ゆっくりいじめ系841 ゆっくりロボコン後編


(@BGM 『熱情の律動』)


『盛り上がってまいりました! 開始早々決勝進出に王手をかけたF大付属。丁寧な仕事で反抗の意志を奪い、
一網打尽かと思われましたが、時間をかけた仕上げがアダとなり西日暮里高校の介入を許しました!』

『西日暮里高校の機体、テイクイットEZ8。無骨な鉄の塊を思わせるデザイン、低重心で肩幅広く、
鉄機やマトリックスのザイオン防衛メカを連想させます。
 西日暮里が準決勝のメインアームに選んだのはサブマシンガン。命中率よりも戦場により多くのBB弾をばらまく
ことに重点を置いたチョイス。左手にはもうおなじみとなったドリル。鈍色の塗装がストイックな外観と相まって、
森とゆっくりのメルヘンチックなフィールドで一際異彩を放っております!』

『そしてなによりもおどろきなのは、西日暮里、機体にゆっくりれいむを搭乗させております』

『ただいま入りました情報によりますと、この子ゆっくりれいむ、西日暮里高校の操縦担当・大沢君が
個人的に飼育している飼いゆっくりのようです!!』

『なんということでしょう・・・・・・。戦場にもちこんでしまったゆっくりはたとえ滅失しても文句は言えません。
不退転の決意のあらわれか西日暮里高校・大沢!!』

『れいむの、まりさのあかじゃんをだすげでねええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
『おねがいねえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!』


 子ゆっくり達を背に、メカゆゆこと対峙するEZ8。その操縦席で不敵な微笑みを浮かべるれいむ。
 逆さま状態から復帰したメカゆゆこは、半開きの口から触手をチラつかせて威嚇する。警告音。サイドワインダー。
 その音響にゆっくりたちは震え上がる。だがEZ8に搭乗するれいむは違った。不敵な微笑はそのままに、勇ましい目つきを崩さない。

『にらみ合いが続いております』
『両者の体格差は一目瞭然ですね。メカゆゆこがバランスボールだとすると、EZ8はせいぜいXBOX360程度。
力比べでは太刀打ちのしようがありません。ここはローラーダッシュでかく乱しつつ刻んでいきたいところ』
『しかしサブマシンガンではメカゆゆこの外皮を貫くことは困難でしょうし、押し付けなくては効果が発揮されない
ドリルは球体のメカゆゆこを相手取るには不適格と思われます』
『準々決勝で見せた狙撃銃や、切り札と公言していたパイルバンカーであれば対抗できたかも知れませんが……。
天秤はいまだF大付属に傾いている!』


 そのとき、両者が動いた。
 EZ8は後背に位置するゆっくり達をかばう様、直進しつつサブマシンガンを連射。 
 メカゆゆこは触手を勢いよく地面に突き立てると、
 その反動を利用して大きく後ろに跳び、茂みの中へと消えた。
 EZ8が急停止する。
 茂みの向こう、メカゆゆこが立てる物音が急速に遠ざかっていく……。


(@BGM 停止)


『おっと……? これは意外な展開です。メカゆゆこが撤退しました。有利とおもわれていたF大付属、
ゆっくりの群れを前にして逃げてしまいました……?』
『向かう先に他の群れがいるようです。相手ロボとの戦闘よりも、ゆっくり回収力で勝負しようという作戦ですね』
『なるほど! メカゆゆこはゆっくりを体内に溜め込むことができますが、EZ8はそうはいきません。
自軍拠点にゆっくりたちを連れて行き、回収口まで誘導する必要があるのです』



 脅威が去った。テイクイットEZ8はゆっくり達に向き直り、しゃがみこんだ。

「ゆ! だいじょうぶだったかい!?」

 その言葉に、ゆっくり達の目に涙が溢れた。

「「「ありがどうううぅぅぅぅ」」」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
「「「おやさいあげるね!」」」

「ざんねんだけどまだゆっくりはできないね! やつはまだゆっくりをねらっているよ!
 れいむはほかのゆっくりもたすけなくちゃいけないんだよ!!」

「「「おいでがないでええええぇぇ!!」」」

「だいじょうぶだよ! れいむがあんぜんなところまでつれていくよ! みんなはそこから
だっしゅつしてね! そとはもうゆっくりプレイスだよ! だからゆっくりしないでついてきて!!」

