幽香×ゆっくり系2

0339の続…き?な、な、なにぃコレぇ。
農業がはやってますね。だから幻視したのかも。



文々。新聞の欄外コラム『文の一枚』に太陽の畑の主の微笑みが掲載されて数ヶ月が過ぎた。
結局ネタが無くてコッソリ取った一枚を無断で使用したのだが、幸いにも本人からはお咎めは無かった。
もっとも、彼女を慕う上級妖怪達から「(ネガごと)ゆずってくれ たのむ!!」と追い掛け回されたので完全に無事とは言えないが。

それはさておき、日々が過ぎ、季節が一周したころ、太陽の畑は平穏そのものであった。
主は日傘を揺らしながら歌を口ずさみ、向日葵達に聞かせ歩いていた。
もう少しで歌い終える…所だったが、向日葵たちが畑に誰かが来たと穏やかに伝えてきた。

「この時期は殆どの者が活発だものね。」などと考えながら、歌を中断させた愚か者の方へ歩を進めた。

程なくして侵入者が視界に入った。緑髪の小さな子供が息を切らせながらそこにいた。そして主を確認するなり
「予定よりも早く着いちゃったから屋敷じゃなくて畑にいるかなと思ったけど、正解だったね。」と笑顔で言った。
ああ、この子達が穏やかだったのは、侵入者では無く、予定より早い来客を伝えたかったからか。
「ええ…、正解よ。でも、予定までかなり時間があったでしょう?そんなに急がなくても間にあったじゃない。」
愚か者などと考えてた事など一転して、穏やかな口調で答えた。
この子達に歌の続きを聞かせてから屋敷に戻るから先に屋敷で待っていなさいと伝えたら、「えへへぇ」とだけ言って私の後について来た。
…んもぅ。気にせず続きを歌うことにしよう。これ以上待たせたら退屈だろうから。


日傘がゆれるのを目で追いながら、太陽の主の後をついていく。
急いできた理由は単純にこの歌を聴きたかったから。
きっと彼女を知っているものでも、とても透き通った綺麗な歌声を持っていることを知っているのはここに住む虫達と向日葵と私くらいしか知らないだろう。…私のちょっとした自慢だ。
友達の夜雀とは違い、静かで穏やかな歌だから、仮に他の者が知ったらなおさら意外であると感じるであろう。

…彼女は誤解されていると思う。友達の氷精も幽香が怖いらしく、以前、彼女の話をしたら
「違う…あたい、が…最強なんだからね」「最強…さいきょう…」とうわごとの様にくりかえだした。彼女のトラウマだったらしい。
「うん、チルノちゃんが最強だからね。大丈夫だよ。」「大丈夫、だいじょうぶ。」彼女のお姉さんのような大妖精が氷精の頭を撫でながら笑顔でなだめているのをボーッと眺めたこともあった。
食い気が宵闇な友達は誰だかわからず「怖いのかー。」猫又の友達は幽香は怖い存在であると教わったと言った。

確かに怖い所もあると思うけれども、それは彼女の性格と圧倒的な力、そして独自の世界観がそうさせているのだと私自身は考える。
大地を敬い、生命を敬う。大地から育ち大地へと還る、そのサイクルを至上と考える。彼女が怒る事はそれらへの冒涜。冒涜者には漏れの無い制裁を加える。その制裁の過激さが彼女に悪評を与えてるのではと。…もっとも世界観云々は本人が言っていた訳じゃないからただの推察なんだけど。

あれこれ考えていたら歌が終わった。彼女がこちらに振り返る。
「…おしまい。リグル、予定通り私の屋敷でティータイムにしましょう。お菓子も用意してあるから。」にこりと微笑む。
こんな綺麗な笑顔の幽香が、皆に怖いと思われているのは、自分が馬鹿にされることよりも不愉快だった。


お茶の時は私が幽香に話をする。友達の氷精が大蛙に飲み込まれかけたんだとか、友達の夜雀が騒霊シスターズとCDデビューしたんだよとか…。
それら他愛も無い話を幽香は「へぇ…。相変わらずお馬鹿な子ね。」とか「それは知らなかったわ。どんな曲なのか楽しみね。」などと相槌を打って聞いていた。

