- fuku3320.txt『ありす達の戦い』の設定を流用させてもらってます。
- 虐待らしいシーンがありません。
戦いは終わった。
西の平原にあった幾つもの群れを襲った複数のレイパーありすの群れは、
とうとう東に住むゆっくりの群れにも手を伸ばした。
しかし、東の群れは今まで彼女達が襲ってきた群れとは違う。
ドスまりさがいたのである。
今まで頑として動かなかったドスでも自分の群れが傷付けられては流石に黙ってはいられない。
腰を上げた東のドスの前にはレイパーありすの群れと言えど成す術なかった。
体格差、運動能力、そしてドススパークにゆっくりオーラ。
全てにおいてドスの戦闘力は圧倒的過ぎた。
波のように前進するレイパーありすに放たれたドススパークは焼き焦げた饅頭の絨毯を作る。
ドスが跳ねるだけでレイパーありすがいくつも潰れ、
転がるだけでレイパーありすたちはぷちぷちと餡子の塊へと変えられていく。
ドスの猛攻の前に蜘蛛の子を散らすように逃げていくレイパーありす達だが、
逃げようとしたありすは待ち構えていた群れのゆっくり達に殲滅されていく。
そうやって三つの群れを殲滅し終えた時、ようやく東の群れは脅威から解放された。
取り逃がした何匹かは西へ戻るように逃げていったが、もう他の群れを襲うほどの力はないだろう。
しかし、群れも全く無傷だったわけではない。
守りきれずにレイパーありす達にすっきりさせられてしまったゆっくりも少なくなかった。
レイパーありすのすっきりによって産まれたありすは高い比率でレイパーになる。
理由は様々である。
一つ目は親に似る。つまり素質を備えている可能性が高いこと。
二つ目は、因果は解らないがストレスを受けた母体ゆっくりの餡子を吸い上げる為、悪影響を及ぼし資質がより発現しやすくなること。
三つ目は、同じく育成環境であり、親に疎まれて育つ、レイプ魔の子として周りから村八分にされる。等で愛を受けずに育つ為
愛を求めて歪んだ結果レイパー化する可能性が高いこと。
とある実験では、レイパーありすでも愛を持ったすっきりで番相手が産んだ個体を
親であるレイパーありすの影響を省くため、人の手で適切に育ててみた。
結果、多少性欲が強い個体はいたものの赤ゆっくり、子ゆっくり、成体
とレイパーの資質があるかを判別にするために行なわれる性欲の刺激……
軽い振動テストをクリアし、自制の効くものがほとんどだった。
対して親元で育った子ありすは立派なレイパーありすになった。
よって育成環境でも大きく変化されるとの報告が出された。
他にも様々な理由があるがレイパーありすに作られた子ありすを
育てるのは大変な負担になることは東のドスの群れも解っていた。
人間の倫理観なら、里子に出して育てて貰うなどの道がある。
そして成長して問題児になれば、それはもう親の因果と関係なく、本人の起こした問題として罰っせられる。
そうすることが可能だ。
しかし、人間ほど複雑なシステムと広い場を用意できないゆっくりの社会では、
群れを維持する為には泣く泣く切り捨てなければならない。
育ってから大量のレイパーができました、では困る。
育成も難しければ、計算された子どもでない赤ゆっくりの増加は食料事情を厳しくし、
また群れの数が増えることで統率も難しくなり、それだけ群れの負担が増す。
特にこの群れは胎生型を徹底することにより、数の維持をしてきたのだ。
よってレイパーありすによる被害の子ありすは処分しなければいけない。
それは東の群れがかつて泣く泣く行き着いた結果だった。
しかし、どんな因果を背負っていようとも子ゆっくりに罪はないのだ。
それにレイパーありす以外ならいいのかと言う問題もある。
