ゆっくりいじめ系1279 れいむよ永久に安らかに

 れいむよ永久に安らかに


 これは虐待の話だ。
 僕が、ゆっくりれいむを虐待した件についての記録だ。
 途中で、そうは思えなくなるかもしれない。だが、それは早とちりだ。
 どうか最後まで読んでほしい。
 僕は、自分の快感のためにゆっくりを虐待する人間だ。
 たとえそう見えなくても、そうなんだ。


 *  *  *  *  *



「ゆ゛……? ゆ゛……? ゆ゛……?」
 ゆっくりれいむは自分の目に映っているものが理解できなかった。
 狭い部屋、冷たい床、明らかにゆっくりできない熱そうな道具を持っている、青い服の人。
「ここはどこ? ゆっくりおしえてね! ――ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 返事の代わりに、れいむの頬に灼熱の焼印が押し付けられた。

 *  *  *  *  *

 以前、ゆっくりれいむは、お兄さんのところで暮らしていた。
 れいむは加工所というところから出荷された冷蔵れいむで、お母さんや姉妹はいなかった。
 でも、お兄さんがいた。おいしいごはんをくれて、暖かい部屋、ふわふわの寝床で飼ってくれた。
 だから、とてもとてもゆっくりできた。最高のおうちだった。れいむはおにいさんが大好きだった。

 ある日、お兄さんが、散歩に連れて行ってくれた。
 高い空の下で、やわらかい草花の上で、れいむは元気に跳ねまわって夢中で遊んだ。
 だが、知らないうちにお兄さんから離れすぎていた。気が付くと、知らない人に抱き上げられていた。
「ゆっくりはなしてね! れいむはおにいさんのれいむだよ!」
 必死に頼んだが聞いてもらえなかった。泣きわめいて抵抗したが無駄な努力だった。
 草原の向こうのベンチにお兄さんが座っているのが、袋に詰め込まれる直前に、見えた。

 *  *  *  *  *

 そして今、れいむはどことも知れない、殺風景な部屋に放置されている。
 周りには焼印の押されたゆっくりがたくさんいた。どの子もゆぐゆぐと泣いていた。
「ゆっくりしていってね!」懸命に声をかけると、似たような空元気の返事があった。
 みんなさらわれた子だった。でもれいむは希望を抱いていた。
「だいじょうぶだよ! きっとたすかるよ! お兄さんがゆっくり来てくれるよ!」

 最初の一週間は、れいむの生涯で二番目に不幸な週だった。
 なぜなら、「棚」に押し込まれた週だったからだ。
 焼印をつけられたあと、れいむたちは巨大な部屋に並ぶ棚に入れられた。
 人間の靴箱のような狭い棚だ。一マスに一匹ずつ、何百何千ものゆっくりが詰め込まれた。まずい流動食が出た。
「ゆっくりだしてね!」「ここはせまいよ! おうちかえる!」「きっとしかえしするからね!」
 みんなが文句を言った。だが、青い服の人間たちは誰ひとり返事をしてくれなかった。

 二週目、れいむは自分たちの境遇を理解し始めた。
 25センチ四方のマスの中。そこから出ることはできないのだ。
 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう信じていた。
「だいじょうぶだよ! きっとたすかるよ! お兄さんがゆっくり来てくれるよ!」 

 三週目、れいむはうんざりしてきた。食事がまずいのだ。
 食事は棚の前の樋を流れていくおからのような流動食だ。一応ほんのりした甘味はある。
 だがひどく単純な味で、お兄さん手製のごはんにはとても及ばなかった。
 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう信じていた。
「だいじょうぶ、きっとたすかるよ。お兄さんがゆっくり来てくれるよ」 

 四週目、れいむは体が痛くてたまらなかった。
 ずっと体を動かしていないので、皮が堅くなってしまったのだ。
 乾いた餅のようにほっぺたがコチコチになり、ひび割れた。
 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう信じていた。
「まだだいじょうぶだよ。お兄さんがもうすぐ来てくれるよ」

 五週目から、青い服の人間たちがたまにやってきて、スプレーをかけてくれるようになった。
 頬の乾きはそれで抑えられた。けれどもコチコチの代わりに、ベタベタするようになってしまった。 
 でもきっとお兄さんが助けに来てくれる。れいむはそう願っていた。
「お兄さんが来てくれるよ。れいむがまんできるよ」

