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SSPvsすいかさん1

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だれでも歓迎! 編集

SSPvsすいかさん

作者:◆wHsYL8cZCc
投稿日時:2010/09/12(日) 20:14:15

「SSP! SSP!」

 皆が叫んでいた。会場全体を包む声援は彼の心を十分に満たしていた。それは、彼にとって執念でつかみ取った栄光の証。

「SSP! SSP!」

 満足だった。その声だけで、彼は己が歩んできた屈辱と挫折の日々が報われると思っていた。

「なんだあのマスク」

 誰かが言った。言われつづけた言葉なので気にしないようにしたが、それでも心に引っ掛かる。若手時代からずっと、そのマスクのせいで後ろ指を指されてきたのだから。

「ふざけてんのかあいつは」
「どこのイロモンだよ」

 また誰かが言った。
 ある意味で懐かしい言葉だった。

「人気取りしたけりゃもっとマシなモンあるだろうが」
「バカじゃねーか? 辞めちまえよ気持ち悪ぃ」

 さらに言われた。若手時代に散々言われた言葉だ。
 今の俺は違う。そう自分に言い聞かせたが、トラウマとなっているのも事実。だからこそ、それをバネに今の地位を奪い取ったのだ。自らの力のみで。
 だが……。

「マスクを脱ぐか、ウチを辞めるか選べ」
「お前と試合組むなんざゴメンだ。変態に負けたんじゃ笑い話にもなんねぇ」
「アメリカ? やめとけよ。誰も相手にしてくれねぇよ」

 今まで言われて来た言葉が蘇る。散々に馬鹿にされ、相手にすらされなかった。その時の悔しさが蘇る。

 違う。俺はチャンピオンだ。最強のマスクマンなんだ――

 叫んだ。しかし返ってくる言葉は、気持ち悪い。変態。イロモノ。おふざけ。辞めろ。恥さらし――
 恥辱に塗れた日々。何をしても、誰と勝負しても、団体のタイトルを奪ってもそう言われ続けた。
 徹底した差別を受け、所属する団体からも嫌われ、仲間からは否定された。
 悔しい。何故なんだ。彼はそう思ったが、聞く耳を持つ者はおらず。

 やめてくれ。何故なんだ。なぜ誰も認めてくれない?
 実力はある。タイトルだって取った。ファンも多い。なのに何故?

 何故だ。何故なんだ? 俺は十分に貢献したじゃないか。努力だってした。このマスクだって、もう脱ぎたくても脱げない。

 どうしてなんだ――? どうして。どうして――?!


「どうしてなんだ!? ……?」

 周りを見た。見慣れたベッドルームだった。
 顔をさする。マスクは被っていない。素顔だった。髪がボサボサになっていた。寝汗をたっぷりかいたのか、異様に喉が渇いていた。

「――夢?」

 彼――ニールは夜中に目が覚めた。横に居た妻のクレアも、ニールの叫び声で目を覚ます。何事かと思ったろう。

「……起こしたか」
「あれだけ大声で叫ばれちゃね……」
「すまん」
「どうしたの一体?」
「……若手時代の夢を見た」
「若手……? ああ、皆からひたすらに笑われた時代ね」
「やめろよ。辛い日々だったんだぞ」
「でも今は違うじゃない。頑張って来たじゃない」
「そうだけどさ……」
「何よ? 夢くらい引きずるタイプでもないでしょう?」
「まぁな。でもまぁ……。何処かに、昔の俺と同じ思いをしてる奴がいるかと思うと――」
「それこそ気にするだけムダよ。実力があれば認められる。あなたが証明して来たじゃない」
「う~ん」
「そういう人達にとって、あなたは英雄なのよ?」
「だといいけど……」
「何よウジウジしやがって」
「ごめん……」
「謝ん無くていいから。ほらまだ夜中よ」
「……だな。寝るか」


