ。
「こうなっちゃうからこれからは赤ちゃんに近づいちゃだめだよ」
親れいむにめり込んだ赤ゆっくりを取り出しながら、優しく注意する。
「ゆぐぅぅぅう!!」
取り出した赤ゆっくりは高いところから落ちる恐怖と、めり込んで呼吸が出来なくなる恐怖を思い出し、涙していた。
「うんうん、怖かったね。さ、お母さんに慰めてもらおうねー」
「ゆぅうぅ!おきゃーざーん!」
「「こ、こっちこないでね!!!」」
「なんぢぇええぇぇぇぇ!どぉちでぞんにゃごどいうにょおぉぉ!!」
「あともう一つ」
そう言って親れいむに右手を、親まりさに左手を当て、前後左右にと細かく動かし、振動を与え始めるお兄さん。
両方とも、次第に赤くなり、ぬらぬらと光る汁を分泌し始める。
「ば、ば、ばでぃざぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「んほぉぉぉぉぉぉ!!でいぶぅぅうぅぅぅぅうぅ!」
両方とも発情したようで、子供達の前にも関わらず交尾をしようと、全くゆっくりでない速度で互いに近寄っていく。
が、しかし。
「ゆ゙っ!?」「ゆぅぅう!?」
互いの磁力が反発し、これ以上近寄れない。
「れいむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅどうぢでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ばでぃざぁぁぁぁぁぁぁ、どぼぢでそっぢいげないの゙ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「君たち夫婦はもう二度と触れ合えないから注意してね。
無理に近づくとはね飛ばされてどっか飛んでっちゃうからそこも気を付けてね」
「「ずっぎりじだいよぉぉぉ、ずっぎじざぜでよおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「すっきりを我慢できない君達には辛いだろうけど、我慢してね」
「次はまりさお姉さん達の説明だよ。
まぁもう分かってるとは思うけど、君は口が閉じたままに、そっちの君は逆に口が閉じないようにしたよ。
でも安心してね。思いっきり力を入れれば開けたり閉じたりできるよ」
「…………」「ひゅー…ひゅー…」
思ったより反応がない。先ほどの騒動で、たった一言喋ろうとするだけで力つきてしまうことを知ってしまったようだ。
牙まりさと大口まりさの目には深い絶望の色が宿っている。
そんな2匹の目の前で、お兄さんは棒付きの丸く平べったい飴、ペロペロキャンディーを取り出してみせた。
「これを全部舐めて食べきったら元に戻してあげるよ。時間制限はないから、ゆっくり食べてね」
そう言うと、2匹を別々の机の上に置き、その前にペロペロキャンディーを1個ずつ置いて、
棒の部分をガムテープでしっかりと机に固定した。これ他のゆっくり達に横取りされることも、机から飴を落とすこともないだろう。
牙まりさは精一杯口を開いて舌をだし、ベロベロ舐めている。
大口まりさは限界まで舌を伸ばし、何とか飴に辿り着いた舌先でチビチビと舐めている。
「えーと、じゃ次は君たちの番だね。まぁはっきり言って僕の口から説明するまでもないかな。
君たちは背中がくっついて離れないよ。無理に動くと背中がチクチクするから気を付けてね」
「ゆっぐりでぎないよおぉぉぉぉまりざはなれでぇぇぇ」
「ゆっぐりじだいよおぉぉぉぉ」
「どうしても動きたければ転がると良いよ。試しに“右”に転がってごらん。あ、でも…」
「「ゆぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
「互いが別方向に動くとすっごく痛いからね」
「どぼぢでひだりにいぐのおぉぉぉ!」
「ひだりにいっだのはれいむのほうだよおぉぉぉぉ!」
背中合わせにくっついているため、一方の右はもう一方の左である。
