ゆっくりいじめ系2355 れいむとカレー

れいむとカレー

	書いた人 超伝導ありす




このSSは以下の要素を含みます。苦手な方は読むのをお控えください。

  • かなり愛でてます
  • 罪のないゆっくりがひどい目に遭います
  • 死なないゆっくりが居ます
  • ぬるいじめ
  • 一部、食事中に読むには不向きなシーンがあります



 とあるお兄さんの家に、一匹のゆっくりれいむが飼われていた。
 れいむは子供の頃のお兄さんに引き取られ、大切に育てられて比較的素直なゆっくりになっていた。
 しかし、そんなれいむも完璧ではない。
 このれいむには唯一困った癖があったのだ。

「じゃ、いただきます」
「ゆっくりいただくよ!」

 休日のお昼。
 お兄さんは昼食のカレーを食べ始める。
 それに続いて、れいむもゆっくりフードを食べ始めた。

 れいむには、飼い主が食事を始めてから自分の分を食べ始めるように躾けてある。
 これはゆっくりに限った事ではないが、ペットに上下関係を理解させる一番の方法だ。

 れいむに与えられているのは、小粒のドライフードではない。
 カ○リーメイトのような、ブロック状の専用食である。

 れいむは生まれつき細かい餌を食べるのが苦手だった。
 普通のゆっくりは手足や首が無くても、体を伸ばしたり捻ったりして、器用に餌を食べるものだ。
 調べた限りでは、何世代も飼われ続けたゆっくりの子供には、そういう個体が生まれる可能性が増えるという。
 危険に晒される事がないので、生存能力が失われていくのだろうか。
 私生活にまで支障が出るほど平和ボケしてしまうのだから、困ったものである。

 その代わり、れいむは自分の舌を駆使して、象の鼻のように扱う術を身につけていた。
 生きるために身につけた技だけに、これがなかななの器用ぶり。
 れいむはいつものように、ブロックに舌を巻きつけ口に運んだ。

「おいしいよ!おにいさん!」
「そうかそうか。もっと食え」

 お兄さんもいつもの通りの生返事。
 こっちはこっちで自分のカレーが最優先だった。

「ゆっくりごちそうさまだよ!」

 しばらくすると、れいむは先に食事を終えてしまった。
 皿に盛られたのがブロック五つだけなのだから当然だ。
 見た目は少なそうに見えるのだが、ぎゅっと固まっているので量は足りている。

 足りてはいるのだが…。
 れいむはお皿をぺろりと綺麗に舐め取ると、おもむろに動き出した。
 行き先は、台所の隣にある洗面所のさらに奥、浴室だ。
 れいむはそこで反転すると、浴室の扉から体の右半分だけを出し、お兄さんの食事風景を見つめはじめた。

(またか…)

 お兄さんは気にしないようにしてカレーを食べ続ける。

 れいむの困った癖。
 それは、飼い主の食事風景を物欲しそうな目つきで眺めることだった。
 しかも、必ず何かの影から顔半分だけを出しての観察である。
 見られる方は気になってしょうがない。

 これが、足元で上目遣いをするくらいであれば、愛嬌があるだろうが…。

「おい、れいむ」
「ゆゆ!れいむはみてないよ!おにーさんのかれーなんてみてないよ!」

 聞いてもいないのに答える辺りが餡子脳か。
 しかも浴室の扉はすりガラス。
 なので、本人は隠れているつもりでも隠れていないのが滑稽だ。

 これと同じことを、客人にもやるのだからたまらない。
 お兄さんは何度もれいむに注意したが、これだけは直らなかった。

 たった一度だけ、人間と同じ食事をさせた結果がこれとは。

 基本的には『あまあま』が一番の大好物のようだが、人間の食事は憧れなのかもしれない。

「ふうむ」

 そこでお兄さんは思った。
 今回、このカレーを与えてみるのはどうだろうか。
 ゆっくりは犬猫と違い、人間と同じ食事を与えても毒にはならない。
 ただし、辛味だけはダメだ。
 犬にチョコレートを与えるのと同様に、中身が甘味のゆっくりにとって辛味は毒である。