たまにではあるが外から流れてきたゲス等によって起きることを特別扱いするわけには行かない。
よってこの群れではせめてもの選択肢を兼ねた掟が出来、今も存在していた。
ひとつ。あいてを おそったもの は しけい。
ふたつ。おそわれてできたこ は、うまれるまえに まびくのをきょかする。
みっつ。うまれたばあい は しゅにとわず まびく。
おやがのぞんだばあい は こをつれて むれをでることをゆるす。
よっつ。おやがいないばあい は むじょうけん で まびく。
いつつ。つがいがいきのこっていたばあい は みっつめとよっつめのはんだん を つがいにゆだねる。
今回の件にもそれは当然適用された。
襲われて生き残ったゆっくりは、直ぐに茎を食いちぎってもらった。
赤ゆっくりだけが黒ずんだ母体から生まれ落ちていた場合はみな潰された。
生き残っていた番いもみな拒否をした。
そうして、一つの親子を除いて今回の悲劇はようやく決着がついた。
「れいむはこのこたちをそだてるよ……」
ここに成体になったばかりの若いれいむが一匹いる。
このれいむも例にもれず、レイパーありすにおそわれて生き延びたゆっくりである。
れいむの側にはできた子どもの赤ありすが四匹と赤れいむが三匹。
彼女が選んだのは、群れを出て子どもたちを育てることだった。
「そう……わかったよ。れいむのきめたことだもんね」
「れいむ、ほんとうにいいの?」
暗い表情だが納得した言葉を放つのは、若いれいむの母れいむ。
まだ納得できないのか何度も問い掛けているのは、父まりさ。
「うん、だってあかちゃんにつみはないよ。
それにどんなににくいれいぷまのこどもでもれいむのこどもだよ。
がんばってゆっくりそだてるよ」
「「「「「「「おきゃーしゃん……」」」」」」」
赤ゆっくり達が親れいむに擦り寄る。
自分達を選んでくれた親の心を感じ取れる暖かい心の子ども達だ。
これかられいむは新しい住処を探しに赤ゆっくり七匹を連れて旅立たねばならない。
それがどんなに大変で、砂漠に水なしで放り投げるに等しいことがれいむの両親には解る。
しかし、例外を許してはいけない。
例外を許していけば、ゆっくりの群れは崩壊してしまう。
「れいむ、これをもっていって」
「ゆっ、おとうさんこれは……」
父まりさがれいむに黒い包みを口渡した。
良く見るとそれはまりさ種の持つ帽子の端を木の枝でくくり付けたもの。
中には帽子いっぱいの食料が入っている。
「おとうさんのおとうさんのぼうしじゃ……」
この群れではまりさ種は死ぬ前に帽子を外して残す。
そうした帽子はまりさ種以外でも食料の持ち運び、まりさ種以外の水渡り等様々な役に立つ。
この食料が包まれた帽子も父まりさの親まりさが一家のために残していった帽子だ。
これから生活していく上でも必要な道具であり、大切な形見の品である。
「おとうさんたちができることはこれくらいなんだ……。
ゆっくりさせてあげられなくてごめんね、れいむ、おちびちゃんたち」
これだけ食料があれば数日は持つだろう。
れいむは泣きたかった。
こんなにも親は自分達を愛してくれている。
しかし、泣けば赤ちゃん達が心配する。
歯を食い縛り、堪えた。
これ以上いては心が弱くなる。
親に迷惑をかけてしまう。
別れを告げて旅立とう。
そうれいむが思った時に母れいむが話し掛けた。
「れいむ、きいて」
「ゆっ、おかあさんなあに?」
「ここからやまをひとつこえたところにもどすのむれがあるの」
「ゆっ? どすはそこにもむれをもってるの?」
「ううん、そこにいるどすはこのむれのどすとはべつだよ。
そこのどすのむれはどんなゆっくりでもうけいれてくれるらしいの」
「ゆっ、わかったよ! れいむはそこをゆっくりめざすね!