この子供ゆっくりはそれに気付けず、互いにヤスリを押し当てられ捻られる痛みに悶えていた。
「最後は君たちだね」
ガラスの小箱を埋め込まれた、箱れいむである。
「なにいってるの??れいむたちはなんともないよ!おにいさんなんかこわくないからね!」
「みんなをなおしてゆっくりしね!!」
「あー…口で説明するより実際にやってみた方が良さそうだなぁ…」
まず片方の箱れいむを透明な箱にいれて、親まりさが見えるように角度を調節する。
「ここはゆっくりできないよ!さっさとだしてね!」
無視して、もう片方の箱れいむの髪を掴んで持ち上げ、全身を紙ヤスリで丁寧に撫でてやった。
「ゆぎゃぁぁぁぁ!やめてね!ゆっくりやめてね!!」
言われたとおり、すぐには止めずにゆっくり止めていく。
「れいむにいたいことしないでね!!」
「まりさのこどもにひどいことしないでね!」
右頬全体に傷を付けられた箱れいむを、喚いていた親まりさのほうに投げて渡す。さっきの自分にめり込んだ赤れいむを思い出し、一瞬ビクッと身をすくめる親まりさだったが、何も起こらないことが分かると、すぐに擦り傷だらけの箱れいむに駆け寄っていった。
「ゆゆっ!おかあさんがなおしてあげるね。ぺ~ろぺ~ろ」
「ゆ、ゆ、ゆぅぅぅ…」
「はやくなおってね!」
そんなことを言って、箱れいむの傷を舐め始めた。元気づけるためでしかないが、思い込みが激しく、
大量、~一説には7割以上と言われている~、の餡子を失わない限り死ぬことがないゆっくりにとって、
十分効果的な治療法なのかも知れない。治療法、というか治療法(笑)と言った方が適切か。
「ゆ!ゆっくりなおるよ!」
「ゆっくりげんきになってね!」
「さすがまりさのこどもだね!はやくげんきになってね!」
そんなことを考えている間にも、前から横から後ろから、様々な方向からペロペロしてもらい、
擦り傷だらけの箱れいむにも徐々に元気が戻ってきた。
「ゆ!おかあさんありがとうね!もうだいじょう…ぶへっ!」
「ゆぎゃっ!!」
最初はペロペロしてもらっていた方の箱れいむ、次はペロペロしていた親まりさの声である。
「ばでぃざのおべべがあぁぁぁぁ!!いじゃい゙い゙い゙ぃぃぃ!!がらひぃぃぃ!!」
「ゆげっ!!がふっ!!ぐぎゃっ!!あぎゃぎゃぁぁぁぁぁ!!」
箱れいむの体の中には粉とうがらしと磁石の入ったガラスの箱が入っている。
普段は特に問題はないが、近くに金属や磁力を帯びたものがあると、箱の中にある磁石が反応し、その方向へと向かっていくのだ。
親まりさは全身ケガをした自分の子供を治そうと、常にあちこち角度を変えて舐めていたため、
箱の中の磁石があちこち動き回ることになり、その度に箱の内側を激しく叩いていた。
そしてついに、その磁石は、何度も衝突されて脆くなったガラスの小箱を砕き、
大量の粉とうがらしとガラスの破片を箱れいむの体内に残し、磁力の発生源である親まりさに向かって飛んでいった。
しかも運の悪いことに、粉とうがらしが付着した磁石が命中した場所は目。
更に直前までぺろぺろしていたために、突如箱れいむの体から吹き出した粉とうがらしが舌に万遍なくくっついてしまったのである。
一方こちらはいきなり自分の体がおかしなことになってしまった箱れいむ。
動くたびに粉とうがらしが水分を奪いながら体内の餡子と混ざり合い、ガラスの破片であちこち傷つけられる。
とうがらしと混ざった餡子を異物と判断したのか、しきりに吐き出そうとしている。
「ゆべがががっ!げぼごぉ!うがぁぁぁ!!ゆげぇぇ!!うあゆ゙ぎゃぁぁぁ!!!」
吐けばガラスの破片で口内を切り、唐辛子がたっぷり混ざった餡子で苦しむ。
かといってこの苦痛は耐えられるものではなく、動かずにいられるものでは断じてない。
「ぶぎぇ!?ぐゆぅ!ぎゅべめめめめめめめ!!おぶぅふぇ!!」
ほどなくして、箱れいむはこの世を去った。
磁石が飛び出した腹部からは水気のない餡子が漏れ、口には凄まじく辛い物体を詰まらせ、
体のあちこちからはガラスの破片によって内側からめった刺しにされている。
