ゆっくりいじめ系25 ゆっくり家族のお引越し

ここは、広大なゆっくり平原。
柔らかな草で満たされ、さまざまな花が咲き、穏やかな彩りを見せている。
さわやかな風が吹けば木々の枝が揺れ、くすぐったい音が奏でられる。
青い青い空にゆっくりと浮かんでいるお日様からは柔らかな光が燦々とふりそそぎ、
平原はまるで母の慈愛に満ちた抱擁を受けたかのように平穏に包まれている。

また、夜ともなれば風は涼しさを帯び、虫たちはここぞとばかりに歌いだす。
満天の星々は瞬き、冷たさを感じさせる月からはきらきらと綺麗なものが零れ落ちていき、
大地がそれらをゆっくりと受け止めてくれる。

そんな綺麗なものたちの間で、ゆっくりたちはくる日もくる日もいっしょうけんめいゆっくりしていた。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくり」「して」「いって」「ね」「!」

ゆっくり霊夢の群れだ。母ゆっくり霊夢が一匹、子ゆっくり霊夢が五匹いる。
母ゆっくり霊夢に比べて、子ゆっくり霊夢は個体によってまちまちだが、一回りから二回りは小さい。

群れを成すゆっくりは動物性が濃いのか、複数回の繁殖期を経てからゆっくりと朽ちていく。
逆に植物性の濃いゆっくりは、一度の繁殖で次世代へと全てを遺して朽ちるのだ。
ゆっくり平原のところどころにある、蔦を帯びた黒ずんだゆっくりがそれだ。
動物性の濃いゆっくりの子に植物性の濃いゆっくりが生まれたり、その逆もある。
なぜそんなことが起こるのかは謎で、その判別は繁殖期にならないとできない。
また、植物性の濃いゆっくりのほうが一回の繁殖で産む子の数が多いらしい。だが総じて見ると、ほぼ同数だというのは生命の神秘だろうか。

その群れがいるのはゆっくり平原でも屈指のゆっくり名所。池だ。
綺麗な水に、魚や虫たちがいて餌も豊富。多くのゆっくりたちが思い思いのやり方でゆっくりしている。
母ゆっくり霊夢は子ゆっくり霊夢を一匹一匹丁寧に水を含んだ舌でこすっている。

「ゆっくり♪ゆっくり♪」
「くすくす~ くすくす~」

体表についている汚れをなめ取って食べているのだ。
その間、他の子ゆっくり霊夢たちは水をかけあったり、口にふくみ水鉄砲のように噴出したりして遊んでいる。
水辺の花によってきた蝶々や蜂を追いかけて、狩りの真似事をしている子ゆっくり霊夢もいる。

「びゅーびゅー」
「きゃっきゃ~」
「ゆっくりてふてふしていってね!」

いつもどおりの、何の変哲もない平和な日常。昨日まではゆっくりできた。今日も、そして明日からもゆっくりしたい。
そんなことを考えられるはずもないが、そう願っていても不思議ではない。

「ゆぐっ!?」

だが、平穏というものはいつだってたやすく壊れてしまう。
子ゆっくり霊夢がゆっくり魔理沙に踏まれている。群れで一番小さなゆっくり霊夢だった。

「ゆ゛っぐでぃやべでねぇえ゛ぇ!」

苦しげにうめく子ゆっくり霊夢。
ゆっくり魔理沙の顔はふてぶてしく、まるでガキ大将のようだ。いつ歌いだしてもおかしくない。
あたりに他のゆっくり魔理沙は見当たらない。群れを離れているわけではないようだ。
植物性の濃いゆっくりから生まれたのだろう、そういう種は自立心が強いが、総じて協調性に欠けている。
そのゆっくり魔理沙もご多分に漏れず、自分のために邪魔なゆっくり霊夢の群れを追い出そうとしているのだろう。
手始めに弱いやつから。

「さっさとどっかいってね!ここでゆっくりしないでね!」

跳ね上がり、潰す。跳ね上がり、潰す。もはや泥団子だ。

「い゛やじゃあ゛ぁぁあ゛ぁぁあぁぁッッ!!?」
「なんでっ!なんでぇぇぇぇ!?」
「や゛べだげでよぉおぇぇええぇぇッ!!」

それを見ていた子ゆっくり霊夢たちは、あまりの衝撃に震えながら叫ぶことしか出来ない。
しかしもとよりゆっくり魔理沙に聞く耳はない。そんな涙ながらの訴えかけなどどこ吹く風と、むしろ勢いを増している。