 しかし、お兄さんは辛いものが苦手。
 だけどもカレーは好きだという性分。
 いわゆる給食カレー党である。
 今食べているカレーも、それほど辛くないから、そう大事にはならないだろう。

 それにコレに懲りて悪癖が治るなら…。
 お兄さんは、この時は気軽に考えていた。 

「そんなにほしいのか?だったら、少し食べさせてやるぞ」
「ゆゆっ!?」

 れいむはびっくりして、しかしすぐにお兄さんの足元へと駆け込んできた。
 感情よりも食欲が勝った、ゆっくりにとっては一般的な行動だ。

「ただし、さっきみたいな事を、もうしないこと」
「ゆっくりりかいしたよ!だからはやくちょうだいね!」

 お兄さんはれいむのお皿に、カレーをスプーン一杯分盛ってやる。

「おいしそうだよおお!!」

 れいむは、慌ててそれに舌を伸ばした。

「おいしいよおおお!!しゅっごくおいしいよおお!!」

 唾液を飲みきれない不明瞭な声で、れいむは感動を口にした。

(ん…?なんだか反応が…)

「もっとちょうだいね!もっとちょうだいね!」

 お兄さんは、足元でぴょんぴょんと跳ねるれいむの姿をじっと眺めていた。
 しかし、待てど暮らせど、期待したリアクションが返ってこない。

「おい、れいむ。辛くないのか?」
「すこしぴりぴりするけど、おいしいよ!」

 てっきり「からいいい!!」と叫び転がりまわる姿を想像していたお兄さんは拍子抜け。
 いくらバーモ○ドカレー(甘口)とだからといって、毒には違いないはずなのだ。

「今日はこれでおしまいだ」
「ゆゆ!もっとほしいよ!くれないとあばれちゃうよ!」

 そう言って、れいむは床を転がり始めた。
 もちろん本気で暴れようというのではない。
 他のペット同様、飼い主の気を引こうとする「ごっこ」遊びである。
 それに、ゆっくりは転がり回るのが大好きだ。

 本来であれば、ころがり遊びは幼いうちだけの遊び方だ。
 成体になると『おとな』の自覚が芽生えるのか、次第に忘れていく。
 だが、れいむはまだまだお転婆だった。
 これも生存本能が薄れた結果だろうか?

 れいむは今までに一度も子供が欲しいと口にしたことがない。
 未だに子供気分でいるのかもしれない。

「ゆううん。ゆううん。ゆっくりはさみしいとしんじゃうんだよ!」

 お兄さんが構ってくれないので、今度は足にまとわりついてくる。

「いいこにしてたら、またあげるよ」
「ゆっくりりかいしたよ!やくそくだよ!かれーだよ!ぜったいだよ!」

 れいむは、ゆっくりにしては素直に引き下がった。
 それは、信頼の証でもある。
 その日以来、れいむは癖を我慢した。

「まいったね」

 こうしてお兄さんは、れいむに人間の食べ物を食べさせてあげなくてはならなくなったのだ。



 それから一週間。

 お兄さんは台所でカレーを調理していた。
 いつもはお昼の分と夜の分だけだが、今回はれいむの分も入っている。

(そろそろ約束守らないとキレる頃だよな…)

 お兄さんは経験から、そう予測していた。
 もっとも、カレーの匂いを嗅ぎ付けて、れいむはお兄さんの足元で嬉々として跳ね回っている。

「はやくたべたいよ!ゆんゆん!」
「あ~。今回はたっぷり食べさせてやるから、おとなしく待ってろな~」

 皿を二つ用意して、ご飯を盛り、カレールーを上から掛ける。

「よっと」

 お兄さんは自分の分をテーブルの上に、れいむの分をいつもの床の上に置く。

「ゆうううう!はやくたべたいよおおお!」

 まるで、幼い頃に戻ったかのよう。
 禁じられた涎をだらだらと流して、目に穴が空くほどの勢いでカレーを見つめている。
 最低限、飼い主より先に口を付けないルールは守っているようだが、それも時間の問題だ。

「じゃ、いただきます」
「ゆっくりしないでたべるよ!!」

 れいむの反応は早かった。
 まずはカレールーに顔をそのまま突っ込んだ。
 そのまま舌が届く範囲のカレーを口の中に掻きこむと、顔を上げて咀嚼する。
 顔についたカレールーをベロリと舐めて、ご満悦の表情だった。

(こいつ、本当はゆっくりじゃないんじゃないか…?)

