総括所見:モンゴル(OPSC・2010年)


CRC/C/OPAC/MNG/CO/1(2010年3月3日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2010年1月12日および13日に開かれた第1458回および第1460回会合(CRC/C/SR.1458およびCRC/C/SR.1460参照)においてモンゴルの第1回報告書(CRC/C/OPSC/MNG/1)を検討し、2010年1月29日に開かれた第1501回会合において以下の総括所見を採択した。

2.委員会は、締約国の第1回報告書および委員会の事前質問事項(CRC/C/OPSC/MNG/Q/1 and Add.1)に応じて提供された回答の提出を歓迎する。委員会はまた、代表団との間に持たれた率直かつ建設的な対話についても評価の意を表明するものである。しかしながら委員会は、締約国の報告書が、選択議定書に基づく報告に関する改訂ガイドラインにしたがっていなかったこと、および、代表団に司法省の職員が含まれていなかったことを遺憾に思う。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、締約国の第3回・第4回統合定期報告書の検討後、2010年1月29日に採択された総括所見(CRC/C/MNG/CO/3-4)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

I.一般的所見

積極的側面
4.委員会は、報告書の作成に際し、市民社会組織および子どもたちを含む関係者が協議の対象とされたことに、評価の意とともに留意する。
5.委員会はまた、締約国が以下の文書に加入しまたはこれを批准したことも称賛する。
  • (a) 武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書(2006年)。
  • (b) 最悪の形態の児童労働の禁止および撲滅のための即時的行動に関する国際労働機関(ILO)第182号条約(1999年)(2001年)。
  • (c) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2008年)。

II.データ

データ収集
6.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する統計データおよび調査研究が限られていることに、懸念とともに留意する。
7.委員会は、締約国が、議定書が対象とする問題に関して調査研究が実施されること、ならびに、データがとくに年齢、性別、社会経済的背景および地理的集団およびマイノリティ集団ごとに細分化されること、および、データが体系的に収集されかつ分析されることを確保するよう、勧告する。このようなデータは政策の実施状況を測定するために必要不可欠な手段だからである。締約国は、この点に関して、国連児童基金(ユニセフ)を含む国連の機関および計画の援助を求めるべきである。

