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十二使徒~ 第13話

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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第13話


 「今日も暇ですわね」
 その日も、北条院はオフだった。最近写真趣味に目覚めた彼女は、毎日のように野外撮影に勤しんでいた。
再生機関本部施設は、人が近寄りそうもない森林の中に存在する。大自然が近場に存在するため、自然風景などの撮影には困らない。
 北条院は思い立ったようにカメラを持ち出し、自室から飛び出す。目的地は決めていない。
気の赴くままに写真を撮るのが彼女のスタイルだ。人間自然体が一番である。

 本部施設を一人進み行く北条院は、先程から機関の人間に会わないことを不思議に思っていた。
研究室にこもりっきりで顔を出さない研究者連中はともかく、雑用にも会わないのはさすがにおかしい。
北条院は思念の海に意識を置き、記憶を遡った。昨日は確か個人運営ラジオ「DJ髑髏の最速ニュース」を垂れ流し、
その後に入る「夜もツッパレ」を聴きつつ、うつらうつらとし、最終的に微睡みに落ちていった筈だ。
そんなラジオを聞きながら眠ったものだから夢の中にすごいリーゼントの男が何人も出てきた事を憶えている。
ってそうじゃない。もっと前に遡れ…と北条院は更に記憶を遡り、一週間前まで戻ったところでようやく答えが見つかった。
 「そうですわ……なんだか、一週間前から殆どの方達が王鎖さんに引き連れられ遠征にいったのでしたっけ?」
 然らばこの過疎りようも説明がつくもの。がらんどうになった施設内。いや、人はいるが、
その気配を感じさせないほど、この施設は閉鎖的で孤立していて、鉄の壁がより一層施設の冷たさを引き立てた。
この壁はまるで人と人との繋がりを分け隔てているようだ、北条院はそう思った。


―――…

 「んー、いい天気ですわ!」
 ようやく本部から外に出られた北条院は太陽光に当てられながらのびのびと背伸びをした。
再生機関本部は地下施設。外の空気や光があまり入ってこない環境のため、外に出た時の爽快感は一潮である。
さて、早速写真撮影に行こう。今日は整備のため休みをとっているトエルと、同じくオフの炎堂が本部に居るため、
多少遠くへ行っても問題ないだろうと北条院はいつもより遠出をすることにした。
そろそろセミも消え、コオロギや鈴虫が顔を出し始める季節。秋の気配に胸踊らせ、北条院は単身、森の中へと消えて行く……。



 「……ってこれはなんですの?」
 そんな訳でいつもより遠出した北条院であったが、それが功を奏したのか?見慣れぬ建物を森の中で発見する。
 外壁はボロボロで、蔦は伸び放題。本来白であったはずであろう壁の塗装は、ひどく汚れ灰色に変色している。黒く大きなシミも幾つか見られる。
経年劣化か、それとも何か火災などがあったのか。
判断材料が少なすぎるためそれはわからなかったが、人が長い間出入していないことは火を見るより明らかであった。
 北条院は暫く周りをグルグルと歩き回っていると、入り口のようなところを見つける。
眼前に広がる荒れ放題の庭。その奥には緑の扉がある。やはりひどく朽ちている。その扉、よく見ると何か文字が書かれているではないか。
 文字が気になった北条院は、泥などで読み取りづらい状態の文字の汚れを拭き取ってみる。
するそこに書かれていたものは…

 「……第二研究所…?」


 正義の定義・第十三話
 「おほお!裂け目からいっぱいでてきちゃうのおお!!」


ああ、これはひどいタイトルだ。私はそう思い、タイトルを変えたくなったが既に次回予告してしまっていたので
どうしようもなかった。地味に本編のある内容のことを指しているのですが、やっぱり酷いタイトルだよ。
そういえば今年も残すところ二ヶ月とちょっとになりましたね。うふふふふ。
それでは本編……