 一瞬、本気で信じてしまいそうな光景だった。
 最後は皿の端に口を付け、舌をスプーンのように使い、奥から手前へと何度も往復させた。

(うーむ、あれなら、最初から小粒のドライフードも食べれられたんじゃないのか?)

 ブロック状の餌は、需要が低いのか小粒のドライフードよりも割高だ。
 今までの苦労はいったい何だったのだろうと、お兄さんは少しだけうなだれる。

「ゆっくりしなかったけど、ごちそうさまだよ!」

 れいむはそう言い切って、お兄さんの足下へとやってくる。
 顔はカレー色に染まっていた。
 ご存じの通り、カレー汚れは非常に落ちにくい。
 どうやら、れいむの皮に色素が移ってしまったようだ。

「おにいさん、おいしかったよ!ありがとう!」
「そーかそーか」

 顔の掃除をどうするか…とお兄さんが考えていると、れいむは次に信じられないことを言った。

「きょうはぴりぴりしなかったよ!つぎはもっとぴりぴりしたのをちょうだいね!」
「はあ?」

 お兄さんは、どう反応していいか分からなかった。

「ゆっ?どうしたの、おにいさん?」

(れいむは突然変異種。れいむは俺の嫁。よし問題ない)

 お兄さんは、半ば錯乱状態で心を落ち着かせた。

「じゃあ、もっといいこにしてたら、辛くしてやるぞ」
「ゆっくりりかいしたよ!れいむはいいこになるよ!おてつだいもするよ!だからちょうだいね!」

 その日以来、れいむはお手伝いをするようになった。

「くさむしりをするよ!」
「とった草は、ここにあつめろよ~」
「わかったよ!ごっくん!」
「なにしてんの、オマエ?」
「カレーのおかげで、おなかのちょうしがいいよ!」

(どういう理屈だか…)

 こうしてお兄さんは、れいむにもっと辛いカレーを作らねばならなくなったのだ。



 それから半年が経った。

「いや~、れいむちゃん、りっぱになったねぇ」

 ここは、お兄さん行き着けの食堂。
 感嘆の声を上げたのは、顔なじみの食堂の店主だ。

「いや…。まったく困ったもんだよ」

 お兄さんも苦笑い。

「ゆゆっ!れいむはおにいさんじまんのれいむだよ!」

 その隣で、巨大な饅頭…もとい、れいむが誇らしげに答える。
 れいむの背丈は、ゆうに1mを超えていた。
 野生のゆっくりであれば、ありえない大きさである。

 時刻は夜の9時。
 食堂はとっくに閉まっている時間だ。
 最近お兄さんは、れいむのカレーをここで作ってもらっていた。
 れいむが食べるカレーの辛さが、見るだけでもお兄さんが耐えられないレベルに達したからである。

『ご自宅のゆっくりに挑戦させてみませんか?』

 ふと、テレビのCMが目に入る。
 どうやらゆっくりの大食い選手権を企画しているようだ。
 優勝したゆっくりの飼い主には、百万円が贈呈されるという。

「れいむちゃん、あれに出てみたらどうだい?」
「ゆゆっ!そうだね!でてみたいよ!」

 店主が冗談で言うと、れいむは即答した。
 その反応に、驚くお兄さん。

「おいおい、なにいってるんだ?れいむ」
「れいむは、おにーさんにおんがえしがしたいよ!ひゃくまんえんって、いいものだよね!?」
「あ、ああ。そりゃま、いいもんだけどさあ」

 お兄さんは顔を伏せて肩を振るわせた。
 まさか、ゆっくりに恩返しなんて言葉を言われるとは思ってもみなかった。
 うれし涙と腹底をゆさぶる笑い声が同時に押し寄せてきて、お兄さんは必死に耐えていた。