 EZ8が立ち上がる。ゆっくりの一団はそれぞれやさいのかけらをくわえ、EZ8の先導に従って森に入っていく。



『ご覧ください! 感動的な光景です。救世主ゆっくりに導かれ、ゆっくりの生き残り達が救助されようとしています』
『ゆっくりいそいでかえってきてね!』
『どこのれいむかしらないけどありがとうね!』

 ほろほろと感謝の涙を流す親ゆっくり。すでにケースの下には涙がたまって水位を上げつつある。
 また、酷くいらだたしい微笑みを浮かべて解説者二人をちらちらと横目でみやる。まるで勝ち誇っているかのようだ。
 解説者は笑っていた。

『さあ、ベースに戻ってまいりました西日暮里高校。助けられたゆっくりたちが列を成して回収口に
入っていきます。おお? お礼の野菜をEZ8に差し出しました。しゃがみこんでドリルで受け取るEZ8。紳士です』
『ここで避難口の様子を見てみましょう』

 暗く狭い通路。ベルトコンベアになっているそこを、助けられたゆっくり達が流れていく。
 救出の喜びを分かち合い、助けられなかった同胞を嘆き、憎いメカゆゆこに復讐を誓う。
 悲喜こもごもを乗せて、ベルトコンベアは進み、暗幕の向こうへ。



 そこには水平にすえられた刃があった。



 流れていくゆっくり達は、暗幕を潜って直ぐのところにある刃で滑らかに、何も知らないうちに分割された。
 顔のある方は刃の上のコンベアに、餡子の過半数を有する下膨れ部分は下の廃棄溝に。
 餡子のほとんどと切り離されたゆっくりは偽りの救出に顔をほころばせたまま、動かなくなった。
 頭部だけを乗せてベルトは流れてゆく。

『・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・?』

 解説席の親ゆっくりは急激な状況の変化についていけなかった。
 感激の涙を流しながら、ベルトコンベアで運ばれてゆくもの言わぬ顔だけになった子供達を目で追っていた。
 さっきまで動いていた子供達。助けてくれたロボに感謝していた子供達。
 いまは一様に、中空を見据えたまま動かない。
 その様子に疑問を抱いたのか、少しずつ表情が曇っていく。

『はい。動かないように処理したゆっくりは、手作業で飾りを回収します』
『12個? 12個ですね。西日暮里高校、一挙12得点です! 決勝進出確定にはあと4個の飾りを回収する
必要があるため油断は出来ませんが、F大付属に大きく水をあけたと言っていいでしょう』

 画面下にテロップが表示される。"ゆっくりの死骸はこの後ミキサーにかけ、肥料にいたします"

『しかし西日暮里高校・大沢。無垢な飼いゆっくりれいむを餌にしてゆっくりたちを騙し切りました。
友釣りの要領です。これまで手練手管を使い、人型ロボの汎用性・応用性を最大限に生かして、性能的
に上位の相手をことごとく下してきました。』
『そら恐ろしくさえありますね。大会的にはロボットの製作技術で白黒つけてもらいたいところではあるのですが』
『奇しくもゆっくり型対人型の対決となりました。知恵を使って自分達より強い獣を倒して繁栄してきた
のがわれわれ人間ですから、どうも西日暮里のEZ8を応援したくなりますね。
 ゲストの親ゆっくりさんはどうでしょう。どちらが勝つと思われますか?』

 両サイドからマイクを向けられ、うろたえる親ゆっくり。
 うつろに、取り繕うように微笑みながら、解説者達の顔を見回し、助かったはずの子供達の様子がおかしいことについて尋ねた。