おかあさん、おとうさん、ありがとう! れいむはいくね!」
「おじーしゃん、おびゃーしゃん、さようにゃら」
「ありがちょう、おじーしゃん、おばーしゃん」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
「「「「「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!!!!!」」」」」」」
「あかちゃんたち、れいむのおくちのなかにゆっくりはいってね」
別れの言葉を告げたれいむは赤ゆっくり達を口の中に入れると
人間から見れば解らないようなくらいの角度で両親に向かって頭を下げ、
そして旅立っていった。
「いっちゃったね……」
「たどりつけるといいね……」
その後姿を、遠くれいむの姿が見えなくなるまで二匹は見送った。
「もう行っちゃったの……?」
「ゆっ、どす!」
そろそろ巣に戻ろうとした二匹の後ろから群れを収めるドスがやってきた。
5mはあろうかという大きさ。
ドスの中でも大きい体格であり、長い時を生きてきた現われである。
「そっか、もう行っちゃったんだね」
おそらくドスも見送ろうと思って来たのだろう。
申し訳ないと思いつつ、ドスは名残惜しそうに二匹が見ている方を同じように見つめた。
「ごめんね。ドスがもっと強かったられいむも守れたし、
もっと有能だったらこんな掟作らなくて良かったのに……」
自分がもっと早く動いていたら被害を出さなかったのに。
自分がもっと有能で手を広くかけれれば赤ちゃんたちを潰さず、親と一緒に追い出すことなんてしなくてよかったのに。
常に自分に厳しく優しいドスは、今回のことで心が痛かった。
止むを得ないと解っていても、しなければみんなをゆっくりさせることができなくなると解っていても。
偽善と解ってしまうドスは悲しんでいた。
長い年月をかけてきただけあってこの群れは暖かい心を持ったゆっくりが多い。
そのゆっくりたちでも赤ゆっくりたちを受け入れるのは難しい問題なのだ。
誰もそれを理解してないわけではない。
母れいむはドスにそれをゆっくりの言葉で伝えた。
「ううん、どすはがんばってるよ!
どすのおかげでありすたちからむれをまもれたし、
どすがいるからみんながゆっくりできるんだよ!」
「ありがとう、まりさ」
ドスの表情が少し明るくなる。
その言葉が聞けただけでも自分が頑張ってきた苦労が少しでも報われてる気がするのだ。
「それにれいむはきっときたのどすのむれにたどりつけるよ!」
「ゆっ!!!???」
明るくなったはずのドスの表情が二人の発言で驚きのものにかわった。
今なんて言ったの?
人間から見ればドスの表情はそう見えたに違いない。
「どうしたの? どす?」
「ゆっ! 何でもないよ。れいむは北のドスの群れを目指したの?」
「うん、そうだよ。むかしどすがはなしてたのをおぼえてたの!」
「ゆゆゆ!!!???」
ドスの表情が益々険しくなっていく。
「どす、ほんとうにどうしたの?」
「ゆっ! 辿り着けるかなって心配しただけだよ!」
「だいじょうぶだよ! このへんはれみりゃもいないし、ごはんをいっぱいもたせたからね!」
「ゆっ、それなら安心だね」
「それじゃぁ、れいむたちはゆっくりすにもどるね。
どす、ばいばい!」
二匹が巣へ戻っていく。
その後もドスはれいむが旅立った北の方を見つめていた。
「北のドス……」
ドスがつぶやいた。
この東のドスの群れと北のドスの群れは、お互いのゆっくりプレイスを侵さないよう不可侵条約を結んでいる。
ドス同士の群れ、しかも群れのルールや掟が違うもの同士が同じ場所にいることでトラブルを起こさないためのものである。
それにドス同士が戦えば、どっちが勝ってもお互いに被害は避けられない。
そうした目的でできた不可侵条約であった。
しかし、れいむ親子のように群れを抜けたものなら北のドスは受け入れてくれるだろう。