 六週目、突然、隣のマスとの仕切り板がガシャンと開いた。
「ゆゆっ?」「ゆーっ、まりさ!?」
 隣にもゆっくりがいた。初日に会ったきり見なかったまりさだった。人恋しさから、思わずすりすりした。
 すると、どういうわけか床がぶるぶると震え始めた。
「ゆゆゆゆゆ?」れいむは戸惑いつつも発情してしまった。
「れれれれれいむぅぅ!」「まままままりさぁぁ!」「「すっきりー!!」」
 れいむは生まれてはじめてのすっきりをしてしまった。
「ゆぅ、ごめんなさい、おにいさん。れいむ、すっきりしちゃった……」

 そのあと、れいむの頭には茎が生え、小さな赤ちゃんたちが実った。
 隣のマスとの間にはガシャンと再び仕切りができたが、声は聞こえた。
「れいむ、ゆっくりしたあかちゃんをうむんだぜ!」「ゆん! ゆっくりがんばるよ!」
 赤ん坊の成長を心から楽しみにして、れいむは一週間を過ごした。
「ゆっくりうまれてね……!」

 七週目、赤ん坊が生まれてすりすりを始めた途端、人間がやってきてガシャンとレバーを引いた。
 床板が目の荒い網になり、赤ん坊はみんなボトボトと落ちて、どこかへ転がっていった。
「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」
「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」
 その後、れいむは悲しみながらも、赤ちゃんが戻ってこないかと一縷の希望を抱き続けた。
「あかちゃんたち、きっとゆっくりもどってくるよ……!」

 八週目が来ても、赤ん坊は戻ってこなかった。
「あかちゃんだぢ、どごなのぉぉぉ……!」れいむは悔し涙を流していた。
 ガシャンと仕切り板が開いて、まりさが現れた。 
「ゆゆっ?」「ゆーっ、まりさ!?」
 床がぶるぶると震え始めた。「れれれれれいむぅぅ!」「まままままりさぁぁ!」二匹はすっきりした。

 九週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。
「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」
「れいむのあかぢゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!」
 楽天的なれいむの心の中にも、ドロドロした黒い不安が生まれ始めていた。
「お兄さん、ここはぜんぜんゆっくりできないよ!」

 十週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。
 床がぶるぶる震え、二匹はすっきりした。

 十一週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。
「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛、またれいむのあかぢゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。
 床がぶるぶる震え、二匹はすっきりした。

 十三週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。
「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛!! あがぢゃんどらないでねぇぇぇぇぇ!!!」

 十四週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。
 床がぶるぶる震えたが、れいむは拒んだ。
「まりさ、だめだよ! すっきりしないでね!」
「れれれれれいむ、すっきりさせでねえええええ!」
 二匹はすっきりした。

 十五週目、赤ん坊が生まれたが、二週間前と同じように生まれて十分で床下に落ちていった。
「ゆっきゅりさせちぇぇぇ!」「おかーしゃん、たちゅけてぇぇぇ!」
「ぎあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、まだまだあがぢゃんがあぁぁぁぁ!!!」

 十六週目、
 ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。
 床がぶるぶる震えたが、れいむは厳しく拒んだ。
「まりさ、だめだよ! あかちゃんがとられちゃうから、すっきりしないでね!」
「れれれれれいむ、すっきりさせでねえええええ!」
 二匹はすっきりした。

 十七週目、赤ん坊が生まれたが、れいむは口を大きく開けて、なんとか全員落下前に受け止めた。
「ゆー」「ゆっくち!」「ゆっくちちぇっちぇっ」「ゆっきゅう!」
「ゆああ……! あかちゃんたち、ゆっくりだよ! ゆっくりしていってね……!」
 初めて助けることのできた子供たちを、涙を流して祝福したが、十分後に人間が来て持ち去った。

