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ガンダム総合スレ「オデッサ・シ-クレット・ファイル 第4章」

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オデッサ・シークレット・ファイル 第4章


第3章からの続き

54 :MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2010/10/09(土) 21:11:23 ID:A9vhWMr8

 それから二日。
 偵察任務に出ていたルッグンが偽装されたビッグトレーらしきものを発見したとの報を
持ってきた時、クワンはオリハの部屋で朝食を待っていた。
 ライ麦パンが焼ける匂いと紅茶の香りを吸い込みながら、今日は俺が哨戒に出る日だな
と考えていると、部屋の電話が鳴った。
「こんな時間に?」
 そう言いながらオリハが電話をとると、すぐに受話器をクワンに差し出した。
「大尉さん、えーと、ターニャ少尉さんからお電話です」
 実際自分とオリハの事は公然の秘密だが――他の兵がオリハにちょっかいを出さないよ
うにと、特に隠さなかったためである――こうして連絡を繋げてくるのは珍しい。クワン
はバツの悪さを感じつつ、受話器を受け取った。
「どうした?」
「大尉、至急お戻り下さい。連邦軍の居所を突き止めました」
 ターニャには上官の素行を咎める余裕はないようだった。クワンも連邦という単語に表
情を引き締めた。
「判った、すぐに戻る」
 受話器をオリハに返すと朝食はまた今度と伝えた。オリハは
「今度って何時ですか?」
 と訊いた。今までそんな事を訊かれた事はなかった。
「判らん、この件が片付くまでは無理かもしれん」
 そう言ってから安心させるように
「だが終わったら必ず来る」
 と付け加えた。
「……うん、じゃあ、いってらっしゃい」
 基地に戻るとターニャの他パンナ・パンナ、ゲトーらが既に揃っていた。
「遅くなりました」
「うむ、これを見てもらおう」
 モニターには小さな丘のような映像が映っていた。しかし、特にアップにしなくてもそ
れが偽装されたビッグトレー級であると看破できる。
「場所は?どこにいるんだ?」
 パンナの質問にルッグンのパイロットが返答する。
「ここから南東に三〇〇キロほど行ったところです。実は少しずつですが今も移動を続け
ています」
「この状態でか?」
「はい。時速にして十五キロ程度ですが」
「大尉、いかが致しましょう?」
 ターニャが緊張している。この基地のMS隊の中で、彼女だけが地上での戦闘を経験し
ていない。初陣がMS戦となるかもしれないとなれば無理もなかろう。
「出るしかないだろう。目的がなんであれ相手は味方でも中立でもありえない。敵対者と
して迎撃に出るのみだ」
「戦力はどれくらい出す?」
 これはゲトーである。
「敵戦力が不明な以上、可能な限りの最大戦力を動員すべきかと考えます」
 この基地には二十八機のMSが配備されていた。クワンのグフカスタムの他、グフが三
機、ザクの指揮官機が二機、一般兵機が十二機、ドムが七機、それに予備機として旧ザク
が三機である。前回の戦闘でドムが三機失われ、現在は二十五機となる。
 サポートのバイクが十六機、その他ドップなど航空戦力とマゼラアタックなどの地上戦
力もあるが、基本的にはMSが戦力の中心である事に変わりはない。
「MS隊を出すか」
「私含めサイドカー隊を十二機とドム三機を出します。相手がMSでは戦車は出さない方
がいいでしょう」
「そうか、ではすぐに迎撃隊を組織してくれ」
「了解しました」