思い起こすのは初めて会った時の北のドス。
ずっと昔に一度だけ戦ったことがある。
あの頃はまだ北のドスは若い成り立てで群れも持っておらず荒くれもので、
体格も技術も自分の方が遥かに上だった。
不可侵条約を結んだ時、再び会った北のドスは自分にはまだ至らないものの大きく強くなっていた。
それに北のドスがいたからこそ、レイパーありすへの対処を見誤ってしまった。
あのドスの元なら赤ちゃん達は育っていくこともできるだろう。
「れいむ、大丈夫かな……」
れいむはあの群れに馴染めるのだろうか。
上手くやっていくことができるのだろうか。
東のドスは、れいむの行く末を案じていた。
「あかちゃんたち、ゆっくりたべてね」
「むーちゃ、むーちゃ~」
「おいちぃね、おきゃーしゃん!」
「まりちゃはどんぐりがちゅきだよ!」
「ときゃいはのありちゅは、このかんちょうちたいもむちしゃんがきにいっちゃわ!」
れいむが子どもたちを連れて旅立ってから二日。
捕食種が元々少ない地域とはいえ、ここまで一匹も欠けることなく旅をしてこれたのは奇跡と言えよう。
「ゆっ! たべおわったらおかあさんのおくちのなかにゆっくりもどってね!」
「「「「「「「ゆっくちりきゃいしちゃよ!!!!!!!」」」」」」」
旅先でご飯をその都度調達しつつ、両親から貰ったものを節約することでここまで移動してきた。
しかし、育ち盛りの赤ゆっくりの食欲旺盛である。
それが七匹もいるのだ。
遊び盛りの中、親れいむの口の中にずっといる分、消費は抑えられてるとはいえ、
両親から貰ったご飯も半分を切っている。
(まだつかないのかな……)
山の中を走り跳ねて来た。
あとどのくらい移動すれば北の群れに辿り着けるのかれいむには予想が付かない。
今日、到達できなければ明日からのご飯は自分は控え目にしないといけないだろう。
赤ゆっくり七匹を口の中に入れて移動する自分が一番大変でも
少しでも赤ちゃん達に回してあげたい、と言うのがれいむの心だった。
四日目。
とうとうれいむは、北のドスの群れに所属してる一匹のゆっくりまりさに見つけられた。
幸運にも一匹も欠けることなくここまでこれた。
最後の食料を食べている時に見つけられたのは驚愕の奇跡と言っていいだろう。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっ! ゆっくりしていってね!」
「「「「「「「ゆっきちしちぇいっちぇね!!!!!!!」」」」」」」
目の前に現われたまりさに『ゆっくりしていってね!』と言われ、
親子八匹は本能から『ゆっくりしていってね!』と返した。
じろじろと見られてはいるものの敵意がないのが解るとれいむは少しずつ警戒心を解いていく。
「ゆー、れいむたちはどこのれいむなんだぜ?」
「ゆっ! れいむたちはどすのむれにいれてほしくてきたんだよ!」
「ゆっ! それならどすのところにあんないするんだぜ。
むれにいれるかどうかはどすがきめるんだぜ!」
「ゆっくりりかいしたよ! あかちゃんたち、もうすこしだからがまんしてね!」
「「「「「「「「ゆっくちりきゃいしちゃよ!!!!!!!」」」」」」」
れいむが赤ゆっくり達を口の中に入れようとあーんと開ける。
その時、まりさはその様子をじっと見ていた。
心なしかありすの方を良く見ているような目線である。
「……それはれいむのあかちゃんたちなんだぜ?」
「そうだよ! れいむのかわいいあかちゃんたちだよ!」
「ゆ~、とってもかわいいあかちゃんたちだね!」
「ゆっへん! れいむのじまんのあかちゃんだよ!」
「おとうさんはいないんだぜ?」
「ゆっ……おとうさんはいないよ。あんなのおとうさんじゃないよ」
何故、わざわざこの状況下でまりさはそれを確認したのだろう。
れいむがそう思うことはなかった。
赤ゆっくり達を口の中に入れおえるとまりさは群れへとれいむを案内した。
もしこれがゲスまりさと呼ばれる存在であったらと考えると警戒心0もいいところである。
