天地を喰らう
【てんちをくらう】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2MbitROMカートリッジ
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発売・開発元
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カプコン
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発売日
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1989年5月19日
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定価
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5,900円
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プレイ人数
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1人
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判定
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良作
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天地を喰らうシリーズリンク
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概要
1983年から1984年にかけて週刊少年ジャンプに連載された本宮ひろ志原作の三国志漫画をRPG化したもの。ゲーム中のデモ画面では「ヒストリーロールプレイングゲーム」と称されている。
原作は天界・魔界・地獄界という世界観があり、三国志演義などから乖離した破天荒な趣のある物語となっていたが、本作にはこれらの世界観は登場せず、比較的、小説『三国志演義』に近い筋運びとなっている。
プレイヤーは劉備軍を率い、各地にいる敵対武将を討伐し漢王朝の復興を遂げるのが目的。メーカー予想を上回るセールスを記録し、量販店などでは一時品薄の状態が続くなど人気を集め、2年後の1991年3月には続編『天地を喰らうII 諸葛孔明伝』(以下孔明伝)も発売された。
ゲームシステム
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作中に於いては明確な区切りは表示されないが、1章から8章までなるストーリーで構成され、各章のボス的な存在の武将を倒していき、ストーリーを進めていく内容となっている。基本的に1章から順番で進めていく必要があるが、4章と5章に関してはどちらを先に進めてもよく、同時進行させることも可能である。
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シナリオ詳細
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黄巾族討伐 桃園三兄弟集い、張角を討つ 劉備はこのシナリオにしか登場せず、 以降は各地の城の玉座に鎮座しプレイヤーに指図する
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董卓討伐 洛陽にて暴政を振るう董卓を討つ 七星の剣を入手できれば 董卓の腹心呂布を寝返らせることが可能
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袁術討伐 混乱に乗じ玉璽を得、皇帝を僭称した袁術を討つ 呂布を最初から最後まで使える唯一のシナリオ
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袁紹討伐 袁術の復讐に燃える河北の野心家・袁紹が相手 シナリオ開始後いきなり寝返る呂布 ストーリーの進め方次第では袁術も敵として登場
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荊州四郡平定 混乱した荊州平定が目標 流浪の将呂布に止めを刺し、伏竜・鳳雛を軍師に迎える
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蜀平定 同族劉璋の援軍要請を受け内憂外患状態の蜀を救う このシナリオで五虎将が全て揃う 葭萌関の付近で豪快なレベルアップができる
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呉討伐 呉の皇帝となった孫権を討つ 三国鼎立も束の間、魏呉が共に皇帝を名乗る 皇帝となった劉備は荊州へ侵攻した呉の討伐を命ずる このシナリオより最強の武器探索も始まる
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魏討伐 最終シナリオ 魏に攻め入り、逆臣曹丕と 鼎立崩壊の根源となった奸臣司馬懿を討つ
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従来のRPGの「HP」を「兵士数」に置き換え、兵士数の多寡により武将の攻撃力が変化するというシステムを採用。レベルが上がれば兵士数上限も上昇するため、攻撃力も増加する。「魔法」は「策略」という形に置き換えられ、武将の知力で成否と効果が変わる他、水計は近くに水源がないと使用できないといったシミュレーションゲームに近い要素を持っている。
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LV・経験値・策略ポイント(MPに相当、以下SPと記述)は劉備軍全体のデータとなっており、レベルアップで上がるのは兵士数上限と最大SPだけで武将の武力・知力は変化しない。またレベルアップする武将は関羽・張飛・趙雲・諸葛亮など一部の武将のみであり、それ以外の武将の兵士数は固定されている。