 三十分後にはチームが組織され、MSの出撃体勢も整ったのはクワンの準備段階の周到
さとメカニック含めたスタッフの優秀さを証明しているだろう。隊の中では新参であり、
日頃のクワンの、どちらかと言えば不熱心な仕事ぶりばかり見てきたターニャを多少なり
とも驚かせた。
 クワンは愛機である暗赤色のグフカスタムに乗り込み、MSと同色に揃えられた専用サ
イドカーにまたがった。
「なんて言ったっけ、太古にこんなのいたよな?ああ、暴走族だっけか」
 パンナが緊張感のない声で呟き、自分のグフのコクピットに潜り込んだ。ターニャもザ
クを起動させる。
「いいか、今度の相手は戦車じゃない、同じMSだ。しかも相手はこちらのデータを持っ
ているが、俺達はほとんど何も判ってない。油断すれば死ぬぞ」
「了解!」
「ターニャ、地上戦は初めてだったな。無理はするな」
「心配は無用です」
「心配はしてない、足を引っ張るくらいなら何もするなと言っている」
「……」
「冗談だ」
 ターニャが何か言い返そうと考えている間に、クワンは発進し、彼の部下も次々にあと
を追った。ターニャはオープン回線ではとても言えない悪態を吐きながらサイドカーのス
ロットルを開けた。

 一方でナッシュ・ブリッジスも配下のMS隊に出撃命令を出し、自らも出撃準備を進め
ていた。
「隊長、敵の基地が判明しました。北に三〇〇キロ進んだ地点に小規模ながら銅鉱山があ
ります。そこを拠点としている部隊が存在します。現在そこからMS隊が出撃。一時間以
内に我軍と接触します」
「一時間か――MS隊の出撃準備はどうなっている?」
「パイロットは全員集合。MSの準備はあと十五分で完了します」
「よし」
 今回出撃メンバーとして選んだのは二十八人。全機出撃をしなかったのは万が一の別働
隊を警戒したためだ。もちろんメンバーは操縦技術の高い者を優先している。
「諸君、これはMS戦闘の実戦経験を得る貴重な機会である。それと同時に当然ながら負
けることは許されない。MSの損耗を避ける事を優先しつつ、確実に撃破するように。数
では我々が勝っている、敵にMSの扱いに一日の長ありとは言え対MS戦闘の経験は我々
同様皆無だ。怖れる必要はない!」
「オー!」
 パイロット達の声に力がこもる。彼ら全員∨作戦発動後に転化試験を受け、MS操縦の
経験は数か月でしかない。その不安はあるものの、先の戦闘でドム三機を相手に一機の小
破もなく完勝した事実が彼らを高揚させていた。次は自分がMS撃破の勲を立てるとの野
心に燃えていた。
 その功名心をナッシュは否定しない。軍人が出世するには政治力を身につけるか、戦功
を立てるしかないのだ。それが士気に繋がるなら諌める理由などない。
 メカニックが準備の完了を告げた。ナッシュは頷く。
「出撃するぞ!」


