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甘味処繁盛記 白濁淫蜜編

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mintsuku

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甘味処繁盛記 白濁淫蜜編


「く、くくく、くははははは、はーっはっはっはっはっはっ!」
「おや店長、とうとう自我が崩壊しましたか」
「帰って早々酷いな、真達羅」
「お帰りなさい、店長」
「ことばがあたたかい……俺にも帰る場所があったんだ……」
「はいはい、それはいいですけど、何かあったんですか。えらく上機嫌ですね」
「その前に真達羅、これだけは言わせてくれ」
「何です」
「ただいま」
「店長って変なところで律儀ですよね」
「緩急自在の陰陽変幻、動静の機微に富んだ男、俺」
「それで、抱えてるそれは何ですか。空瓶じゃないですよね?」
「おう、聞いて驚け見て笑え。これほどの上物はめったに手に入らんからな。笑いが止まらんぜ。
ふっふっふっ、はーっはっはっはっはっはっはっ! ひひひ! ひゃははは!
うっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ! ぴーひゃららら! ぷぷくぷっぷっぷー!
でゅでゅでゅでゅでゅでゅぱぱぱぱぱぱ!」
「アドレナリン出すのほどほどにしましょうね」
「はい」
「それで、結局なんですその……なんです、それ?」
「ふっふっふっ、逸品だ」
「お酒……でしょうか?」
「いいや、違うな。無粋なアルコールたぁわけが違う。もともと僧侶が作ったものでな、くっくっくっ、ほいほいとこいつを注文した客が虜になるのが目に浮かぶぜ」
「はぁ……そんなに凄い品なんですか?」
「由緒ある品だぜ。この国最初の乳酸飲料だ」
「はぁ……そういわれても、私が現世に出てまだ10年と経ってませんよ。由緒と言われてもちょっと……」
「えぇい、勉強不足め。初恋の味……戦時にこんな風に謳って軍人に不埒なキャッチフレーズつけんな、と怒られたほどの品よ」
「戦時って……えーっと、第一次掃討戦とかでしたっけ?」
「世界大戦だよ、一次か二次かはどうだったか……俺もじいちゃんから聞いた話だからなぁ。流石に朧だ」
「はぁ……それ、いつです?」
「20世紀半ばだよ」
「そんな話、私が知ってるはずないでしょう」
「やったね真達羅ちゃん、知識が増えるよ」
「いや、それはいいですけど、結局それは何なんですか?」
「うむ、カルピスという。店の外に張り紙で宣伝しといてくれ。謳い文句は初恋の味、これしかねぇな。真達羅、百聞は一見に如かずだ。一杯いってみろ。甘いぞ」

で、原液を振舞われた真達羅は盛大に白濁を噴出して桃太郎をぶん殴ったという顛末につながる。


その日、タバサは和泉に来ていた。
無論、主人である蛇の目家当主、蛇の目エリカに従っての事である。

当のエリカはと言えば、隣にいない。
現在、道場の縁側で最近できた友人とお茶をしているはずだ。
友人なるは坂上 匠なる青年の争奪を機に、殺し合って巡り合ったクズハという少女の事である。

もろもろ妖魔主従の勘違いを発端として道場をずたずたにした一件からこちら、良い友好関係を築けている。
二人とも見目の年頃近しく、眠っては起きるを繰り返すエリカと、まだ幼さの残るクズハでは精神もあう様子だった。
話相手として、きゃっきゃうふふと乙女チックワールドを展開するのに適当なのだ。
というわけで、主人を放っているわけではなく、友人との一時を邪魔せぬ配慮としてタバサはエリカから離れている。
目的は特にない。
強いて言うならば和泉の探索である。
すでに和泉には何度か足を運んでいるのだが、まだ見ぬ場所は少なくない。