―――…

 「野外撮影していたら、見慣れない建物を見つけましたの!!」
 本部に戻った北条院は、ロビーでくつろいでいる炎堂達に森で見た建物について話す。
大発見だと言わんばかりのテンションで話す北条院とは対照的に、炎堂とトエルは淡白な反応を示した。
 「それよりお前ちゃんと訓練してんのか?」「そんなことするひまがあったらくんれんしろよ、ふぇ」
 「なんか同じこと言われてる!!」
 偶然にも揃ったトエルと炎堂の意見。真似するなよという視線がお互いの間に走る。
 「私だってそれぐらいちゃんとやっていますわ」
 「まあ、一番弱いしな」「ふぇ、いちばんよわいですし」
 「なんであなた達揃って似たようなことをおっしゃいますの!」
 まるで計ったかのごとく同じ意見。北条院は少し凹んだ。それはそうと、さっきからこの二人、どうしてこうも意見が重なるのか?
 「お二人は、似たもの同士ですわね…」
 「「だれが!!」」
 声がハモる炎堂とトエル。北条院の指摘は案外間違っていないのかもしれない。

 「ってそうじゃなく、トエルさん。一緒についてきてくれません?」
 北条院はトエルに同行を願った。そもそも彼女はこのために戻ってきたのだから。
トエルが居ると何かと便利だ。特に探索等ではその力は大きな助けとなるだろう。
 「ふぇ?どうして?」
 「あの廃墟が何かを、確かめるためですわ!」
 「めんどくさいです」
 「危険なことをするわけではありませんし、それに何か面白いものがあるかも知れませんわよ」
 「はいきょになにがあるってんだ、ふぇふぇ」
 「ロマンがありますわ!!」
 北条院は廃墟好きだった。

 「それじゃあ、いざ出発ですわよ」
 「ハイハイ」
 半ば強引に丸め込んだ北条院は、トエルを連れて先程の廃墟へと向かう。そんな二人の背を見て炎堂はふと
気になることを思い出していた。

 (まさか……第二研究所か?…あんなところ、何も無いってのによ…クソ、嫌なこと思い出しちまうぜ…この名前を聞くと…)

―――…

 「さーてつきましたわよ!第二研究所!」
 「ただのはいきょですしおすし」
 "第二研究所"という廃墟までやってきた北条院達。先程北条院が来た時は中に入っていなかったので、内部の様子は想像もつかない。
―『トエルちゃん』―
 (ふぇ?)
 扉の前まで進むと、トエルの中に住まうもう一人の自分である少女の声がトエルの頭の中に響く。
トエルはその声に反応するように一時的に歩みを止めた。
 (なんですし)
―『私、ここに来たことがあるような気がするの…』―
 (ふぇ?)
 突然の告白ではあった。しかしもし少女の発言が本当ならば、何か生前の手がかりが見つかるかも知れない。
そう思いトエルは再び歩を進める。
 「トエルさん。どうかしましたの?」
 「なんでもないですし」
 「あらそう、では行きましょう」

―『ここ…一体私と何の関係が…?』―

 「暗い…ですわねぇ」
 廃墟に足を踏み入れる北条院とトエル。中へ入ってみるとまずは長い廊下が奥へと続いていた。
暗くて視界が悪い。窓の類は一切見られない為、当然外からの光などあったものではない。
薄暗い室内に加え、長年放置されてきた事を物語る独特の埃っぽさ。さすが廃墟といったところか。
 「ふぇ。ここまでくらいとあしばがふあんですね。ライトアップ!」
 暗いところではライトが必須。トエルは自身の機能である光源装置を用い足場を照らした。
しかしこの装置、一つ欠点がある。
 「ひかるところがめだからまぶしくってしょうがない!」
 「完全に設計ミスですわね」
 なんてツッコミを北条院から受けつつ、トエルは足場を照らすため北条院の前を歩いた。

 室内の様子は、瓦礫やガラス片が散乱し放題の床に、研究室というだけあって当時は最先端であった技術を
惜しみなく使用したであろう、どんな機能がついているかわからない機械類の一部をのぞかせる壁や天井。
それ以外は特に目を引く物は見られなかった。後は空気がジメジメしているくらいか。

 暫く歩き、長い廊下を抜けると、広間のような場所に二人はたどり着いた。広間には幾つも扉があり、
扉の一つ開けてみるとまた廊下。どうやらこれらの扉はそれぞれ違う区域に繋がっているようだ。
 何かないのかと二人は広間をウロウロしていると、トエルが壁に立てかけられているあるものを発見した。
 「ふえぇ、ちずですし」
 それは、研究所の内部案内地図であった。ライトで照らしてよく見てみると、地図で一番広い部屋に赤い丸が
一つ。大方現在位置を示す印といったところだろう。
 「せっかくですし、これは持って行きましょう。地図があったほうが、楽ですしね」