 MS用サイドカーの走行性能は予想以上に高かった。構造的には人間用のオートバイと
変わらず、不整地用タイヤを履いた、側車側のタイヤも駆動するタイプのサイドカーを巨
大化させただけなのだが、直径六メートルを超える大径タイヤはマゼラアタックのような
戦車でも苦労する地面の凹凸を楽々と踏み越え、ドムのホバー移動に劣らぬ高速移動を可
能にしていた。
 だからだろうか。目標到着予定時間の半分ほどで連邦軍MS部隊が同じく大型のバイク
型移動装置で現れた時、クワンは驚くよりも先に納得した。
 連邦軍のそれはサイドカーではなく、完全なる三輪車だった。タンデム式に二機運搬す
るようになっており、見たところバイクには牽制用のバルカンが付いている程度で、戦闘
時は降車して戦うか、もしくは前席が操縦、後席が攻撃と分業する設計思想のようだ。あ
くまでも移動力のサポートであって戦闘力を付加する発想ではないらしい。
「同じモノを作っても色々変わるものだ」
 クワンは思った。
『敵戦力二十八機、我々のほぼ倍です』
 ターニャが報告する。
「数で負けてる事は想定内だ」
 クワンは答えた。
「パンナ、一応警告してやれ」
『了解』
 パンナの声が心なしか楽しそうだった。
『あ、あー。連邦軍に告ぐ、連邦軍に告ぐ。我々はジオン公国軍である。この一帯は我々
が支配下に収めている。後ろのデカブツもろともにとっとと立ち去れ。美味いワインが飲
みたければどこか他所の葡萄畑を探すがいい』
 明らかに悪ふざけの過ぎる警告にターニャばかりかさすがのクワンも顔をしかめたが、
わざわざ迎撃に出てきた相手に何を言ったところで聞く耳を持つはずがないのも事実であ
る。形式的な退去勧告をするくらいならいっそ挑発するというのは他の戦場でも見られる
光景だった。
 連邦軍の返答は一斉射撃だった。マシンガンやバズーカが火を噴き、クワンの部隊は散
開した。
「その場に留まるな、動きながら当てるんだ!」
「気をつけろ、敵のバイクは重火器で武装されているぞ!」
 双方の指揮官が味方に向けて指示を出す。数の上では連邦軍が勝るが、火力ではほぼ互
角と言ってよかった。
 戦争末期になると初期からのパイロットの減少から、MSの進化と反比例するようにパ
イロットの質が低下したジオン軍だが、この当時はまだ数年をかけて育成された熟練パイ
ロットが多数戦場に残っており、クワンの部下もその例外ではなかった。彼らは支給され
たばかりのこの新兵器も難なく使いこなし、敵の銃撃を巧みに躱しながら照準をつけて
いった。
 中でも連装機関砲を装備したパンナのグフは最短距離を走るように敵に向かってほぼ直
進しながら、銃弾の直撃は避けていた。
「意外と真っ直ぐ向かう方が当たらねえってね。こっちからもお返しするぞ」
 連装機関砲の九十ミリ弾はガンダムとの戦闘で問題になったマシンガンの貫通力の低さ
が改善されており、チタン系複合材料相手ならば貫通できる威力を得ていた。しかしジム
は大型の、これだけはガンダムと同等であるシールドを持っており、機体の前に突き出さ
れるとこれを貫通するほどの威力はなく止められてしまう。
「チィ」
 ここでパンナはアクセルを緩めるような真似はせず、逆にそのまま加速した。盾に隠れ
たジムが覗き穴からパンナを狙い、銃を構える。パンナが方向を変えた瞬間を狙う気だ。
それでもパンナは止まらない。


