ルナサとるなさ

「はぁ…」
廃館近くの森の中。ため息をつきながら、とぼとぼと歩くルナサ。
「リリカってば、付き合う相手が悪いのか、ちょっと最近やんちゃになってきたなぁ…あんまり騙すのを楽しんでいると、そのうち痛い目にあうのに…」
そう、ポツリとぼやいてまたため息をつく。
「メルランもメルランで、なにを考えてるのか、最近ますますわからないし…あぁ…欝だ…」
ブツブツと最近の妹達のやんちゃな行動に対するボヤキを呟きながら、彷徨うように森の中を歩く。
「はぁ…」
森の奥から、誰かのため息が聞こえる。
自分以外にも誰か欝になっている者がいるのかな?どんなことで欝になっているのかな?
ルナサはそのため息の主に興味を持った。ルナサはため息の声をたどるように奥の奥へと進む。
「はぁ…なんでわたしはうまれたんだろう…うつだ…」
小さな物体がブツブツと自らの生まれを呪っている。
よく見ると、その物体は金髪で黒白の帽子であった。
ルナサは、それがここ最近、幻想郷に突如現れた「ゆっくり」と言う生物だとわかった。
となると、アレは「ゆっくりまりさ」なのかな?とも思ったが、もっとよく見ると、金髪は短く、帽子も微妙に違う。
決定的なのは、帽子の頂点部に見覚えのある月の飾り。まさかアレは…
「わ、わたしのゆっくり…?」
ゆっくりは幻想郷の有名人を模した物が多い。
さきほど見間違えた「まりさ」の他にも彼女の知り合いを模したゆっくりが数多くいるのは知っていた。
でも、まさか自分のゆっくりもいたなんて…
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ…」ショックでがっくりと膝を落とし、両手を地に着けうな垂れるルナサ。
「…おねーさんもうつなの?」
いつの間にか、小さな物体がルナサに話しかける。そして、小さな物体も、その少女が自分に微妙に似ていると言うことに気がついた。
「おねーさん、るなさに似ている…あぁ、ごめんなさい…おねーさんに似てしまってごめんなさい…
こんな姿で生まれてごめんなさい…いっそ、つぶしてください…」
この物体も「るなさ」と言うようだ。なんだか、すぐ沈む性格まで自分そっくりだ。
さすがに、自分と似たようなものなんて潰せない。死を望む物体をルナサは慰める。
「あなたは悪くないよ。そうだよね、あなたはあなたで、わたしはわたしなんだもの。気にしないで」
「ありがとう、おねーさん…」
ゆっくりるなさと名乗った物体。それは、この森で一人で暮らしているゆっくりだそうだ。
ルナサとるなさは意気投合し、互いの欝をボヤキあっているうちに、お互いの気が晴れていくのを感じた。
それ以来、ルナサはこの森を訪れることが多くなった。

