ゆっくりいじめ系3067 ちぇんとお兄さん

 夏とともに仕事の繁忙期が終わり、男は遅い夏季休暇をもらった。期限は一週間。
 部下に後を任せ、会社を退出する。
「さて」
 男はいつものように駅に向かうのではなく、郊外へと向かった。


<ゆっくりショップ ゆ虐の友>
 自動ドアを通ると、すぐにゆっくり達の声が男を出迎える。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」

 どうせだから今回は、常識と非常識の境界を探るような虐待をしてみよう。
 そう男は思った。

 そうなれば、おのずと必要なゆっくりは見えてくる。
「どぼじでぞんなこというのーーー!?」が似合うれいむか、
「わがらにゃいよーーーーー!!」を言わせたいちぇん。

 男はちぇんを選ぶことにした。


 * * * *


 ちぇんをゲットし、男はアパートに帰りつく。
 件のちぇんとはまだ会話をしていない。ショップの檻を遠目から見ただけで選び、
 実際には触れていない。店員に遮音性の高い箱に入れてもらって運んできた。

 玄関のドアを閉めると、思わず低い笑いが漏れた。
「ククク……やべえ、やべえよ……」
 男の額に冷や汗が浮かぶ。
 何しろ、このアパートはペット禁止なのだ。
「滅多に来やしないが、もし大家に見られたらと思うと……このスリル、たまんねえぜ!
 ヒャア!契約違反だ!」
 箱の中から、ちぇんが不安そうに男を注視していた。




 ちぇんとお兄さん




 箱を開けると、いよいよ対面。
 ここはテンプレ通りに行くのが良かろう。様式美というやつだ。
「えー、ゴホン」
「ゆっくりしていってね!……おにーさんは、ゆっくりできるひと?」
 ゆっくりに先手を取られてしまった。がしかし気にしないで見得を切る。
「やあ、俺の名前はキチガイお兄さん!もちろんゆっくりできない人間さんさ!」
「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???」
「なかなか良い声で鳴いてくれるじゃあないか。これからがたのしm」
 その時、男のポケットで携帯電話が鳴った。
「はい、ドッピオです……なんだ、君か。
 仕入れ台帳?ああすまん、言い忘れてたな。二番目のノートPCに入ってるから、
 田辺さんかヒデさんに聞いて使って。
 ああ、そうなんだよ。一週間ほど休みを貰ったから。その間よろしくね。
 ところで……」
 男はリラックスした調子で職場への指示を出し続ける。

 30分ほども話して、やっと電話は切れた。 
「お、おにーさんはゆっくりしてるんだねーわかるよー」
「さっきのは仕事の話。今はプライベートだからゆっくりしないよ?」
「にゃんでぇぇぇぇぇ!!!???」

 とにかく、そのようにして男の虐待ウィークが始まった。


 * * * *


 男は業務用のホワイトボードを出し、そこにでかでかと「狂気」の二文字を記した。
「今回のテーマは狂気だ。わかるかー?」
「わがらにゃいよぉぉぉぉーーー!!!」
「はっはっは、早速わからないよーとはなかなかノリがいいな。そういうのお兄さん好きだぞ」
「ゆっぐいざぜでよーーー!!」
 男はじたばたするちぇんをうっとりと眺める。


 * * * *


 男は一冊のノートを持ってきて、床に寝そべりながら何かを書き始めた。
「おにーさんなにしてるのー?わからないよー」
 ちぇんが興味を持って近づいてくる。

「そんなことより苺のジュース松の木長い雨いつも相似形ペンだから
   神経楽しいハンティング    昔なじみ懐かしい歌ゲーム支障サイト
 紐これは長い 冬常套句
 犬
 帽子 雲
 細雪文豪愛やめろ」
「わがらにゃいよーー!!??」
 泣き出したちぇんに男は説明する。
「これはな、”心に浮かんだ単語やそこから連想された単語をでたらめに書き付けて行く”という遊びだ。
 できるだけ細かい文字で、ページが真っ黒く塗りつぶされるまでやるんだ。
 お兄さんが昔リアル欝だったときに発明した遊びさ」
「なんだかゆっくりできないよー!?」
「人間の思考回路って、どんな風にできてるんだろうなー」
「にゃ、にゃああ……のーとさんが、のーとさんが……」


 * * * *


 歌過去水喉意志アスファルトさむけなぜ悔恨轢死
 二重遠くちぇん租界ふかふか裏地フォーク箱根細工
 晩重力騒音一害窓辺月丸い青角ティッシュ
 恐怖犬ページコンセント静かの海メディアプレイヤー
 過去綿毛斜め意識鉄橋草原
 痛い桜わざと石昔末期殺した湯気母親プラ板つけ麺無駄彫刻家
 ブル見る何度も茶色自慢パンフ虚無できない青白腕立て伏せ眠い若さ誤謬唯
 過ぎる酸素密度猫一時期骨折入院原形質唄泣き止め
 がじゅまるの木
 鬼籍領土論争歴史溺死限界死ね装備服助けて 


 20分ほどかかって、男はページのすべてを黒く染め上げてしまった。
 むろん、びっしりと細かい文字でだ。
「ふう、良い仕事したぜ」
「わがらないよーー!!わがらないよーー!!」



「ところで、腹が減らないか?」
「おなかすいたよー」
「よし!腹が減ってはゆ虐はできぬというし、いっちょ飯を作るか」
「おにーさんありがとうだよー。……ゆぎゃく?ゆぎゃくってなに?わからないよー」