『ゆっくりのこどもたちは……?』

 解説者がマイクを自分に向ける。

『それは上半分ですか? 下半分ですか?』
『じねえええええええええええええええぇぇぇっぇぇぇぇっぇ!!!』

 箱の中で親まりさが咆えた。親れいむは微笑みのまま白く燃え尽きていた。

『ごろじでやる! おばえらなんかゆっぐりじゃない!! にどどゆっぐりでぎないようにぢでや』

 両サイドの解説者が同時にボタンをおした。箱の中の親ゆっくりは同時に机の中へと落ちていき、空の透明箱が残された。

『ここでお邪魔ゆっくりを2体投入します。親ゆっくりの飾りは得点になりませんので注意してください』





 場面変わって森の中、球体が茂みを縫って移動している。

『F大付属、新たな群れを発見したようですね。おっとしかし……?』

 メカゆゆこの進行方向に、6匹ほどの子ゆっくりがいた。
 ゆっくりたちはすでにメカゆゆこの迫る方向に視線を向けていて、慌てた様子で四方に跳ねていく。

『先んじて逃げられました。これはどういうことでしょう。物音に警戒したというのでしょうか』
『これは死臭でしょう。むせかえるような餡子と黒蜜の匂いが危険を知らせてしまった……。
 雲行きがあやしくなったF大付属。そつなく2匹を平らげたものの、ようやく6点。西日暮里の半分です』
『対する西日暮里は……。すでに次の群れに取り入っている! その数2体、いや、3体です!』

 膝を付いたロボから話しかける飼いれいむに、3体の子ゆっくりれいむはめろめろになっている。
 やがてうごきだしたEZ8に導かれて避難口へと向かう。

『勝利確定には届きませんが、限りなく勝利に近づくことのできる点数です』
『ご覧ください。自分達を処刑台に連れて行く執行者に、嬉々としてついていくゆっくりたち。その晴れやかな表情……』
『TVをご覧のお子さんにとって、極めて優秀な反面教師になると思います。知らないおじさんについていっては、だめですよー』
『では遠足気分のかわいいゆっくりたちをしばしご覧ください』




 ロボットとゆっくりの一団は森を抜け、見晴らしのいい草原へ。西日暮里側の拠点、死境内へのエスカレーターが見えてきた。

「みんな、もうすぐそこだよ! ほかのゆっくりたちもまってるからね!」
「ゆ! おねえちゃんたちにあいたいよ!」
「ゆ! もうすぐゆっくりできるね!」

 導かれる子ゆっくりたちは荒い息を押してゴールへと跳ねていく。

「そこまでだぜ!!」

 勇ましい声と共にEZ8の上に影が落ちた。
 操縦席のれいむが頭上に視線をやると同時、激しい衝撃が機体を襲った。

「ゆ"う"ううううううううううううううう!?!」

 EZ8が吹き飛び、転倒する。
 驚愕する子ゆっくりたちの前にぼってりと着地したのは、親ゆっくりまりさだった。

「りょうてのぶきをあたまのうえにあげるんだぜ! ゆっくりとね!!」
「おとーさん!?」
「どうしていぢわるするの!? あのれいむはみかただよ!!」
「ちがうの! あいつはにんげんのなかまだよ!
 いまおかあさんもくるからうごいちゃだめだよ!
 おまえたちのことはおとうさんがまもりぬくからね!!
 いまはただしんじてね!!」

 親まりさの剣幕に子ゆっくり達は言葉を失う。ただ不安そうな顔で身を寄せ合った。
 起き上がるEZ8。その動きに反応した親まりさが、子供達を背に隠す。
 パイロットの飼いれいむは泣きながら地団太を踏む。

「どうじでじゃまするの! れいむはただ、みんなをたすけようとしただけだよ! あやまってね!」
「ふざけないでね! やくたたずのうらぎりものはまりさがたおすよ! ゆっくりじぶんのしたことをこうかいしてしんでね!」

 EZれいむと親まりさの間で、敵愾心が膨れ上がっていく。
 雷ばしるような緊張感のなか、先に動いた親まりさが、背後の子供達に告げた。


「・・・おとうさんのせなかを、よくおぼえておいてね……!!」


「ゆっ……」
「おとさん……」

 か細い呼びかけを振り切るように親まりさは飛び出した。
 視線の先には鉄の四肢をもつ裏切りれいむ。
 敵うはずもない強大な敵に敢然と立ち向かう。
 後ろに残した子供達、今なおどこかで逃げながらえている子供達、そして無残に殺されていった子供達のために――。

「ゆうううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ!!!」

 気合の叫びと共に突貫をかける親まりさ。ひらひらと舞い降りる赤い蝶。頬をかすめた蝶には目もくれず、一直線に相手の下へ――。

「ゆうううううううう……う……?」

 その突進が、ゆっくりと減速して、止まった。

「…………」

 親まりさは、振り返った。
 子供達が心配そうに見ている。それはいい。親まりさの歩みを止めたのはそれではない。
 すれ違った赤い蝶。その違和感だった。
 蝶は草の上に落ちていた。
 紅白の蝶。
 ゆっくりれいむのリボン。
 それも子どもサイズではない、親ゆっくりのサイズ。
 親ゆっくりれいむのリボン。