 で、選手権当日。

「どうしてこんなことになったのか…」

 お兄さんは会場でぼやいていた。

「よし、れいむちゃん、頑張ってこい!」
「れいむ、頑張るよ!」

 お兄さんの後ろには、店主その知り合い、そしてお兄さんの友人が結成した応援団が構えている。
 冗談交じりに友人に話し、あれよあれよと御輿に担がれた結果がこれだよ。

「ま、来たからには頑張ってくれよ、れいむ」
「れいむがんばるよ!!」

 れいむは顔を引き締めて答えた。

「それでは、参加するゆっくりちゃんはこちらに並んでください!飼い主さんも一緒に!」

 テレビ局のスタッフが、参加ゆっくりたちを呼び集めた。
 しかし、その光景を実際見ると、お兄さんも圧倒されるばかりだ。
 うちのれいむが異常なのだと思っていたが、この会場には同じ体格のゆっくりが何匹もいる。
 いや、もはや『何体』と呼んだ方が適正かもしれない。

 巨大ありす、巨大ちぇん、巨大みょん。
 某かぼちゃ祭りの重量コンテストの会場に間違えてやってきたのではないかと思わせるほどだ。
 一番見ていて危なっかしいのは、巨大れみりゃ。
 しかも胴付きときている。

 体もそれなりに太ってはいるが、なにぶん顔が大きすぎる。
 今にも首が折れて顔が転がりそうな勢いで、よたよたと歩いてるのだ。

「いよいよですわ!おじょうさま!」

 そのれみりゃの傍らには、通常サイズのさくやが跳ねている。

「だんなさまのきたいをうらぎってはいけませんわ!」

 恐らくその隣に居る飼い主が『だんなさま』だろう。
 見た目、何の変哲もないお兄さんだが、どのような愛があんな結果を生み出したのか。

「うあうあ~。いっぱいたべるんだどお~♪」

 れみりゃが騒ぐたびに、首がぐらりぐらりと揺れる。
 そのたびに、会場の人間たちが心臓を押さえた。

 一方、その光景をクールに見つめているゆっくりの姿もあった。
 他の参加ゆっくりと同じく、1メートル級のゆっくりまりさ。

 だが、このまりさは一般のまりさではない。
 最近のゆっくりブームに乗じてデビューした、初めての芸能ゆっくり、『ふーてんのまりさん』である。

(ゆへへへ、でぶどもがあつまってきたんだぜ)

 マネージャーには、よほどのヘマをしない限り、優勝は約束されていると聞かされていた。
 つまりはある種の出来レースであると。

(おまえたちはまりささまの、ひきたてやくなんだぜ)

 ラストでお涙頂戴の演技をすれば、もっと人気が出るはずだ。
 まりさは帽子の鍔で表情を隠し、不敵な笑みを浮かべている。
 そんな企画であるとはつゆ知らず、参加ゆっくりたちは本番が始まるのを待っていた。

 参加するゆっくりは、六体。
 企画段階では予選が予定されていたが、数が少ないのでいきなりの本番となった。



 一回戦。
 最初のお題はお汁粉である。

『おいしいね!』

 それは、もはやゆっくりの食事風景ではなかった。
 巨大なゆっくりたちが、次々とお椀の塔を作っていく。
 食べるというよりは、流し込んでいると言った方が正しい。

 大好物中の大好物の登場に、参加ゆっくりたちは大はしゃぎだった。
 これだけでも、出場した甲斐があったというものだ。

 しかし、これはあからさまな罠であった。
 緒戦でお腹を満たし、まりさのライバルになるであろうゆっくりを疲弊させようとするテレビ局の作戦である。
 その証拠に、まりさはほとんど食べていない。
 最初に言い聞かされている通り、この戦いで脱落するゆっくりよりも食べればそれでいいのだ。

 一番ペースが遅いのは、ちぇんのお椀。
 言わずもがな、ちぇんは猫舌である。

「わからないよおおおお!!」

 このおかげで、まりさはお汁粉を大して食べることもなく、一回戦を勝ち抜いた。

(かんたんだったんだぜ。でも、いっぴきゆだんできないやつがいるんだぜ)

 まりさは、帽子の影かられいむを横目で眺める。
 れいむはまりさ同様、ほとんど食べていなかった。
 もっとも、こちらは大好物がカレーなので、お汁粉には大して興味が無かっただけだった。

(れいむはかつことだけをかんがえるよ!あわてないでたべるよ!)