匠より、そうほいほいと妖魔が街をうろつくなと釘を刺されているがなんのその。
万が一の場合に備えて、地理を把握しておくにこした事はないはずだ。

さて、そのような事情にて。
タバサはある文字を散策中に発見したのだった。

恋。

そう、恋という一文字である。
何気なく、人気も少なく、街並みも寂しげになってきた場所で。

――あま、あじ、ナントカ、カントカ、が、しま。

かような看板の店に張られている張り紙に、その一文字は鎮座していた。

それほど豊富に漢字を知り、操れるわけではないタバサである。
しかし、この一文字だけは見逃せない。
何せ主人であるエリカの、今回のわがままそのものであるのだから。

『初恋の味、はじめました』

――はつ、こい、の、あじ、はじめました。

すべてを読み上げる事叶ったタバサはそこで雷に打たれたかのように動けなくなってしまったのだ。
戦いと恋とはまったくの別物であると諭されたのはつい最近。
では何かと言われて、明瞭明晰な答えを得たというわけではなかった。

生殖行為につながるというのは正しい。
生殖行為という終わりにつながる過程であるのは間違いがないはずだ。
しかし、その過程。道筋。道のり。
生殖行為と言う終わりは見えていても、恋というそれに至る道が分からないのだ。

それがこの店では、五感の一つで体験できるという。

まさに、現状の己のためにある店だとしかタバサは思えなかった。

「おや」

そんなこんなで。
呆然と店先で「恋」の一文字に見入っていたタバサの耳に、優しげな声。
店から一人の、青年が現れたのだ。

「これはかわいらしいお客さんですね。こんにちは」

柔和な面持ち。優しげな気配。まろやかな微笑。
包容力と理性と知性を匂わせる好青年である。

「中に入りますか? もう暑くなってきてますからね。冷たいものでもお出ししましょう」

なんとも自然に、話しかけてくる真達羅にタバサは訝しがる。
己の容姿について、客観的事実だけを簡潔に述べれば猫だ。
多少、翼とかリボンとか装飾があるけれども、猫であるとしか認識できまい。
それがどうだ。
まるで話が通じるかのように、真達羅はしゃべりかけてくる。
動物へ語りかける人種がいるのも知っているが、これではまるで……

そこで、ふと気づく。
匂いだ。
この店員らしき男。
この人間らしき男。
人の匂いが、……

――質問をしてもいいですか?

ためしに、タバサが青年へと語りかけてみた。
常人であれば、にゃあにゃあ言っているとしか知覚できぬはずの発声。
で、あるのに。

「はい、どうぞ」

青年が頷いた。
もうこれで、質問する必要もない。
返事をする。ただそれだけで、もう解答を得たようなものなのだから。
しかしタバサはこう尋ねるのだ。

――あなたも妖魔なのでしょうか?

青年は笑った。

「はい、そうですよ」


タバサはテーブルの上、青年が敷いてくれた座布団へ座し店内を見渡した。

実に和風な造りであった。
古臭く感じてしまうが、しかしどこか郷愁誘うような雰囲気。

「どちらからいらしたのでしょうか?」

平たく底の浅い皿に注がれた麦茶を出され、まずタバサはそれを頂戴する。
程よく冷えて、猫舌にも親切なおいしいお茶だ。

――信太の森にあります蛇の目家です。その専属従者、タバサと申します。
「これはご丁寧にどうも。真達羅と申します」
――人化がお上手なのですね。
「もともと人間くさい、と言われる性質でしたので、しっくりきたようです。ただそうでなくとも、この和泉はなかなか人外に寛容な空気がある様子。いつか素面を受け入れてもらいたいですね」
――魔性の少女が馴染んでいるようですから、難しくなさそうですよ。