さておき、れいむを連れてきたまりさは、出会った群れのゆっくり達に『ゆっくりかえったよ!』と挨拶すると
周りから『ゆっくりおかえり(なさい)!』と返ってくる。
同時にまりさの周りに群れのゆっくりたちがれいむたちを見つけて集ってくるとまりさは、れいむたちのことをみんなに紹介した。
「それじゃどすにきてもらわないとね」
「まりさはどすをよんでくるから、みんなはここでみていてあげてほしいんだぜ」
「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」
まだここは群れの入り口に当たる部分である。
ドスの元へ行かず、ここにドスを呼んで来ると言う事は、群れに入れていいゆっくりできる存在なのか見極める為である。
群れの奥地に引き入れた後で何かしらの問題を引き起こされても困るし、
結局、群れに入れなかった場合、群れの内部の情報をもったまま出て行った後に外のヤツラに情報を流されても困る。
ゲスと呼ばれる種類だったら集団を引き連れてやってくることも有り得るからだ。
ドスが来るまでの間、周りに集ってきた群れのゆっくりたちは出会った時のまりさと同じようにじろじろとれいむ達を見定めるように見つめる。
ひそひそと話す声がするがれいむたちに話し掛けようとしてくるゆっくりはいない。
れいむには、なんだかその様子が不気味に感じれた。
少しすると、どしんと地面に響くような音が感じ取れ、音が近づくと共に一匹のドスが姿を現した。
「ゆっくりしていってね!」
大きさは東のドスよりかは小さい。
3m半ばと行った所だろうか。
東のドスしか知らないれいむには北のドスが少し頼りなさげに見えた。
「れいむはなんでドスのむれに入りにきたの?」
ドスが最初にれいむに尋ねたのは群れに入りにきた理由であった。
じろじろとれいむを選別するような目でいつのまにか集っていた群れのゆっくりたちがれいむ達を見ている。
れいむは気づかなかったが、ざっと見渡すと群れの3割以上がありすで占められていた。
「あかちゃんたちをゆっくりさせてあげたいからだよ!」
れいむの言葉を聞いたドスは赤ゆっくり達の方に視線を移した。
父親はいない、赤ゆっくりにありす種がいる。
事前に周辺の見張りをしていたあのまりさに聞いていたこともあり、ドスは察した。
大方、このれいむもレイパーありすの被害者なのだろう。
赤ありすを育てると言い張り、所属していた群れから追い出された可能性もある。
違うなら違うで別に気にすることはない。
と判断した。
何年かに一度くらいは東のドスの群れからそういった親子が来る事もあったし、
西の地方やここら一体とは別の場所から流れてくることはよくあるのだ。
何故なら、ここはそういった被害者達の受け皿の群れなのだ。
「だいじょうぶだよ、れいむとあかちゃんたち。
ここはどんなゆっくりでもおきてさえ守ればゆっくりできるからね」
「ゆ! れいむたちはどすのむれにいれてもらえるの?」
「うん。れいむたちもここでゆっくりしていってね!」
「どす、ありがとう!」
「「「どす、ありがとょう!」」」
「ゆっ! それじゃぁ、れいむたちをかんげいするよ!」
「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!!」」」」」」
ドスの掛け声にあわせて囲んでいた群れのみんなが歓迎の声を上げる。
良かった。
先程はちょっと心配だったけど自分達は歓迎されている。
(これであかちゃんたちをゆっくりさせてあげることができるよ)
れいむは顔が喜びと安堵に満ちた。
群れのみんなへのお披露目と歓迎を兼ねた挨拶が終わるとドスがれいむに話し掛ける。
「ゆー、れいむ」
「どす?」
「今あいてるおうちがないんだよ」
「ゆゆっ!? ゆぅ~……おうちがないとゆっくりできないよ」
「だからしばらくはどすのおうちで暮らしてね。