 『恩返し』という言葉もあるのだろう。
 頭の悪いれいむ種にしては、中々に考えていた。
 もっとも、餡子脳の処理能力は餡子の量に比例する。
 今のれいむは、野生のどのれいむよりも頭がいいはずだ。

「ふーてんのまりさん、おしるこはどうでしたか?」
「とってもおいしかったよ!ほんとうはもっとたべたかったよ!」

 マイクを向けられると、まりさは営業スマイルでカメラに笑顔を納めていた。



 二回戦。
 次の課題は、野菜サラダである。

 野生のゆっくりであれば、これも『ごちそう』として食べたであろう。
 しかし、甘いゆっくりフードに慣れた飼いゆっくりにとって、野菜は魅力のないものだった。

 お汁粉で満足した直後に出された野菜の前に、次々と戦意を喪失してゆく、ゆっくりたち。
 まりさとれいむは、この戦いでも様子を見ながらの展開だ。
 れいむはしばらく雑草を食べていたので、やさいの味に不満はなかった。
 まりさも野菜の味には飽き飽きしていたが、明日の栄光のために我慢して食べた。

(おにいさんとのとっくんをおもいだすんだぜ!まりささまはこんなところではまけないんだぜ!)

 一方、野菜そのものに根を上げてしまったゆっくりもいた。

「おやさいはいらないどお!こんなのぽいするの!ぽいっ!」

 先ほどのれみりゃである。

「だめですわ、おじょうさま!だんなさまにしかられてしまいますわ!」

 お付きのさくやが喚き立てるが、一度へそを曲げたれみりゃは応じない。
 それどころか、木製のおわんを放り投げてしまう始末。
 ゆっくりのすることだから、とリタイヤ扱いにはならず、れみりゃは醜態を晒し続けた。

 二回戦終了後、ここで一旦の休憩が入る。

「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「ゆっくりいってきてね!」

 応援団にれいむを任せ、お兄さんは席を立つ。
 先ほどのトイレを済ませたばかりだというのに、緊張のせいだろうか。

「このクソれみりゃがあああ!!」

 お兄さんが、そんな声を聞いたのは、トイレの帰り。
 特設会場の隅の、さらに奥の方から、罵声と悲鳴が聞こえてきた。

「やべるんだどおお!れみりゃはおじょうさまなんだどお!!」
「お嬢様だあ?野菜も食えない奴はこうだ!」
「いだいんだどお!!れみりゃのぷりちーなおててが!おててがああ!」
「恥を晒しやがって、貴様は豚だ!丸焼きにしてやるわ!」
「だんなさま、おじょうさまははんせいしておりますわ!」
「んぎゃおおおお!!」
「どうか、おじひを!おじひをおおお!」

 お兄さんは一部始終を聞き届けると、その場を後にした。
 愛の形は人それぞれである。



 れいむはその後も、適当な食べっぷりで勝ち続けた。
 最初に多くを食べなかったことで、後半次々と失速したライバルたちを制したのだ。
 そして、迎えるは最終戦。
 れいむとまりさ、二体による頂上決戦である。

 お題は、カレーだった。

 ご存じの通り、一般的にはカレーのような辛い物は、ゆっくりにとって毒である。
 辛さは極限まで抑えられているとはいえ、ぴりぴりと痛みを感じるはずの辛さだった。

「では、最終戦、スタート!」

 司会者の一声と同時に、二体は同時に皿に口を付けた。
 実際にテレビで放映する時とは違い、音楽もナレーターの解説もない。
 応援者たちが固唾をのんで見守る中、静かな時間が流れ続ける。

 まりさは涙しながら食べていた。
 意外にもれいむが健闘した結果、まりさはペースを乱していた。
 演技で泣くつもりが、本気で泣く羽目になったのだ。

 れいむも同じように涙して食べていた。
 それは、カレーが不味かったからである。
 辛い物に慣れきったれいむには、『ゆっくり用のカレー』はあまりにもぬるかった。

 直径50センチもありそうな皿が、ほぼ同時に積み上げられる。
 双方とも、二皿目を食べきった辺りだ。
 れいむは自慢の舌技で丁寧に食べ、まりさは芸で身につけた舌技で荒っぽく食べている。