自分も、そうだ。
気づけば和泉には道場に遊びに行ったり、普通に買い物しにきたりと、随分と馴染んでいる。

「お名前だけは耳にしています。確かクズハさん、と」
――はい、我が主のご友人にあらせられます。
「ははぁ、ではご主人様というのも……」
――吸血種です。
「う~ん、京ほど人魔が共存してるように思えてきました」
――上方ですか?
「はい。以前私は、そこで仕事をしていましたから」
――この店のような?
「いえ、……もう少し、血なまぐさい仕事ですよ」
――失礼ながら、あまり荒事を対処できる方には見受けられませんね。
「ですから、今はこうやって、お店屋さんをやっているんですよ」

やはり、言うような血なまぐさい仕事をしていたという風体には見えなかった。
ただ静かな優しさと穏やかさばかりが強く滲む。

はた、とタバサが思い返す。
そう、そうだ。
なんのお店屋さんか。
恋を味わわせてくれる、お店屋さんではないのか。
今回の目的は、それである。

――あの。
「何でしょう?」
――恋を味として、ここでは振舞っていただけるのですか?
「おや、おやおや、あれに興味を持ちますか」
――とても。
「うーん、ちょっと待ってくださいね」

微苦笑しながら、真達羅が調理場に姿を消してしばし。
すぐに戻ってくると、その手には平たく底の浅い皿。
タバサの前に配膳されたそれには、白濁の液体が注がれていた。

――これが……

これが、恋の味がするというのか。
すんすんと鼻先を近づければ甘酸っぱい匂い。
ミルクよりも濁った色合いである。

「カルピスというものです」
――カルピス。

ちろ、と舌がカルピスを舐めた。
甘い。冷えたそれは実にまろやかだ。

――甘い……
「私は恋をした事がありませんから、本当にそれが初恋の味かどうかは判別つきかねますが、おいしいでしょう?」
――そうですね……そこそこです。
「これは手厳しい」

真達羅が微笑んだ。

ミルクよりもやや呑みにくいが、十分美味だ。
間をおいて、真達羅と会話をはさみ、タバサはカルピスをすべてその舌ですくい上げきった。
甘酸っぱい味わいは、ちょっと経験した事のない味覚である。
タバサの表情は自然、緩んでいた。

――ご馳走様でし……

そこでタバサが固まった。
そういえば、お金を自分は現在所持していない。
小銭を入れた蟇口はエリカの手元である。
それを察したのか、真達羅がゆるく首を振った。

「御代はかまいませんよ」
――え、でもそんな。
「実は私、暇だったんですよ。ですのでお話相手がいてくれて、とても有意義に過ごせました。それが御代です」
――あ、

ありがとう。
そう、タバサが言いかけた刹那である。
店の戸が開いた。

「おう、真達羅、かわいこちゃん連れ込んでるじゃねぇか」

定時連絡を門谷に報告しに行っていた桃太郎である。
こいつが帰ってこなければタバサと真達羅の穏やかな時間で終わった話を。
そうは問屋が卸さない。

「あ、店長」
「おう、おう姉ちゃん、そいつはカルピスだな? 品書きに出して早速とはなかなか目が高ぇ」
――あの、こちらの方は?
「この店の店長です。桃太郎気取りの変な人ですよ」
「おっと、そいつは違うぜ。俺は桃太郎の、おじいさんの役割だ。それが桃太郎の仕事を取って、犬猿雉のする事まで一人でやった男さぁ」
「ね、変な人でしょう」
――はぁ……

ちょっと、タバサが得手とするテンションではなかった。
なんというか、えらく活力がある男だ。
闊達なしゃべり方一つとっても、緩やかな真達羅とは正反対である。

「ちなみに……」

そして真達羅は注釈するのだ。

「半分異形です」
「そっちはアレだな、地震の後に出てきた類の妖怪変化じゃなさそうだ」
――信太の森に古くからあります蛇の目家、そちらで専属従者をしていますタバサと申します。
「はぁん、おいタバサ、お前いくつだ?」
――……生まれて4年になります。
「おっと、こいつぁ……」

目をしばたかせ、質問の意図をつかめずにいるタバサの目の前で。
桃太郎が額をたたいた。

「真達羅のストライクゾーンじゃねぇか」
「言っておきますけど人間年齢に換算すると30超えてますからね」
「いいや、猫としてみるのがおかしな妖魔だ。4歳は4歳として捉えるべきだろう。おいタバサ、良い事を教えてやろう。真達羅って、ロリコンなのよね」
――ロリコン!?