III.実施に関する一般的措置

立法
8.委員会は、選択議定書に掲げられた規定の一部がすでにモンゴル法に編入されている旨の情報を歓迎する。しかしながら委員会は、精確な定義が定められていないこと、および、選択議定書上のすべての犯罪が編入されているわけではないことに、懸念を表明するものである。
9.委員会は、締約国が、選択議定書の原則および規定に国内法を調和させるプロセスを継続しかつ完了させるよう勧告する。
国家的行動計画
10.性的搾取を目的とする子どもおよび女性の人身売買からの保護に関する国家計画(2005年)が採択されたことには留意しながらも、委員会は、同計画において選択議定書のすべての規定の違反が網羅されているわけではないことを懸念する。
11.委員会は、締約国が、性的搾取を目的とする子どもおよび女性の人身売買からの保護に関する国家計画を効果的に実施するとともに、十分な人的資源および財源の裏づけを得ながら選択議定書の規定のあらゆる違反に対処する目的で、同計画の拡大を検討するよう勧告する。
調整および評価
12.委員会は、性的搾取を目的とする子どもおよび女性の人身売買からの保護に関する国家計画の実施を国家評議会が担当していることに留意する。しかしながら委員会は、同評議会の実績について体系的評価が行なわれていないことを懸念するものである。
13.委員会は、国家評議会がその任務を効果的に遂行し、かつ同評議会に十分な人的資源および財源が提供されることを確保するため、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。
普及および研修
14.委員会は、研修プログラム、人身取引に関するおよび性的搾取からの子どもの保護に関する本および広報資料の刊行等を通じ、選択議定書の促進に関して締約国が非政府組織(NGO)と連携しながら行なっている努力を評価する。しかしながら委員会は、そのような努力を締約国全域で強化しかつ体系化する必要があることに留意するものである。
15.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) あらゆる関連の専門家集団を対象として、選択議定書の規定に関する体系的な教育および訓練を継続しかつ強化すること。
  • (b) とりわけ学校カリキュラムおよび子ども向けにとくに立案された適切な資料を活用することにより、住民、とくに子どもおよび親の間で選択議定書の規定を普及するための措置を強化すること。
  • (c) 選択議定書第9条2項に照らし、かつ市民社会と協力しながら、あらゆる適当な手段による情報伝達、教育および研修を通じ、選択議定書に掲げられたすべての犯罪の防止措置および有害な影響に関する意識を公衆一般、とくに子どもたちの間で促進すること。そのための手段として、とりわけ、そのような情報伝達、教育および研修のためのプログラムへの、コミュニティならびにとくに両性の子どもおよび被害を受けた子どもの参加を奨励すること。
資源配分
16.委員会は、選択議定書の実施のための予算配分額に関して提供された情報を歓迎する。しかしながら委員会は、配分された予算が十分ではなく、かつ選択議定書のすべての分野が網羅されていないことを、依然として懸念するものである。
17.委員会は、締約国が、条約第4条に関する2007年の一般的討議を受けた委員会の勧告を正当に考慮しながら、選択議定書のすべての分野を網羅する目的で国および地方のレベルにおける予算配分額を増加させるよう勧告する。とくに、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 防止、被害者の保護、身体的および心理的回復ならびに社会的再統合ならびに選択議定書が対象とする犯罪の訴追を目的とする、とくに地方レベルにおける計画およびプロジェクトの策定および実施のため、必要な人的資源および財源を提供すること。
  • (b) 人権アプローチを採用するとともに、委員会の総括所見(CRC/C/MNG/CO/3-4、パラ18)に示された予算策定手法を導入すること。
独立機関
18.委員会は、国家人権委員会が国内のすべての子どもにとってアクセス可能または利用可能となっていないことを懸念する。委員会はさらに、子どもが自ら苦情を申し立てられないことを懸念するものである。
19.委員会は、締約国が、すべての子どもが自己の権利(選択議定書で対象とされているものを含む)のいずれかの侵害について主張を行なう目的で国家人権委員会に容易にアクセスできることを確保するための努力を強化するよう、勧告する。委員会はさらに、締約国が、国家人権委員会が子ども自身による苦情を受理する権限および能力を有することを確保するよう、勧告するものである。

IV.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止

20.委員会は、貧困および子どもの性的虐待の増加が締約国における商業的性的搾取の増加に関して重要な役割を果たしている旨の情報について、深い懸念を覚える。
21.委員会は、売買、買春、ポルノグラフィーおよびセックス・ツーリズムに対する子どもの脆弱性を助長する根本的原因(貧困、低開発および文化的態度など)に対処することを目的としたプロジェクトに対し、締約国が引き続き十分な注意(人的資源および財源の配分を含む)を払うよう勧告する。委員会はまた、締約国が、この分野における、とくに近隣諸国との国際協力を強化する努力を増強させることも勧告するものである。

V.子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春の禁止ならびに関連の事項

現行刑事法令
22.委員会は、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの禁止が、選択議定書第2条および第3条にしたがって締約国の国内法に明示的に掲げられていないことを懸念する。とくに委員会は、選択議定書にしたがった児童買春の明確な定義が存在しないことにより、多くの事案について十分な対応が妨げられていることを懸念するものである。
23.委員会は、国内法体系と選択議定書との間の不一致および乖離を明らかにするため法的研究を行なうとともに、ユニセフその他の関連の国際機関の援助を求めるよう、勧告する。委員会はさらに、選択議定書第2条および第3条にしたがってあらゆる目的および形態の子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春を全面的に対象とする目的で国内法の規定を改正するため、締約国があらゆる措置をとるよう勧告するものである。
裁判権
24.委員会は、選択議定書第4条にしたがって締約国が裁判権を行使できることは歓迎しながらも、選択議定書が対象とするすべての犯罪に対処するために用いられている手続についての詳細な情報がないことを、依然として懸念する。
25.委員会は、締約国が、国内法において選択議定書第4条に全面的に一致する形で域外裁判権が定められることを確保するため、必要な立法上の措置をとるよう勧告する。