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劉備軍は最大7人まで隊列(パーティ)を組め、前から5人までが実際の戦闘に参加する。軍師はいかなる場所に配置しても隊列最後尾に強制配置され、原則として戦闘には参加しないが、隊列が5人以下になった場合は人数不足のため、自ら武器を取って戦う。一番先頭の武将が自動的に「大将」となるが、倒されると全滅などということは無く、戦闘画面で顔グラフィックが表示されたり、会話シーンで名前が表示される程度である。
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画像
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隊列一覧、左の状態であれば諸葛亮も戦闘に参加する。右なら馬超までが戦闘に参加する。
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戦闘は通常のマニュアル戦闘の他、オートバトルに相当する「総攻撃」があり、これを選んだ場合、どちらかが全滅するまで武器攻撃を繰り返す。ただし回復策略やアイテムなどは一切使われないので、状況を見てBボタンを押し解除する必要がある。
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戦闘終了後に敵将を捕らえて味方にすることができる。ただしその武将が守っている城か砦を、予め攻め落としておく必要がある。
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兵糧という概念があり、劉備軍の総兵士数に応じて一歩ごとに消費されていき(城・砦内部では減らない)、払底すると兵士数が減っていき最後は「○○は疲れ果ててしまった」と表示されその武将は戦闘不能扱いとなる。兵糧は店で購入する他、敵の砦・城を落とした場合に入手できる。ゲームテンポを損なうとして孔明伝では割愛された。
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実際には過度なLV上げをしなければそうそう兵糧不足に陥る事はなく、ゲーム自体も砦、城での中ボス戦の連続といったゲームの為、その都度はいる経験値、兵糧で十分なバランスではあった。
評価点
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マップ上の速い移動。本作はエンカウント率が高めであるが、このためマップ移動・ダンジョン探索などにストレスを感じることはない。孔明伝ではあるアイテムを入手するまでは高速移動できないという仕様に改悪された。
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ガンガンいけて便利な総攻撃。雑魚は勿論、ボスに至るまでほとんどの戦闘がこれで済むという、便利な仕様。
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但し、策略が使える敵に対してこれを仕掛けた場合、敵は当然ながら策略を使ってくる場合がある。気がつかないうちに攻撃系の計略で自軍武将が大打撃を受けていたり、「暗殺の計」で一撃で倒されてしまう場合もある。強敵に対しての安易な使用は危険。
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こちらも2では戦闘に攻撃アニメーションが追加された為か敵の思考ルーチンが高度になった為か、低速化されている。1の通常戦闘より若干早い程度の処理速度で、1程の爽快感は無くなってしまった。
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テンポ良く進むゲーム内容。先の高速移動・総攻撃に加え、難解な謎解きも無く、砦と城を攻め落とすだけでサクサクとストーリーが進む。敵から得られる金や経験値も多めで金稼ぎ・経験値稼ぎをする必要もなく、慣れれば1日でゲームクリアも可能。
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劉備軍全体にあるLVと経験値。LVと経験値は武将個人のデータではないため、「加入が遅れた武将とのレベル差が生ずる」「戦闘不能になった武将との経験値差が生ずる」といった通常のRPGにありがちな問題点を気にする必要が無い。
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加えて今作では装備品も全武将共通、編成所で外した武将の装備が自動で装備されているので新しく部隊に加えた武将の装備を整える為に各地を彷徨くという手間も軽減されている。
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兵士数が数字の他、カラーバーで表示され、敵味方どちらが有利か一目でわかる。カラーバーの色は低い方から「桃→橙→黄→水色→青→緑」となっている。
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後にタイトーのサウンドチームZUNTATAに所属し二代目リーダーとなる殿村裕誠氏が手掛けたBGMは全体的にノリが良い。いかにも中華風な街BGM、ドラクエ風のフィールドBGMとあるが、妙に本作の雰囲気に合っている戦闘BGMのファンは多い。
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全滅時のペナルティが軽微。戦闘で全滅しても、劉備のいる城(1章は楼桑村)に戻され、劉備や母君からお叱りを受けるだけで済む。所持金半分やセーブした箇所からやり直しなどということは無く、代償は戦闘不能となった武将を復活させるアイテム「招魂丹」の代金程度である。