タバサに電流が走る。
ロリコン。
知っている。
知識としてタバサはその単語を頭脳に抱えている。
何でも成熟していない女性に対して欲情するはなはだ道を踏み外した輩の事だ。
そして自分は麗しく華も恥らう4歳。
この真達羅という青年が、いくいつかは知るまいが、なるほどロリコンであれば照準の内ではあるまいか。
そして気づくのだ。
思わずタバサが一歩、後ずさってしまう。

ロリコンは、言うなれば未成熟な女子に淫らな思いを寄せる。
それは突き詰めれば恋するという事であり、そして最終目標は生殖行為と結論付けて違いあるまい。

ならば茶やカルピスを無銭で振る舞い、油断を誘って隙を突かんとしていたと想像に難くない。
商店である以上、金銭的な感覚をしっかりと持って経営に当たるべきである。
ならばそこから外れる先の真達羅の行為は親切以上の何か含みがあっておかしくはない。

そう思考するタバサの頭脳で、まるでパズルが出来上がるかのように一つの画が浮かぶ。
すなわち、真達羅の一連の行動の真意である。

タバサを店に招き入れ、無償で茶とカルピスなる飲料を振る舞う。
何気のない一幕であるが、待って欲しい。
このカルピスなる飲料だ。
茶も、店という金銭が取引されるシステムの場も知っているタバサだがカルピスの知識は持ち合わせていない。
つまり、真達羅がどう表現しようともタバサはその裏を取れないのだ。

振舞われたカルピス。
初恋の味。
ロリコン。
欲情と恋と生殖行為。

ここで一つ、ぽっかりと抜け落ちてしまっているからこそ浮かび上がる物がある。
真達羅からタバサへ。
もしも真達羅がタバサに淫欲のすべてをぶつけるとして、具体的には何を提供するか。
そう、子種である。
そしてタバサの賢明な頭脳はすでに子種がどういったモノであるか検索をすでに終えている。

すなわち、白濁の液体である。
そう、カルピス。
あのカルピスこそ、真達羅の子種であったと断定する以外にこれまでの全てを説明する事はできまい。

一切合財を閃き、理解し終えて悟ったタバサの頬に朱が差す。
前足が思わず口元を押さえた。
あの甘酸っぱい味……初恋の味。
それが、よもは雄の情欲の塊であったとは。

危なかった。
この桃太郎という男の乱入がなければ、犯されるのは口だけに留まる事はなかっただろう。
最悪、真達羅に孕まされてしまっていたかもしれない。

きっと、タバサは真達羅を睨みつけた。
当の真達羅はと言えば、桃太郎をマジ殴りしている最中だったので気づかない。

――なんて野蛮で淫靡な! 見損ないました!
「ち、違います、タバサさん! 私はロリコンではなくてですね……」
――最低!

罵られ、弁明しようとする真達羅だがタバサが速い。
一目散に、逃げるように甘味処から出て行ってしまった。

「あ、待ってください! タバサさん!」
「去る者追わず」
「店長のせいですよ! 怖がって帰っちゃったじゃないですか!」
「……真達羅」
「言い訳は聞きませんよ」
「ただいま」
「お帰りなさい右ストレート」







<甘味処 『鬼が島』>
店長:桃太郎
従業員:真達羅

不在:摩虎羅、招杜羅

<お品書き>
 ・吉備団子
 ・きなこ吉備団子

 ・カルピス New!

<お品書き・裏>
 ・吉備団子セットA
 ・吉備団子セットB
 ・吉備団子セットC

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