……楽しい時間も過ぎ、自分の住処に戻ろうとその旨伝えたら、
「わかったわ。…今日は楽しかった。またいらっしゃいな。」と答えてくれて嬉しかった。
嬉しくて小躍りでもしてしまいそうであったが自粛できた。

が、次の瞬間。
「「!?」」
畑に何かいる事に気づいた。幽香には花が知らせてくれたようで、私には虫が知らせてくれた。


急いで駆けつけると、そこには一匹の饅頭が向日葵をじーっと眺めていた。
幽香の顔から笑顔が消えた。表情が消えうせて怒気すら感じられた。

私は知っている。こいつら饅頭が私の仲間を喰らい、さらに幽香の庭で向日葵を食い散らかした事を。
私は知っている。黙って見逃そうとした幽香の期待を裏切り、あろう事か自分達の家にしようと言い出し向日葵を押しつぶした事を。
私は知っている。その後の結末を。虫が見ていた。だから知っている。

私は幽香がすぐにでもこの饅頭を土に還すものだと思っていたが、そうはしなかった。
「そこのあなた?何をしているのかしら?」ひどく優しい声で問いた。
饅頭はそこで初めてこちらに気づいたらしく、跳ねながら言った。
「このお花、きれーだね!!おーきいね!!なんていうの!?」
怒気が薄れたのを感じた。だが、まだどうなるか解らない。
「この子達は向日葵。ひまわりっていうのよ。」答えた。
「ひまわり!!ひまわり!!ゆっくり覚えたよ!!」興奮気味に饅頭が答えた。
興味津々に向日葵を見つめる饅頭。緑色の髪?で幽香っぽくもあr、ない。
「そう。それで、この子をどうしたいのかな?」興奮するそれに重ねて問いた。
「ひまわり!!どうすればできるの!?」饅頭。
風向きが変わる気がした。私は会話を見守るしかない。
「種と水と大地と愛情。」簡潔に幽香。
「ゆっくりできそう!!」できると豪語する饅頭。
「難しいわよ。目の前のひまわりじゃ満足できないのかな?」問う、幽香。
「これはおねーさんの!!ゆっくりしちゃだめ!!自分のでゆっくりしたい!!」饅頭は言い切った。

幽香の怒気が完全に消えた。
「…そう。解ったわ。」幽香が指を鳴らした。パラパラと植物の種が生まれた。それをどこからか出した布袋につめて目の前の饅頭の前に屈み、渡した。
「それがこの子達の種よ。それを土に植えなさい。そして毎日、話を聞かせ、水を与え、大地にお願いしなさい。」と言って微笑んだ。

「うん!!ゆっくりとしっかり育てるよ!!」饅頭は嬉しそうにして、早速その場から少し離れた場所をその辺の木の枝を使って耕し始めた。
幽香は微笑んでいた。この前の惨劇の続きは回避されたようだ。


一週間過ぎた日、私は幽香に招待された。嬉しくて小躍りしてたら親友達に見つかって変な目で見られた。

急いで向かうと、幽香は日傘を揺らして向日葵たちに歌を聞かせ歩いていた。
そしてそれを真似るかのように、そこから少し離れたとても小さい畑で饅頭が「ゆー♪ゆー♪」といいながらウネの周りを回っていた。
ウネからは既に饅頭よりも背が低いくらいの芽がでて育っていた。明らかに成長が早すぎるが、幽香の計らいであろうと結論づけた。

「あら、今日も早いわね。」幽香がこちらに気づいて微笑んだ。
幽香と談笑して、帰りに饅頭にプレゼントとして麦わら帽子を被せてやると
「ありがとう!!ゆっくりできるね!!」と饅頭は感謝の意を示した。撫でてやったら喜んだ。悪い気はしなかった。

更に一週間して、その日も招待された。
饅頭の畑も立派になり、柵やちょっと憎たらしいの顔をした案山子までできていた。
「明日には花が咲きそうだよ!!ゆっくり見ていってね!!」勢いよく声をかけられたので
「うん。大きい花が咲くといいね。」と答えた。