 チキンレースはパンナの勝利だった。我慢しきれなくなったジムがサイドカーのない左
へ、つまりパンナから見て右に飛ぶ。
 構わず走り抜ける瞬間、パンナのグフが右腕を上げると、そこから太い生物的な動きの
鞭が伸びた。ヒートロッド。高伝導の高分子集合体とデンドリマーで構成された自律運動
する電磁鞭が避けるジムを追跡し、グフの右腕に連動して横薙ぎに払った。高圧電流と高
熱を纏った死の蛇はジムの腕を溶断、さらに脇腹にまでダメージを与えた。
「おお、ヒートロッドは有効だぞ!」
 パンナの声が弾む。少なくとも連邦の量産型が、噂に聞くガンダムほど手も足も出ない
化物ではないようだ。
 それを聞いて何機かのザクがヒートホークを構えた。射撃はサイドカーの火力に任せ、
どうせ効かないザクマシンガンを捨ててヒートホークによる近接攻撃に期待した方が可能
性がある、との判断だろう。ターニャはそれでも距離を取り、側車の一八〇ミリキャノン
砲による砲撃での援護を続けている。
 一方で連邦MSの間には動揺が走った。いきなり僚機が腕を失ってしまったのである。
敵の近接兵器がジムを破壊できるものである事を初めて知ったのである。
「怯むな、距離を取れ!火線を集中して確実に落とせ!」
 ナッシュが指示を出す。辛うじて部隊が統制を取り戻し、反撃を開始する。バイクに乗
り機動力を使いつつ一対一を作りたいジオンと、数的優位を保ったまま各個撃破していき
たい連邦という図式が出来上がった。
 ジムの武装は九〇ミリマシンガンを基本にバズーカ、中には一八〇ミリ長銃身砲もいた。
東南アジアのMS部隊の使用実績のある一〇〇ミリマシンガンが全く貫通力不足を露呈し、
兵器開発局が最も強く推薦したビームスプレーガンが大気の減衰が酷くあまりにも短射程
だったのはナッシュを失望させていた。
 しかし幸いにも九〇ミリマシンガンは取り回し、貫通力共に実用に耐えうるレベルに仕
上がっており、この兵装で集団で弾幕を張れば十分な撃墜能力を発揮できる、と言うのが
ナッシュの読みである。
 その作戦は成功していた。ジオンのMSは間合いを詰める事が出来ず、遠方からの応射
をする以外にに手詰まりとなっていた。機動力で撹乱しようにも、相手に落ち着いて見ら
れてしまうと数的劣勢もあり容易に弾幕を掻い潜ることも出来ない。やや戦線が膠着しつ
つあった。
 その状況を打開しようとした者もいた。ノイビルとバザンというドムパイロットがホ
バーダッシュで敵に急接近を試みた。狙いは重装甲で致命傷を避けながらの一撃離脱戦法、
ドムにとっては基本戦術である。
 ナッシュの指示を聞くまでもなくジム部隊はこの二機に砲撃を集中する。ドムはマシン
ガンの銃撃は辛うじて耐えられた。ノイビルがジャイアント・バズを撃ったが、シールド
に阻まれMSを破壊する事は出来なかった。逆に十分に引き付けられジムのバズーカの射
線上に入ってしまった。
「危ない!」
 ターニャが声を上げ、パンナが注意を逸らそうと威嚇射撃を見せるが数に勝る連邦はパ
ンナに別のジムが三機付き、ノイビルへの狙いを外さない。
「避けろ、ノイビル!」
 無理と知りつつパンナが叫ぶ。
 その瞬間、パンナと逆方向から落雷のような轟音と共に銃弾が降りかかってきた。最も
近い位置にいたジムがシールドを突き出すが、ルナチタニウム合金を奢ったシールドがア
ルミ箔のように引き裂かれ、原形もとどめず失われた。
「何だ、あの武器は!?」
 ナッシュの疑問の答えはワイン色のMSと、同色のサイドカーに載せられた武装だった。
クワンのサイドカーにはグフカスタムの七十五ミリガトリング砲が搭載されていた。ガン
ダムとの戦闘データからルナチタニウム装甲の強度を推計し、これを一五〇〇メートルの
距離から貫通、破壊できる事を目標に開発された、MS専用マシンガンとしては最強の兵
器である。弾倉部分を大型化して装弾数を増やし、側車側に冷却装置を積んで砲身を冷却
し連続使用時間を延ばしている。側車から外してグフの手持ち兵装としても使用できるが、
シールドにマウントし直す行為は現実的でないという事からグリップと電磁フックで腕で
支えるように改造されている。
 盾を失ったジムは即座に後方に退き、別のジムが二機でシールドの防壁を作った。
「キリがないか。だが!」
 一気にバイクを加速させると一気に敵との間合いを詰める。シールドの壁を隙間なく
作ったジムの反撃が遅れる。その間にクワンのバイクは先行していたドムよりも敵に近づ
いていた。


「ヒートロッドが有効なのは何よりだが、俺のはあいにく別物でな」
 誰に言うでもなく呟きながらグフの右腕を振り、グフの物とは違う細長いワイヤーを射
出した。
 先端にアンカーの付いたワイヤーはシールドを構えたジムの頭上を越え、ドムに向かっ
てバズーカを撃たんとしているジムの首に巻きついた。ワイヤーが締まったのを確認する
やクワンはバイクの向きを変え、再び急加速で離脱する。当然、ワイヤーで首をしめられ
た格好のジムは強く引っ張られて引きずり倒され、さらに引きずり回された。
 人間であれば即死している状況だが、もちろんジムでは致命傷ではない。しかし自由を
失ったまま地面を転がり回り、岩場に全身を打ちつけられてコクピット内部のパイロット
はシートベルトをしていたにも関わらず全身を強く打ち、過剰に締まるベルトにより肋骨
を何箇所も砕かれた。
「ぎゃああああああああああああ」
 パイロットの絶叫は友軍にのみ届いた。急ぎ僚機がクワンに向けて一斉射撃を行うが、
クワンは既に距離を開けて直撃弾を避けている。
 その上で、さらに方向を急転換し、今まで後ろに引きずっていたジムめがけてバイクを
走らせ、ジムをバイクの下敷きに乗り上げた。タイヤの下でジムの腕がもげ、首が半ばち
ぎれていた。
「本来なら飛行機撃ち落すくらいしか使い道のない武器だが」
 クワンは右腕に取り付けた三連ガトリング砲をジムの腹に向けた。
「この距離ではどうかな?」
 三基合せて毎分六千百二十発の速射能力を持つ三十五ミリの銃弾が、ほぼゼロ距離でコ
クピット部にグルーピングされて叩き込まれる。何十発目かの弾丸が装甲を破り、コク
ピットに侵入してパイロットの生命を奪った。
「ゼロ距離でフルオートなら有効、か」
 冷静に分析した。どの兵装が使え、どれが使えないか、後のためにも重要なデータだ。
 その瞬間、クワンが視界の外からの敵意を感じたのは恐らくNTの素養などではない。
この十か月というもの常に戦場に身を置いた戦士の勘である。彼は確認するより早くバイ
クから飛び降りて機体を地に伏せさせた。コンマ数秒の差で、自分のいた位置を赤い光条
が通過していった。
「ビーム兵器か!」
 ジムの持つマシンガンはこの距離ではグフの装甲を貫けなかったが、この距離でも連邦
のビームライフルはその威力を保っていた。メガ粒子砲の大気中での減衰は早くからジオ
ン、連邦双方の技術者が指摘していたが、ビームスプレーガンはともかく、ビームライフ
ルにおいては大気圏内でもMS戦闘に十分な有効射程を確保していた。
 クワンの判断も動作も迅速だった。ビームが頭上を通過するのを確認した時には側車の
カバーを開け、内側のリリーススイッチを押してガトリング砲を側車から切り離し、グ
リップを掴んで左手に構えた。その場で相手に得物を向ける愚を犯さずすぐにバイクから
離れる。二発目のビームがバイクを直撃し炎上したのはその直後だった。
「おっと、いかん」
 ワイヤーを飛ばし、バイク後部に積んでいたシールドを回収して左肘に装着し、剣を引
き抜いた。ビームの飛んできた方向を見ると、他とは違う銃を構えたジムが集団から飛び
出してくるところだった。
「こいつか!」
 ガトリング砲を腰だめに構えて引き金を引く。再び轟音と共にAPFSDS弾の暴風が
叩きつけられたが、敵のジムは素早く横に移動しその弾雨を避けた。
「速いな」
 クワンは舌打ちした。予想以上に反応が速い。パイロットの腕はもちろんだが、MSの
性能もグフと同等かそれ以上の応答性と運動性を持っているようだ。
 このビームライフルを持ったジムがナッシュの機体だった。そのナッシュもまた、敵の
グフの武装に脅威を感じていた。
「何という密度と破壊力だ。直撃を受ければ一発でも危ない」
 この時クワンとナッシュの思考は奇しくも同一だった。即ち


