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ゴミ箱の中の子供達 第11話

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mintsuku

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ゴミ箱の中の子供達 第11話


「ゲオルグ?」

 イレアナの声に呼びかけられてゲオルグは我に返った。目の前ではイレアナが心配そうな眼差しでゲオルグの
瞳を覗き込んでいる。
 場所は聖ニコライ孤児院の食堂。いつものゲオルグとその姉イレアナの2人だけのお茶会のことだった。

「どうかしたの」
「ああ、ちょっとした考え事だ。大丈夫だ」

 イレアナの問いかけに、ゲオルグは事も無げに首を振ると、持ち上げたティーカップに口をつけた。
 口腔を満たす液体にゲオルグは心の内は僅かにしかめる。口に含んだ紅茶は適度な砂糖が入っているのだが、
どうにも渋みが消えないからだ。
 かつてアレックスが寄付したアップルティーは、紅茶好きな孤児院の中高生の手によってとうの昔に消費されて
いた。そのため現在ゲオルグ達が飲んでいる茶は地下工場で大量生産されている安物だった。あのアップルティー
によって舌が肥えてしまったために、現在飲んでいる紅茶の貧相な味が強調されて実に悲しい。いっそのこと自分
であのアップルティーを買おうか、とゲオルグはうっすらと悩むのだった。
 眉間に皺を作って思い悩むゲオルグに、イレアナはまた心配そうな眼差しを向ける。その視線に気づいたゲオルグ
は、すぐに弁解の言葉を吐いた。

「今のは紅茶のことだ。アップルティーがあまりにも美味しかったからな。ついつい比べてしまう」

 ゲオルグの言葉に安心したように顔を緩ませたイレアナはそっと自分のティーカップに口をつけた。丁寧に整え
られた眉の間隔が僅かに狭まる。

「確かに、あのお茶と比べると、このお茶はちょっと、ね」
「そうだな」

 ゲオルグが適当な返事をして会話は途切れた。出し抜けに訪れた沈黙にゲオルグは気に留めることもなく視線
を前庭に向けると思索に戻った。
 外では孤児院の子供達がアレックスと共にボール遊びに興じている。アレックスのつま先によって器用に操られる
ボールを追いかけながら、彼らは楽しげに笑っていた。
 これでもう見納めかもしれない。不吉な予感をひしひしと感じながら、ゲオルグは子供達の笑顔を目に焼き付ける
ように眺め続けた。
 話は数日ほど遡る。

 ゲオルグが社長室の扉をノックすると、入れ、という素っ気無い応答が帰ってきた。入室許可を受けて扉を
開けると、葉巻の煙がゲオルグの鼻を刺す。社長室のアンティーク物のデスクの奥では、"ブラックシーヒューマン
コンサルティング"社長兼、"子供達"最高指揮官ニークが黒皮の肘掛椅子に堂々と腰を下ろし、葉巻を燻らせて
いた。
 歩み寄るとその格好が明確に見て取れる。上等そうな艶のある灰色のスーツに鮮烈な赤のネクタイ。ネクタイ
につけられたタイピンと袖口から覗くカフスは毒々しい金色をしている。手首にはめられた金時計はブランド物で、
文字盤のダイアモンドの輝きが目に刺さる。指に挟む有機栽培の葉巻とあわせて成金趣味という言葉がぴったり
と当てはまった。あまりにもけばけばしい上司の趣味は浮浪児時代の反動なのだろう。そうゲオルグは結論付けて
いた。

「これが尋問の最終報告書です」

 書類を差し出すゲオルグをニークは一瞥すると、大儀そうに上体を起こして差し出された書類を手に取った。

「ロリハラハラ・ネルソンか。大物が出てきたな。ゲオルグ、お前はこいつを知っているか」

 書類をめくり挙げながらニークがゲオルグに問いかける。だが、分からない。恥ずかしさを押し隠しながら、
ゲオルグは答えた。

「いえ」
「だろうな。話題になったのは十年以上前だ。そのときお前達は子供だったから知らなくて当然だ」

 ゲオルグの否定の言葉にニークは気にかける事もなく言葉を続ける。無知を叱咤するでもない堂々さに強張った
ゲオルグの心はいくらか和らいだ。

「この男は第11代"アンク"議長で、民兵組織"人民の銃"の創設者、反逆罪で10年以上も投獄されていた"ホームランド"
 闘争の英雄だ。歴史の教科書に載るものそう遠くないだろう。数年前に引退したと聞いていたが、こんなところで出て
 くるとはな」