 創作発表板人気投票記念作品。

 SSPvsすいかさん
 ――【始動】――





 ――千葉県。
 ある寂れた体育館。

「ワン! ツー! スリ……ノーカウント!」

 レフェリーのカウント。残念ながらスリーのコールの前に返された。
 相手は巨漢の白人レスラー。太った腹が歩くたびに思い切り揺れた。体重は百五十キロ以上はあるだろう。
 なんとかフォールを逃れた彼は腹を揺らして反撃を試みる。
 自慢の体重を活かして、コーナーにサンドイッチしてやろうと猛然と走る。

「……what……?」

 コーナーに激突。リング全体に凄まじい衝撃が走る。会場を包む炸裂音はその威力を存分に表していた。ところがである。

 彼とコーナーの間に居るはずの相手は、そこには居なかった。
 そして見たのは、瞬時にコーナーのトップへと移動し、トドメを刺そうとしているスイカのマスクを被った男。

「Jesus……!」

 白人レスラーの頭部が両足でホールドされる。スイカのマスクマンはコーナーからリング中央へと飛び出し、白人レスラーはキャンバスから引き抜かれる。
 空中へと舞った白人レスラー。スイカマスクは両腕が地面に接地したと同時に身体を捻る。白人レスラーは空中で身体を回転させ、たたき付けられる。

 爆発音に近い音が響く。スイカマスクの必殺技。トーネードフランケン。
 空中で視界をごちゃごちゃにされた白人レスラーは状況の理解に時間を費やし、受けた衝撃は行動を鈍らせる。
 結果、たった三秒とは言え動きを封じられた。

「……フォール!」

 スリーカウント。スイカマスクの勝利。
 勝ち名乗りを上げるスイカマスク――ウォーターメロンマンは堂々と両手を掲げ、勝者だとアピールする。しかし、返ってくる反応はといえば。

「あ、また勝ったのかよアレ」
「どーせヤオだろ。客寄せじゃねーか」
「なぜにスイカマスク。ワロスwww」

 寂れた体育館。客も少ない。おかげでこう言ったヤジはスムーズに耳に入ってくる。
 僅かに集まったプロレスファン及び2ちゃんねらーのヤジは花道を通りバックヤードへと消えるまで延々続く。彼はそういう存在として扱われていた。
 全力で戦い、たとえ金星をあげても変わらない。
 大手団体のレスラーにでも勝利すれば多少は変わるだろうが、所属するのはいかんせんマイナー団体である。現状は厳しいの一言だった。

 控室に戻った彼はパイプ椅子に座り、スイカを脱ぐ。
 短く切り揃えた髪があらわになる。まだ若かった。今年で二十三になる若者だった。
 身体は恵まれていた。百九十センチの長身に、若手とは思えぬ筋肉の鎧を纏っていた。体重は百十五キロ。ヘビーのレスラーとしては平均的とはいえ、無駄が無く造り込まれた身体はそれ以上のパワーを内包している。
 アマレス上がりで鍛えて来た上に、元からあった格闘センスのおかげか、若手実力ナンバーワンに数えられる期待の若手だった。

 彼はジャージに着替え、軍手を嵌める。試合後のリング解体の準備だ。
 プロレス団体では選手自らが会場のセッティングをするのは珍しい事ではない。大手団体でも若手レスラーが駆り出される。マイナー団体である以上、当然の作業だ。
 そしてその時になってようやく、ウォーターメロンマンは矢野粋佳という一人の若者へと戻るのだ。
 会場からは声援が聞こえる。メインの団体王者が試合をしている。
 それが終わって客を出したら、解体作業の始まりだ。

 パイプ椅子に座りじっと待っていると、一人の中年男性がふらりと控室へと訪れた。
 体格はいい。彼も元レスラーだったのだ。その中年男性は矢野の前へ立った。

「社長。お疲れ様です」

 矢野はそう挨拶した。
 その中年男性は、このマイナープロレス団体を率いる経営者。つまり社長である。

「すまんな矢野。試合終了直後に。ちょっと話があってな」
「話? 俺にですか?」
「まぁ……全員になんだが……。会場を片付けたらちょっと付き合ってくれ。焼肉でも奢ってやろう」
「マジすか肉っすか奢りっすか!?」
「まぁまぁ……。とりあえず後でな」