「敵の武器はあと何発撃てるか」
 クワンのガトリング砲はマガジンを大型化してはいるものの、それでもフルオートでは
一分間で全弾を撃ちきる。残りは三十八秒程度。それで弾切れであった。一方ナッシュの
ビームライフルはガンダムに採用されたモデルをジムに転用したモデルである。威力、及
び速射性は同等だったがガンダムに劣るジムのジェネレータ出力でその性能を確保するた
め、弾数はオリジナルの十五発に対し、九発に減らされていた。ここまでの戦闘で三発発
射し残りは六発である。
 どちらも相手があと何発撃てるのか判っていない。しかし当たれば一撃で致命傷となる
のが判っている。遮蔽物の少ない場では動き回って避けるしかなく、流れ弾で僚機を傷つ
けないために自然双方隊列から離れるように走り始めた。お互いに撃つ構えは見せるもの
の実際に撃つ事はしない。
「このまま距離を保つべきか――」
「――間合いを詰めて格闘戦に活路を見出すか」
 互いの思考が近いのは、パイロットとしての技量が接近している証拠でもある。ナッ
シュはこの任務の為に特別に選任されたエースであり、クワンは一週間戦争とルウムで艦
船六隻を沈めたエースだった。
 先に決断したのはクワンだった。左腕のガトリング砲を連射し弾幕を張りながら一気に
突進する。ナッシュはシールドを前に構えながら後退、ライフルで応射するが、単発兵器
は牽制としては不利だった。
「くっ……!」
 横に逃げつつさらに一発。狙いは逸れたが足下に着弾した。
「うお!」
 グフの出足が止まる。既に距離は八十メートル以下。まだ銃撃は有効だが、互いが三歩
間合いを詰めれば斬り合いとなる距離だ。
 ここでも先に銃を捨てたのはクワンだった。敵に比べて自分の武器が大きく、小回りが
利かない事に気づいていた。相手が懐に飛び込んできたら対応が遅れる。
 瞬間の判断で続けて後手を踏んだナッシュだが、彼にはなお武器にアドバンテージが
あった。シールドを捨てて右腕はライフルを持ったまま、左腕で抜刀する。
 グフのヒートソードはファルシオンを模した刃渡り七メートル。ジムのビームサーベル
はガンダムと同一規格で刃渡りは標準で十二メートル。間合いでも斬撃の溶断力でもジム
はグフに優っていた。フットワークではほぼ互角。一方でパワーではビーム兵器のドライ
ブを考慮しないグフに分がある。
「チッ……」
 クワンはやや動揺した。剣の長さを気にすれば飛び込めず、かと言って距離をとっては
ビームライフルがまだ敵の右手に残っている。ここまで先手をとって相手の選択肢を奪っ
て来たのに、最後の部分で逆に二択を迫られてしまった。
「出る!」
 相手に飛び道具を使われれば勝ち目はない。懐に飛び込んで剣の間合いに入る方がまだ
勝機はある。クワンは歩兵戦闘の基本に帰ってそう結論した。
 スラスター全開で深く踏み込み、さらに低く跳躍するようにジムに肉薄する。ナッシュ
が左手のビームサーベルを水平に突き出す。切っ先は正確に敵の正中線に向けられている。
まだグフの剣は相手に届かない。
(勝った)
 ナッシュが勝利を確信した。
 その切っ先が上方に跳ね上げられた。クワンがヒート剣を下から斬り上げ、突き出され
た左腕を攻撃したのだ。
 映画や小説では見る。だが、実戦において突きを繰り出す腕を狙って斬るなど簡単に出
来る芸当ではない。最短距離を通って自分に向かってくる腕が自分に届く前に、弧を描く
軌道で点で合わせなければならないのだ。技量だけではない、無謀にも近い勇敢さが必要
となる。その一撃でジムの左腕は肘が半ばまで切断されてしまった。
「いかん!」
 突きを繰り出した状態からその腕を跳ね上げられた体勢は完全に無防備で、ライフルを
構えるにも近すぎる。防御が出来ない。
 しかしクワンにとっても計算外の事態が起きていた。
「剣が噛んだ!」
 刀身が相手MSの腕に食い込んだまま抜けない。自由ならば斬撃も刺突も一方的に仕掛
けられる理想的距離にありながらその剣を使えなくなってしまった。ゼロ距離から三連ガ
トリングを撃ちたいが、クワンは右腕に付け替えている。撃つためには剣を手放さなけれ
ばならない。


