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なかよしハウス第九話

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なかよしハウス第九話

第九話『へげぞさんのうつわ』

 その日の夜、お悩み相談所はいつもと違った不穏な空気で満たされていた。

 格子窓から覗く三日月の前、腕を組んで難しい顔をしているのはへげぞさん。
 Tシャツにジーパンという外見上これといった特徴を持たない彼なのだが、その発想
や思考は箱庭館随一の変わり者である。

「これで1勝1敗だな……」

 挑戦的な眼差しに、困った顔を返すゆゆるちゃん。
 その小さな手に握られているハンドメイド感溢れる紙束の表紙には、干からびたミミズ
みたいな文字で「まじょなぞなぞ」と書かれていた。

「次も正解してやるぞ」
「そ、それではだい3もん――」

 へげぞさんは謎や不思議が大好きな自称小説家であるのだが、ちょうど自作小説の展開
に詰まっていたこともあり、何かネタでもないかとやってきたらしい。

「したはおおかじ、うえはおおみず、なーんだ」
「……またそのタイプか」

 低い呻き声をあげるへげぞさんの表情は、まるで人生の別れ道を選択するかのような、
非常に険しいものだった。
 といっても、このなぞなