[判決]
当該取引の担当取締役については,善管注意義務に違反した責任を肯定したが,当該取締役以外の取締役ないし監査役については,担当取締役に対する監視義務に違反した責任を否定して,当該担当取締役に対して会社に対する67億円余の損害賠償を命ずる限度で請求を一部認容した第1審判決を相当として同社の株式を保有している関連会社を含む株主の第1審判決に対する控訴を棄却

[事例概要]
乳酸菌飲料の大手ヤクルト社は,平成5年から平成10年までの間に行われたデリバティブ取引によって530億円の損失を被った。ヤクルト社の株主が,平成元年から平成10年までの間資金運用を担当していた取締役副社長Aらを相手取って損害賠償を求めた事件

[経緯]

1、個々のデリバティブ取引の実施について,逐一ヤクルト社の取締役会に付議する必要はない。なぜなら,デリバティブ取引はその時々の経済情勢や相場変動を見ながら適時に取引を行うか否かを判断しなければならず,逐一取締役会に付議することは非現実的かつ不合理であり,資金運用のためにする有価証券の取得や処分については取得費用や損益の額に関わりなくAに決済権限があったからである。

2、会社の余剰資金の運用を任された取締役は,資金運用に伴うリスクを慎重に勘案し資金運用の性質・内容,投資の規模を考慮し,それに見合う必要なリスク管理を行い,必要があると認めるときは投資の縮小,内容変更,中止といった措置を取るべき義務を負う。

3、平成5年から平成7年までのデリバティブ取引に善管注意義務違反はない。なぜなら,剰余金900億円を有するヤクルトの財務体質から考えて,想定元本300億円のデリバティブ取引は直ちに過大な取引とはいえないことからである。

4、平成7年から平成9年までのデリバティブ取引に善管注意義務違反はない。なぜなら,想定元本が1,200億円に増加し株式相場が1割動けばヤクルト社の経常利益が消えてしまう可能性のある規模に増大していたが,ヤクルト社としては,Aに対して,想定元本の増加禁止,リスクを増大させる形での契約条件変更禁止等の制約を課しており,Aはこの制約の範囲内で取引を行っていたからである。

5、平成9年から平成10年までのデリバティブ取引(損失67億円)は善管注意義務違反となる。なぜなら,Aは,株式相場が上昇局面にあるとの相場観に基づき,上記制約を無視して想定元本を4,000億円にまで増大させているからである。

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最終更新:2010年07月01日 01:17