 さすがにまりさも限界が来ていた。
 収録が始まる前は、適度な下膨れがあったまりさ。
 ところが今では、ガスを一杯に入れた風船のように丸くなっている。

(ゆぶう、これいじょうあいつがたべつづけたらやばいんだぜ)

 まりさの真っ青な顔を見て、番組の責任者が厨房に指示を出す。

「おい、次にれいむに出すカレーを少し辛くしろ」
「え?大丈夫っすか?ゆっくりに辛さは…」
「ほんの少しだ。何かあってももみ消す。いいな?」
「わかりましたぁ」

 調理スタッフは、ガラムマサラの粉末が入った小瓶を取り出し、れいむ用の鍋の上で軽く振る。
 すると、緩んでいたのか粗悪品だったのか、小瓶の蓋が取れてしまった。

 ばさばさばさ。

「!!!」

 スタッフの目の前で、大量のガラムマサラが鍋に消えていく。

「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありませんよ!」

 スタッフは蓋だけ拾い、慌てて鍋をかき混ぜた。

(火を通せば、少しは辛さが飛ぶか…?)

 スタッフがコンロに火を付ける。
 そうこうしているうちに、次の皿のオーダーが入った。

 皿にご飯とカレールーが盛られ、会場へ運ばれていく。
 れいむとまりさ、運ばれたタイミングは、ほぼ同時だった。

(かならず、おにいさんにひゃくまんえんをあげるよ…!ゆぐう!?)
(こんなはずじゃないんだぜえ。からくてしにそうなんだぜえ…。ゆげえ!?)

 味に変化を感じ取るれいむ。
 それはれいむにとって天の助けとも呼べる転機だった。
 運ばれてきたカレーは、信じられないほど辛く、おいしいものだったのだ!

「おおおお、おいひいよおお!!」

 れいむは、突如としてペースアップする。
 それを見たまりさは、悲鳴を上げた。

「まけないんだぜ!うぎぎぎ、からいんだぜえ!」

 まりさのカレーは変わっていない。
 しかし、すでにまりさの体は、これ以上は耐えられない、という限界ギリギリになっている。
 地のしゃべり方になってもなお追いすがろうとするが、すでに勝負は決まっていた。

「もうだめなんだぜえええ…」

 まりさは、四皿目の半ばで、舌をだらしなく垂らし戦意を喪失した。

「おいしいよおお!おいしいよおおお!」

 れいむは四皿目を完食した。
 ここに、大食い王者が決定したのである。

「おかしいんだぜえ…こんなはずじゃないんだぜぇ…」

 それは、リポーターがれいむにインタビューをしようとした時だった。
 まりさは泣いていた。
 こんなはずはないと、歯ぎしりをしていた。

(あのとっくんはなんだったんだぜ…?)

 それだけではない。
 失敗したとなれば、お仕置きがまっている。
 赤子の頃からお兄さんに厳しく躾けられていたまりさは、それだけで恐怖におののいた。
 いてもたってもいられず、まりさは隣の台へと飛び乗ると。

「れいむはずるをしたんだぜ!カレーがおいしいはずがないんだぜ!れいむのぶんだけからくなかったんだぜ!」
「やめてね!ぼうりょくはよくないよ!」
「まりささまがまけるわけないんだぜええ!!」

 すべてをかなぐり捨てて、暴挙に出るまりさ。
 まりさには、芸人ゆん生を失うことよりも、お兄さんにお仕置きされる方が怖かった。
 ここで大人しく引き下がっても、お仕置きはされる。
 もはや、まりさは正常な思考を残していなかった。

 まりさは、舌先で、れいむのカレー皿の、少しだけ残っていたルーを、舐め取った。

「ゆんぎあげおおおおお!?」

 まりさの脳髄に、比喩ではなく電撃が走る。
 ただでさえ普通のゆっくりにとっては即死級の辛さだというのに、まりさの体はすでに限界状態だった。
 気持ち悪い、などという生半可な感覚は通り越して、まりさの体は本能的に防衛手段を取る。

「えろ、げれおろろろろろおおおおおお!!!」

 それは餡子の濁流だった。
 巨大なまりさの口から、餡子と今まで食べたモノが流出していく。
 まりさには、もはや意識がない。
 白目を剥いたまま、餡子を吐き続ける。
 餡子には、中途半端に餡子に変換された原形をとどめていない『何か』も多数混ざっている。