「ゆっくり♪ゆゆっくり♪ぃゆ~っくりぃ♪」
「やべっ、やべでっ、ぶぶっ!ぶびゅッッ!!」

餡子が飛び出た。これはもう助からない。
それを見てけらけらと気持ちよさそうに笑うゆっくり魔理沙。
さぁ、次の獲物はどれだ!?とばかりに他の子ゆっくり霊夢を値踏みするように順繰りに見ていく。
そこに水が飛んできた。目に当たる。

「ゆ゛ぅう゛ぅぅぅッ!?」

身を震わせて転げまわるゆっくり魔理沙。なみだ目になりながら飛んできた先をにらむ。
そこには敵意をあらわにした母ゆっくり霊夢の姿が。
なにか言おうとして口を開くゆっくり魔理沙だが、母ゆっくり霊夢がまだ口に含んでいた水を勢いよく飛ばす。

「ゆっぐふっ!ぐぶぐぶっ!」
「ゆっーー!!ゆッーー!!」
「ぐふっ、やべでっ、さっさとやべでねっ!」

喉の奥に勢いよく水を当てられてむせるゆっくり魔理沙に、容赦なく水を浴びせていくゆっくり霊夢。
口がからっぽになったのか、ゆっくり魔理沙がひるんでいる間に、飛びかかるゆっくり霊夢。

「ゆっくりしないでねっ!!」
「い゛やあ゛ぁぁぁぁあ゛ぁぁあ゛あッ!!」

引きずり倒し、体当たりし、噛み付く。乗っかって跳ね回り、体を回転させて踏みにじるゆっくり霊夢。

「ゆびゅー。ゅぶー。」
「ゆっくり!ゆっくりっ!!」

ゆっくり魔理沙はもはや虫の息だが、二度とこういうことをしないように、どちらが上でどちらが下かを刻みつけるように踏みつけるゆっくり霊夢。
声を出さなくなったゆっくり魔理沙から、格付けは済んだとばかりに飛び降りるゆっくり霊夢。

「そこでゆっくりしててねっ!」

吐き捨てるように言い放ち、泥団子になった子ゆっくり霊夢の残骸へと跳ねていく。
そこにはすでに他の子ゆっくり霊夢たちがいて、痛ましいまなざしで見つめていた。

「ひっぐ、ぐすっ。ゆっぐぅ~」
「ゆぅ~」
「もっとゆっくりしたかったよ?」
「あの世でゆっくりしててね!」

思い思いのことを言うゆっくり霊夢たち。母ゆっくり霊夢も寂しげなまなざしでそれを見つめていた。
突然、子ゆっくり霊夢の一匹が凄い勢いで飛んでいった。どれだけゆっくりすればそんなことができるのか想像もつかない。
ゆっくり霊夢たちが飛んでいった先を見ると、その子ゆっくり霊夢は蛙の口に挟まれていた。

「ゆっぐ!?」

大きい。母ゆっくり霊夢くらいはあるだろうそいつは、ゆっくりと獲物を呑みこんだ。げこげこと満腹だと言わんばかりに鳴く。
蛙の中からは

「くらいよー?おかーさん、どこー?ゆっくりしよー」

という声が薄く聞こえている。
ガサリ。
蛙が近づいてきた。

「いやぁっ!いやぁっ!」
「おがーざーーーん!!」
「……っっ!!」

子供たちを守るように、再び敵に向かい飛翔する母ゆっくり霊夢。「ゆーーー!」という掛け声も勇ましい。
今吐き出させればまだ助かる。そんな意識もあったかもしれない。
だが、その跳躍をあざ笑うように飛び立つ蛙。母ゆっくり霊夢以上の跳躍を見せ、その顔に着地する。

「ゆびゅっ!?」

視界をぬめぬめとした蛙で覆われ、着地に失敗した母ゆっくり霊夢。しかし伊達に年は食っていない。
落下の痛みにゆっくりしていないで、すぐさま身を起こす。だがもはやそこには子を食ったにっくき蛙の姿はなく、水面に波紋だけが残っていた。