ある日、ルナサは2つの気になることを聞いた。
一つは人里に買出しに行った時の事
「…最近、ゆっくり共が畑や家を…」「…専門家と名乗る者が自ら群れの殲滅をと、長に売り込みを…」「群れは森に現れたらしい…」「…あの専門家、何か怪しくないか?殲滅の前金と莫大な謝礼を長に要求したそうだが…」
もう一つは、るなさ本人から
「さいきん、わたしににたようなのがいっぱいあつまって、ここにすみだしたの…わたし、あいつらきらい…
とくにわたしににたやつなんて、いつもわたしをいじめる…あぁ、うつだ…」
この話からわかった事。まず、突如現れたゆっくりの群れが人里に迷惑をかけているいうこと。
その群れに、元々住んでいたるなさも、いじめられているという事。
ルナサはるなさに危機を感じた。このままでは、群れのゆっくりか殲滅の専門家に彼女も殺されるのではないかと。
そうだ、あの子を引き取ろう。妹達もまさか、わたしに似た子を邪険にはしないだろう。そう考えたルナサは森へと向った。
だが、その決断と行動は少し遅かった。
「みんなみろよ!こいつが、まりさのにせものなんだぜ!」
るなさは、まりさに「まりさのにせもの」と因縁つけられ、群れに引っ張られていた。
「ゆゆ!なんだかくらいこだね!ちかくにいるだけでゆっくりできないよ!」
「とかいはのにおいがまったくしないわ!ださいいなかもののにおいがきついわ!」
「わたしは、るなさよ…すきであなたたちににたわけじゃない…」
「にせものがなにかいってるぜ!」「にせものまりさなんていらないわ!」「ゆっくりしんでね!」
「いや…やめて…やめて…」
群れのゆっくり達による集団リンチにるなさが晒される。
「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」と、体当たりを繰り返すれいむ
「だくかちもないまりさのれっかこぴーだけど、とくべつにおかしてあげるわ!いいこえあげなさい!」
「ゆへへへへへ!ありすのぺにぺににこいつよがってやがるぜ!」
強引にるなさをレイプするありす。その光景をゲラゲラと下品に笑い転げるまりさ
「いたい…やめて…たすけて…」
いつもなら、ただの虐めで終わるはずだったのが、今はなぜか群れのテンションがおかしい。
「ゆっへっへっへ!いいか、みんな!あのにんげんどももこうしてやるんだぜ!」
ドス、いやドゲスまりさが群れのリンチをさらに煽る。
どうやら、人里を襲う前に群れの士気を上げるため、るなさ虐めを行っていたようだ。
「たすけて…おねーさん…たすけて…」
「どーれ、にせもののあじはどうかな!」まりさが、るなさの体をを齧りとる。
「むーちゃむーちゃ…ぐへぁ!?う゛があぁぁぁぁに゛ぎゃいぃぃぃぃぃぃ!」
るなさの中身はビターチョコで、虐められれば虐められるほどに苦くなる。
カカオ99%のチョコクリームを食べたと思えば、その苦さが解るだろう。
「あぁ…わたし…しぬの…?しぬまえに…おねーさんにもういちどあいたい…」
「ぺっぺっぺっ!やっぱりにせものはにせものだぜ!ゆっくりしねぇぇぇ!」
と、そこに別のゆっくりれいむがかけつける。
「ゆゆ!にんげんがここにきたよ!なんだか、そのにせものにそっくりなにんげんだよ!」
その報告に騒然となる群れ。
「るなさ!」「ゆべし!」「ああああ!れいむがああああああああ!」
群れの広場に駆けつけるルナサ。駆けつけたときに、群れのゆっくりを1匹潰したようだがそんな事は眼中にない。
「お、おねーさん…?」
ボロボロのるなさを拾い上げるルナサ。どう見ても助からないのは解っていた。
「るなさ…」「さいごに…おねーさんに…あえてよかったよ…ゆ、ゆっくり…して逝けるよ……」
ルナサの手の中で息絶えるるなさ。
「るなさ?そんな…ウソでしょ…」
悲しみに震え、座り込むルナサに、ドゲスが情け無用の言葉を投げつける。
「みんな!にせものはゆっくりしんだよ!こんどはれいむをつぶしたおねーさんをゆっくりころしてね!」
るなさの亡骸を手に持ち座り込んだまま、震え続けるルナサ。ゲスどもはその様子を都合よく理解する。
「ゆゆ!こいつふるえてやがるぜ!」「こんどはこのおねーさんをおかすのね!」「それーとつげきー!」
ルナサに殺到するゆっくり。そのままゆっくりまみれになるかと思われたルナサが、声を上げる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルナサの号泣。そして、魔力の暴走が始まった。
「ゆ゛!?」「ぶげしゃ!?」「ばべらっ!」「わがっ!?」「いんげっ」
普段から内に籠められていた魔力による欝の音波は、ルナサの悲しみの激昂により解放・暴走した。
ルナサを潰そうと、殺到したゆっくりは音の刃に切り刻まれ、千切られ、潰される。
さらに、その音は聞こえるもの全てに極度の欝を刻み込む。
「ゆ゛っぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」「ゆ、ゆゆゆゆゆっゆっくッ・・・」
ただでさえ、ストレスに弱いゆっくりたちに、欝がこめられたの泣き声は、精神への究極の責めと化す。
「ゆぐぇぇぇぇぇぇ!」「むっぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「まりさのおおおおおお!!あがぢゃんがああああああああ!!! 」
体も弱い赤ゆっくりやぱちゅりーが口から餡子やクリームを出して死ぬ。それを見たほかのゆっくりはさらに恐慌に陥る。
「ああああああ!ゆっくりできないよ!ゆっくりできないよおおおお!」
「もういやぁぁぁぁぁぁぁ!…さあ!お食べなさい!」「れ゛いむ゛う゛う゛ぅ゛ぅ!!!」
ゆっくりが自ら真っ二つとなり、自分の意思で唯一確実に死ねる手段『さあ!お食べなさい!』
極度の恐慌に陥った、ゆっくり達は次々と『さあ!お食べなさい!』と叫び、自らの生に終止符を打つ。
恐慌のパニックからの集団自殺。ドスはその光景に、しばし唖然となってしまった。
「おねーさん!ゆっくりなきやんで!みんながゆっくりできないよ!」
ドスの叫びもルナサには届かない。
「もうやべてぇぇぇぇぇぇ!みんなもゆっぐじじてぇぇぇぇぇぇ!」「さあお食べなさい!」
また他のゆっくりが自らを両断する。
「ゆぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!みんなをゆっぐりざぜないおねーざんはじねぇぇぇぇぇぇ!」
ドスがこのパニックの原因であるルナサを消し去るために、体内にある魔法キノコを全て噛み砕き、ドススパークの体勢に入る。
「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…ゆっぐじじねぇぇぇ!…え゛!?」
だが、パニック状態にあったドスはドススパークに必要なキノコのエネルギーを過剰に溜めすぎた。
エネルギーに耐え切れずに大爆発を起こすドス。群れのゆっくりごと、全てを吹き飛ばした。
ルナサも吹き飛ばされ、大木に体を打ちつけ、そのまま気絶してしまった。
群れはドスの爆発跡と真っ二つになったゆっくりの残骸しか残らなかった。