 会場からは声援。
 試合は盛り上がっているらしい。しかしながら、社長の顔はどんよりと暗い表情だったのだ。


※ ※ ※


 ――アメリカ・カリフォルニア州。ヴェニスビーチ。

 気候は穏やかだった。気温は高めだが湿度が低い為に、非常に過ごしやすい環境だった。
 ここはストリートボーラーやサーファーに愛されるだけでは無く、もう一つ、ボディビルダーの集まる地域としても知られて居る。
 その環境はトレーニングをするのに適しており、あのアーノルドシュワルツェネッガーを始めとした数多くのボディビルダー達が本拠地とした。
 また、トレーニングの専門家達が多く集まる為か、彼等に学ぼうとする者達も多く集まる。そして、格闘家も多い。

「いいパンチだなニール。ボクシングやってみないか? いい所まで行けるぜ?」
「そういう事は二十年前に言って欲しかったな!」

 トレーニングジム。ミットを叩く金髪の大男。それを受ける黒人の男性。
 その場所はSSPことニール・アルバート・フロントフィールドが本拠地としているジムだ。
 過ごしやすい環境を求め、ニールはカリフォルニアをホームとしていた。

 ジムはニールが所属する団体が経営しているトレーニング施設だった。
 選手達の練習はもちろん、一般の利用者を受け入れる事で収益にも繋がる。プロを指導するトレーナーが一般にも同様の指導を行うのだ。
 トレーナーの地位が高いアメリカでは十分な集客効果があった。日本では考えられない事だ。

 ミットを持つ黒人男性もレスラーだった。
 元プロボクサーで、若くして引退した後にプロレスラーへと転向した変わり者。彼の名前はシェーン。リングネームは、スーパーストロングパンツマシーン二号。

「もうしんどいぞシェーン! 三分は過ぎたろ!?」
「バカ言うな。プロレスにインターバルなんてねぇだろ!」

 ミットがどすんと音を立てる。プロレスラー特有の、重い打撃。
 プロレスでボクシングのような顔面への打撃は反則となる。練習する意味合いはあまり無い。だが、たとえ反則しようともペナルティがある訳ではない。せいぜいレフェリーに注意されブーイングを受けるだけ。
 反則は「アリ」なのだ。そうなれば練習しておいて損は無い。

「ホラホラホラァ! そんなんじゃヨシダの打撃に食われるぞニール!」
「その名前を出すんじゃねぇよこの野郎!」

 打撃音。今日一番の右ストレートがミットを貫く。
 ヨシダとはSSPのライバル、ハードドライヴィングパンツマシーンの本名である。MMA出身で、現在は日本の大手団体のタイトル保持者だった。
 ニールにとってはまさしく宿敵である。

「日本って言えば、お前、またVIP局の悪質ドッキリに引っ掛かったそうだな?」
「今言う事かよ!」
「聞いたぞ? なんでもマスクつけたままスクランブル交差点に放置されたとかなんとか……」
「うっせぇハゲ!」

 ミットではなくシェーンのボディにパンチが炸裂。油断した状態でのパンチはそれはもう効く物だ。
 うご……ッ と一声上げてシェーンはダウン。ニールはパンチンググローブを放り投げてリングアウト。

「……ったく、どこで聞いたんだよ……」
「お前の嫁さんがバラして回ってたぞ……。俺らの中じゃ知らない奴は居ないぜ……ごぼぁ……!」
「妻よ、なぜ……」

 日本のテレビ局の一つ。VIPテレビはプロレスを始めとしたスポーツ中継とバラエティ中心の局である。世界統一タイトルであるIPWCヘビーのベルトを持つニールが目を付けられるのは当然の事だった。

「俺はチャンピオンだぞ! もっと敬意を払えよ!」
「変態が何を言うんだ……」
「お前もパンツ被ってんだろうがシェーン!」

 過去にも様々なドッキリを仕掛けられてきたニール。
 あの手この手を使って来るので毎回本気で引っ掛かる。素顔を狙って来ないのが唯一の救いであるが、おかげでニールは日本のお茶の間の人気者。アメリカとは扱いが全く違っていた。
 スポーツ選手の地位が高いアメリカではニールは文字通りチャンピオンとして認知されていた。
 所属団体のタイトルに加え、それを飛び越えたIPWCタイトルはボクシングの世界タイトル並に尊敬される物だったのだ。

