第二章
脱出口である光の元に辿りつくため、様々なルートを試行錯誤しながら、機械室の上部へ向かうゆっくりれいむ、ゆっ
くりまりさ、ゆっくりみょん。 あっちこっち行くたびに、3匹の体力は確実に奪われていった。それでも、互いに励まし
合い希望を忘れない。
「ゆっくりいこうね!」
「ゆっくりがんばって!」
「ちーんぽっ!」
3匹は助け合いながら、ゆっくりだが、確実に外への穴に近づく。途中、ゆっくりが足場にするにはやや細いパイプの
上を進むことになった。やや危険だが、ここを通れば、出口へとぐっと近づく。
「ゆっくりすすんでね!」
「ゆっくりしていってね!」
ゆっくりれいむ、ゆっくりまりさは細いパイプの上を何とか、這うように前方へ向かう。
しかし、ゆっくりみょんの様子がおかしい。
「ゆっくりゆっくりちーんぽっ!ゆっくりゆっくりちーんぽっ!」
独特の鳴き声を、オマジナイのようにして発しながら歩くが、今にも落ちそうなほど、左右に大きく体をゆらしながら
進んでいる。理由は、カチューシャの飾りだろう。そのせいで、ゆっくりみょんは重心がややズレているのだ。
また、今のゆっくりみょんは、ここまで来るのに体力を消耗していることも原因だ。
「ゆっくりとぶよ!」
ゆっくりれいむとゆっくりまりさが、パイプから、安定した人間の作業員用の足場へ跳び移る。
「すこしゆっくりできるね!」
安堵するゆっくりれいむ、ゆっくりまりさ。
しかし、その後ろで、
つるんっ
「ちんぽーーーっ!!」
とうとうゆっくりみょんが落下した。パイプの上の水滴に体を滑らせてしまったのだ。
べしゃ
そのまま床へと落下するゆっくりみょん
「ゆっくりだいじょうぶ!?」
心配するゆっくりれいむとまりさ。
「ゆっ…ゆっ…。」
よろよろと体を立てるゆっくりみょん。なんとか大丈夫そうだ。
元々ゆっくりはある程度の弾力があることもあり、今回程度の高さからの落下なら、傷は負っても死ぬことはないだろ
う。
「すこしやすんでね!!」
「ゆっくりのぼってきてね!!」
落ちてしまったゆっくりみょんに気をつかう2匹。
「ゆっくりしてからいくよ!」
二匹の呼びかけに応じるゆっくりみょん。どうやら大きなダメージは負っていない。
しかし…
チュウ……チュウ…。
ゆっくりみょんの耳に、機械室の機械音以外の“何か”が聞こえてきた。
チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!
その何かとは、…鼠だ。
本来、食品加工工場であるゆっくり加工所は、清潔さが保たれているはずだが、この機械室は掃除も難しいこともあり、
非常に不衛生な状態になっている。そのため、床下にはゆっくり加工所内のゆっくりを狙った鼠が住み着いてしまったの
だ。
今になって鼠が集まってきたのには理由がある。無機質な鉄のニオイしかしない機械室のなかで、ゆっくりちぇん
が破裂したため、甘い匂いが広がってしまったのだ。
鼠達がゆっくりみょんに雪崩のように襲いかかる。
「ゆゆゆゆゆっ!?」
体力を消耗したゆっくりみょんは逃げることもままならない。
チュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウ
チュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウ
チュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウッ!