今朝までゆっくり出来たこの場所はもはやゆっくり出来ない場所だ。
そう思った母ゆっくり霊夢は引越しを決意した。
母が一匹に子が三匹のゆっくり大移動。
と言っても、川辺を変えるだけだが、ゆっくりたちにとっては一大決心と言える。

日のあるうちは新天地を求めて移動し、子ゆっくり霊夢が疲れたと言えばゆっくりと休んだり遊ばせたりした。
夜は木の根元で身を寄せあい、母ゆっくり霊夢は子ゆっくり霊夢たちが眠りにつくまで体をこすりつけて、寝心地よくしていた。
そんな今までとは一味違う毎日が続いているが、ゆっくりの本能なのか、目先のゆっくりが最優先されるので、あっちへふらふらこっちへふらふら。
母ゆっくり霊夢もそこはゆっくり。多少の責任感めいたものを持ってはいるが、子ゆっくり霊夢たちと一緒に遊んでしまうこともあった。
安住の地は見つかるのだろうか?


悲しき別離の日から五日、今日も今日とてゆっくり強行軍だ。母ゆっくり霊夢を先頭に、三匹の子ゆっくり霊夢が続く。
と、真ん中の子ゆっくり霊夢が何かを見つけた。

「きれいなちょうちょ!どこいくの?」

と叫ぶや、そのアゲハチョウを追いかけてゆっくりと跳ねていく。

「うわぁ、きれー」
「まってーゆっくりしていってー」

他の子ゆっくり霊夢もそれに追いすがらんと一所懸命に飛び跳ねていく。たちまち取り残される母ゆっくり霊夢。

「まっでー、おいでがないでー!」

頭を痛めて生んだ子を一気に二匹も失ったあの日を思い出したのか、泣きながら追いかける母ゆっくり霊夢。
べしょべしょと飛び跳ねていくと、聞きなれた子ゆっくり霊夢の笑い声が聞こえる。と、なにかにぶつかった。
涙で前が良く見えなかったのだろう、跳ね返り反り返る。
しばらく青い空が見えた。

「きれー」

とたんに起き上がり小法師のように元に戻る母ゆっくり霊夢。

「ゆっくりしていってね!」

目の前にはゆっくり魔理沙。かつて母ゆっくり霊夢のいとし子を潰した奴ではない。別のゆっくりだ。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしようね!」

ゆっくり魔理沙は一匹なのか、母ゆっくり霊夢に近づくや体をこすり付ける。その親愛の表現に、母ゆっくり霊夢も同じように頬をこすりつけた。
これで二匹はお友達だ。ゆっゆっ!と喜びを全身で表して飛び跳ねる二匹。
ゆっくり魔理沙と一緒になって駆け出す母ゆっくり霊夢の頭には、どこかへ行った子ゆっくり霊夢を追いかけようという考えはない。
子ゆっくり霊夢たちも大きくなり、もうすぐ育ちきって群れを離れることになるからと考えたわけではないだろうが、心配だとは思ってもいなかった。
何より、久しぶりの開放感。今は新しいお友達と何気負うことなく遊んでいて、以前よりもずっと高くずっと遠くへと跳べそうだった。

「ゆっくりー!」
「ばった!ばった!」
「おーいしーー!!」
「これまじゅーいっ!ぺっぺっしてね!」

そこらへんに生えている草や飛んでいる虫などを食べたり、意味もなく飛び跳ねたりしているうちに、母ゆっくり霊夢は本当に晴れやかに笑顔を浮かべた。

「ゆっくりしていってねー!!」

それはきっと今までで一番いい叫びだったろう。ゆっくり魔理沙もそれに唱和した。二匹はさっき出会ったばかりだというのが信じられないほどに仲良くなっていた。

二匹が日が暮れたことに気づいたのは空が赤く染まっていたからだった。朝からずぅっと遊びまわっていたことになる。
わずかに肌寒い風を受けたとき、母ゆっくり霊夢は未だ戻ってこない子ゆっくり霊夢たちに思いを馳せた。
だがすぐに思い直す。子ゆっくり霊夢たちもすぐにひとり立ちするのだ、いつまでも庇護下におくのが親でもあるまい、と。
ゆっくり魔理沙に声をかけられ、そちらを見ると、ゆっくり魔理沙は飛び跳ねて草を押さえつけて今宵の寝床を作っている。
あたりは背の高い草ばかりなので木の根元でなくてもよさそうだとゆっくり思った。なによりわざわざ作ってくれたのだ、文句など言えない。