その間にみんなにてつだってもらいながらおうちをつくるといいよ」
「ゆっ! ありがとう、どす!」
「それじゃ、どすのおうちにあんないするよ! ゆっくりついてきてね!」
「ゆっくりついていくよ!」
「みんなもゆっくりおうちにもどってね!」
ドスがれいむたちが付いて来れる速度で自分の巣へと向かうとれいむたちも後ろをつけてゆっくり跳ねていく。
北のドスの巣も崖を掘って作った大きい洞窟である。
ドスくらいのサイズになると巣を作るには自然でできた洞窟か崖のような場所に作るしかないのだ。
東のドスのと良く似ていることかられいむは一発でこれがドスのおうちだと解った。
「ゆっくりかえったよ!」
ドスがおうちの中に向かって言った。
ということはここにはドス以外の誰かも住んでいるのかな、とれいむたちが巣の中を覗く。
するとドスに負けない音を響かせながら一匹の大きなゆっくりが姿を現した。
「ゆっくりおかえりなさい!」
ドスよりも一回りは小さい。
ドスと同じ金色の髪だが、長さは短い。
その髪の上に一本の線のように赤いカチューシャが映えている。
「ゆっ! こんなおおきいありす、れいむみたことないよ!」
この群れにはドス以外にも大きなゆっくりがいる。
群れのみんなからはクイーンと呼ばれるドスの番いのありす。
ドスの帰りを待ち、れいむたちの前に今現われた彼女だ。
「あら、このこたちがまりさのいってたこたちなのね」
「そうだよ。今あいてるおうちがないからしばらくまりさたちのおうちに置いてあげようとおもうよ」
「ゆっくりりかいしたわ」
「ゆゆっ、おばちゃんもありちゅとおなじにゃの?」
「そうよ! ありすもあなたたちとおなじよ!」
「しゅぎょーい」
「とてもとかいはなかわいいこたちね、すりすりしてもいいかしら?」
ここで下手に断って機嫌を損ねれば、せっかくの安住の地がなくなってしまうかもしれない。
子ども達以外へのありすへの恐怖がなくなったわけではないが、れいむは応じた。
「ゆっ! れいむのあかちゃんたちにすりすりしてあげてね!」
「あかちゃんたち、すーりすーり」
「しゅーり、しゅーり」
「きもちいいよ!」
「おばちゃん、れいみゅにもれいみゅにも!」
一通り赤ちゃんたちにすりすりし終えたクイーンありすはご満悦だった。
このありすはあのありすと違う。
その様子を見てれいむは心の恐怖が和らいだ。
「ごうかくね! きっととかいはないいこになるわ!」
「ありしゅたちときゃいはになるよ!」
「れいみゅもなるよ!」
「さっ、みんなもうおそいからおくに入って!」
その日、美味しいご飯をたっぷり貰って、れいむたちはドスとクイーンに包まれて、
久し振りにゆっくりと寝ることができた。
それからのれいむ達は幸せだった。
昼間は群れのゆっくりたちに手伝ってもらいながら巣を作り、一段楽したら狩りをする。
足りない分は、ドスとクイーンが分けてくれた。
すくすくと成長する子ども達に包まるれいむの姿は今が一番幸せな時と言ってよい。
ある日。
夜、赤ちゃん達が寝た後。
ドスとクイーンが自分達の身の上をれいむに話し始めてくれた。
何処にでもいるような平和な家族。
理知的なありすと狩りの上手なまりさの夫婦とその子ども達。
幸せに暮らしていた一家だったが、長くは続かなかった。
毎年、南の方の地方では、秋になると越冬へ向けて生存本能が刺激されるありす種が
レイパーありすの群れを形成し、辺りのゆっくりたちを襲い始める。
その一家も例外なく群れのレイパーありすたちに襲われた。
番いのありすの方は、ありす種だったことが幸いして群がってきたレイパーありすの数も少なければレイパーありすのすっきりも少なめだった。
おかげで何とか一命を取り留めたものの、番の父まりさは黒ずみ、子ども達は跡すら残っていなかった。
「ゆっ!? じゃぁ、くいーんとどすは……?」
「うん。ドスとクイーンもあの子たちとおなじなんだよ……」
普通ならにっくきやつに無理矢理産まさせられた子として殆どが捨てるか凶行に走るゆっくりが多い中、