あっというまにゆっくりみょんの表面を埋めつくす鼠の群れ。その数は、ゆっくりみょんに直接ひっついていないもの
も含めるとざっと200はいるだろうか?そして、鼠達はゆっくりみょんにいっせいにカジりつく。
「ち、ちんぽーっ!!」
グチュグチュグチュグチュグチュグチュ
全身を襲う痛みに、ゆっくりみょんが声をあげる。
しかし、それが更なる地獄をゆっくりみょんに味あわせる。
なんと鼠達は、同時に食すことができる面積が広がったと言わんばかりにゆっくりみょんの口の中へと雪崩れ込む。
「ゆぐぎぎぎがばばば…っ!!」
痛い、苦しい。ゆっくりみょんはもはや、息をするのもままならない。
「ゆぐりぎがおごごげげがっ!!!」
外から、中から皮と餡子を食い破られていくゆっくりみょん。
体外、体内から激痛が襲う。
「はやくやめてね!!!」
「ゆっくりさせてね!!!」
上から、その地獄絵図を目の当たりにする二匹のゆっくり。
しかし、助けに行くことはできない。行けば自分達も同じ目に会うことは明らかだからだ。
ゆっくりみょんを中身とした、表面がうごめく球状の鼠の集合体がゴロン!ゴロン!とあちこちへ転がる。
「ぢんんんぼおおおおっ!!!」
ゆっくりみょんが、必死の抵抗をしているのだ。
「ゆっくりがんばってね!!!」
ゆっくり達のエール。
しかし、その鼠の集合体は少しずつ……少しずつ……小さくなっていく。
「ゆっぐりいいいいっ!!!」
泣き叫ぶゆっくりれいむとゆっくりまりさ。
それが小さくなっていくことが何を意味するのか、知能の低いゆっくりでもわかるようだ。
やがて、その集合体は動くことすらなくなった。表面のみが、激しくうごめいたまま。
第三章
数分がたった。
あれほど激しく床でうごめいていた鼠の群れの鳴き声はもうなく。また機械の音だけが部屋に響く。
床には、そう、何も無くなっていた。
ねずみも、ゆっくりみょんも。
「ゆっぐ…」
そのはるか上の足場を、涙を流しながら進むゆっくりれいむとゆっくりまりさ。
あと少しで出口だ。しかし、どこか足取りは重い。この短時間で、二匹も“おともだち”を失ったのだから。
しかし、悲しみで立ち止まっているわけにはいかない。また鼠の大群が現れ、今度は上まで登ってくるかもしれない。
それに、モタモタしていれば人間達がこの機械室に入ってくるだろう。
「あとすこしでゆっくりできるよ!」
「はやくゆっくりしたいよ!」
そして、ゆっくりれいむとゆっくりまりさは、ここから跳べば、光が差し込む穴まで直接続く足場へと行けるところま
で来ていた。
最後の足場までの距離…それは今のゆっくりれいむとゆっくりまりさの跳躍力で何とか届くかもしれない距離だ。ちょ
うど、ゆっくりちぇんが死んだパイプまでの距離とほぼ同じだろう。
「こんどはゆっくりとべるかな?」
不安そうな顔をするゆっくりれいむ。もし落ちれば、もう一度ここまで登る気力は二匹には無い。
「ゆっくりとぶよ!」
後ろから強い口調で言葉を発するゆっくりまりさ。まるで、あの時のゆっくりちぇんのようだ。
「ゆっくりがんばって!」
応援するゆっくりれいむ、そしてゆっくりまりさが助走をつけるために後ろへ下がる。
かつてのゆっくりまりさなら、怖じけついていたかもしれない。しかし、今は違う。ゆっくりちぇんが前へ進む勇気を
くれたのだ。
駆け出すゆっくりまりさ、そして。
ぴょん!
ぷにん、と着地するゆっくりまりさ。見事、ゆっくりまりさは最後の足場へ到着した。
「ゆっくりーっ!」
歓喜の雄叫びをあげるゆっくりまりさ。
次はゆっくりれいむの番だ。意を決して助走するゆっくりれいむ。
ぴょん!
届く…かに見えた。
「ゆーーっ!!」
ほんの少し、届かない。無情にも、落下するゆっくりれいむ。
しかし、
ガクンっ!
ゆっくりまりさがギリギリのところで、ゆっくりれいむの髪の毛を口で掴んだのだ。
「ゆっくりはなさないでね!!!」
叫ぶゆっくりれいむ。
重い…。疲れきったゆっくりまりさには、今のゆっくりれいむの体重は重すぎる。
「ゆゆゆゆっ…!」
しかし諦めない、鼠の群れに襲われながら、食われながらも抵抗したゆっくりみょんの姿が、ゆっくりまりさに諦めな
い心を与えたのだ。
「ゆっく…りーーーーっ!!!」
まりさは渾身の力で、ゆっくりれいむを引き上げた。勢いで、後方に転がるゆっくりまりさとゆっくりれいむ。
ごろんごろん…。
「ゆっゆっゆ……ゆっくりーっ!!!」
二匹は、跳びはねて喜びを分かち合う。そう、2匹はついに光の下へ辿り着いたのだ。
「ゆっくりできるね!!!」
「おそとにでれるね!!!」
あとは、穴から外に出るだけだ。その穴の入口はゆっくりが入るには十分の直径だった。 まずは、ゆっくりれいむか
ら光の穴へと入っていく、続いて、ゆっくりまりさが後へ続く。
二匹は、懐かしい外の景色を思い浮かべていた。これからの幸せに心を膨らませながら…。
しかし、ある程度進んだところで、2匹は異変に気づく。風が強い、それも、追い風だ。