 連続六回にわたって愛しの赤ん坊を奪われたれいむは、かなりダメージを受けていた。
 うつろな目で宙を眺めて、「ゆあ゛あ゛……ゆあ゛あ゛……」とうめき、時おり「ひぐっ」と嗚咽した。
 するとそこへ人間がやってきて、れいむをつついて我に返らせ、噛んで含めるように言った。
「子供を守ろうとしても無駄だ。ゆっくりの子供はすべてここの商品として出荷されるんだ」
「ゆぐっ……あかぢゃん、かえじでね……」
「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」
 すでに四ヵ月、百二十日も狭い棚に閉じ込められていた。
 死ぬまで、という言葉がリアルな重みを持ってずっしりとのしかかってきた。
「ゆがああああああああ!!」
 れいむは狂的な怒りにかられて、人間に飛び掛ろうとした。
 ガシャン、と棚の枠にさえぎられて跳ね返されただけだった。
「ゆがああああああ!! ゆがああああああああああ!!!」
 ガシャンガシャンという音が何度も響いた。人間は去っていった。

 十八週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 十九週目、赤ん坊が生まれた。
 れいむは力なく声をかけて祝福したが、十分後には落下して転がっていった。
 れいむの心の中のドロドロは、真っ黒に固まりつつあった。
「お兄さん、お兄さん、ここはいやだよ、はやくたすけてよ……」

 二十週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 二十一週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「お兄さん、お兄さん! はやくきて、れいむつらいよ!」

 二十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 二十三週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「お兄ざん、お兄ざんっ! れいむいやだよ! あかぢゃんかわいそうだよ!」

 二十四週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 二十五週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「お兄ざんお兄ざんお兄ざんはやくはやぐもうこんなとごろいやいやいや」

 二十六週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 二十七週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「お兄ざぁぁんお兄ざぁぁぁんたずげでねぇぇれいぶづらいよぉぉぉ!」

 二十八週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 二十九週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「お兄ざぁぁぁぁぁぁぁん! れっれいっぶっも゛っも゛ヴっ、こわっこわ゛れぢゃぅぅぅぅ!」

 三十週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 三十一週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
 しかし、一匹だけが網目に噛みついて踏ん張った。
「ゆきゅっ!」「あかちゃん……!」
 れいむの磨耗しかかっていた理性が蘇った。
 母のしぶとさで、ビー玉ほどの赤ん坊を背後にかばい、自分と壁との間に隠した。

 三十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。
「まりさ……すっきりしていいよ」
「ゆっ? いいの、れいむ?」
 連日れいむの悲鳴を聞かされているまりさも憔悴していたが、れいむの後ろの小さな影を見て、ハッと顔色を変えた。
「れいむ……!」
「まりさ……れいむはこのこのために、ほかのこをすてるよ!」
 れいむは涙をこらえて言った。
「おねがい、ゆるしてね……!」
「ゆ、わかったよ、れいむ!」
 まりさもれいむの悲壮な決意がわかったのか、強くうなずいた。
「れれれれれいむぅぅ!」「まままままりさぁぁ!」「「すっきりー!!」」
 二匹はすっきりした。

 三十三週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」
 れいむは叫んだが、それは演技だった。
 背中の後ろにしっかりと、ピンポン玉ほどの赤ちゃんれいむをかばっていた。
「おかーしゃん、ゆっくち!」
「このこのためなら、れいむはおにになるよ……!」
 野生動物のような警戒心で青い服の人間の目を交わしつつ、ひそかに流動食を食べさせて、れいむは子供を育てた。

 三十四週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 三十五週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」
 その陰で、テニスボールほどの子ゆっくりが涙していた。
「いもうちょたち、てんごくでゆっくちちてね……!」

 三十六週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 三十七週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」
 その陰で、りんごほどの子ゆっくりが涙していた。
「いもうとたち、てんごくでゆっくりちてね……!」

 三十八週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。

 三十九週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
「れいむのあかぢゃん! あがぢゃあぁぁぁん!!!」
 その陰では、グレープフルーツ大になった子ゆっくりが苦しんでいた。
「おかーさん……れいむ、そろそろせまいよ!」
「ゆっ!」
「ゆっくりたすけてね!」
 れいむはヒヤリとしたものを感じた。いや、無視しようとしていたが、実はもう二週間も前から感じていたのだ。
 このままではいずれ、子ゆっくりも、ゆっくりできなくなってしまうと。
「ゆ、ゆっくりかんがえるよ!」
 そう答えつつ、心の中では藁にもすがる思いで願っていた。
(おにーさんおにーさんたすけて! いまならまにあうよ、いましかないよ! れいむのこどもをたすけてね……!!!)