一匹だけ生き残ったありすは、番いのまりさに宿った赤ゆっくり達を夫の残し子とし、実の子のように大事に育てた。
しかし、それは苦難の連続でもあった。
まず辺りに住む生き残りのゆっくり達からはありすと言うだけで迫害された。
命の危機を覚えた母ありすだが、それでも子どもたちを捨てなかった。
まだ赤ちゃんだった子どもたちを連れて、ゆっくりのいない遠い地方へと逃げ移り住んだ。
ある日、母ありすが狩りから帰ってくると、一匹の赤まりさが黒ずんで、一匹の赤ありすが潰れて、どちらも死んでいた。
残った子ども達に何があったのかを聞くと、死んだ赤まりさと赤ありすは二匹で遊んでいたのだが、
突然、赤ありすが赤まりさを襲いはじめ、それが終わると赤まりさは黒くなってしまったのだと言う。
赤まりさをすっきりで殺した赤ありすは、別の赤まりさにも襲い掛かろうとしたので姉妹達全員から潰されて死んだ。
レイパーありすの子を育てることの難しさを知った母ありすだが、それでも愛する夫の残した子たちであり、捨てれなかった。
ある一匹の子ありすは、成体間近、人間で言うやりたい盛りに発情し、家族を襲うとした結果みんなから潰された。
そうして段々と数が減っていき、最後にはまりさとありすが一匹ずつ残った。
それが昔のドスとクイーンである。
諦めず自分達をここまで育ててくれた母ありすは、二匹が成体になり独り立ちできると同時に今までの無理がたたりなくなった。
それからどのゆっくりにも会わないようにし、二匹は長い年月を生きていた。
やがてまりさはドスと呼ばれるに必要な大きさと特殊能力を。
ありすはクイーンと呼ばれるほどの大きな身体を手に入れた。
その頃、まだゆっくり全てに対して敵意を持っていた二匹は、自分達が力を持ったことに気づくと
今まで隠れていたのを止め、迫害されてきた恨みとばかりに所構わずゆっくりを襲い転々とした。
あまりにも暴れた二匹の前にとうとう当時の東のドスが動く。
二人がかりとはいえ、まだその当時は2mといったところのドスと2m足らずのクイーン。
もうその当時から4mはあった東のドスの前にあっという間に二匹は成敗され、諭された。
『お前達が殺してきたゆっくりの中にもお前達と同じ境遇のゆっくりもいたはずだよ!
お前達のお母さんと同じゆっくりもいたはずだよ!
罪を犯してないゆっくりを殺す時点でお前達もレイパーありすと同じだよ!
みんながみんな、悪いゆっくりじゃないんだよ!』
東のドスに諭された二匹は、それから生きる目的を持った。
『じぶんたちのようなゆっくりたちをしあわせにしてあげよう』
そうして長い年月をかけてこの群れを作り上げたのだと言う。
だからこの群れはどんなゆっくりでも受け入れる。
かつての自分達のような不幸なゆっくりを出さないと決意した二匹の現われがこの群れだ。
「でもね、れいむ。ひとつだけおぼえておいてね」
「ゆっ?」
「このむれでもあいてをむりやりすっきりさせたゆっくりはじゅうざいだからね」
「……ゆっくりできなくさせられるの?」
この場合のれいむの『ゆっくりできなくなる』は死ぬである。
「ううん。しぬよりもつらいよ」
「わたしたちはそういういなかものがいちばんきらいなのよ」
「ゆっ! わかったよ。れいむはこどもたちがそうならないようにがんばってそだてるよ!」
今の所、子ども達はすりすりしても、遊んでいても、
ドスとクイーンの姉妹のようなことにはなっていない。
その片鱗も見えてない。
きっと大丈夫だ。
どんなことが待ってるか解らないけどそんな日はこないと信じたい。
れいむは自分に言い聞かせながら、その日は床についた。
後編へ続く。
- この話を書くに当たって許諾を下さったデストラクション小杉氏に多大なる感謝を申し上げます。
書いたもの。
等価交換
ゲスを愛でる者
実験お兄さん
11/8 細部修正
最終更新:2008年11月08日 14:45