「ゆ…び…」

 そして。
 まりさは頬が痩けるほど餡子を吐き出すと、ゆらりと体のバランスを崩し。

 ドシャ。

 具の多い餡子の海に沈むのだった。

 一瞬だけ、静寂が響き。

「おい、担架だ担架!」
「それどころじゃない、救急車を呼べ!」

 会場は騒然となるのだった。



 結局、その企画は、電波に乗ることなくお流れになった。
 賞金もうやむやのまま、お兄さんの手に百万円が渡ることもなかった。

 あれから一年。
 今となっては、いい思い出だったとね、と笑えるようになった頃。
 れいむにもその時が近づいていた。

「なあ、れいむ」
「ゆ…。なあに?おにいさん」

 れいむはお兄さんの横、巨大座布団の上でゆっくりしていた。
 最近は動き回ることはほとんどない。
 心なしか、目尻や口元にシワが出来て、皮もたるんでいる。

 生きている以上は避けられないもの。
 れいむにも、寿命が近づいていたのだった。

「おまえがいて、本当に楽しかったよ」
「れいむも、たのしかったよ」

 力なく、それでもれいむはにっこりと笑う。
 ゆっくりの寿命は、野生で2~3年、飼いゆっくりでも4~5年と言われている。
 れいむは例外としても、体の大きさからすれば、相応の寿命だ。

 だが、れいむはまだ3年しか生きていなかった。
 普通のゆっくりの、数十万倍の致死量のカレーを食べたせいか、あるいは体が大きく成りすぎた反動か。
 とはいえ、お兄さんと笑ったり、怒られたり、すりすりしたり、一緒に寝たり。
 それなりにいい、ゆん生だったのではないかと、お兄さんとれいむは思っていた。

「ゆ…ぅ…」

 れいむは死期を悟っていた。
 もう自分は長くない。
 こうして、最期を看取ろうとしているお兄さんに、れいむは涙を浮かべる。

(ありがとう…。おにいさんは、さいこうのおにいさんだったよ…)

 そして。

「おにいさん、れいむのさいごのおねがい、きいてくれるかな?」
「ああ。なんでもきいてやるぞ…」

 お兄さんは俯いている。
 お兄さんも、その時を悟りつつあったのだ。

「れいむがしんだら、れいむのからだをたべてね」
「ああ…」
「ゆふぅ」

 れいむは安堵のため息を漏らす。

「…それをきいてあんしんしたよ。だいすきなおにいさんにたべてもらえるなんて、れいむはさいごまでしあわせだよ」
「ああ…」

 それ以上、何かを言うことはなかった。
 お兄さんは背をれいむに預け、れいむは頬に温もりを感じた。
 どれだけ時間がたったのだろう。
 そう、お兄さんが思った頃。

「それじゃあ…れいむはそろそろいくよ…」
「ああ…」
「うまれかわったら、またおにいさんの…」

 何かを言い続けようとして、れいむは止めた。
 もう、時間が残されてはいないと感じたのだ。
 それよりも、最期にこれだけは言わなくてはならない。
 ゆっくりが、愛する人だけに伝えられる言葉。

 それは…。

「さあ、おた……!!」

「おた、なんだ?」

 れいむは、それきり動かなくなっっていた。
 「お食べなさい」と言い切る前に、事切れてしまったのだろう。
 れいむの体はまっぷたつになることはなかった。

「あはは、れいむのやつ…」

 お兄さんは顔を上げ、涙を拭う。
 今回は、うれし涙ではない。
 だが、腹底をゆさぶる笑いは同時に押し寄せてきた。

「最期の最期で失敗するとはな…。れいむらしい…」

 お兄さんは、笑い転げた。
 そして、同時に泣いた。
 カレーが大好きな、おかしなれいむの生涯は、ここで閉じたのである。



 だが、お兄さんにはまだやるべきことがあった。
 れいむとの遺言を果たさねばならない。

 そう、れいむを食べてやらなくてはならないのだ。

 翌日、お兄さんはれいむの巨体の前で悩んでいた。
 いくら中身が餡子と知ってはいても、3年間一緒に暮らした同居人を口にするのは、いささか抵抗があるというもの。
 しかも相手は巨大饅頭。
 到底、食べきれるものではない。