北条院は、【第二研究所の地図】を手に入れた!
                               ▼

―――…

 「うーん、この部屋も何だかよくわからない機械とか、もう使われてない薬剤薬品ばかりでしたわね」
 順調に幾つか部屋を回ってみた二人であったが、特にめぼしいものは見つからず、
北条院のカメラのシャッター音だけが無情に響くばかり。 
 「つぎがさいごのへやかぁ」
 調べていない部屋は残すところ後一つ。実はトエルの中のもう一つの人格が『何か嫌な感じがする』と言って
避けていた部屋なのだが、結局入ることに。北条院は入る気満々だったので止めるわけにもいかない。
―『ほ、本当に入っちゃうの?』―
 少女はやはり、その部屋に入るのを拒んだ。一体彼女の何がそうさせているのかはわからないが。
 (もしかしたら、いきてたときのことがなにかわかるかもしれませんし)
―『で、でもぉ~』―
 「なにしていますの、さっさと入りますわよ」
 そう言い、北条院はトエルを部屋に押し込む。
 「わわっ」
 無理矢理押し込まれたトエル。彼女の瞳に写ったものとは…?

 「ふえぇ、なんだこれ?」
 今まで見てきた他の部屋より一回り近く大きい印象を受ける室内。トエルがまず真っ先に目をつけたのは、
部屋の中央に設置してある、人一人が入れそうな筒状のガラス管だった。何やらたくさんの装置が繋がっている。
 「どうしましたの?……あら、なんですのこの筒は」
 続いて部屋に入ってきた北条院もその存在に気がつく。この部屋ではこの筒…それとも
"この筒の中に入っていた何か"
…を、中心に研究していたのだろうか?
 「こういう筒ってあれですわね」
 筒を見た北条院は、ふと率直な感想を述べる。
 「中に、何か入っているものですわよね」
 「ふぇ?たとえば?」
 「大きさ的に……ヒト?」
 「ヒト…?」

 トエルは北条院の言った事に言い知れない何かを感じていた。正確にはトエルの中のもう一人の人格が…だ。
―『この中に……誰が…?』―
 「ふぇ」
 無意識のうちに筒へと近づいていたトエル。そしてトエルの意思とは関係なく勝手にトエルの手が動く。
そう、もう一人の彼女が腕を動かしているのだ。腕はみるみる筒へと伸びる。その手がガラス筒に触れた時、
彼女の中で何かが起きた。
―『!?』―
 「あ、ああ……」
 「トエルさん?」
 トエルの様子がおかしい。その事に気がついた北条院はトエルに声を掛けたが返事は返ってこない。
 「ああああああああああああああああッ!?」
 すると今度は激しい叫び声と共にトエルは頭をかかえる。
 「と、トエルさん!?大丈夫ですの!?」
 心配し、慌てふためく北条院。そんな彼女を他所に、トエルは……いや、"もう一人の方"か。
彼女は徐々に心を落ち着け、目の前のガラス管を見つめていた。そんな彼女が漏らしたの言葉は……

 「そうだ、あの子はここにいた…」

 「へ?どうしましたのトエルさん…というか、さっきのは一体どうしたんですの!?」
 北条院の問いかけも無視してトエルはぶつぶつと確かめるように何かを呟く。
 「あの子はここにいて、ここはあの子と出会った場所でもあるんだ…」
―『ふぇ!なんかぎゃくになってますし』―
 「あなた……本当にトエルさん?」 
 「そしてここは私の……ああ、ああああああああああああああああ!!」
―『ふぇ、これかんぜんにほうじょういんにいじょーしゃだとおもわれるよまったくもう』―