 それは、いつのまにか姿を現していた。
 子ゆっくりたちの背後、死刑台に続くエスカレーターの入り口、その上に。
 満月のように、メカゆゆこが鎮座していた。


『なんたることでしょう!! 西日暮里のゆっくり投入口の上にメカゆゆこが陣取っています!!』
『ゆっくりたちが脅えています。これではポイント還元が出来ません。
 EZ8には格納機能がありませんから、ポイントを得るには投入口に入れないと……』
『こ、これはーーーーーー!!!?』

 投入口前のメカゆゆこが、若干空を仰ぐように視線を上に。
 するといままで隠れていた部位があらわになった。
 メカゆゆこの口の真下にある小さなすぼまり。
 地獄の門のようにゆっくりと開いた。

『これは! 間違いない!! 間違いないです!!』
『これは間違いないですねー! とんでもない隠し玉を持ってきましたF大付属!』
『解説も憚られるような光景が繰り広げられています! 悪趣味ここに極まった!
 いま西日暮里高校の投入口、唯一のポイント源であるゆっくり投入口が、あんこのトグロで埋め立てられてゆくーーー!!』
『も、最悪でしょう・・・…』
『実際のゆっくりにこのような生理現象はありませんのでご注意ください。
 ともあれ、もうこの投入口をゆっくりがくぐることはないでしょう。西日暮里は追加点のチャンスを永遠に失ったことになります。』



 親まりさは、ひりだされる餡子と黒蜜の混合物を見ていた。

 明らかに餡子の量が多かった。子ゆっくり10匹でも足りないほどに。

 そしてごみのように捨て置かれたれいむのリボン。




 ゆっくり袋の緒が切れた。




「よぐもれいむおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!!」

 中身を吐く様な叫びと共に親まりさが飛び出した。
 その動きを受けてEZ8、ローラーダッシュを用いて親まりさに追従する。

『西日暮里高校、先行した親ゆっくりを盾に、近づこうとしています』

 1匹と1機の接近に際し、メカゆゆこは動かない。まったく余裕の笑みを浮かべたまま迎え撃つ構えだ。

「ぢね! おまえがいるがらゆっぐりでぎないんだああぁぁぁぁ!!」

 親まりさの渾身の体当たり。そしてその影から飛び出したEZ8が銃口をメカゆゆこに向けた。
 だが電光石火の触手舌が親まりさの体を下から上へ容赦なく貫く。

「ゆべぇ!?」

 その隙を狙って放たれたEZ8の射撃だが、メカゆゆこはゆっくりを盾にし全てのBB弾を受け止める。

「いべべべべべいだいやめでいだいぃぃぃぃぃぃ!!!」

『おーっと、後頭部にBB弾の雨あられ。生地にめり込んでいます!』
『蓮コラみたいできもいですね。それか転んだあとの膝小僧に砂が食い込んでる感じ』
『あぁ~、あれキモイよねー。子供の頃ショックだったわ~』

 EZ8は旋回し、盾の向こうの標的を狙う。
 メカゆゆこもまた回り込むように移動、盾を十二分に生かし一向に被弾しない。
 ぐるぐると旋回する2機。その中央にいる親まりさは広がる傷口から黒蜜を迸らせて号泣している。

「おろじでえええぇぇぇ! もうおうちかえるうううううううう!!」

『でましたゆっくりのおうち帰るコール。さっそく限界のようです! 饅頭は骨がない!』
『それにひきかえ骨太の攻防を繰り広げる両者。予断を許しません!』

 こう着状態に陥ったかと思われた矢先、EZ8の銃が玉切れを起こした。
 距離をとるためのバックダッシュを行いつつ手動でのマガジン交換を敢行する。
 その隙をメカゆゆこは見逃さない。
 大きな体を波打たせ、次の瞬間はるか上空へと跳躍した。

『これは高い! ゆゆこの跳躍、ボディプレスかーーー!!』
「ごわいおろじでえええええええええ」

 メカゆゆこの影が、地表のEZ8を覆う。
 装填を終え、空を仰いだEZ8の飼いれいむめがけ、ハンマーの如く振り下ろされる親まりさ。
 間一髪、EZ8は回避に成功し、親まりさは地面に叩きつけられた。