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敵将を味方にすることができる。自軍の武将では物足りなくなった場合の補充要員や、五虎将が揃うまでの武将枠埋め合わせ、智将を揃えて暗殺の計の首狩り役をさせる、敵として登場させなくするのが狙い、など様々な利用法がある。
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戦闘後、ランダムで捕縛できる武将を勧誘する事が出来るのだが、無条件で仲間に出来る場合もあれば、相手から要求された金額や名馬を差し出さなければならない場合もある。「二君に仕えるつもりはない!」と拒否され、逃げられてしまう場合もある。
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PT編成を自由に出来る、強敵として出現したあの武将を仲間にできる!という非常にロマンに溢れたシステムだった。兵数が固定でLVアップでの上昇が無い為使い捨てになってしまうのが惜しい所。『II』ではこのシステム自体が無くなり半ば強制的な固定PTとなったため嘆く声もあった。
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後半のシナリオは史実や演義から乖離した展開になる。
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どちらも蜀にとってはバッドとも言える展開だったがこのゲームでは蜀が大陸を制覇する。
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次回作と違い呉とも戦えるので消化不良になる事もない。
問題点
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敵武将にはSPの概念が無い。このため敵は火神、水龍、暗殺、撃免(敵の物理攻撃無効化)、完復(兵士数全回復)などの強力な策略が使い放題となり、ゲーム終盤に登場する軍師級の敵将は「撃免で攻撃を無効化→完復で完全回復→火神・暗殺の計でこちらを一掃」という極悪コンボを使う場合がある。
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特に上記のコンボを当たり前の様に使うラスボスの強さはRPG全体でも有数の部類である。レベルをきちんと上げて臨んだとしても撃破は運しだいの要素が残る。
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この敵の使う強力な策略によりラスボスなどの終盤のボスを倒すには策免(敵の策略無効化)を使うことが必須となるのだが、いつ効果が切れるかがランダムで下手をしたら使ったそのターンのうちに切れるということもしばしば起こる。
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レベルアップすると使い勝手が悪くなる策略がある。攻撃・回復系の策略は上位のものを取得すると既存の計略に上書きされる仕様となっている。しかし「銀仙の計(全体)→完復の計(単体)」のように、一部の計略は対象範囲が全体から単体に変更されてしまうため、反って使い勝手が悪くなってしまう。
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移動中は策略が使えない。そのため移動中のダメージ回復はアイテムに頼るしかない。
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兵士数がゼロになって戦闘不能になった武将を復活させる手段は、道具屋で安価で販売されている「招魂丹」を使用する事のみ。一般的なRPGに登場する治療施設などは無いので、初プレイ時は戸惑うかも知れない。
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一度仲間にすると隊列から外せない武将がいる。趙雲・諸葛亮・関興・張苞などイベントで劉備軍に加わる武将は一度隊列に入れると外すことができず、ゲーム終了まで抜けることはない。これを回避するには、隊列を7人にして埋めておく必要がある。
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看板の無い店。宿屋・武器屋・道具屋・役所などの城内施設には目印がなく、マップ上を捜し回る必要がある。建物内部に入ると施設の看板があるが、中にあってもあまり意味は無い。
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シナリオ上、後半は史実を無視した展開になる。
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孫権が孫策を暗殺、曹操が劉備軍と一度も戦わずに死亡退場といった若干無茶だったり盛り上がりに欠ける描写もある。
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章ラストの戦いなのに軍の中に武将でなく雑兵が何部隊か混じるなど、やや拍子抜けしてしまう場面も多い。特に孫権は素のステータス自体は非常に高いものの、他4部隊が雑兵という有様。一応2連戦の2戦目と言う事情もあるにはある(ちなみに1戦目は太史慈、陸遜、雑兵3と言うこちらも名だたる編成である)が、対呉戦線の締めとしては物足りなさを感じるところ。武将を纏めた方が映えるような気もするのだが。
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三国志が日本ではまだマイナーな題材であった時期の発売であるため仕方ないとは言え、ステータスに疑問点があったり、登場時期のおかしい武将も多い。後年になって再評価された武将は仕方ないが、例えば郭図が光栄三国志と同じく猛将扱いになっていたり、ラストバトルの軍勢に明らかに名前の響きだけで選んだであろう魏続(史実では呂布配下の武将)が混じっていたりする。この辺りは2において幾らか改善された。