「すまん、れいむ、一部だけで我慢してくれ」

 巨大になってから、家で跳ねることがなかったれいむ。
 飛び跳ねると、重さで床が抜けてしまう危険性があったからだが、それだけの重量を食べきるのも無理だろう。

 お兄さんは、包丁を持ってきて、一部を切り取り皿に移した。
 そして、いつものようにテーブルの上に置き、椅子に座る。

「じゃ、いただきます」

 お兄さんは、饅頭を頬張った。
 味はそこそこ甘かったが、餡子はやはりパサパサしている。

「そういや、大人のゆっくりは餡子核が一番うまいんだっけ…」

 その時だった。
 立ち上がろうとしたお兄さんの口の中に異変が起こったのは。

 それは、言葉では表しきれないほどの、猛烈な辛さだった。
 辛いモノが苦手なお兄さんにとっては、致命的な味である。

 辛さが味覚を乱暴にノックし、刺激が神経を伝わって脳に衝撃を与えた。
 それだけでは間に合わず、バックファイアのように刺激が全身を硬直させる。

 しばらくして、お兄さんは。

「かれええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 ご町内に響き渡るほどの声で、叫んだのだった。





あとがき

 実はこのお話、かつて愛でスレに投下しようかと思っていたネタでした。
 やたらと愛で表現が多いのは、そのためです。
 愛でスレが昔のままだったら、私も両刀作者になっていたかもしれませんね。

 もしよろしければ、感想をお願いします。


Q&A(というか頂いたツッコミ)

  • ガラムマサラって辛くないよ。

 突っ込まれてから調べたら確かにそうでした。
 私も辛い物がダメな方なので、香辛料=辛いという脳内図式でして、しかも指摘されるまで、
 なんでガラムマサラにしたのか覚えていないという有様です。
 たまたま思いついたのがガラムマサラだったんだと思います。
 まあ、まったく辛くないわけでもなさそうなので、ビン一本分入れたら…
 いや、苦しいかな。それより香りがきつくてむせ返るほうが早いかもw
 ご指摘ありがとうございました。





おまけ
(ハッピーエンドが好きな人は読まないほうがいいかもしれません)







「ゆうう…おにいさんにはわるいことしちゃったよ…」

 れいむは空へとゆっくり昇りながら、激しく後悔していた。
 まさか、決めセリフを言い終わる前に死んでしまうとは。

 ちなみに、れいむの頭の上には、天使のわっかがついている。
 ゆっくりであるのと、未練があるゆえに、ゆっくりと昇っていく途中だった。

 周囲には、名の知れない人間さんや他の動物たちの魂がゆっくりしないで天に昇っていくのが見て取れる。

「みんなゆっくりしてないね…ゆゆっ!?」

 きょろきょろと眺めていると、れいむはそこに信じられないものを見た。

 ずっと下の方から、自分の飼い主だったお兄さんの姿が昇ってくるという、不思議な光景。
 しかし、それはすぐに喜びに変わった。

「ゆゆゆ!!おにいさん!ついてきてくれたんだね!てんごくでもいっしょなんだね!れいむうれしいよ!…ゆゆ?」

 しかし、お兄さんの魂は、他の人間同様ゆっくりしてはいない。
 しかもその顔は、まるで苦しみ抜いて死んだかのように歪んでいたのだ。

「ぱとらっしゅ…僕はもうつかれたよ…」

 そう言って、れいむを抜かして昇っていくお兄さん。

「おにいさん!どこいくの!?れいむはここなんだよおおおおお!?」

 多少の未練があったとはいえ、総じて幸せだったれいむの心に、陰が差し込んだ。
 今度は、置いて行かれる側になってしまうのだ。

「いやだよおお!ゆっぐり!ゆっぐりしでいっでねえええええ!!」

 泣きわめくれいむ。
 だが、お兄さんは止まらない。

 れいむは最期の最期に、ゆん生最大の不幸に見舞われたのだった。
 ちゃんちゃん。

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最終更新:2009年03月23日 10:44
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