「ゆっくりできるね!」
「ゆぅっくりしようねぇ!」

二匹はにっこりと笑った。
しばらくはゆっくりとしていたが、どちらからとなく体をこすり合わせ始めた。それは親愛の表現よりもゆっくりとした動きだ。
なにより頬をこすりあわせているのではなく、顔の前面をこすり合わせている。口が交差するときにお互いついばんでおり、やがてゆっくりと求愛行動に移っていた。

「ゆゅっゆゅっゆゅっゆゅっ!」
「ゆふっ!っ~~ふぅん」

円を描くようにお互いの顔をこすり合わせ、接吻の時間も長くなっていく。
二匹とも頬が好調し、赤らんでいる。表面はしっとりと濡れていき、もちもちとした質感を帯びているようだ。
もし今のこの状態のゆっくりを食べたとしたら、今までにない歯ごたえと吸い付くような食感を味わえたことだろう。
それほどまでに何かに満たされていることがわかるのだ。
こすり合わせる行動はいつの間にか前後に揺れるような動きになっていた。
それは向かい合っている二匹の顔がくっついて離れ、またくっついては離れるという動きだった。むにむにと形を変えていく二匹。
その目はとろりと蕩けており、まるで煮込まれているようだ。

「ゆんゆんゆん~」
「ゆっふぅうぅん」

嬌声は口が繋がっているのでくぐもっているが、たしかな快楽を感じているようだ。
寝床の草が湿り気を帯びていた。二匹の体から分泌される体液だ。ぬとぬとするそれは餡ではあるが、どちらかといえば葛餡に近いかもしれない。
やがて二匹はほぼ同時に声ならぬ声を上げて果てた。
だが、その頭頂部には何の変化もない。きっと発情期ではないからだろう。

「「すっきりー!」」

どことなく艶めいた二匹は晴れ晴れとした表情で叫んで眠りについた。
目を閉じてから十数える間にゆっくりとした寝息が聞こえてくる。ゆっくりたちがどんな夢を見るのかはわからない。


翌日、子ゆっくり霊夢は目を覚ました。差し込む日差しがまぶしかったのだ。
まわりには今まで一緒に過ごした二匹の子ゆっくり霊夢がまだ安らかな寝息をたてている。

「ゆっくりしていってね!」

早くみんなともっとゆっくりしたいと、その子ゆっくり霊夢は朝一番の泣き声で起こそうとした。
二度三度とそれを続けると、ようやく二匹の目が開く。

「「ゆっくりしていってね!」」

三匹は飛び跳ねた。これで今日もみんなでゆっくりできると言っているようだ。

「おかーさんどこいったんだろうね?」
「さがそーさがそー」
「ゆっくりさがそーね!」

そう言いつつ野原を跳ね回る。
朝食はばったなどの虫やそこらじゅうに生えている草だ。

「おいしーい!」
「むぐむう」
「ゆっくりたべるよ!」

やがて満腹したのか、ゆっくりとする三匹。ぽかぽかと食後の日向ぼっこを満喫している。
ゆっくりとしたその表情はまさにゆっくりといえる。見ているとこちらまでゆっくりしたくなってくる。
見れば一匹はよだれまでたらしている。

「ゆっ!おかーさんをさがさないと!」

ゆっくりしすぎて目的を見失っていたが、一匹が思い出した。
すぐさまゆっくりと捜索活動を始める三匹。
しかしあたりから「ゆっくりしていってね!」という声がたくさん聞こえる。
そう、ここはゆっくり平原。
ゆっくりたちが数多く生きているのだ。一匹のゆっくり霊夢を探し出すのは困難だろう。
だが、母子の絆があるはずだ。
子ゆっくり霊夢たちがそんなものを信じているかはわからないが、探すことをやめようとはしない。