  •  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 「と、トエルさん!?起きましたか!一体どうなさったの!?」
 「ふぇ、おれはしょうきにもどった!」
 奇声を上げた後、トエルは事切れたかのように動かなくなる。どうすれば良いのかわからなくなった北条院は
とにかくトエルを揺すったり声を掛けたりした。そのおかげというわけでもないが、トエルは無事復活を果たす。
 「先程のは何なんですの!?体の方は!?」
 「ふぇ、もーまんたいもーまんたい」
 もう大丈夫だと泰然とした態度を見せるトエル。一時はどうなるかとトエルの大事を危惧していた北条院も一安心だ。
トエルはそんなことより、先程から押し黙っているもう一人の自分の事が気に掛かっていた。
 (おい、さっきはいったいどうしたんですし)
 トエルは心の中で彼女を呼びかける。しかし返事はない。おそらく気絶してしまっているのではないか?
 「いったいなんだっていうんですか……ふぇ?」
 そんな時、トエルの目に留まる一つのワークデスク。部屋の奥、ずらりと並ぶ本棚の一角にあったそれの上に、
見るからに古そうなノートが一冊、置いてある。トエルはそのノートが気になった。
 尻餅をついていたトエルは、北条院に心配されつつもよっこいせとその場から立ち上がり、
ノートの置いてあるワークデスクに近付く。
 「なんですの?それは」
 「ふぇ、しらないです」
 青いA3サイズの古びたノート。表面には、煤汚れて良く見えない文字で何かが書いてあった。
汚れが酷くて解読は不可能だ。ならば開いて中身を確認するまでと、トエルはその古びたノートを開いた。

 「何が書いてあるんですの?」
 北条院は尋ね、トエルの横からノートを覗き込む。彼女の目に入ってきたノートのページには、こう書かれていた。


 "レポート/未知の遺跡とその調査による記録" 



 「レポート…?」
 「誰のでしょうね?」
 筆圧の高いボールペンで書かれた文字。ノートのページは色あせていたものの、文字はハッキリと読むことが出来た。
 「もっと先を読んでみましょう」
 トエルはノートのページをめくる。次のページには、以下のようなことが書かれていた。


【探査記録その1】
発端は、山中で我が友人の須寺君が遭難し、その一難から無事帰ってきた際、彼が興奮して語った
"未知の遺跡"の話を聞いた事である。曰くまだ誰も見つけてはいないであろう遺跡だという。
曰く学者の好奇心を掻き立てるような謎の匂いがしたのだという。
私も学者の端くれだ。須寺君の話を聞いていてもたっても居られなくなった。
早速調査団を組織し、須寺君の言う"未知の遺跡"を目指す事とする。
それにあたり、私はこの調査における全行程と、そこで見た事実をこのノートに記録したいと思う。
準備は三日の内に行なわれた。私はこれでも博士号も持っている大学教授である。人員と道具には困らない。
私は須寺君の案内の元、某所(もしこのノートが他人の目に触れてしまった時のため、あえて伏せることとする)
の山中に向かうこととなった。補足だが、この調査は政府には申請していない。
奴らの手が入ろうものなら、我々は満足に調査をさせてもらえなくなるだろう。従ってこの調査は極秘裏に行なわれる。
極秘裏という言葉に、私は年甲斐もなく気分の高騰を覚えた。

須寺君の言う遺跡があるという洞窟までやってきた我ら調査団。途中、濃い霧に見まわれながらも何とか無事に
たどり着くことが出来た。目的地である洞窟の外部は特に目立つ物がある訳でもなくごく普通の洞窟であった。
さて、一体どんなものが待ち受けているのか。早速内部へ入っていきたいと思う。

内部に入ってみるとまず気になったのは、不自然なほど滑らかな外壁だ。まるで研磨にでも掛けたかのように、
光沢を帯びていた。ここで私の助手の一人である伊吹君が素頓狂な声を上げてこう言った。
教授、教授。これは新種の鉱物ですよ…と。ピッケルで削ったそれを見せてくる伊吹君の慌てっぷりに、
私落ち着けと彼に冷静になるよう務めたが世紀の大発見と言わんばかりの彼の興奮は収まることがなかった。
そういえば彼は、地質学専攻だったか。この中で一番鉱物に詳しい伊吹君が言うなら、新種の鉱物なのだろう。
これは後で詳しく知らべてみる事とする。
早々にこんな収穫を得られるとは思っていなかった為、この先の遺跡に期待を膨らませずにはいられない。
それにしても、何故このような場所が今まで誰の目にも入らなかったのか?不思議な話である。