「君も、お母さんや他の姉妹の近くに行くと、ああなるんだよ」
「………?。………。……ゆ!?ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙!?!?!??!??!?」
今まで見たこともない惨い死に方に、言葉どころか意識を手放そうとしている箱れいむに優しく話しかける。
最初言われた意味がわからず、次に言われたことを反芻し、ようやくその意味に行き当たる。
自分もいつか、今見た惨たらしい死に方をするかも知れないと言う恐怖が、家族を失った悲しみと、
直視に堪えない死体の映像と共に、深く深く記憶に刻み込まれた。
親まりさは片目を失った痛みと舌を苛む辛みに加え、
それとは比較にならないほどの苦痛に悶え死ぬ我が子を目にした。
親れいむはまりさの発する磁力に阻まれ、助けたいのに助けにいけないもどかしさを感じながら、
惨たらしく死んでいく我が子を遠くから見ていた。
「でいぶぅぅぅぅぅ!?へんじじでぇぇぇ!おぎでぇぇぇ!!ばでぃざ、ばでぃざのごどぼがあああぁぁぁぁ!!?」
「じじいぃぃぃぃぃ!!!よぐぼでいぶのごどぼごろじだなあぁぁ!!じね!!ゆっくりじねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「「「おでえぢゃあ゙んがぢんじゃっだあぁぁぁぁ!!!」」」
無謀にもお兄さんに体当たりを繰り返す親ゆっくりと、背中がくっついた子ゆっくりを透明な箱に入れ、
先ほど机の上に置いた牙まりさと大口まりさの様子を見る。赤ゆっくりは泣いているだけなので、とりあえず放置しておく。
箱れいむは、無惨に散った姉妹の二の舞を恐れ、箱の隅で震えている。
「ゆぎっ!ゆぐぐぐぐ…ぺーろ…ぺー…ぶっ!!!~~~~!!!」
開かない口を無理矢理こじ開け、目の幅の涙を流しながら、何とか舌を出しては飴の上に這わせている。
既に舌は穴だらけ。舌を出しては牙で噛み、舌を出しては牙で噛み…。
しかも何故か飴をなめるたびに「ぺーろぺーろ」と発音している。そ
れをしなければ、舌の穴はもっと少なく済んでいるだろうに。
「へーお、へーお、へーお…」
こっちは大口まりさ。常に大きく口を開けているため、前がよく見えていないらしい。
その上、舌を限界まで伸ばし続けたため舌の感覚が麻痺しているようだ。
虚ろな目で、延々と机の上を舐めていた。
飴はその少し横で乾いる。
「全く飴が減っていないじゃないか。やる気あるの?それとも、一生このままがいいのか?」
「「ゆ゙!?」」
“舐めきれば解放される”。この言葉だけを希望に何とか耐えていたこの苦行だが、
それがここに来て揺るぎつつあることを悟る牙と大口。
僅かな希望だけでやってきたまりさたちにとって、これは十分な効果を発揮した。
「ぺーろぺーろ!!ぺーろぺー…ぎゅべ!!ぺー…ゆぎゃっ!!ぺ…ぎゅう!!」
今まで以上のペースで舌に牙を突き刺す牙まりさ。
「へーおへーおへーおへーおへーおへーお!!」
さっきまでの無気力が嘘のような勢いで机を舐める大口まりさ。
「ふぅ…。どうやらこんなこといつまで続けても終わらなさそうだね。よし!少し気分を変えてみようか!」
「…!!」「…!!」
環境が改善されることを期待し、必死にうなずく牙まりさ。
同じく肯定の意を表明しているのだろう、大口まりさも、必死に体を後ろに傾けている。
両者の同意が得られたので早速牙と大口を机から下ろす。
2匹の前にペロペロキャンディーを置き、更にその前に自分たちの全身が見えるように鏡を置く。
「ゆ゙!?ゆ゙!?ゆ゙!?」
今まで見えなかった自分の姿を見て、混乱する牙まりさ。自分とは似ても似つかない、醜悪な魔物が、そこにいた。
上下に並んだ禍々しい牙、限界まで血走った目、所々穴が空いたグロテスクな舌。
気付けば、昨日まで仲良く遊んでいた赤ちゃん達も、恐怖の視線と共にこっちを見て泣いている。
「れ、れ、れーみゅはおいちくないよ!!」「こっちみにゃいでにぇ!!!」