「おかーさーーんっ!!」
「もう、どこにいったのー?」
「れーむたちはここだよぉ~」

声を上げつつゆっくりと移動していく。
そうしているうちに日も高く昇り、頂点にさしかかろうとしている。

「ぜ~ぜ~」
「みつからないよう」
「ゆっくりやすもう?」

三匹は体力が限界なのか、舌を出して息を整えていた。汗のようなものも流れている。
さいわい水場は近い、ゆっくりと休養をとれるのは間違いない。
三匹は背の高い草を掻き分けて、水の匂いのする方へとゆっくり進んでいく。
進むにつれて他のゆっくりたちの声がだんだんと小さくなっていることに、まったく気がつく様子のない三匹。

「ゆっ♪しずかになってきたね」
「ゆっ!ゆっくりできるよ?」
「これならゆっくりやすめるねっ!」

濃い緑の草を押しのけて飛び出すと、そこには子ゆっくり霊夢たちが今まで見たことのない生き物がいた。
蛇だ。
綺麗な鱗をそなえたそれは、しゅるりと舌を出し入れし鎌首をもたげて突如現れた闖入者を睥睨している。蛙だったら動けなくなってるだろう。
だがそこはゆっくり、物怖じせずに声をかける。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしようね!」
「ゆぅゆぅっ♪」

蛇はしゅるりと鳴くと矢のように身を翻して跳んだ。一番前にいる子ゆっくり霊夢に向かって大口を開けている。

「ゆぐっ!?」

くわえられた一匹は当然のこと、ほかの二匹も何が起こったのかわからなかった。

「ゆっ!?ゆ゛ぅぅぅう゛う゛ぅぅぅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ~~~~ッ!!!」
「ゆっくり?ゆぐっゆっ!?」
「ゆぅ~~~~~」

ぐいぐいと飲み込まれていく子ゆっくり霊夢。叫びながら身じろぎするがびくともしない。
それを見て泣きながら叫ぶ二匹。
やがて蛇はそれを全ておさめると体を左右に振る。
蛇の体内からは

「せまいよっ!ゆっくりのまないで!さっさとはきだしてね!!」

などと叫ぶ声が聞こえる。が、それもつかの間すぐにその声は痛みを帯びたものに変わった。

「ゆ゛っゆぐぐぐ!ぜま゛い゛っぜばいよ゛ぅう゛うぅうぅうぅ」

卵を呑みこんだ蛇が体内にある骨で殻を割って中身を出すように、呑まれた子ゆっくり霊夢は自身が引き裂かれるのを感じた。
そして押し出されるのは何よりも大切な命の餡子。のぞんでいないのにゆっくりともれていく。

「いだいっいだぁいっ!いだいよぅっ!いだいいだいいだいッッ!!」
「い゛ぃや゛ぁあ゛ぁぁあ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛」
「ゆ゛っぐり゛じな゛い゛でっ!!だじであ゛げでぇっ!お゛ね゛がい゛ぃぃぃぃいぃいぃっ!」

やがてなにも聞こえなくなる。餡子が残らずひねり出されたのだ。
蛇が鎌首をもたげて口を開く。
びくりと身を寄せ合う残された二匹。おびえきったその顔は涙にぬれてふやけていた。
ぺっ。
音がしたわけではないが、蛇がなにかを吐き出した。
それは子ゆっくり霊夢の片方にかぶさる。

「ゆっ!ゆぅっ!とって!とって!」
「ゆっくりまってね!」

ただでさえおびえていたところに、急に真っ暗になったのだ。がくがくと余計に暴れる子ゆっくり霊夢。
それをくわえて引っ張ると二匹はそれがなんなのか理解した。とたんに青ざめる二匹。
黒い髪に赤いリボン。そして自分たちと同じ顔立ち。
違うのは厚さがないことと、穴があいていることだけだった。たったそれだけの違いだが、それはもう二度と動かない。

「い゛あ゛ぁあ゛ぁあ゛あ゛ぁあ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「う゛あ゛ぁあ゛あ゛あっ!な゛に゛ごれ゛な゛に゛ごれ゛ぇ゛え゛ぇえ゛!?」

ぞろりと這い寄ってくる蛇。明らかに獲物を狙う目つきだった。

「ゆっくりしていってよー!」
「もっとゆっくりしてていーよー!」
「「こっちにこないでねっ!!」」

逃げ出す二匹。丸呑みされて皮だけにされる恐怖に汗だくで滂沱の涙を流している。
蛇はゆっくりと獲物の追跡を開始した。

涙と汗でたるんだ皮をべしょべしょとゆがませて、跳ねている二匹の子ゆっくり霊夢。
二匹の胸中にははやく母ゆっくり霊夢と合流してゆっくりしたいということしかなかった。