 では、そのIPWCとは何か。
 事の始まりは日本とヨーロッパから起こった。当時のプロレスは団体がそれぞれタイトルを持っていたが、つまりは団体の数だけチャンピオンが居た事になる。
 各団体で交流試合等も行われてはいたが、その中で、もっと競技としてのプロレスを追求しようという動きが生まれた。
 そして、日本の各団体が結集し協会を作り、ランキング制のタイトルを創設。ヨーロッパでもこの動きに乗じて協会を作り、それぞれにナショナルチャンピオンが誕生した。
 格闘技大国アメリカではエンターテイメントとしてプロレスは扱われていた為か、競技性を重視したこの動きには否定的だった。ところが、ランカーのレスラー達がMMAマッチなどで次々と好成績を収め、ファンの間で協会参加の気運が高まる。
 そしてついに、アメリカでもランキング制度が導入され、アメリカ王者が誕生。同時に世界ランキングも作られ、統一タイトルIPWCが誕生したのだ。
 そして、その頂点に立つニールはまさに、「世界王者」なのだ。

「もっと敬意を払え! リスペクトしてくれ!」

 こうは言うが日本でも同様にチャンピオンとして認知はされている。
 ただし、「バラエティもこなせる世界王者」としてだが。
 ちなみにドッキリの手引きは彼の妻のクレアが裏で糸を引いている事実を彼は知らない。

 ニールは水をがぶ飲みし、ストレッチを始める。トレーニング後のクールダウンだ。ストレッチで身体をほぐした後にトレッドミルで軽く走る。ゆっくり身体を冷やす事でトレーニングの疲労を抑える事が出来る。
 シェーンもそれに続き、今日のトレーニングは終了となるのだ。

「そう言えばニール、ゴシップ紙でお前見たぞ」
「ゴシップだぁ? んなもん興味ねぇよ」
「だよなぁ。いくらなんでも日本で女の子にボコボコにされたなんてのはやり過ぎだよな」
「そうだぜ。ははは……」
「もう少し信憑性のあるネタを考え付かないモンかね連中は」
「全くだな。ははは……。はははは……」
「? どうしたんだ元気ねぇぞ?」
「れ……練習し過ぎたかな?」
「はぁ?」

 おかしな態度になったニールをいぶかしむシェーンだったが、事の真相は知らない。それらの一件やVIP局のおかげでニールは日本を少し恐れている。

「日の国には魔物が住んでいる」

 それが口癖であった。


※ ※ ※


 日本、東京。ある焼肉屋。

「ほれ。遠慮せず食え」

 網。換気扇。使い捨ての紙エプロン。
 大きな皿にたっぷり乗った肉、肉、肉。ついでにサラダ。
 ざっと十人前以上はあるが、それを注文したのはたった三人。それどころかおかわりする気マンマンである。

「頂きまぁーす!!」
「ああ落ち着け。すんません社長……」
「いいじゃないか。若い証拠だ」

 カルビが五切れ同時に網の上へ。漬けタレが焦げる香りと食欲をそそるじゅうじゅうという音が鳴る。辛抱たまらんとばかりに生焼けで一切れ。ご飯と一緒に掻き込む。
 そして、至福の表情。

「……うめぇ。うめぇよ社長……」
「そ……そりゃよかった。遠慮はするな」

 矢野と社長、そして団体のタイトル保持者である魚のマスクマン。アジョットマン。本名は田中。彼らは社長に呼び出されて焼肉屋へ居た。

「で、社長。お話とはなんです?」

 アジョが問う。

「あ~~。まぁ……。いいにくいんだが……」

「なんですか? わざわざ呼び出す程ならきっと大事な事なんでしょ?」
「まぁ……な。よし……。心して聞けよ。覚悟はいいか……?」
「勿体ぶらないで……。何ですか?」
「実はな……。ウチの団体……」
「ウチの団体が何か?」
「実は……今年で消滅しますッ。てへっ」
「……。ほう?」