「ゆっ?」
しかも、それは前に進むたびに強くなっていく。
そして、
「ゆうううううーーーーっ!!!」
急激に前へと引き寄せられる、ゆっくりれいむ。
そう、その穴は機械室の換気口だったのだ。追い風は、換気扇により中から外へ換気される空気によるものだった。換
気扇が高速で回転していたことと、太陽の光のまぶしさで、ゆっくりには非常に見づらかったのだ。
「ゆっくりとまってね!!!ゆっくりしていってね!!!」
前へと飛ばされるゆっくりれいむの後ろから、叫ぶゆっくりまりさ。
「ゆっ、ゆっ、ゆーーーー!!!」
絶叫するゆっくりれいむ、その瞳には、高速で回転する換気扇がはっきりと映っていた。 それはどんどん近づいてく
る、いや、正確にはゆっくりれいむが近づいているのだが。
破滅は一瞬だった。
高速回転により換気扇のプロペラは、ゆっくりれいむの顔の部分の表面を皮と餡子ごと切り裂く。
「ゆっぐ!!!ゆっぐりだずげでええええ!!!」
顔の無いゆっくりれいむが泣き叫ぶ。
そのまま換気扇に巻き込まれ、あっというまにゆっくりれいむは餡子のミンチとなり、外へ吐き出された。
「れ゛い゛む゛う゛う゛う゛うううう!!!」
その光景を目の当たりにしたゆっくりまりさ。光の穴は、天国ではなく、地獄への扉だったのだ。 急いで、その穴か
ら出るゆっくりまりさ。ゆっくりまりさのいる地点はまだゆっくりを引き寄せるだけの吸引力無かったのが不幸中の幸い
だったか。
「ひっぐ!えっぐ!…ゆっぐり…でぎないよ!」
むせび泣くゆっくりまりさ。これからどうすればいいのか、もうわからない。
下に戻り、機械室から出て別の脱出ルートを探すのか?いや、それはあまりにも非現実的だ。機械室の外にはそれこそ、
作業員や警備員が徘徊している。
いや、それ以前に下へ戻る気力も起きない。
その時、換気口から音がした。
ブルン、ブルルン…プスプス……。
何事かと、ゆっくりまりさは穴を覗く。すると、何やら様子がおかしい、意を決し、再び中へ入る。今度は急に引き寄
せられることのないように慎重に、慎重に奥へ進む。しかし、わずかに追い風があるくらいで、一向に引き寄せられる気
配がない。ゆっくりまりさは更に進む、すると、換気扇が壊れて止まっているではないか、そのうえ、プロペラ部分は大
半がバラバラになり、残った部分もヒビ割れている。
「ゆっくり?」
換気扇へ近づくゆっくりまりさ。恐る恐る、換気扇にふれると、音を立てて崩れ落ちた。
そう、換気扇は、ゆっくりれいむを巻き込んだことで、故障し破損したのだ。
結果的にゆっくりれいむは、ゆっくりまりさのために道を開いたのである。
ゆっくりまりさは、呆然としながら、換気扇の向こうへ進む、光はすぐそこだ。
ついにゆっくりまりさは換気口の出口に立つ。空はすっかりと夕焼けに赤く染まっていた。
突然…ゆっくりまりさの頬を涙が伝う。それは止まることなく、流れ続ける。
その涙は、これまでの悲しみによる涙ではない。ゆっくりまりさが生まれて初めて流した、喜びの涙であった。
ゆっくり加工所の最上部に近いとこから望む草原と森の、かつてない光景を目にしゆっくりまりさは感激の涙を流した
のである。
「……………。」
言葉にはならなかった、ゆっくりまりさは、かつてないほど、深く、深くゆっくりしたのである。
それは、時間にして30分くらいだろうか。
野生のゆっくりのごく一部には、高い所から飛び降りる術を知っている。正確には、壁を転がるのだ。
ゆっくりまりさは、目から歓喜の涙が枯れた後、換気口の出口から垂直の壁を転がった。そして、地面が近づくと、壁
を体の底で蹴り、衝撃を逃しながら今度は地面を転がった。
ゆっくりの球状に近い体型と、弾力性を利用した技である。猫は、7階の高さから飛び降りても無傷の場合があるとい
う。が、このゆっくりの技はそれ以上のものだろう。
「ゆっくりしていってね!!!」
ぴょん!と体を起こしたそのゆっくりまりさは、住み慣れた森へと帰っていった。
終章
それから三日が経った。森の中に、主を無くした、ゆっくりまりさの帽子が落ちていた。
ほんの三日程前の夜、ゆっくりフランに襲われ、残虐の限りを尽くされ死んだゆっくりまりさの帽子だ。
そう、そのゆっくりまりさとは、あのゆっくり加工所から脱出したゆっくりまりさだ。
もし加工所から抜け出さず。檻の中にいたままなら、もう少し長生きできたかもしれない。
しかし、あのまま檻の中にいることは、ゆっくりまりさにとって、生きていることにはならなかった。
なぜなら、ゆっくりできなかったのだから。
あの、夕焼けの草原と森の光景の前に佇み、草原を駆け抜けてゆっくりしたゆっくりまりさは、最後の生を受けたので
ある。最後に足掻くことで、ゆっくりまりさは生きることができたのである。
今日も、捕らえられた野生のゆっくり達がゆっくり加工所へ連れて行かれる。
おわり
最終更新:2008年09月14日 10:08