森の中を一人の男が歩く。
彼は、自らを「虐待お兄さん」と名乗っていた。
ゆっくりを虐待する事に生きがいを感じる、ある種アレな人である。
…だが、正確には彼は虐殺お兄さんではない。彼をそう評せば、本当のお兄さんは激怒するであろう。

真の彼は、単なる弱いもの虐めが大好きな名も無き小物妖怪である。
力は、せいぜい西洋小鬼や西洋豚男程度、性根はチンピラやヤンキーの腐ったような者程度といったところか。
かつて、彼は人間の子供をさらっては困らせ、弱い妖怪や妖精を虐めて楽しんでいた。
しかし、人里の警備も厳しくなり、また妖精間でスペルカードなるものが流行り、簡単には手が出せなくなってしまっていた。
そんな時、ゆっくりと呼ばれる饅頭生物が発生した。
彼は人里に迷惑をかけるゆっくり殲滅に目をつけた。
殲滅のたびに謝礼をせしめるられる事を覚えた時には、里を荒らすゆっくりは少なくなっていた。
そうなると、彼はさらに悪知恵を働かせた。何も知らないゆっくりに、野菜の味を覚えさせ、里を荒らすように仕向ける。荒らされた里に協力者として現われ、ゆっくり共を殲滅し、謝礼をもらう。いわゆる自作自演である。
これは彼に更なる歪んだ喜びを与えた。親切な者に裏切られたゆっくりを殺し尽くす。
このように、ゆっくりと人を戦わせるのはゲスなお兄さんもやる事がある。
しかし、本当の虐待お兄さんとの大きな違いは「謝礼」を強引に要求する事であり、
虐待が生きがいではなく、ただの弱いもの虐めという娯楽の延長気分という事であろうか。