 ネルソンの肩書きをニークはつらつらと並べていく。闘争の英雄であり、教科書に乗るだけのことをしたとニーク
は言う。だが、あまりにも雲の上すぎて、ゲオルグには彼が偉人であるという実感がわかなかった。

「この男についてはこんなところか」

 書類をデスクに置いて、ニークはゲオルグを見上げた。じっとこちらを見つめる見つめる1つだけの瞳に含む何か
を感じたゲオルグは続く言葉を予期して身構える。

「ところでゲオルグ。参考人を確保する際、お前は子供を逃したそうだな」

 追求の言葉を吐きながらニークはゲオルグを睨んだ。途端に大気が凍りついたかのような冷気がゲオルグの
肌を撫で上げ、跳ね飛んだ心を鷲づかみにされたように、胸の奥が収縮する。

「なぜ逃した」

 声の調子を低くして、ニークはゲオルグに問いかける。口から吐き出される言葉の1音1音がきわめて丁寧に
ゲオルグを威圧する。冷酷無比な言葉の重圧はゲオルグに反発の余力すら奪う。肌が痺れるような錯覚を覚え、
ゲオルグは不動の姿勢の維持で精一杯だった。
 それは数多の修羅場を潜り抜けたものだけがもてる凄みの表れだった。

「捕まえれば反発を引き起こすばかりであり、迅速な情報取得には解放が一番と考えました」

 ニークの問いかけに、緊張した口が吐き出したものは、決して嘘ではない当たり障りのない言葉だった。だが、
それをすべて見通しているかのように、ニークはゲオルグの瞳を睨みつける。
 どきりと心臓が収縮する音をゲオルグは聞いた。服従心が内側からゲオルグを刺していく。思わず吐き出しそうに
なった本心をゲオルグはなんとか思いとどまった。流血を回避するためという本音はニークにとってもっとも唾棄
すべき言葉だったからだ。
 ニークの持論は"血こそ金なり"だ。敵勢力への鉄槌も、味方勢力の忠心も、全ての基準はどれほどの血を
流したかだ。流血は流さないに越したことはないという比較的穏健なゲオルグの考えはニークの思考とは相反
するものだ。

「なるほどな、時間を優先したか。確かにそれは重要だ」

 大げさに頷いたニークは、右手に挟んだ葉巻を吸うために1呼吸間を空けた。その間にゲオルグを睨みつけて
いた眼差しが幾分平素の無愛想なものに変化する。幾分和らいだ場の空気に、ゲオルグは強張っていた身体を
それとなく弛緩させる。

「だが」

 ニークが煙を吐き出すと同時にそれまでの穏やかな空気はたちまちのうちに霧散する。低く静かだが明らかに
叱責の意を含んだ言葉に、ゲオルグはつつかれたように身を緊張させた。

