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ウーパールーパー入館

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ウーパールーパー入館

一瞬、実存世界から剥離されたような奇妙な浮遊感を感じた後、無事に
目的の座標へと到達した。モバイルによって発生した超空間の移動は、何
度経験しても慣れることが出来ない。その代わり、今回は収穫があった。
目標地点にあった物体と私がいる水槽とが丁度入れ替わる形で、移動する
ことが出来たのだ。今後は障害物のある地点への転移も可能となるだろう。
それにしても、ここはどこだろう。どこかの洋館の一室であることは分
かる。食器が収納されている棚や竈などがあるところを見るに、この部屋
は調理場であろうか。木造の趣ある内装ではあるが、一見したところ、何
か特殊な施設であるようには見えない。神格生物との交信により得た支持
であるから、ここに来たことには何らかの意味がある筈だが――。

「あれ? おかしいなあ。師匠、今日はいい魚を仕入れたって言ってたのに」
この館の者であろう。帽子を被った、人の良さそうな青年である。
「魚なんてないじゃないか。この水槽に入ってるのは、どう見ても魚じゃ
ないよなあ」
どうやら、私をすぐにつまみ出そうという気はないらしい。この部屋に
違和感なく溶け込めているようだ。
「……そうか。師匠はあえて無茶な食材を与えることで僕に創作料理を――」
彼は何かに納得した様子で、私の水槽に手をかけた。やれやれ、一時は
どうしてよいか分からなかったが、とにもかくにも事態は動き出したよう
だ。私はひとまず胸をなで下ろした。


―ウーパールーパー・入館―

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