とても大切なものが音を立てて壊れていく感覚に打ちひしがれ、もうどのくらい流したか分からない涙が、また流れた。
「ゆひぇぇぇぇぇ……」
こっちの大口まりさも、同様だった。違うのは、鏡に映った自分が牙まりさとはまた違った意味で醜い姿であるということだ。
伸びきって口の端からだらりと出ている舌。ただ虚空を追う無気力な目、開きっぱなしの口は、
自分のだらしない姿をより強く見る者に印象づける。
「ゆ?なにあれ?ぜんぜんゆっくりできてにゃいね!!」
「にゃんかおばかそうだにぇ!あれにゃらまりちゃこわくないよ!!」
可愛い可愛い妹たちに口汚く罵倒される未体験の精神的苦痛が、涙でふやけた皮をまた増やした。
「でいぶのごどぼがぁあぁぁぁぁ!!ばでぃざ!ばでぃざああぁぁぁぁ!!!」
「ばでぃざのがばびびごどぼがぁぁぁ!!!なにじやがっだじじぃぃぃい!!」
親はまだこれが自分の子供だと分かっているようで、赤ゆっくりのように罵倒したりすることはない。
我が子のなれの果てを見せつけられ、大声を上げて泣いていた。
「さぁ、ゆっくり食べてね!!」
「ゆくぅぅぅ…!!」
「ひゅー…ふがぁぁぁぁぁ!!!」
机の上にいた時と同じように、牙は強引に口を開け舌を出し、大口は伸びきった舌を飴に這わせていく。
鏡がある分、机にいた頃よりは舐めやすい。
しかし、先ほど妹たちに罵倒されたダメージが大きいのか、鏡の有利を得てなおその進み具合は遅々としたものであった。
「んー。折角人が親切に場所を変えて、鏡まで用意してあげたのに、なんでさっきより遅くなるのかなぁ?ホントに元にもどりたいの?」
「ゆがぁ!!!」「はひゅうぅぅ!!」
煽ってはみるものの、しかし何事も焦るだけでは進まない。
結局舌を噛む回数を増やしただけ、床を舐める回数を増やしただけ。
「よし!じゃあこれならどうだ!!」
傍で悲鳴を上げる赤れいむを掴み上げ、牙まりさの牙の間に挟める。
重いからだと磁力によって、どんどん牙が赤れいむの体に食い込み、固定されていく。
遠目で見るだけで相当に恐怖を感じた化け物、その化け物の口の中にいて、更に牙に触れている。
もはや悲鳴を上げるだけの力もなく、表情は恐怖で塗り固められている。
自分の姉妹がさらわれたにも関わらず、未だに同じ場所で悲鳴を上げている赤ゆっくり達。
その中から一番手近な位置にいた赤まりさを掴み、ビニールひもで縛る。
更にその縛ったひもの片方を大口まりさの上の歯に、もう片方を下の歯にくくりつける。
一定の幅以上に口を開いたらひもが引っ張られ、赤ゆっくりが締め切られてしまう。
「…………!?…………!?…………!?」
「…っ!!~~~~!!!!!」
主に口が怖い化け物にセットされた赤ゆっくりは、恐怖と痛みでまともな言葉が喋れないらしい。
が、それ以上に恐怖を感じているのは他ならぬ牙まりさである。
一度でも口に入れる力を緩めたらどうなるか、餡子脳でも理解できたようだ。
牙はともかく、大口のトラップを理解できたのは正直驚いた。
「おねえぇぇぢゃあぁぁあん!!あがぢゃんだべぢゃだべぇぇぇぇぇぇ!!!」
「あがぢゃあぁぁん!ばやぐにげでぇぇぇぇぇ!!ゆっぐいじぢゃだべぇぇぇ!!!」
透明な箱から叫び声が聞こえる。あっちもこれから何が起こるか分かったようだ。
「どぼぢでごんなごどずるどおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!??」
「そりゃ、君たちが人のおうち勝手に荒らしたからだよ。ゆっくり理解してね!!!」
「ゆぐううぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅ!!!」
ここで親ゆっくりに変化が表れた。今までずっと、「ここはれいむのおうちだよ」と言っていたのに、
今回は目を逸らして何かに耐えている。何かと何かの間で揺れている。
「さぁ!!これですんなり口を閉じられなくなったね!!