数十分歩き続けた後、我々は広い空洞に抜け、とうとう遺跡を見つけるに至った。
規模はそれほど大きくはなかったが、日本ではあまり見られない造りをしている遺跡であった。
我々が潜ってきた深さからして相当昔のものと思われる。我々は早速内部への干渉を試みるべく
入り口を探したが、どういう訳か入り口が見つからない。そんな時一番年少である朝日君があるものを発見した。
壁に描かれた見たこともない文字。これは……なんだ?見たところ少ない文字数で形成されているようだが。
少なくとも私はこのような文字はしらない。いや、まてよ……この文字の並びは……
そこで私はピンときた。これは機械語に酷似しているのだ。文字は見慣れないが確かにこれは機械語だ。
信じられん。軽く見積もってもおそらく2000年以上も前の地層だぞ?その頃に機械など、存在するわけがない。
いや、もしかするともっと昔の産物かもしれない。それこそ日本大陸に人が渡来するよりも遥か昔……
ああ、何を馬鹿なことを言っているんだ。そんな事、ある訳がないじゃないか。
我々は引き続き調査を続けることにする。調査が進めば、もっとマシな結論も出てこよう。

【調査記録その2】
謎は解明されるどころか深まるばかりだ。遺跡の入り口らしきところは見つかったが、扉が固く閉ざされていて開けることができない。
この場所でもう一つ発見したのが……驚いたことにボタン入力式ロックと思われる装置であった。
数千年前の地層でボタン入力式のロック装置があったなんて誰にも信じてはもらえないだろう。
石で出来ていたものの、それは確かに扉をロックしている装置にしか見えなかった。
扉の前に描かれた文字と、ロック装置のボタン部に掘られた文字。どうやら扉を文字を解読しなければ中には入れぬということか。
面白い。そもそもこの遺跡の存在自体が、日本の歴史の根幹を揺るがす大発見だ。
もう何が出てきても私は驚かない。人が日本大陸に現れたのは3000年前。
しかしこの遺跡は、もしかするとその仮説をぶち壊す事となるかも知れない。となればこれは大発見どころではないぞ。
私は助手達を総動員にして文字の解読に勤しんだ。寝る間も惜しみ昼夜問わず。
そして一週間の期間を以てついに我々は扉文字の解読に成功した。善は急げ、私は疼く好奇心を抑えゆっくりと
ロック装置にコードを入力していく。そして最後の一文字を打ち終えたとき、
我々の目の前には想像を絶する光景が広がっていたのだ。

【調査記録その3】
もう驚くまいと思っていた私だったが、これにはほんとに本当、驚かされた。
遺跡の内部は、それはもう別次元であった。石造りの外面とは異なり、表面加工が施された何らかの金属で
構成された内部。それは近未来を思わせる内装で、私は言葉を失わざるを得なかった。
―超古代文明。
私はそれをくだらないオカルトだと思っていたが、目の前に広がるこれはなんだ?我々の科学を遥かに凌駕した設備がそこにはあるではないか。
認めたくはないが、これはもはやオカルト的な何かでないと説明がつかない。
それと同時に私に「自分のようなものがここに足を踏み入れていいものなのか?」という不安に駆られる事となる。

内部は我々には到底理解出来ない装置で溢れかえっていた。下手に触ると危険か。我々は奥へと進む。
途中、書庫のような空間が見られたので、私は何冊かそこにあった本をこっそり拝借した。
もしもの時のための保険である。そうして寄り道をしつつ、最も奥にある部屋まで我々はたどり着いた。

【調査記録その4】
私はこの部屋に入る前、とてつもない胸騒ぎに襲われた。
この遺跡に入った時から嫌な感じはひしひしとしていたが、仮にも学者である私が勘などを信じるわけにもいかず。
結局最後の部屋まで来てしまったという事だ。この部屋は特に異質であった。
床に大きな両開きの扉が一つ。鎖に縛られ閉められていた。この奥には一体どんなものが待っているのか?
気になるところではあるがさすがに危険な香りがしてきた。今まで冒険するような興奮で持ちきりだった助手たちも、
その扉の異様な雰囲気には顔を強ばらせていた。
一体ここが何のために有り、何をするところなのか?皆目見当も付かなかったがここは一旦引いたほうがいいだろう。
どうやらこれはもはや我々の手に負えるものではない。なんてものを発見してしまったんだ我々は。
我々は一旦遺跡から出ることにした。その時だ、とてつもない振動が我々を襲ったのは。
地震。とても大きな地震。なんて事だこんなタイミングに。私は自分の運の悪さを呪った。しかし事実は変わらない。
伊吹君によるとこれはまだ余震だという。これからもっと大きなのが来るようだ。
我々は一目散に遺跡を抜け、洞窟を抜けた。しかし私は何か違和感が拭えなかった。
違和の正体は一行が落ち着いたときすぐに分かった。須寺君だ彼がいないのだ。
私は後ろから須寺君が現れるのを待ったが彼が現れることはない。それ所か、洞窟が崩れてしまっているではないか。
まさか須寺君はもう……。やはり、ここは踏み行ってはいけない領域だったのか。私は須寺君の不幸を悔やみ、その場から離れた。