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全くの余談になるが、何故か呂蒙(武力130)より
張昭(武力140)の方が武力が高い
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司馬懿は汝南城での戦いの後、陳留の砦で再び登場するのだがここで勝利すると司馬懿が「むっ むねん…」の台詞と共に顔グラフィックとメッセージウインドウがゆっくりフェードアウトするという、いかにも討ち取られて最期を迎えたかのような演出がなされるのだが先述の通りラスボスとして何事もなかったかのように三度登場してくる。何を思ってこんな紛らわしい演出にしたのか…。
賛否両論点
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概要にもある通り、本作は漫画「天地を喰らう」のゲーム化というよりは、本宮ひろ志キャラデザインの三国志演義(後半オリジナル展開)RPGといった内容になっており、漫画原作のゲーム化としては如何なものかという見方もある。
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ただ漫画「天地~」は天界や魔界が登場する「演義」を元にしつつもかなりかけ離れたストーリーであり、何より「演義」の序盤に相当する董卓が呂布に殺されたあたりで終了している。そして、その後劉備たちは正史・演義の展開を飛ばしていきなり劉表の食客分となり、孫堅の死後に袁術配下とならず勢力を保ったままの孫策と交戦状態に入る等、そのまま連載を継続したとしても三国志そのままの物語には成り得ないif展開に突入していた。
FCのRPGという題材で原作ストーリーを忠実に再現して一つの作品に仕上げるのは困難であった事は想像にかたくない。
さらに原作終了後5年も経過しての発売であったため、むしろ同時期に87年まで連載していた「横山光輝版三国志」の方によりストーリーを近づけた感がある。この傾向は次作でさらに顕著となる。
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ゲームバランスを崩壊させるレベルアップポイント。このポイントに登場する敵は数が多いだけで非常に弱く、時間はかかるものの総攻撃で簡単に殲滅でき、なおかつ一度の戦闘で10万以上の経験値が稼げるため、一気にレベルを上げることが可能。しかしその後の戦闘が作業化してしまい、ゲームバランスが崩壊してしまう。
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またレベル51に到達すると、次のレベルアップまでに膨大な経験値が必要になってくるのだが、それでも頑張ってレベルを上げていくと、その内レベルアップ毎にキャラクターのステータスがどんどんバグるようになっていき、最終的にゲームの進行にさえ支障が出るなどの取り返しがつかない状況になってしまう。この状況でセーブしてしまうと完全に詰んでしまい、ゲームを最初からやり直すしかなくなってしまう。
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「兵糧」は兵数に比例して消費量が増加するが、一気にLVが跳ね上がってしまう事で消費する兵糧も大幅増加。普通にプレイしていけば砦や城を落とした時に獲得する兵糧でまず十分なのだが、これによって慢性的な兵糧不足に陥ってしまうようになる。兵糧が不足するとPT全体の兵数が徐々に減っていく、いわゆる毒状態になるため非常にタチが悪い。
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敵の数が少な目のときに叩いたりして経験値を調整したり、最終盤で一気にレベルアップするなどして活用すれば大いに役に立つ裏技である。
総評
原作が発行部数No1を誇る週刊少年ジャンプにて連載され、名が知られていたことや、本作発売の前年にあたる1988年には光栄とナムコから三国志を題材としたゲームが発売され、ファミコンの世界でも三国志が身近な存在となっていたこと、独創的なシステムの採用により、RPGという枠組みの中で三国志の世界観を表現し、独自性の強いゲーム性と面白さを実現し、好調な売れ行きを記録してヒット作となった。
基本的に続編の『天地を喰らうII 諸葛孔明伝』の方が完成度が高いがシンプルで分かりやすいストーリー、テンポの良いシステム、敵武将の勧誘等今作特有の長所もある。
破天荒な展開や設定の存在した原作漫画に準拠しつつも史実に近い筋になっているので、原作漫画を知らない三国志ファンにもオススメできる。
余談
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ゲームライターからの評価も高かったが、HPを兵士数に置き換えたゲームシステムについて「強力な策略で敵を一掃するのは確かに爽快だ。しかし一度の策略で何千何万という人間の命がなくなり、命の尊さを考えさせられる」という意見もあったという。
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エンディング中に続編の発売をほのめかすシーンがあったが、本作の2年後にそれは現実のものとなっている。
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一作目な為かテキストが粗削りな部分が見受けられる。
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武将紹介において袁術が「一度は帝を名乗ったが根本的に統治能力が不足していた」と酷い説明がされたり、司馬懿に落雷の計を受けるイベントでは「司馬懿のクーデターを目の当たりにして」と書かれる等。
最終更新:2023年05月25日 20:52