さて、彼が仕込んだゆっくりの群れは思惑通りに里に来襲した。
長を強引に説得し、前金をもらいさらに暴利な謝礼の約束も取り付けていた。
「さーて、こんどのゆっくり共はどんな声で泣いてくれるかな~っと…」
群れについたとき、彼は唖然とした。
ドスほどの大きさのクレーターと吹き飛んだ跡があるゆっくり、自らを真っ二つにしたゆっくり、
なにかに切り刻まれたようなゆっくり、そして、人間のようで人間とは違う、自らの力を使い切って気絶した少女。
彼は、まずゆっくり虐殺の娯楽が潰された事を理解した。そして、その原因がこの少女にあることもなんとなく分かった。
もう少し彼が紳士的で、賢ければ、少女を連れ、人里に殲滅終了の報告をし、ついでに人助けの謝礼も上乗せできたであろう。
だが、少女の可憐な顔を見るうちに、久しく忘れかけていた人間への虐待心に火がつき始めた。
「おい、起きろ」
男は、乱暴に少女・ルナサの腹を蹴り上げる。
「…ゲホッ!?」
突如、腹を襲う激痛にルナサが目を覚ます。
「てめぇか?ここのゆっくりをヤッたのは?」
「…え?」ルナサが壊滅した群れの跡を見渡す。どうやったのかは覚えてはいない。
確か、るなさが殺されて、わたしが泣いて…?
考え込むルナサの胸倉を男は乱暴に掴み上げる。
「めーわくなんだよなー。人の獲物を横取りされるとさぁ?俺のこの虐待心を、どうすれば良いわけ?」
「え…?もしかして、あなたが里の人が言っていた殲滅の専門家…?」
「ん?あー、そうだ。虐待お兄さんな。でも、ゆっくりがいなきゃ虐待できないんだよ。だから…」
掴み上げていたルナサを乱暴に投げ捨て、言い放つ。
「てめぇを虐める事にするわ」

ルナサの体をサッカーボールのように蹴る「あぐっ!」
ルナサの顔を拳で殴りぬける「がぁっ!」
髪を掴み、そのまま投げ捨てる。「いやぁぁぁぁ!」
その悲鳴に興奮した男はさらに、ルナサをいたぶる。
「あぁぁぁっ!」
「良い反応だぁ。やっぱり、弱い奴の方が楽しいなぁ。ゆっくり共だとすぐ壊れちまうからなぁ」
「何で…どうして…」
ルナサを、たて続けに襲う不幸。彼女の心は限界に来ていた。
「もういや…いっそ、殺してよ…」
「よーし、じゃあ、メインディッシュと逝きますかぁ」
男はルナサの細い首に手をかける。そして、人ならざる者も殺せるように妖力を込めて締め上げる。
「あ゛…がっ…」「良いぜぇ!良い顔だぁぁぁ!」
妖力で締め上げられ、涙と涎を流し、苦悶に歪むルナサ。彼女の心はもう死を覚悟していた。
(死んだら、また、るなさに会えるかな…レイラにも会えるかも…でも、騒霊の私って、死んだらどうなるのかな…)
「ハッ…ア゛…ウ゛…」「そろそろか?そろそろだな?そら、逝っちまいな!」
男が止めと締め上げようとした瞬間、
「ルナ姉を離なせぇぇぇぇ!」
男の頭を薙ぐように鍵盤が叩きつけられる。その衝撃で、男はルナサを離してしまった。
「ルナ姉!ルナ姉!」「リリ…カ…?」「間に合った…ルナ姉、逃げるよ!」
リリカが、ルナサを背負い、その場から離れる。
「てっめぇ…まちやがれ!…っと!?」
追いかけようとする男をメルランが遮る。
いつもの陽気さはなく、ただ、静かに立ったままに。
「どきやがれ!」「いやよ」男の怒号に、さらっと答えるメルラン。
「どかねぇと…」「どうするの?」
押し問答が通らないと見るや、メルランに殴りかかる男。ポツリとメルランが【宣言】をする
「冥管:ゴーストクリフォード」
  •  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「うあ…あ…あ…」
メルランの目の前に転がってる弾幕に打ち抜かれボロボロになった男。男の矮小な力では、魔力のないルナサはともかく、魔力全開のメルランにかなうはずはなかった。
だが、さすがに妖怪の端くれか、まだ息はある。
男の顔をメルランは踏みつける。
「…姉さんを殺そうとしたあなたにやれるハッピーなんてないわ。じゃあね」
そう言うと、メルランは、男の顔を頭ごと踏み砕いた。

親友を失い、重傷を負ったルナサはしばらく、深い欝に沈んでいた。しかし、妹達の看病もあり、身も心も徐々に回復していった。
完全、とはいえないが、ある程度まで回復したルナサは、再び森を訪れていた。
もしかしたら、るなさの仲間がいるかもしれない。もしかしたら、妹達そっくりなゆっくりもいるかもしれない。
見つけたら今度は家に連れてこよう。そう考えながら、森の奥へと歩いていった。

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最終更新:2008年11月08日 13:34
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