 四十週目、ガシャンと仕切りが開いてまりさが現れた拍子に、子れいむがコロンとれいむの前に出た。
 まさにその瞬間、棚の前を青い服の人間が通りがかった。
「あれっ、子供いるじゃないか!」
 れいむとまりさは、頭が真っ白になった。おたおたしているうちに人間が手を伸ばして子れいむを掴み取った。
「ゆっ、おかあさーん! ゆっくりたすけてねぇぇぇ!!」
「れいむぅぅぅ!!」
「うわぁ、でっかい! これだともう六……七週齢ぐらいか? よくもまあ育てたなあ」
 人間はいったん子れいむを床に置き、母れいむをズボッとつかみ出して、奥を調べた。
「おっ、髪を敷いて巣を……すごいなあ、これは報告しなきゃ」
「おかーさん、おかーさぁぁぁん!!!」
「れいむ、にげてね! ゆっくりにげてね!」
 子れいむはぴょんぴょんと跳びはねて泣きわめいた。母れいむは必死に子供だけで逃がそうとした。
 人間は巣を取り除いてから、そんな母れいむを再び押し込め、ガッチリと枠を閉めた。
 そして子れいむを取り上げ、ギュッと片手で握りしめた。
「ゆぶっ? ゆゆっくりやめっやっやべっ、おがぁしゃっゆブッ」
 短い抵抗のあと、子ゆっくりはあっさりと潰された。人間はそれを隅の排水溝に捨てた。
 れいむの頭の中で、最後の最後に子供が漏らした、おかあさん、という言葉がエコーしていた。
 どういうわけか床がぶるぶると震え始めた。
「れれれれれいむぅぅ!」
 れいむはデク人形のように無表情のまま、まりさに犯された。

 四十一週目、赤ん坊が生まれ、十分後には落下して転がっていった。
 れいむは子守唄ひとつ歌わず、それをぼんやりと見つめていた。

 それから、さらに十週間、れいむは同じ毎日を過ごした。
 まりさに犯され、子供を生み、またまりさに犯され、子供を生んだ。
 五十一週目、れいむはまた子供を生んだ。十分後には落下して転がっていった。六匹の赤ん坊がいなくなった。
 れいむは二十二回出産して、百五十七匹の赤ん坊を産み、百五十六匹を奪われ、一匹を殺された。
 れいむはもう、お兄さんの名を呼んでいなかった。
 いつから呼んでいないのかわからなかった。
 なぜ呼んでいたのかもわからなかった。
 今ではただひとつの言葉しか覚えていなかった。
「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」
「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」
「おまえは死ぬまでそこで赤ん坊を産み続けるんだ」