VI.被害を受けた子どもの権利の保護

選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
26.委員会は、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもが、選択議定書第8条で定められているとおり常に被害者と見なされかつそのように扱われているわけではない可能性があることを、懸念する。委員会はまた、女性および女子の人身取引および搾取の発生件数が増加していることならびに訴追率が低いことについて2008年11月に女性差別撤廃委員会が提起した懸念(CEDAW/C/MNG/CO/7、パラ27および28)と見解を一にするものである。委員会はさらに、被害を受けた子どもが社会的再統合ならびに身体的および心理社会的回復のための措置をほとんど利用できないことに、懸念とともに留意する。
27.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書第8条にしたがい、被害を受けた子どもが刑事司法手続のすべての段階で現行法による保護の対象とされること、および、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保すること。これとの関連で、締約国は、子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての国連指針(国連経済社会理事会決議2005/20付属文書)を指針とするべきである。
  • (b) 被害を受けた子どもの法的代理を向上させる目的で十分な人的資源および財源が配分されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
  • (c) 選択議定書上のいずれかの犯罪の被害者である子どもがそのこと自体を理由として犯罪者にも処罰の対象にもされないこと、および、このような子どもがスティグマを付与されかつ社会的に周縁化されることのないようあらゆる可能な措置がとられることを確保すること。
  • (d) 選択議定書第9条3項にしたがい、被害を受けた男女双方の子どもが十分なサービス(全面的な社会的再統合ならびに全面的な身体的および心理的回復のためのサービスを含む)を利用できることを確保すること。
28.委員会はさらに、法制度および社会制度の障壁を特定し、かつ研究の成果を効果的かつ包括的な政策の策定および実施のために活用する目的で、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの被害を受けた子どもが通過するプロセス(被害者が司法制度の対象となった時点から警察段階を経てリハビリテーションの段階に至るまで)についての研究を実施するよう、勧告する。
29.委員会は、締約国が、被害を受けた子どもを援助するためのさまざまなチャイルドラインへのアクセスを引き続き確保するよう勧告する。これとの関連で、委員会は、締約国が、子どもがヘルプラインについて知り、かつこれにアクセスできること確保するとともに、ヘルプラインと、子どもに焦点を当てて活動しているNGOおよび警察ならびにヘルスワーカーおよびソーシャルワーカーとの連携を促進するよう、勧告するものである。
被害者の回復および再統合
30.委員会は、もっとも脆弱な立場に置かれた子ども(選択議定書上の犯罪の被害者も含む)に対してケア、支援および保護を提供するうえで市民社会組織が行なっている称賛すべき活動についての情報を歓迎する。しかしながら委員会は、被害を受けた子どもの権利およびニーズにいっそう包括的なかつ調整のとれたやり方で対応できる、体系的なかつ調整のとれた機構が州およびコミュニティのレベルに存在しないことを懸念するものである。
31.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書第8条4項にしたがい、選択議定書で禁じられた犯罪の被害者とともに働く者を対象とした適切な研修、とくに法律面および心理面の研修を確保するための措置をとること。
  • (b) 選択議定書第9条4項にしたがい、選択議定書に掲げられた犯罪の被害を受けたすべての子どもが、法的責任を有する者に対する損害賠償を差別なく求めるための十分な法的手続にアクセスできることを確保すること。

VII.国際的な援助および協力

多国間、地域的および二国間協定
32.委員会は、締約国に対し、子どもの売買、児童買春、児童ポルノおよび児童セックス・ツーリズムに対する子どもの脆弱性を助長する根本的原因(貧困および低開発など)に対処する目的で、国連の専門機関および計画ならびに市民社会組織との協力を継続し、かつ二国間協定を通じての協力も引き続き行なうよう、奨励する。
法執行
33.委員会は、締約国に対し、子どもの売買、児童買春および児童ポルノを防止しかつこれと闘う目的で、他の国々との地域的および国際的な司法共助、捜査共助および被害者中心の協力の活動を行なうとともに、条約に基づく次回の定期報告書でより詳細な情報を提供するよう、奨励する。

VIII.フォローアップおよび普及

フォローアップ
34.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を関連の政府省庁、最高人民会議および地方当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
35.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した報告書および文書回答ならびに委員会が採択した関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、メディアおよび専門家グループならびに子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

IX.次回報告書

36、第12条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって提出される、条約に基づく次回の定期報告書に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年10月14日)。
最終更新:2011年10月14日 19:50