 男はちぇんを箱に戻し、厨房に入った。
「とってもいいにおいなんだねー、わかるよー」
 5分もしないうち、食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。
「………」
 だけど、ちぇんは何だかゆっくりできないような予感がしていた。


「出来たぞ!」
 男が厨房から戻ってくる。その手には大きめのパスタ皿。
「ゆわぁぁ……!」
 黄金に輝くスパゲッティの上に、ごろっとしたアサリとベーコンがふんだんに盛られている。
 小麦とオリーブオイル、刻みにんにくが香り、イタリアンパセリの緑と唐辛子の赤が目を惹く――
「ボンゴレ・ビアンコだ。さあ、お食べなさい。熱いから注意してな」
 男はちぇんを箱から出し、麺やスープが少しでも冷めるように小皿に取り分けてやる。
「それを食い終わったら、大皿のも食べていいぞ。腹減ってるだろ?」
「とってもおいしそうなんだねー!わかるよー!」
 ちぇんは早速パスタに取り掛かる。
「おいしいよー!おいしいよー!」
「俺はちょっと出かけてくるから」


 ちぇんがスパゲッティを半分ほど平らげたところで、男が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりなんだねーわかるよー」
 男は手に白いビニール袋を持っている。
「わからないよー、何が入ってるのー?」
「いや、なんでもないんだ」
「きになるよー、おしえてよー」
「いやホント大したものじゃないんだ。
……ただの、パンの耳だよ」
「ぱんのみみはもさもさするよー、わかるよー」
「駅前のパン屋でもらってきた」
 言うなり男は、それをもしゃもしゃと食べ始めた。
「うーん、もさもさする」
 ちぇんは自分の食べているパスタ皿を見る。
 そういえば、お兄さんのぶんのスパゲッティはどこにあるんだろう?
「ぼんごれびあんことってもおいしいよー?おにーさんもたべてよー」
「イヤいらない」
「……?」
 男はあさっての方向を向いて、ただひたすらにパンの耳を咀嚼しつづける。
「……もっさ、もっさ……しあわせー」
「ぜんぜんしあわせそうにみえないんだよー……」
「そんなことないんだよ。うん、そんなことないんだ。そんなこと……」
 もしゃもしゃ。
「……」
「もっさ、もっさ」
「わがらにゃいよーー!!にゃんだかすごくあとあじわるいよー!!でものこったぱすたもちぇんがたべたいよーー!」
 男は無表情に言う。
「もっさ、もっさ……いいんだよ、それはちぇんの為に作ったものさ、食べなさい……もっさ、もっさ」
「ぞんなごどいわれでもたべにくいよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「もっさ、もっさ……水はあえて飲まない……もっさ、もっさ」
「わがらないよーーー!!!!」


 * * * *


 結局男は頑として譲らず、パスタはちぇんが泣きながら平らげた。
「もっさ、もっさ」
「おいしかったよー!でもにゃんだかつらいよー!」


「……ちぇん、ティラミス食べる?コンビニスイーツだけど。
 もちろん俺は食わない。デザートもパンの耳だ」
「いらに゛ゃいよーー!!おにーざんがたべてよー!」
「もっさ、もっさ」



「ちぇん、すーりすーりしようぜ」
「すきんしっぷなんだねー、わかるよー」
「すーりすーり」
「に゛ゃ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!いだいよー!おひげさんがちくちくなんだよー!!」
「すーりすーりすーりすーり」
「いだいよー!もっとちがうところですーりすーりじでよー!」
「しょうがないな」
 男はちぇんを掴み、自分の膝の裏側にこすりつける。
「すーりすーりすーりすーり」
「どぼじでそんなところですーりすーりするのーー!!」
「すーりすーりすーりすーり……」
「やめてよー!ゆっくりできないよー!」


 * * * *


 そんなこんなで夜になった。
「よし、寝るか」
「なんだかとってもつかれたんだよー、おやすみなさいだよー」
「と、その前に。トイレに行かなくて大丈夫か?」
「だいじょうぶだよー、ちぇんはうんうんもしーしーもしないよー」
「本当に?それって物理的におかしくないの?」
「わ、わからないよー……でもちぇんはだいじょうぶなんだよー」
「良いんだよ本当の事を言って。お兄さんリベラル虐待派だから。ぬるいじめから汚物まで全然オッケーさ。
 うんうんぐらい、この部屋一杯にしても大丈夫なんだよ?」
「そんなにしたらぜんぜんだいじょうぶじゃないよーー!?」
「あ、そうか。恥ずかしいのか。だったら俺は外に出てるから……」
「ち゛ぇんはうんうんじないよーー!!わかってよーー!」
「もう、強情だなちぇんは。わかったわかった、じゃあお兄さんもする。これでおあいこだろ?」
 言うなり男はズボンも脱がずに排泄した。
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーー!!!どうじでといれにいかないのーー!!!???」
 部屋の隅からホワイトボードを取り出す。
「今回のテーマ:狂気」
「わがらないよーーー!!」
「そうだ。折角だから、このうんうんを使ってちぇんの彫像を作ろうかな。
 そうと決まったら作り方を調べないと……」
「それよりずぼんさんをとりかえてあげてよーーー!!!」

 男とちぇんの一週間は、まだ始まったばかりだ。






 END 


 書いた人:十京院典明の作品集

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最終更新:2011年07月28日 19:57
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