「おとーさ」
「ゆ!?」


 ぷち。


          ぷち。
     ぷち。 




 ZUNという衝撃音と共に固い土に叩きつけられた親まりさ。
 砂塵が巻き上がり、そしてゆっくりと散ってゆく。
 重体だった。
 後頭部が破裂して中身の黒蜜が放射状に飛び散っていた。その飛び散り半径の広さを見れば、いかに強く叩きつけられたのかが解るだろう。
 だが親まりさは悲鳴をあげなかった。
 あげられなかったわけではない。
 小さな音が悲鳴を飲み込んでしまっただけだ。
 小さな感触が全身打撲の痛みを超えただけだ。


 ぱぱー。

 ぱぱー。

 きょうもゆっくりしようねー。


 晴れ渡った草原、記憶の中の風景。
 元気に飛び跳ねるわが子ゆっくりの姿。
 瑞々しい蛇苺を、口づけるようにくわえた横顔。
 雨宿りの木の虚で、小さな体を摺り寄せてきた、そのぬくもり。

 その感触が、たった今、自分の下で弾けた。



 ・・・ オ ト ウ サ ン ノ セ ナ カ ヲ 、ヨ ク オ ボ エ テ オ イ テ ネ ――――――。



「い゛や゛ぁべでぇええええぇぇぇぇえええええええええぇぇぇ!!!!!」

 瀕死の体で親まりさは絶叫した。声も涙も黒蜜も、出せるものは全て出しつくしての咆哮。
 あらん限りの力で暴れ狂う。それでも、乗り上げた体勢のメカゆゆこをどかす事はできない。
 それどころか、メカゆゆこは全ての体重をかけてのしかかった。

 ぷち。ぷしゃ。
「どいでねえええ!!! ゆっぐりじないでおりでねええぇぇぇぇ!!」

 あまつさえ、独楽のように回転をし始める。地面におしつけられた親まりさも一緒に回転することになる。

 べろ。べろべろ。
「ぃいやあああああああああああああめでねぇえええええええええええええええええ!!!!!!!」

 黒蜜の泡を飛ばしながら親まりさは絶叫した。

『おっとぉ? どうしたことでしょう』
『親まりさが自分の子供を潰してしまったようですね。これは不幸。人間社会にこのような不幸が訪れないことを祈るばかりです』

 親まりさはかろうじて生きていた。
 般若の形相で硬直しながら涙を流して痙攣している。
 自らの流した黒蜜に塗れ、今なお口から吐血のように流れ出す命の源。
 落下の怪我による中身の流出が酷いが、晴天のゆっくり治癒力ならばあるいは、という瀬戸際の怪我だった。
 メカゆゆこはまりさから降り、触手に絡みつくつぶれ饅頭を放り捨てた。
 その下から出てきた子ゆっくりの圧殺死体から帽子をふんだくり口の中に放りこむ。

『3点獲得で9点でしょうか?
 我々はF大付属が親ゆっくりれいむを捕食した瞬間を確認していません。
 もしそのときまでに3匹以上の子ゆっくりを獲得していれば、この時点で同点・逆転ということになります』
『時間的にも残りの子ゆっくりを探す余裕はありませんし、唯一の得点方法を失った西日暮里高校は、
敵ロボットの撃破を狙っていくしかないでしょう』


 振り返るメカゆゆこ。
 ゆっくりと歩行して近づくEZ8。
 EZ8のむき出しの操縦席でれいむが頬を膨らませている。

「とってもわるいやつだね! いぢわるなおばさんまりさはともかく、こどもゆっくりにまでてをだすなんて!」

 のしのしと接近しつつそんな悠長な台詞を言い放つ。
 メカゆゆこは応じず、横方向に回転移動し始める。EZ8を中心にした円の軌道だ。

『始まりました。ロボ同士の肉弾戦です。単純な性能ではメカゆゆこが有利。試合序盤にも見せた旋回移動で相手を牽制します』
『EZ8は持ち前の機動力と自由度を武器に立ち向かわなければなりません。
 もし此処で逃げられて回収力勝負になるともう勝ち目はありません。
 その点、F大付属が真っ向勝負を選んでくれた事はチャンスでもあります』
『残り時間は3分を切りました! どちらが先に仕掛けるのか!』