 五十二週目、ガシャンと仕切りが開いて、まりさが現れた。























































 五十三週目、棚の枠を開けて、人間が手を差し込んできた。
 れいむのぼやけて意味をなさない視覚に、顔が映った。
「れいむ、れいむか!? ああ、そのリボンの模様はれいむだな! 俺を覚えてるか?」
 れいむは朦朧と眺めていた。そんな妄想はもう何千回も経験していた。
「わからないのか? もうダメになっちゃったのか? かわいそうに……」
 ずるっと引き出されて抱かれた。頭の上の茎がゆさっと揺れた。
 おにいさん、ゆっくりありがとうね、とれいむは思った。こういう夢は、たとえ夢でも、気が晴れるから好きだった。
「ええ、こいつです。間違いないんで……はい、はい。いえ、はい」
 青い服の人間と話し合ったお兄さんが、れいむを運んでいく。
 あれ、きょうのゆめはすごいよ。
 おそとのけしきまでみえているよ。
 ゆっくりできそうなけしきだよ……。
 れいむはどんよりとした無表情で、加工所から家までの道のりを眺め続けた。
 その目が、次第に明るくなってきた。
「さあ、うちだぞ」
 ドアをくぐると、匂いがした。
 人間の男の人の匂いだ。
 なつかしい匂いだった。
 それはまぎれもなく、現実の匂いだった。
 れいむの周りを幾重にも覆っていたぼんやりとした膜が、急速に薄れていった。
「ゆ……ゆ……!?」
「おっ、れいむ!? 治ってきたのか?」
「ゆっ、ゆっ、ゆゆゆ……!」
 ぽすっ、と座布団の上に置かれた。
 そのふかふかの感触。
 その甘い自分の匂い。
 そこから見える室内。
 すべてが、記憶のままだった。
「ゆっ! ……ゆ゛っっ!!! ……ゆ゛ぅっ!!!!!」 
 れいむはわなわな震えだした。目が見開かれ、大粒の涙がボロボロとこぼれだした。
 錆付いてボロボロに朽ちていたはずの心が、再び動き出した。
「こ こ は……れい むの……おうち……」
「れいむ」
 ハッと見上げた。カチャカチャと皿を出しながら、お兄さんがウインクしていた。
「ゆっくりしていってね」
「おにいざあああああああああああああん!!!!」 
 堰を切ったように感情があふれ出した。れいむはびょんびょんと激しくジャンプして、お兄さんに抱きつこうとした。
 だが、それはかなわなかった。
 足が萎えきっていて、跳ねるどころか這うこともままならなかったのと、近寄ったお兄さんに押さえられたからだ。
「無理しちゃだめだ。それに、赤ちゃんが落ちちゃうだろ」
「ゆっ!? あかちゃん?」
「そうだ。おまえ、あかちゃん大事だろう?」
 れいむは愕然として頭上を見上げた。そこに、小さな子供の生った茎があった。
「ゆゆーっ!? れいむにあかちゃんがいるよ?」
「おいおい、気づいてなかったのか?」
 笑ったお兄さんが、ふと顔を引き締めた。
「そうか……それほどつらかったんだな」
 そう言って、皿に乗せたものをれいむの前に差し出した。
「食べな」
 それはいちごを乗せた、白いショートケーキだった。
 ガンッ! とれいむの嗅覚を何かが直撃した。
「!?」
 戸惑って、目をぱちぱちさせながら、れいむはそれを確かめようとした。
 それは甘味の、本物のスイーツの匂いだった。
 おそるおそる舌を伸ばして、クリームをすくいとった。
 とろぉり……と。
 乳脂肪たっぷりの豊かな甘味が舌に乗り、れいむの口内に染み渡り、魂の底まで溶かしていった。
「ゆああああぁ……」
 れいむは陶然となった。目が泳ぎ、頬がとろけた。
 忘れきっていた、砂糖の香り、味、栄養。それらがれいむから、とうとうあの言葉を引き出した。
「ゆっくり……!」
「お、出たな」
「ゆっくり! ゆっくり、ゆっくり! ゆっくりー! ゆっくりぃぃぃぃぃ!!!」
 叫べば叫ぶほど、乾ききっていた心が満たされていくようだった。
 凄まじい勢いで本能がこみ上げ、れいむは行儀も何もかも忘れてケーキをむさぼり食った。
 お兄さんは追加で三つものケーキを出してくれた。それらもすべて食べた。
 食べている最中に、再び滝のように涙が流れ出し、とまらなくなった。
 蘇った心に、あとからあとから温かい思いが湧き出していた。
「はっふはっふ! めっちゃ! うめっ! ゆまっ! ゆあい! ゆがっ! ゆあああ!
 ゆあぁーん! あああああん! あああああんあーんあーんあーああん!」
 れいむは食べながら泣き出した。大声で心の限り泣いた。
 泣きながらお兄さんに這いよって、ぐりぐりぐりぐりと頬を押し付けた。
「おかえり、れいむ」
 あふれる感謝の思いをぶつけるため、れいむはいつまでも泣き叫び続けた。

 翌日、赤ん坊が生まれ、十分後も二十分後も、れいむとゆっくりした。
 声をかけあい、すりすりし、餌を与え、れいむは親身になって世話をした。
 森にいるどんな親にも負けないほど立派な、親ぶりだった。
 赤ん坊たちは、「おかーしゃん、すりすりしちゅぎだよ!」と文句を言ったが、れいむはやめなかった。
 やめるつもりはなかった。自分の身がすり切れても、子育てに全力を尽くすつもりだった。
 百五十七匹分のゆっくりを、与えてやらなければならないのだから。