閉じたら可愛い妹たちが大変なことになるから、頑張って全部食べてね!!!」
「ゆぎがあぁぁぁぁぁ!!!」
「ゆっふぅぅぅぅぅうぅぅ!!!」
妹たちの命が懸かっていると分かり、血相を変え、涙を流して床の飴をなめていく牙と大口。
いつの間にかお兄さんがいなくなっていることにも気付かず、親達は必死で応援している。
「この調子ならば…」という淡い期待も生まれたようで、
徐々に、さっきまでの現実を否定するための大声から、現実を期待する大声へと変化している。
「がんばってね!!がんばっていもうとたちをたすけてあげてね!!!」
「あとすこしだよ!!!がんばってね!!がんばってね!!!」
「「が、がんばっちぇね!!!がんばっちぇね!!!」」
さっきまでのどん底の雰囲気はどこへやら、今そこにいるのは僅かな期待を切望し、
それに向かって必死になっている、一家の姿。
飴を食べきり、妹たちを助け、この苦しみから解放してもらう。
それだけが、一家の心を支えていた。いや、一家の心の支えとなってしまった。
どんなに脆い支えであっても、それを支えであると信頼してしまえば、二度と手放したくなくなる。
いつ崩れるとも分からぬそれを持つことは、支えを手に入れることよりもより残酷な現実を突きつけ得る。
その意味で、一家が手に入れた支えは、最悪のものだった。
「ゆがぁっ…!ゆぐぇぇ…!ゆ…が…あ……!!」
「ゆ、ゆ、ゆふぅぅぅぅ!!ゆふー…!!」
さっきまであんな凄い勢いで飴をなめていた牙と大口の勢いが目に見えて衰えてきている。
あのペースならば今頃は残り1割を切っているはずだ…。
しかし、飴はまだ3割以上を残して、目の前に、鏡の中に転がっている。
「ゆ!?あともうすこしだからがんばってね!!」
「あとでたくさんほめてあげるから、もうすこしだけがんばってね!!!」
「「「「がんばっちぇね!!!」」」」
応援する家族にも焦りが見え始める。
ほんの数分前は見る見る小さくなっていった飴が、しばらく前から全く大きさを変えていない。
使命感に燃え、希望に燃えていたはずの牙と大口は、まるでそれが嘘だったかのように、ただただ重く舌を動かすのみである。
何故いきなり勢いが落ちたのか、さっきまでの勇姿は何だったのか。そ
の答えは浮かんでこない。ただただ、これから迫り来るであろう悲劇を遠ざけるかのごとく必死に大声を上げ、
応援することしかできない。
今この一家が最も欲しているであろうその答えとやらは、机の上に立ち、用済みとなったオレンジジュースを飲みながら、
大声を上げる一家を見下ろしていた。
牙と大口が急にペースを上げた理由。
それは、姉妹が人質に取られていたことも少なからずあるが、
それ以上に、お兄さんが一家の視界の外で少しずつオレンジジュースを垂らし、
牙と大口を適度に回復させていたことが大きい。
現実から逃げていた一家が、現実に向き合い始めたのを確認し、
もう用済みとばかりに、赤ゆっくりの命綱を断ち切ったのである。
もうどれくらいこんなことをやっているんだろう。
向こうに見える両親は必死に励ましてくれている。
さっきは自分を恐れ、罵った妹も、今は両親と一緒になって自分を応援してくれている。
壊れたと思ったものがまだそこにあった、壊れたと思ったのは、単に自分の勘違いであったと、
何度目か分からない、しかしこれまでと全く意味の違う涙を流して喜んだ。
不思議ともっと流していたいと感じさせる涙をこらえ、姉妹を救うべく全力で挑んだ。
家族の応援さえあれば、こんな小さな飴一つなど、ものの数では無かったはずだ。事実、その飴は見る見る小さくなっていった。
しかし今、さっきよりも盛大な応援を受けているのにも関わらず、全く力が湧いてこない。
なんでだろう。確かに感じた舌先の飴の味も、だんだんしなくなってきている。
何だか舌も痛い。この感覚はイヤと言うほど知っている。これは…。
もうどれくらいこんなことをやっているんだろう。向こうに見える両親は必死に励ましてくれている。
さっきは自分を恐れ、罵った妹も、今は両親と一緒になって自分を励ましてくれている。
涙でふやかしてしまった皮は、実はそんな必要のないものだったと、自分の単純さに呆れ、
可笑しくて、何度目か分からない、涙を流した。流す必要ないのにと気付いてなお流す自分が可笑しくて、また涙を流した。