「咲くよ!!ゆっくり頑張ったから!!」そういって仕上げとばかりにせっせと仕事に戻っていった。

今日のティータイムは珍しく幽香から話をしてきた。
「あの饅頭、ちゃんと花を育て切れそうね。意外だったわ。」と、嬉しそうに言った。
「うん。本当に意外だったよ。」幽香の言葉に相槌を打った。ああ、このままお話していたいなぁ。
「…リグル、今日は私の家に泊まっていきなさい。明日の朝、一緒にあの饅頭の成果を祝ってあげましょう。」幽香は事も無げに言った。
「うん。そうだね、祝ってあげよう。」…ん?あれ?
「夕食は私が作るわ。リグルは嫌いなものあったかしら?」えっと、無農薬なら…ってそうじゃなくて
「女の子なんだから、もっと身支度に気を使いなさいな。綺麗な髪が台無しじゃない。」目を細めながら髪を撫でられる。手の温もりが。
「うちのお風呂、大きいから私がお手入れしてあげるわ。」あわわ、あわわ
「ベッドはひとつだけだから一緒でいいわよね?」ひぇぇぇ!!

その後の私はベッドに入るまで頭が真っ白で幽香になすがままにされていた、様だ。そんな気がする。
「このポタージュのトウモロコシ、太陽の光を沢山浴びてるから美味しいわよ。」と白いエプロンをつけた幽香にあーんさせられたりした、気がするし、
「リグルの肌、もっと綺麗になるわよ。日々のお手入れはきちんとなさい。」と背中にやわらかい感触を感じながらそういわれた気がするし、
「おやすみなさい、リグル。」と、今まさに目の前で言われた気がする。

…何とか眠れた自分に拍手したい。私、頑張ったよ。



翌朝、そんな幸せな私の気分も、吹っ飛んだ。

「ゆっくりしていってね!!」「ゆっくり食べていってね!!」「ゆっくり美味しいね!!!」
幽香と私は呆然とした。饅頭の畑を無数のゆっくりが占拠していた。
黒大福が何か踏みつけていた。茶色の、繊維質の、円形の。
幽香が畑に近づいていく。そこで占拠していたゆっくり達が一斉にこちらに気がつく。
「お姉さんたちもゆっくりできる人!!?」「ここは私達のおうちだよ!!」「ゆっくりくつろいでいってね!!」
折れた案山子に乗っかるゆっくり。何が楽しいのか、柵を倒してはしゃぐゆっくり。
モグモグと口を動かすゆっくり。咲く寸前で折られた向日葵。

「ここに、いた、子はどうした、のかな?」幽香がたずねた。多分、いや確実に解っていてたずねた。
「ゆっくりできない子はいらないよ!!」「皆の食事を邪魔したからゆっくりどかしたよ!!」「ゲラゲラ!!」
「だから皆でゆっくりさせたよ!!」「ゆっくりできてよかったね!!」
ゆっくり共がサッっとどくと、真ん中にはあの饅頭が動かないでいた。傷は遠目から見ても深いと解るくらいひどいし、息すらしてないしのは明白だった。
「ゆっくりあっち逝ってね!!」「うー♪うー♪」
リーダーと思わしき黒大福はその畑の主の亡骸を更に踏みつけ、冒涜した。

私は激怒のあまり、体中の力で、持てる力を使い、その場にいたゆっくり共を皆殺しにしようとした。事実、できる。だが次の瞬間、
幽香が、笑った瞬間、動けなくなった。私の体のありったけの力も消し飛んだような感覚。むせ返るような死の予感。私だけじゃない、あのゆっくり達にも、花も虫も、空気でさえ動けなかった。時間は止まっていない。だって、汗が、震えが、涙が止まらない。