 回転半径を狭めつつ速度を上げるメカゆゆこ。EZ8は背後をとられることを警戒している。

「ゆ! ゆっくりいきのねをとめるね!」

 EZ8は前方へと走行、左手のドリルを回転させつつ振りかぶる。
 旋回のメカゆゆこが迫るタイミングを見切り、高速ドリルを突きこんだ。
 しかし表皮をわずかに削りはしたが、衝撃によってメカゆゆこは弾かれ、距離が開いてしまう。
 すかさずサブマシンガンのめくら撃ちを放り込む。吸い込まれるように全弾命中するも、メカゆゆこの動きはいささかも衰えない。

『懸念された通り、EZ8の攻撃がメカゆゆこに届きません!』
『万事休すか西日暮里高校大沢!』

 攻撃方法を失ったEZ8にメカゆゆこの巨体が容赦なく襲い掛かる。
 高速で突き出される触手が右肩の付け根をえぐり、右腕が吹き飛んだ。

「ゆっ!? まずいよ! おにいさんしっかりよけてね!」

 パイロットれいむが悲鳴をあげる。当然のことながら、ロボットの操縦は人間が遠隔操作で行っている。
 バランスを崩して尻餅をついたEZ8。その脚を潰すようにメカゆゆこがのしかかる。

『あー! マウントをとりました』

 メカゆゆこはにんまりと笑うと、触手による乱れ突きを繰り出した。
 それはコクピット付近の装甲をえぐり、金属片を撒き散らした。
 しきりに身をよじりEZ8はコクピットへの直撃を避けようともがく。

「いやあああああああ! やべでぇ! あぶないがらあああああああ!!」
『大沢君の飼いれいむが鳴いております! いやいやをするように顔を振っています!
 泣き叫びながら飼い主に助けを求めております! なんとか助けることが出来るのか大沢!?』
『これはむごい展開もあるかもしれませんよ!』

 触手の狙いは正確ではなかったし、EZ8も最大限回避に努めた。
 だがそれでも、延々と繰り返される攻撃を最後まで避け続けることはできなかった。
 そのうちの一撃が、むき出しのコクピットを襲った。

「やべでええええ――ぐぃげぇえええええええええええええ!」

 飼いれいむの顔面を貫く銀の舌。
 狭い棺おけの中、れいむは激痛に打ち震え、けいれんを繰り返した。

『決まったーーーーーーーーー!! 残酷なディープキス! 深く深く差し込まれた楔が飼い主との絆を断ち切ったーーーーーーーーーーー!!』
『ズキュウウンですね! わかります!』
「おっ、おべっ、おべ……」

 だんだんと白目をむきだす飼いれいむ。勝ち誇ったように笑うメカゆゆこ。

 しかし、勝負はまだ決してはいない。





 EZ8のコクピットが閉じた。

 上下から現れた鋼鉄の歯が、一瞬のうちに噛み合わされたのだ。
 それは死に始めの飼いれいむと共に、メカゆゆこの触手を万力のように締め付けた。

『おおおおおおおおおおっ!これはああああ!?』
『トラップです! これ見よがしの飼いれいむは、ゆっくり誘導のためばかりでなく、
メカゆゆこに対するブービートラップだったのか!? コクピットの圧殺機能がメカ
ゆゆこの触手を封じました! 懸命にさがろうとするメカゆゆこ、動けません!
 逆にその動きがEZ8を助け起こしてしまったーーーー!!』

 立ち上がったEZ8。
 左手のドリルを振りかぶり、再びメカゆゆこへと繰り出した。
 激しい金属音と共に装甲がえぐれ、メカゆゆこが吹き飛ぶ。
 ――だが捉えられた触手が伸びきり、それ以上の後退を許さない。

『EZ8、逃がしません! 触手を捉えたまま旋回し、メカゆゆこを振り回します! そのまま樹にぶつけてきた!』
『さらに天高く放り上げました! 時間後僅か逆転なるか!』

 高々と飛ばされたメカゆゆこが重力によって地面に叩きつけられ、運悪く下敷きになった親まりさは物も言わずに死んだ。
 仰向けに地面にめり込み、動けないでいるメカゆゆこ。
 その上に、逆襲とばかりに踊りかかったEZ8がドリルを突き立てた。
 固定された相手に対し、ドリルは最大の効果を発揮する。
 激しい火花が2機を覆い尽くした。