「少し独断が過ぎるな」
「もうしわけありません」

 ニークの静かな叱責に、ゲオルグはすぐさま頭を下げた。だがそれでもニークは不満そうに鼻を鳴らす。

「ゲオルグ、男は殺しておけ。いいな」

 一つだけの瞳がゲオルグを睨みつける。圧倒的な威圧感に射竦められたゲオルグには最早反論の余地は
無かった。

「了解しました」

 下げた頭の中で、決意の眼差しでこちらを見返していたあの男の姿がよぎった。偽りの工事現場で捕らえた
とき彼はすべてを覚悟しているようだった。おそらく彼は笑いながら死ぬだろう。
 死を受け入れ、笑みを浮かべながら死ぬ人間はたまに存在する。銃をこめかみに突きつけられてなお
浮かべる彼らの微笑には怖気が走るものがある。彼らの瞳の奥に、同じくこめかみに銃を突きつけられた
自分の姿が垣間見え、引き金を引くことを躊躇せずに入られないのだ。
 憂鬱な処刑の算段を立てながら、同時に逃した子供についてもゲオルグは考える。保護者を失った彼は
この先いったいどうするのだろうか。親切な親戚や友人の手によって救われるのだろうか。はたまた浮浪児の
世界に身をやつすのだろうか。懸念せずに入られない。
 だが、命令は絶対だ。つまらない恐怖心や同情心で命令を反故するのは"子供達"という組織のみならず、
愛する兄弟たちへの裏切りに他ならないのだ。だからこそゲオルグはニークの命令に従うのだった。


「ゲオルグ、忠義を見せろ」
「はい」

 ゲオルグの返事ににニークはようやく満足そうに頷いた。この首の動きがスイッチとばかりに、場を満たしていた
威圧感がたちどころに消滅する。ゲオルグは上体を起こすと、ようやく安堵にも似たため息をついた。
 様相をがらりと変え、普段と同じ不機嫌そうになったニークは、背もたれに深く身を預けながらゲオルグを見上げた。

「さて、"アンク"への対応だが、我々が"ホームランド"に出向き、"アンク"の事務所を1件や2件襲撃するのは
 容易い。だがそんなことは無意味だ。なぜだか分かるか」
「殲滅が不十分であるからでしょうか」

 ゲオルグの回答にニークは満足そうに頷く。

「そうだ。敵は根絶しなければ、いつか必ず反撃してくる。だが、"アンク"は"ホームランド"の市民運動と完全に
 癒合している。敵は"ホームランド"の全ての人間だ。根絶など到底無理な話だ」

 ニークが葉巻を口に挟むとゆっくりと息を吸い込んだ。次の問いを予想したゲオルグは、葉巻を吸う本の小さな
間が、どうもじれったい。

「ではゲオルグ、このような場合、お前ならどうする」

 紫煙を吐き出しながらニークがようやく問いかける。ゲオルグはすぐさま答えた。

「中枢の破壊、でしょうか」
「その通りだ。大抵の組織なら中枢が存在する。そこを破壊してやれば残りの抵抗なぞ取るに足らん」

 ここまで言ってニークは区切りをつけるように大きく肩で息をした。僅かにかすれた吐息の音が途絶えると、
ニークは机の上に散らばった書類からひとつの書類を取り出した。2ページ3ページとページをめくり上げていた
彼は程なく手を止めると、書類の内容がゲオルグに見えるように机の上を滑らした。
 開いたページには白黒写真で、瞼が重そうに垂れ下がっているが、実に温和そうな黒人の壮年男性を写して
いる。その写真の下にはキャプションがあった。釈放の演説をするロリハラハラ・ネルソン。この人のよさそうな
壮年男性こそ"アンク"の長老にして"ホームランド"闘争の英雄ロリハラハラ・ネルソンなのだ。
 よく見ようと腰を折ったゲオルグの姿を見たニークは、葉巻をはさんだ指先でネルソンの写真を叩いた。

「"アンク"タカ派の中枢はロリハラハラ・ネルソンだ」

 ニークの説明を聞きながらゲオルグは思う、なぜ俺に聞かせるのか。いやな予感がひしひしと伝わり、ネルソン
の写真は頭に入らなかった。

「こいつを殺す」

 強調するように写真を強く叩いて、ニークは判決を下す。問題は執行者だ。暗殺命令を下したニークはゲオルグ
を見上げていた。ゲオルグを見つめる1つだけの瞳の奥には何か含みがある。だが逃げ出すことも、たじろぐことも
できないゲオルグは、直立不動の体制のままニークを見つめ返した。

「この任務は、ゲオルグ、お前達に任せる」

 ニークの言葉はおおむね予期していたものであったが、それでも衝撃は消えるわけではない。
 完全敵勢力下での作戦行動だと。支援はあるのか。我々の目となる監視班はいるのか。確認事項は現れては
たちまち消えていく。軽いパニックを起こした頭ではそれを捉えることはできない。