「お前達は、土に還す事無く、消す。」

…風見幽香が本気で怒った。それは大事件の前触れであり、集まった魔力の膨大さがそれを容易に想像させた。
手から日傘を離し、両の手で魔力の放出先の示した。
「ゆっぐり、して!!」「やめてね!!やめてね!!」
示した先は当然、ゆっくりたちの固まり。目で死した饅頭を見つめると、その体を植物のつたが包み込むようにして地に潜った。
頭の弱いゆっくり達も目の前の圧倒的な存在の逆鱗に触れたことにようやく気がついたようだ。
「助けて!!何でもしますから!!」あの黒饅頭が引き金を引いた。

放たれた。

黒白の魔法使いが得意技としているアレだった。ただ、規模が違うだけだった。
何も残らなかった。体も塵一つ残らなかった。魂すらも消し飛んだであろう。
ゆっくり共を容易に消し飛ばした光の束は、すき間に飲み込まれ、別の場所から現れ、すき間に飲み込まれ…いつの間にか空中にできたすき間の輪をぐるぐるとループした。

それから程なくして、紅白の巫女や黒白の魔法使い、すき間妖怪など、幻想卿に住むものならば誰でも知っている有名人が現れた。

「幽香!あんた、あんな馬鹿でかいマスタースパークを撃ったら結界がどうなるか解ってるんでしょ!!?」
「おいおい、どうしたらあんな癇癪起こせるんだ?お前ほどの大妖怪が。」
「私が起きていなかったら、まったく。幽香ちゃん、説明。」

幽香は目を瞑ったまま何も言わない。幽香、早く、説明しなきゃダメだよ。幽香、誤解されちゃうよ。

私は、何とか体を動かせた。その場から歩むだけでも全身から汗が吹き出た。でも、歩いた。歩いて、すき間妖怪達の前まで行った。行けた。
「私が、私が見ていたから、知っているから、幽香の代わりに事情を説明するから、幽香をそっとしてあげて。」
カラカラだった喉から、何とか言葉を紡げた。

その様子を見かねたのか、すき間から出されたお茶を出された。ありがたかった。

一飲みにし、事情を説明し終わると、紅白の巫女も黒白の魔法使いも何も言わなかった。
「まあ、そうね~、一週間くらい夜が明るくなるだけだし。どうせ寝てるから~。」すき間妖怪もよくわからないが納得した?ようだ。

黒白と紅白は皆に異変ではない事がわかったと説明するからと去っていった。
残ったのはすき間妖怪と私だけ。幽香は遠くを見たままだ。
「あなたは」すき間妖怪。
「あなたは幽香ちゃんのそばにいてあげなさい。一週間。ちゃんと面倒見られるのよ。」そういってすき間で帰った。
面倒を見られろって、あんた。本当によく解らない妖怪だ。

私は幽香の隣まで歩いた。幽香は動かない。でも、幽香が何かアクションを起こすまでは、傍にいようと思った。

何分たったか解らない。
「リグル…。」信じられないくらい小さな声だった。
「なあに?」答えた。
「ありがと…。」今度の声は普通の大きさだった。
「うん。」次は私の番。
「幽香、あの子を土に還してあげよ?」言った。
「…そうね。」指を弾いた。

地中からあの饅頭を包んだつたが現れ解き放った。二人で穴を掘ってそこに饅頭を埋葬した。土をかぶせ、墓標を立て、汚れてしまった麦藁帽子を立てかけた。

それから一週間、幽香とすごした。はじめの3日は本調子でなかった幽香も4日目からは元の調子に戻っていた。たっぷりとお世話された私は真っ赤になったり真っ白になったりしていた。幽香は楽しそうに笑っていた。

頭を撫でられながら、話をしていた。ふと、氷精と大妖精が頭をよぎった。「幽香見たいな姉が欲しかった」6日目の夕方、告白した。

幽香は微笑んで言った。
「今更ね。あなたは私の妹よ。花と虫の相性は最高なのよ。」嬉しかった、と思う。平衡感覚が崩れたせいかちょっと床が冷たかった。

1週間目。あの饅頭の墓に花を供えてあげようと二人で様子を見に行った。


今週の文々。新聞の欄外コラム『文の一枚』は大きくて綺麗な向日葵だった。それはこちらを見て微笑んでいるようだった。

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最終更新:2008年09月14日 11:30
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