 社長の口から語られたのは、なんと所属する団体の倒産を告げる報告であった。
 茶目っ気タップリに言ったつもりが血の気の多いアジョにはどうにも癇に障ったようで。矢野もカルビを貪る手を止めしばしア然。

「団体……消滅? 解散!?」

 つまりは、レスラーとして戦う舞台が消えて無くなる事を意味していた。

「ちょ……ちょっと! じゃ俺らは!? フリーなんてムリっすよ!?」
「その事で呼び出したんだ。お前達の受け入れ先の団体があるから……」
「受け入れ先?」
「他の連中には申し訳ないが……。お前達二人なら面倒をみてもいいって所がいくつかあったんだ。このまま放り出すのは悪いと思ってな。その事を伝えようと……」
「つまり団体の消滅は決定ですか?」
「……このままじゃ……な……」

 矢野と田中の所属する団体は、だいぶ前から経営が危ぶまれていたらしい――


※ ※ ※


 翌日。
 晴天だった。秋は目の前だが気温はまだ高い。エアコンが有り難かった。
 矢野は寮の自室でぼけーっとしていた。朝から大好きな特撮ヒーローのDVDを見ていた。それも夕方になるまで。
 六畳の和室は荷物が散乱し、大男の矢野には狭いの一言。それでも贅沢は言えない。自分を拾い上げてくれた団体が用意してくれた部屋なのだ。
 十八歳でプロレス界の門を叩き、今までずっと。矢野はこの部屋で過ごしている。
 壁の傷も床のシミも、三代目となった中古のエアコンも、矢野にとっては思い出の詰まった部屋だった。

 それとももうすぐお別れだ。
 そう思っていた。昨日告げられた団体の倒産は、つまりはこの部屋から出て行く事をも意味している。
 受け入れ先は日本有数の大手だという。ならばきっと、ここよりはマシな部屋が宛がわれるだろう。

「でもなぁ……」

 矢野はそうこぼした。
 愛着があったのだ。そして、先輩達や社長にも恩義がある。

 自分が実力派だと認めてくれた上で、向こうは矢野を引き取りたいと申し出たらしい。それ自体は非常に嬉しい事なのだが。
 唯一引っ掛かる事。それは、他の先輩方を差し置いて自分だけ大手に移籍して良い物かどうか。社長は一体どうなるのか。そればかり気になる。

 憧れが無い訳では無かった。
 自分もいつか、大きな舞台で、大好きな特撮ヒーローの隊員達と同じ入場曲で登場し、大観衆の前で闘ってみたい。
 いつか、いつかきっと――

 矢野はDVDの電源を切った。さすがに朝から見続けたので飽きてしまったらしい。
 テレビの画面をビデオから切り替え、適当なバラエティー番組を写す。そして、それをぼけっと見ていた。
 テレビではタレントのドッキリ番組をやっていた。三時間の特番だった。
 しばらく眺めていて、時刻は夜の八時を回る。

「――!」

 テレビを見た。
 そして、それに写る者を凝視した。

 レスラーパンツ一枚で、パンツマスクを被った世界最強の変態が、スクランブル交差点のど真ん中で右往左往している様子。
 テレビからは爆笑が聞こえている。だが、矢野はくすりとも笑わない。
 見入っていた。目の前に写る、世界最強のマスクマン、スーパーストロングパンツマシーンを。


「――これだ!」

 矢野は携帯を開く。電話をかける相手は団体の社長。
 繋がると同時に、矢野は一気に話す。
 テレビではSSPが大声で叫んでいた。彼も若手時代は矢野と同じく、恥辱に塗れた日々だったという。ならば――
 矢野は決意した。

「社長、俺を……IPWCランキングに推薦してください……!」

 決意。団体を救うには、これしかない。

「SSPに挑戦したい。この団体に……世界タイトルを……!」


続く――




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