【調査記録その5】
大変なことになってしまった。まさかこんな事になるとは。これは私の責任だ。
先の地震はほんの序章でしか無かった。

(ここから下のページは破れてしまっている……)

(数ページ抜けているようだ…)

【調査記録その8】
もはや調査記録とは言えない気がするが、経過報告を載せておく。
結果からして私は科学省から有志を集い、組織を作ることにした。名は『再生機関』。
既に政府は動いているものの、連中の不甲斐なさ頭の硬さと言ったらない。いつか内部崩壊することとなるだろう。
その前に強固な組織を作り、"アレ"に対抗しうる手段を得るのだ。そんな事が可能なのだろうか?
と聞かれたらやるしかないだろう。と答えるしかない。とりあえず見込みはある。あの遺跡から持ち帰った本だ。
まず一冊目。それは"アレ"について書かれているものだった。
最初見たときは何だこれはと思った事だが、入手した"アレ"の画像を見て合点がいった。
解読は出来ていないものの、これは奴らに対抗できる手立てとなるに違いない。
もう一つは……これは、禁忌の法について書かれているものだった。内容は…(文字がかすれて読めない)だ。
こんなものまであるとは……私は心底驚いたが、これは使える。取引の材料としてだ。この手の技術が欲しい
輩はいくらでもいる。彼らに資金援助を頼めば、組織の運用もそう難しくはない。
さあ、ここからが始まりだ。とはいえ、私は老い先短いゆえ、恐らくすべてを成し遂げることは不可能だろう。
後のことは我が子孫に託すほかない。悪いとは思うが必ずやこの国に再び平穏をもたらしてくれることを祈る。
以上を持って、このレポートの終わりとする。
                                          大和 宗茂


 「……これって、大和局長の……お父さんかお爺さんですの?」
 「ふぇ、なんかなにげにすごいことかかれてますしコレ」
二人は驚くべき事実を垣間見た気分だった。実際そうだった。
途切れ途切れで良く内容は理解できなかったものの、再生機関の出来た経緯等は知ることが出来た。
ほかに何か書かれていないかとトエルがパラパラとノートのページを捲ったが、後は白紙が続くのみ。
もう何も無いかと判断したトエルはノートを閉じようとする…とその時ノートのページ挟まっていた何かが床に落ちた。
それはただの紙切れだったが、裏に何か書いてあるようである。北条院はそれを拾い上げて読みあげてみた。

 「これは、なんて書いてありますの?えっと"yamata""onetwelve"……何のこっちゃですわ」
 「なんかのパスワードみたいですし……」
 二列の文字列。意味はよくわからない。しかしもしかしたらどこかで使う機会があるかも知れないと、
北条院はその紙片をポケットにしまいこんだ。
 「それにしても……ここ、恐らく再生機関の施設ですわよね…」
 北条院は疑問に思った。何故この研究施設を放棄したのか。
ここで知った事実の多くは北条院の知らないことだ。わからないことが多すぎる。この施設のことも、機関の過去も。
 「私、こんな事実を知ってしまったからにはすべてを知りたくなりましたわ。帰っていろいろ調べてみましょうか」
 「ふぇ」

 (けっきょく、さっきのはいったいなんだったんですし…)
 これで一通り見て回った事になる。北条院とトエルは本部に帰還するため部屋を後にする事に。
 部屋を出る前に、トエルは部屋をもう一度見渡す。やはりトエルの記憶には残っていない部屋だ。でも、もう一人の自分なら…?
そうが考えたところで、部屋の中央にあるガラス管に目がいく。先程触って取り乱したあのガラス管だ。

―『私にはね、家族がいないの』―
―『私は一人だったの。だからこの手を離さないでいてね…私の大切な』―

 「!?」
 「どうしたのトエルさん?」
 一瞬の出来事だった。ガラス管に目をやった瞬間、他人の意識が流れてくるような感覚に囚われたトエルはフラッシュバックした光景の中に以前夢に出てきた少女を見た。