「自分達ですか。自分達がホームランドに出向き、ロリハラハラ・ネルソンを暗殺するのですか」

 果たしてゲオルグの口から出た言葉は動揺を見せ付けるだけに過ぎないものだった。

「そうだ。何か文句でもあるのか」
「いえ、廃民街以外での作戦は初めてですので……」
「だれだって始めてのときはある。言い訳にはならんな」
「申し訳ありません」

 ゲオルグの動揺ゆえの言葉をニークはばっさりと切り捨てる。最終的には不用意な発言をしたゲオルグが謝罪を
する形となった。

「それにこの作戦は他の者では無理だ」」

 下げた頭に降り注ぐ言葉は意外なものだった。驚きとともに顔を上げるとニークの眼差しはいつになく優しい。

「ネルソンは"人民の銃"の兵士によって堅く守られている。だが、お前の班のポープの腕なら、やつらの隙をついて
 狙撃することができるはずだ」

 ポープの"子供達"中でも随一の標的射撃の成績に、ニークは目をつけたようだ。だが喘息もちという身体欠陥
のおかげで、ポープはデリケートな狙撃任務を行ったことはない。

「今回の任務はポープによる狙撃のバックアップだ。これは同じ班のお前達にしかできん仕事だ」」

 頼み込むように、見上げる瞳が穏やかなものに変わる。断ることなどできるはずもない。

「了解しました」

 ゲオルグの返答に、ニークはそれを認めるかのように頬を僅かに緩ませて微笑んだ。
 その後は。これからの日程についての話し合いとなった。

「狙撃地点についてはこれから調査だ。作戦部と情報部がそれぞれ"ホームランド"入りし、情報収集に当たって
 いる。お前達も追って"ホームランド"に潜入し、しばらくは情報部、作戦部の支援を行え」
「了解です」 

 日程では数日後にゲオルグ達も"ホームランド"入りする予定だ。だがその前日がたまたま休日なっていた。
ゲオルグはメモの変わりに心の中でその休日を刻み込んだ。
 全ての情報伝達が終了しゲオルグは退室する。ドアの前で礼をし、その後扉を開けるとニークがゲオルグを
呼び止めた。

「忠義を見せろ。」
「はい」

 返答とともに再度礼をするとゲオルグは扉を閉じた。



「どうしたの、お・に・い・ちゃ・ん」

 突然耳元で妙に艶っぽい言葉が囁かれる。吐息が耳にかかり、背筋にぞくぞくと悪寒が走る。驚きで跳ね上がった
心臓はゲオルグの意識を現在に引き戻した。稼動を始めた思考回路はこの悪戯の犯人について推論を開始する。
 やけに艶かしい声色もそうだが、こんなことする人間は1人しかいない。

「ミシェル」
「気づいた気づいた」

 怒りと共に振り返ればミシェルが愉快そうに笑っていた。何とかしてこの小娘に教育できぬものかとゲオルグは
言葉を走らせる。 

「こういうことをするなと何度もいっただろう」
「だって声かけたのにぜんぜん気づかないんだもん」
「なに」

 思わぬこところを突かれどきりとしたゲオルグは助けを求めるように姉に視線を移した。穏やかに微笑む彼女は
ミシェルの言葉を肯定する。

「ええ、ミシェルが話しかけてもずっとぼんやりとしてたわね」

 退路を断った姉の言葉に、ゲオルグは慌ててミシェルの方を向いた。ミシェルは勝ち誇ったように胸を張る。服装が
身体に張り付くノースリーブハイネックのカットソーのせいか、胸の曲線が強調されてやけに艶かしい。
 ともあれ、悪いのは自分みたいだ。ようやくゲオルグも分が悪い現状を認識した。