不思議と力を感じる涙をこらえ、姉妹を救うべく全力で立ち向かった。
家族の応援さえあれば、こんな小さな飴一つなど、敵では無かったはずだ。事実、その飴は見る見る小さくなっていった。
しかし今、さっきよりも盛大な応援を受けているのにも関わらず、全く力が湧いてこない。
どうしてだろう。さっきは間違いなく見えていた飴も、今は見えない。
天井が見える。この視界はイヤと言うほど知っている。これは…。
「でいぶのあがぢゃんがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!どぼぢでなどおおおぉぉぉぉ!!!」
「あがぢゃんんんん!!!ばでぃざはごごだよぉぉぉぉぉ!!!めをあげでぇぇ!!おねがいだがら゙あぁぁぁぁ!!!!」
「「ゆぎゃああああああああああああああああああああん!!!!ゆぎゃあああああああああああああああああああん!!!!」」
「はい、残念♪」
牙まりさと大口まりさの前には、どこかでみたことのあるような赤ゆっくりがいた。
ただ、それは平べったく、想像を絶する痛みで酷く歪んでいる。
そういえば口の中が甘い。必死に食べていた飴とは違う甘さだ。少し鉄臭いのが気になるが、なんともおいしい…。
おいしいはずなのに、何故か「しあわせ~♪」と言えない。そんな言葉、出てこない。どこからも、出てこない。
出てくるのは、数えるのも馬鹿らしいほどに流した涙だけ。
「ゆがああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!うげぇ!!うげぇっ!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!ごぼっ!!げぼっ!!ごげぇぇえぇぇぇぇぇえええぇぇ!!」
壊れたと思ったのが勘違いだった、が勘違いだった。
流す必要がないと思っていたのが、必要がなかった。
早く、一刻も早く口の中の味を消そうと、必死に自分たちの中身を戻していく牙と大口。
しかし、砂鉄の混じった餡子は、歯から発する磁力に引かれ、次々と歯の隙間に入り込み、こびり付いていく。
これから先ずっと、この味は消えないのだろう。味わうたびずっと、妹を救えなかったことを思い出すのだろう。
これが、一時でも支えにしたものが、全てお兄さんの手による紛い物だったことが分かれば、少しは軽減するのだろうが、
「うーん、惜しかったねぇ。あと少しだったのに、何でサボっちゃったんだい?みんな必死に応援してくれてたのに」
お兄さんの言葉が、真っ白になった牙と大口の頭に入っていく。
自分がしたことの罪深さが、より強く深く刻まれていく。そ
れが偽りであることなど、今の牙と大口には分からない。
「なんで!?どぼぢで!?どうい゙ゔごどなどおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
「どうじでごんなごどずるどぉぉぉぉぉぉ!!ばでぃざのあがぢゃんがぁぁぁ!!」
「…ここは誰の家だ?」
「ゆ゙っ…!!ごごば…!ごごば…!!…………ゆぅぅぅぅうぅうう…!」
「ゆががががが!!!」「いぢゃいぃぃぃいぃ!!ねじるのやべでぇぇぇぇ!!」
透明な箱から背中合わせにくっついた子ゆっくりを取り出し、親れいむの目の前でねじる。
脆くなった体がついに磁力に耐えきれなくなり、複数の磁石が親れいむの目に向かって飛んでいく。
「ゆ゙ぎゃぁぁぁ!?でいぶのごどぼがぁぁぁぁぁ!?おべべぇぇぇぇいだいぃぃぃぃぃ!?ぼうやべでぇぇぇぇ!!」
「だから、誰の家なんだ?」
箱れいむを乱暴に床に叩き付ける。その衝撃で中の箱が割れたらしく、先に逝った箱れいむと同じように苦痛を味わっている。
磁石で穴が空かなかった分、楽になるまでより多くの時間を要した。
「「ゆ゙っ…ゆ゙っ…ゆ゙うぅぅぅぅぅぅっぅううぅ!!!!!!!」」
「 こ こ は !!! だ れ の !!! い え !!! な ん だ !!!!? 」
「ごごば!!ごごば!!ごごばおにいざんのおうぢでずうううううぅぅぅうぅ!!!」
「ごべんなざいぃぃぃぃぃ!!うぞづいでばぢだぁぁぁぁぁぁ!!!ゆるぢでぐだざいぃぃぃぃ!!!」
「どうがだずげでぐだざぃぃぃぃいぃ!!!!おにぃざんのおうでずぅぅぅぅぅっぅうぅ!!!!」