 (あれが……もうひとりのわたしがさがしているヤツ?まさかあのガラスかんにはいってたのは……)

―――…


 「やっぱりここにいやがったのか」
 廃墟から出る二人を待ちうけていたのは、炎堂だった。やっぱり……と言う言葉からして、炎堂はこの施設について何か知っているのだろうか?
 「あら炎堂さん。ここが何か知っていますの?研究所ということはわかるのですが…ここが何か知っているなら教え」
 「あーあー、しらねーしらねー。さっさとここから離れんぞ」
 北条院の問いかけを遮り、炎堂は廃墟から離れようと促す。よほど都合の悪いことでもあるのだろうか?
炎道の様子を見たトエルには、炎堂がいつもよりカッカしているように思えた。
 「それとだなァ、ここにはもう近づくな」
 炎堂は言う。そう話した時の彼の顔は、いつものめんどくさ気なだらけ顔ではなく、
鋭い眼光を見せ心の底から忠告するような真剣な顔つきであった。そんな風に釘を刺されても、ハイそうですかと北条院が引き下がれる訳も無く、
 「どうしてですの?何か知られたくないことでもありますの?」
 「さあな?ただ、俺はここで起きた事なんざ早く忘れてぇだけだ。知りたきゃ自分でかってに調べろ」
 「そうさせていただきますわ」
 単刀直入に炎堂に問い詰めた。炎堂の答えは、そこで何かあった事と、それは炎堂にも関わる事だという事を示唆していた。
そうなると無理に本人から聞き出すのは少し気が引ける。口にするのも酷な内容だった場合も考えられるからだ。
ここは炎堂の言うとおり、自分で調べるのが良いだろうと北条院は思った。


―――…


 さて、一行が本部に戻ってくると、なにやら辺りが騒がしい。
まるで緊急時亭でも起きたかのように組織の人間が右往左往している。何があったのだろうか?
少なくとも良いニュースが入ってくる気配は全くしない。

 「あ!皆さん!どこへ行っていらしたんですかこんな非常時に!!」
 組員の一人が北条院達を見つけるやいなや尋常じゃない剣幕で問いた。一体何事だ…、
と炎堂がその組員に聞くと、彼は少し躊躇した後、ゆっくりとその口を開き以下の事実を述べた。

 「第八英雄の、陰伊さんが……死にました…!」

 「え…それってどういう事ですの…?」
 「ふぇ?」
 「なんだと…?」

 突然の報告であった。

 「誤報ではありません。死体は異形と思われるものとの戦闘痕の近くで発見されています。陰伊さんは…」

 「亡くなられたんですよ!」

 「うそ…そんな……」
 北条院の口からそんな言葉が漏れる。この状況でこの組員が冗談を言うとも思えない。
 徐々に、その言葉が現実味を帯びてくる。一体、陰伊に何があったというのか?何故命を落とすことになってしまったのか…?

 そしてこの陰伊の死は、長きに渡る過酷な戦いの始まりに過ぎなかったのだ……



―次回予告
陰伊「どうやら死ぬのは私だったみたいだね…」
白石「いやいや、陰伊ちゃん今まで一番主役張ってきたじゃない。これは陰伊ちゃんの成長物語でもあるんじゃなかったの?」
陰伊「正義の定義の話はね、誰も成長なんかしないんだよ」
陰伊「人はそう簡単には変われないんだよ」
白石「陰伊ちゃんいつになくネガティブ……ところで何で陰伊ちゃんは死んじゃうの?」
陰伊「それはね、結局私が変われなかったからじゃないかな?ううん、変わらなかっただけなのかも」
陰伊「で、でも、変わらなくとも見つけることはできるから…結局死んじゃったけど」
白石「どういうことだべさ」
陰伊「それは、次のお話から順々に説明……と言いたいところだけど、次回は火燐ちゃんのお話みたいだね」
白石「うお、焦らしプレイっすか」

陰伊「次回、正義の定義・第十四話『わたしにできること』とりあえず寿命が伸びました」

陰伊「でもあと数話の命だよ…」
白石「なんて重い雰囲気の次回予告なんだ…」




[正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第12話 2/2]]
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