『ドリル決まったああああああああああ!! これは逃げられない! 削りきるのか西日暮里! 逃げ切るかF大付属!』
『もう時間がありません! 5・4・3・2・1……タイムアッーーーーープ!』




 ブザーが鳴り響いた。






 メカゆゆこの損傷は、大破には至らないと判断された。
 2機はそれぞれ、互いの本拠地へと戻り、回収された。




『現在、獲得アクセサリー数を計算しております。得点計算には少々お時間がかかりますので、その間、フィールドのクリアリングを行います』
『クリアリングを行いますのは、品種改良された対ゆっくり用ゆっくり・きめありすです。芸術とも言われるその妙技をご覧ください』

 アナウンスと共に会場に優雅なクラシック音楽が流れ出した。

 フィールドの地面の数箇所がせりあがり、そこから成体ありすの群れが飛び出す。
 あきらかに発情中と解る移動速度。しかし、一切の声を発さない。
 つりあがった目をギラギラと輝かせ、獲物を探して視線を縦横に走らせる。
 湧き上がり続ける涎を溢すまいと唇を引き結びながらも、まだ見ぬ生贄を思うがあまり口の端はつり上がり笑みを形作る。
 口の中いっぱいに蓄えられた唾液は跳ねるたびに勢いよくこぼれだしている。

 フィールドをくまなく走査するきめありすは、ついに逃げ延びていた子ゆっくりを発見する。
 それは地面に叩きつけられたようにつぶれている親まりさにすがりつく子まりさだった。
 泣き喚き、あたりに何が起きたのかも解らぬまま肉親の死に打ちのめされている。

 その子まりさの背後からすべるように近づいたきめありすは電光石火の早業で子まりさをひっくり返し、
そのつるりとした下面に覆いかぶさるように乗り上げるやいなやもはや肉眼では捉えられない速度で
滑らかに円運動、自身の底部をこすり付けだした。いわずと知れたゆっくりの性交渉である。
 下敷きにされた子まりさはまず状況の変化に戸惑い、次いで自らの感覚を犯すなにかに怖気をふるい、あまりにも強引なやり方に泣き叫んだ。

 きめありすは一方的に達すると、潰れかかっている子まりさを捕食した。

 うっとりとした表情で口腔の子まりさを舐め転がし、口蓋に押し付けて潰した。
 捕食による一体化を究極の愛と定義するのがきめありすの特徴だった。

 きめありすは地面で広がっている親まりさの死骸に対してもゆっくり性交渉を行い、たいらげた。
 一時も休むことなく次の獲物を探し始める。
 それがフィールド全体で繰り広げられ、逃げ延びていた子ゆっくり達は処理された。
 BGMのクラシックが終わると、きめありすはありすらしい優雅さを取り戻し、そそとした所作で退場していった。この間、約5分。

『はい、掃除が完了いたしました。集計もおわりましたので見てみましょう』
『得点は……西日暮里高校! 12点!
 対するF大付属……12点!! 同点です!』
『これは珍しい……。引き分け再試合、サドンデスということになるのでしょうか?』



『え? ……ちょっとまってください。はい、はい……』





『えー、ただいまの試合、12対12の引き分けと発表されましたが』

『F大付属の獲得アクセサリの中に、大会側の用意したものではないれいむのリボンが含まれておりましたため、』

『11点と訂正させていただきます』



『12対11! 買ったのは西日暮里高校です! 凶獣メカゆゆこを下し、テイクイットEZ8決勝進出ーーーー!!』
『代表者の大沢君に話を窺いましょう。今のお気持ちはどうですか!?』
『はい! とても、厳しい、その、戦いでした勝ててよかったです。』
『飼いゆっくりが潰されてしまいましたが?』
『優勝したとき、皆さんの前で潰してやる予定でしたでもこの準決勝でだめになってそれがあんな形で
役に立つとは思わなかったです役に立ってよかったです』
『ハイ! ありがとうございました!』

『古豪、西日暮里高校が決勝に駒を進めました。CMの後は準決勝第二試合です――――』








<ゆっくりロボコン 終>


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最終更新:2008年09月14日 09:06
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