「悪かった」

 素直にゲオルグは頭を垂れる。ゲオルグの謝罪にミシェルは破顔すると、ゲオルグの隣に腰を下ろした。

「分かってくれたらそれでいーのよ」

 そのあけっぴろげな言葉にゲオルグはついつい笑みを漏らした。

「しかし、お前がここに来るなんて珍しいな」
「何よ、あたしだってたまには妹達に会いたいときもあるのよ」
「そうか」

 ゲオルグの素直な感想に、ミシェルは不機嫌そうに眉をひそめる。彼女の天邪鬼ぶりにいささか釈然と
しないものを感じながらも、ゲオルグはそこまでで話を打ち切り紅茶をすすった。

「それより、お兄ちゃん、どーせ次の出張のことでも考えてたんでしょ」
「馬鹿、外で仕事の話をするんじゃない」
「いーじゃんいーじゃん、家族なんだからさ」

 外部で"子供達"のことを口にしてはならない。これは"子供達"の機密性を維持するための重要な規程だ。
もっとも、"子供達"には"ブラックシーヒューマンコンサルティング"という隠れ蓑が存在しており、こちらに絡めて
1会社員を装う分には問題は無なかった。しかし規律に厳しいゲオルグはこの規程を厳格以上に解釈をしており、
めったなことでは"ブラックシー"のことも口走らないように心がけていた。
 そんなゲオルグの努力を無視するかのように、ミシェルは仕事のことについて口を走らせる。当然のように
放たれるゲオルグの叱責をミシェルは笑顔で押しつぶした。

「出張?」

 怪訝な顔でイレアナがたずねる。姉の疑問の言葉に、ゲオルグは諦めたとばかりにうなだれると、全ての説明を
ミシェルに放り投げた。

「ちょっとね、廃民街の外でのお仕事が入っちゃったのよ。しばらくは戻れなさそうかなー」
「そうなの、気をつけてね」
「大丈夫よ、お兄ちゃんにポープ、チューダー、ウラジミールにアレックスがいるもの。」

 心配そうな面持ちでイレアナは言う。そんなイレアナにミシェルは元気付けるように笑いかけた。
 そんな朗らかなミシェルとは対照的に、ゲオルグは小さなため息をついた。ミシェルの無事は班長としての義務
のみならず、兄としての責任がある。困難な任務を予想するだけに、ゲオルグの憂いは深まるばかりだ。
 ゲオルグの憂鬱な態度に気づいたミシェルは、そのわき腹を肘で小突いた。

「なによお兄ちゃん。そんなにあたしたち信用ならないの」
「そういうわけじゃない」

 お前たちが心配なんだ。言いそうになった本音をぐっと押さえ込む。気恥ずかしさもあったが、何より無駄な
気苦労をかけさせたくなかったのだ。
 ミシェルに小突かれながらも言葉を濁すゲオルグに助け舟を渡すように、対面で微笑ましげにやり取りを眺めていた
イレアナが言葉を挟んだ。

「違うのよミシェル。ゲオルグはお兄ちゃんでしょ。だから皆に苦労をかけたくないのよ」

 ね、とイレアナはゲオルグの顔を覗き込む。本心を言い当てられた恥ずかしさに、ゲオルグは顔をそらす。
そんなゲオルグの態度にイレアナは微笑むと、ゲオルグに向けて話しかけた。

「でもねゲオルグ、もっと皆を頼ってもいいのよ」

 言い聞かせるように言うイレアナの言葉は兄のプライドを揺るがすものであった。己の根底を揺るがされゲオルグは
逡巡する。だが、己のちんけなプライドなどより姉の言葉のほうが優先度は高い。
 付け加えれば、ミシェルは班の中でも一番信頼がおける人物でもあった。ゲオルグとの年の差は1つだけ。班の人員
の中でも一番長い付き合いだ。兄妹の関係も一番長い。いろいろと煮え湯を飲まされた経験もあるが、少しだけ
寄りかかってもいいのかもしれない。
 考え直したゲオルグはミシェルの方に向き直ると、言った。

「ミシェル、これからいくらか苦労をかけるかもしれんが、頼めるか」
「任しといて」

 胸を張ってミシェルは笑う。その頼もしげな態度にゲオルグもつられるようにして笑った。

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