「 当 た り 前 だ ろ う が この腐れ饅頭があああああ!!!」
「「ごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざい
ごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべ
んなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざい…」」
「「ゆっきゅり…した…い…」」
「~~♪~♪………。!?ーーーー!!!ーーーーー!?ー~…?……~♪」
「ゆっひゅひー♪ひあはへ~♪ゆっひゅひひへ…がぁぁっぁぁ!!?」
目の前の透明な箱には、全身に釘や画鋲を貼り付け、砂鉄赤まりさを潰れた目の部分にめり込ませた親まりさがいる。
その横の箱には、親れいむ。隣のまりさと同じような状態で、片目には砂鉄赤れいむが埋まっている。
両者とも、俺の顔を見るとうわごとのように「ごべんなざい」を延々と繰り返す。
その下の段には、牙まりさと大口まりさ。
どちらも既に正気を失っており、妙な鼻歌を歌っては、時々何かに気づき、物凄い反応を示している。
歯にこびり付いた餡子を舐めてしまい、その度にトラウマが呼び出されているのだ。
本来ならこの横に、もう一つ箱れいむがいるはずだった。
姉妹の無惨な死を目の当たりにし、親姉妹を本気で恐れ、昼夜問わずに必死で逃げ回る、あの箱れいむが。
あの日、あれから、こいつらに対して徹底的に虐待を行った。
どんなことをされてもひたすら命乞いをするだけの姿を見て、唐突に閃いた。
もしかしたら、ゆっくりは、素晴らしい部品となりうるのではないかと、そんな考えが、頭を過ぎった。
実際、親は「自分の顔をみる」と「ごめんなさいと繰り返す」ようになった。
牙と大口は「餡子を舐める」たびに「激しく動き回って」いる。
あの箱れいむもそうだった。「自分が無惨な死に方をしない」よう、「家族すら本気で恐れ逃げ」ていた。
どうやらゆっくりは恐怖と共に刻まれた記憶は忘れにくい傾向にあるらしい。だが、並の恐怖では駄目だ。
悪いことをしたらその都度お仕置きをするなど、長期的かつ印象的なものでないと効果は薄い、とのことだ。
では、この恐怖を、大切な者を奪われる恐怖、思い出したくもない大惨事、惨たらしい死に様など、
人間ですら容易に精神を壊してしまうような、最上級の恐怖に置き換えてみた場合、ゆっくりはどのようになるのか。
この疑問が頭に浮かんだ瞬間、止めを刺すつもりだった俺の手は止まり、復讐を忘れ、新たな機械の可能性を見出していた。
殺すつもりだったこいつらは、重要な研究資材として保存しておくことに決めた。
この日から、こいつらをこの問題を解くための資料とし、日々研究に明け暮れる日々が始まった。
この日から、ゆっくりの悲鳴が聞こえない日はなくなった。
一定の条件を満たせば必ず一定の動きをする“部品”。
しかも調達は容易で、方法論さえ確立してしまえば同じ“性能”の“部品”を量産することも出来るようになる
。ゆっくりのみで稼働する発電所なんてのも、夢でなくなる。
【何らかの条件に反応して一定の動作をするゆっくりを部品とし、それを用いた全く新しい機械を作る】
これが、あの日打ち立てた俺の夢。
あの日から様変わりしたお兄さんの家の中、唯一変わっていない悪夢の作業室。
その一角には、あの日家に忍び込んだゆっくり一家の生き残りがいた。
ようやく楽になれる、あの世の家族と一緒になれると思ったのに、何故か今も生きている。
いや、未だに死ねていない。
この一家は、お兄さんの人生のターニングポイントとなった出来事の一部として、この部屋に繋ぎ止められている。
本当に解放されるのは、いつの日か。今日か明日か、はたまたお兄さんが夢を達成させた時なのか。
それはゆっくり一家はおろか、お兄さん本人にも分からない。
今日もまた、研究材料として、ゆっくりの悲鳴の海に漂う一日が始まろうとしていた…。
END.
どうも、お疲れさまでした。
磁石で色々やってみたくて書いたら、予想以上に長くなってしまいました。
お見苦しい点や至らない点など、数えていたらキリがないくらいあったかと思いますが、
最後まで目を通して頂き、ありがとうございます。
最終更新:2008年11月17日 15:58