「ゆぅっひうっ!おがーじゃーん!どこー!?」
「はやくだじげでよー」
「ゆっぐりじだいぃいいいぃぃ」
「ゆっぐじゃぜでぇええ!」

逃げ出してからずうっと喋っているのだ。すこしでも静かにゆっくりしたら背後からしゅるりという音が聞こえそうで怖いのだ。
あたりからだんだんと他のゆっくりの声が聞こえてきた。

「ゆっゆっ!もうすぐおかーさんとあえるね!」
「そしたらきちんとゆっくりしたいね゛っ!?」
「ゆっくりしたいねー」
「ゆっゆっゆゆぅゆゅぅゆ」
「ゆぅ?」

明らかにおかしい様子に子ゆっくり霊夢は振り向いた。

「ぎゃあああああああああああああああ」

蛇がいた。口の間には後ろにいたはずの子ゆっくり霊夢の顔が見え隠れしている。
一目散に逃げ出す子ゆっくり霊夢。

「や゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛!!ま゛っでえ゛ぇ゛え゛ぇえ゛ぇえぶりゅりっ!」

飲み込まれつつある子ゆっくり霊夢は、自分を見捨てて逃げ出す子ゆっくり霊夢を見ながら、絶望の泣き声をあげて餡子をひねりだされた。
再び蛇の追跡が始まった。
あとにはこれ以上ない絶望と苦痛に彩られたデスマスクだけが残されていた。

「ゆふぅー!ゆひゅぅううぅぅ!!やー!やなのー!」

逃げる子ゆっくり霊夢はいまだかつてないほどゆっくりしないでいた。
あとでゆっくりできるのなら、いまはゆっくりできないでもいい。
表情がそう語っていた。
まわりからは他のゆっくりたちの声が聞こえている。が、その子ゆっくり霊夢は自分がいまだ狙われていることを察していた。
ゆっくりと締め付けるような視線を感じるのだ。

「ゆっくりーゆっくりー」
「ゆっくゆぅっく」

どこか聞き覚えのある声。その方向に向かって跳ぶ!
深い茂みを抜けるとそこにはゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙がいた。
母ゆっくり霊夢だと思ったのだろう、一端着地し、渾身の力で抱きつこうと再び跳ぶ子ゆっくり霊夢。

「おがーざーーーーん゛ん゛ぅっ!?」

だが、無様に地面に叩きつけられる。

「びぃいぃいぃっ!!!やだーー!おがーざんっだぢげでぇぇえぇぇぇ!!!」

食いつかれていた。がっちりと。激しく体を揺らすが決して離れようとしない。
ゆっくりと自分の体が飲み込まれていくのがわかる。ずるり、ずるりと音がする。

「ぴィーーーーーーッ!ぴィーーーーーーッ!!」

うったえる様に泣く子ゆっくり霊夢。しかしその視線の先にいたゆっくり霊夢は隣のゆっくり魔理沙と一緒にどこかへと跳ねていってしまった。
決してその子ゆっくり霊夢をかえりみることはなかった。

「あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛ッーーー!!」

子ゆっくり霊夢の視界はゆっくりと暗黒に包まれていった。



母ゆっくり霊夢は見たこともない生き物に飲まれていくゆっくり霊夢が、自分が頭を痛めて生んだ子ゆっくり霊夢だと一目で理解していた。
だが、子ゆっくり霊夢を助けることよりも、ゆっくり魔理沙と一緒にもっとゆっくりすることを選んだ。
母ゆっくり霊夢は、もはや母ゆっくり霊夢ではなく、ただのゆっくり霊夢だった。



夜。
こうもりのような影がゆらゆらと飛んでいる。
ゆっくりれみりゃだ。

「うー!もちもち!うまー!」
「うまうま!もちもちー!うまー!」

ご満悦の様子で踊るように飛び回っている。
その下には、踏み固められたように倒されている草と、その上に並んでいる黒い帽子と赤いリボンだけが残されていた。


おわり。


お付き合いくださりありがとうございました。
丸呑みって怖いですよね?


著:Hey!胡乱

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最終更新:2008年09月14日 04:49
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