 二ヵ月後、ゆっくりれいむは、お兄さんに頼んで、家族ともども山へ連れていってもらった。
 そよ風の吹く緑深い沢で、れいむは箱から出してもらい、草の上に座った。
「おかーしゃん……」
「ゆっくちできそうなところだよ……」
 八匹の子供たちが、れいむに寄り添っていった。するとれいむがたしなめた。
「ちがうよ、れいむ、まりさ! ゆっくちじゃなくて、『ゆっくり』だよ!」
「ゆ!」
「わかったよ、ゆっくり!」
「ゆっくりー!」
 ぴょん、ぽよん、と子供たちがはねた。
 もうみんなトマトほどになり、立派に野山で生きていけそうだった。
 それを見届けると、れいむはお兄さんを振り返って言った。
「おにいさん、いままでありがとうね」
「れいむ……」
「れいむはしあわせだったよ! ゆっくりかんしゃしているよ!」
「おかーさぁん……」
 子供たちが並んで、ほろほろと涙をこぼした。そんな一座に、れいむはキッとした顔で言った。
「さあ、ゆっくりひとりだちしてね! のやまでゆっくりくらすんだよ!」
「おかーさん!」
「おかーさんはむかし、ゆっくりできなかったよ。こどもたちは、かこうじょのおとーさんや、おかーさんのぶんまでゆっくりしてね! それがおかーさんのねがいだよ!」
 うるうると瞳を潤ませた子供たちが、サッと背を向けて駆け出した。
「ゆっくり、いくよ!」
「ゆっくりがんばるね!」
「おかーしゃん、ありがとう!」
「ゆっくり、ゆっくりー!」
 ぴょんぴょんと跳ねた子供たちが、次々に草むらに飛び込んだ。
 ザザザザザ! と風が渡ったあとには、もう何の痕跡もなかった。
 子供たちと同じように涙しながら見つめていたれいむが、振り向いた。
「ゆう……これで、れいむのしごとはぜんぶおわったよ」
「本当によかったのか?」
「ゆっ。お兄さんひとりにまかせるには、おおすぎたからね!」
 うなずいたれいむの髪には、あろうことか、白髪が混じっていた。
 この二ヵ月、れいむはお兄さんのおかげで心底ゆっくりした。だが、その前の一年が悪かった。
 身も心もボロボロにされた加工所の生活が、もともと長くもないゆっくりの寿命を、削り尽くしたのだった。
 柔らかな草の上で、大好きなお兄さんに見守られながら、れいむは早くもうっすらとかすれ始めた声で、つぶやく。
「お兄さん、ありがとうね。ほんとにほんとにありがとうね! れいむ、すごくゆっくりできたよ!」
「そうか」
「だいすきだったよ、おにいさん……!」
 そう言って、れいむは目を閉じた。このままこの場で、草木と風とともに、ゆっくりと消えていくつもりだった。

 お兄さんが、れいむの正面に来て、何か言おうとした。

 ……ゆ?

 れいむは目を開けて聞き返そうとした。
 だが、すでにまぶたが開かなかった。
 もう、お兄さん。さいごのことばなのに、ゆっくりしすぎだよ……。
 ほんのちょっとの悔しさを覚えながら、れいむは死んだ。 


 *  *  *  *  *


 加工所の記録などによれば、うちのれいむは、おおよそこんな一生を過ごしたらしい。
 最後の二ヵ月は、他のどんなゆっくりよりも飼い主の僕になつき、感謝しながら暮らしていた。
 これのどこが虐待だ、とおっしゃる方もいるかもしれない。
 だが、これを聞いたらどう思われるだろう? ――つまり、誘拐を装ってれいむを加工所員に引き渡したのは、他ならぬ僕だという事実を。
 僕はれいむの笑顔が見たかった。
 最高の――比類なき最上の――感動が見たかった。
 そのために、あの最低最悪の場所へ、一年にわたってれいむを放り込んだのだ。
 そして、生還したれいむの心からの感謝を、体いっぱい受け止めたのだ。
 人畜無害な愛護家のような顔で。

 僕はすでに、加工所から冷蔵まりさを買ってきてある。
 次の感動を得るためだ。一年越しの作戦。薄汚れたアニバーサリープレゼント。

 どうだろう。
 やってみたいと思わないか?













アイアンマン
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最終更新:2008年10月28日 16:46
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