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ちょっと昔の話 第2話

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mintsuku

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ちょっと昔の話 第2話


 侍女長がまだ侍女長でなかった頃の話し。まだバステト珠夜だった頃のことである。
 彼女はカイロ空港からヨーロッパを経由して、イスラエル等の紛争地帯を避けた飛行ル
ートで日本を目指していた。ドイツ語やらなんやら色んな言語が飛び交う空港のロビーで
財布を眺めて、珠夜は大きな溜め息をつく。

「ふにゃああ……ヒモホテップ様、なんであのタイミングで金せびりに来るニャ……」

 空港の椅子に腰掛け、荷物が詰まったトランクに肘を乗っけてうなだれる。ちなみにヒ
モホテップは珠夜の彼氏である。
 彼女がカイロ空港から旅立つ日、見送りに来たヒモホテップに有り金とカードを巻き上
げられたのだ。珠夜は今後の行く末を案じたのか、暗い表情。

「ヒモホテップ様のお兄様、助かるといいニャあ……」

 別に行く末とか案じてなかった。なんかヒモホテップが述べた無心の理由を鵜呑みにし
て案じてるだけだった。
 そう、このとき珠夜はまだ大学生。おぼこいかわいこちゃんであるお嬢たまには騙され
ているんじゃないかなんて疑念は一握だってないのだ。
 サマードレスにツバ広の白い帽子、その下の良く櫛の通ったねこっ毛のケモ耳、ふわふ
わした尻尾。暴力的な若さが暴走した結果、怖いモノなんてこの世に存在しないと錯覚し
ていたのだ。
 珠夜は首に下げていたネックレスをちょいとつまみ、眼前に持ち上げる。

「……うへへ」

 ヒモホテップが空港で有り金とカードと引換にくれたプレゼントである。よほど嬉しい
のか、チュッとキスして、ギュッと薄っぺらい胸に抱いて、ニマニマと微笑む。本当に幸
せそうだ。
 しばらくニヨニヨしてニャンニャン唸って身悶えた後、珠夜はチケット売り場に向かっ
た。イスラエルを迂回するべくヨーロッパに来たはいいが、そこから先のチケットをまだ
買っていないのだった。ヨーロッパの地獄はやっぱりヨーロッパ風で、受付嬢も悪魔なの
だった。

「こんにちは。日本行きのチケットが欲しいんですニャ」
「日本行きでございますね。日本行きの便はこちらになっております」
「ありがとうニャ……うーん」

 流暢な英語で受け答えする様は確かにお嬢様然とした堂々たるモノだったけど、いかん
せん現在は財布の中身が町娘にも劣る。カウンター内の、時刻とクラスとチケット料金が
表示されたPC画面を覗きこみ、エコノミーでもかつかつである事実を目の当たりにする。

「ちょっと相談してくるニャ」

 適当に言い訳してチケット売り場を離れる。相談する相手なんていないのだけど。
 途方に暮れかけたとき、その老人は現れた。

「日本へ行きたいのですか?」

 綺麗なドイツ語だった。老人は執事の様な格好をしており、まるでパイロットには見え
なかったがこれでも副操縦士無しでのフライトを許されたA級ライセンス持ちなのだとい
う。……そんなのあるんだろうか。

「ようこそ《ベリアル航空》へ。格安の日本行きチケットをご用意しますよ」

 珠夜はその老人からチケットを買うことにした。
 老人はファウストと名乗った。

続く

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