「ならば!」
 クワンはさらに一歩踏み込んだ。このまま体当たりから組み伏せて、動きを封じてガト
リングを叩き込む。
 ナッシュのジムはグフのタックルを受けグフもろともに倒れ込む。グフの左腕がジムの
右腕を掴んで自由を奪い、クワンは敵の上に馬乗りになった。そのまま右手を敵の腹に押
し当て、引き金を引く――
 そのグフの肩口をビームがかすった。反射的にクワンは組み伏せていたMSから離れる。
ビームライフルを持つMSは他にもいたのだ。
『ブリッジス中尉!』
 シオンが通信で安否を問いかけながらビームを連射する。走りながらの射撃は正確さを
欠き暗赤色のMSに命中しない。ナッシュも上半身を起こしビームライフルをまだ至近距
離にいるグフに向けた。
「そうはさせるか」
 クワンは右腕を振るってヒートワイヤーを撃ち出した。ワイヤーがライフルと右腕に巻
きつくと同時にショックパルスが放電され、ナッシュのジムは右腕のヒューズを飛ばされ
た。これでは撃てない。
 通じない事を承知で牽制に三連ガトリングを乱射しつつ後退するクワン。構わず突撃す
るシオンに対し、ターニャがキャノン砲を取り外し、人間の対戦車ライフルのように構え
て狙撃したのだ。一瞬シオンの動きが止まったその隙にクワンは七十五ミリ大型ガトリン
グ砲を回収しさらに距離を取り直してしまった。
 シオンはグフを無視してナッシュの元に近づく。
『中尉、無事ですか?』
「……無事だ。だが、ジムが両腕ともやられてしまった」
『中尉、これ以上の戦闘継続は益がありません。一旦撤退を』
「馬鹿な、目の前に敵がいながら退却など――」
『戦えないのは中尉だけではありません。私のライフルも全弾撃ち尽くしました』
「…………」
『私以外にも弾切れの者が出ております。消耗戦は我々としても望むところではあります
まい』
「……被害状況は?」
『大破一機、中破四機、小破は中尉を入れて三機。ニルソンが戦死しております……』
「ジオンへの打撃は?推定でいい」
『中破二機、小破二機と思われます』
 ナッシュは唇を噛んだ。戦闘である以上全く被害を受けないとは考えていないが、 倍
の戦力で当たって、同等の損失も与えられないまま矢尽き刀折れるとは何という失態か。
「……止むを得ん、撤退する」
 ナッシュはシオンと遅れてきたもう一機の僚機に連れられて後退し、彼らの三輪バイク
で一斉に退却した。この退却時の統制はクワンをして見事と瞠目した。
『追いますか、大尉?』
 パンナが聞いたが、クワンは
「いや、いい。追撃したところで増援や守備部隊を相手に出来るほど弾薬が残ってないだ
ろう」
 そして小破、中破した僚機を連れて、彼らも基地に帰還したのである。

ここまで

【メカニックデータ】
35ミリ三連ガトリング砲
グフの左腕内蔵式マシンガンの給弾の困難さ、打撃力の不足と言った問題は1号機のテストを行ったランバ・ラル大尉により
初期から指摘されていた。そのためB3型開発開始前からグフ用兵装として開発された武器。
35ミリ3銃身ガトリング砲が3基、水平に並んだ構造をしている。対MS攻撃としての効果を諦め、低空で侵入、攻撃を仕掛ける
航空機に対する対空兵器としての使用を想定され、ガトリング1基が毎分2040発、3基で6120発という高密度な弾幕を形成する。
マガジンは351発で、フルオートで3.44秒で撃ち尽くす。

75ミリガトリングキャノン
ザク、グフのガンダムとの交戦データから敵MS(ガンダム)の装甲強度を推算、1500~2000mの距離でこの装甲を貫通する
威力と集弾効果による破壊を目的として開発された兵装。
75ミリはグフのフィンガーマシンガンと同口径ながらAPFSDS弾を使用し、理論上は2000mの距離からガンダムを粉砕可能。
毎分2100発の連射性能に対し1122発の装弾数が標準だが、クワン機は1662発に弾倉を大型化している。

現実のAPFSDS弾でガトリング作るのは相当難しいと思うけど宇宙世紀の科学ということで

※続きは、第5章



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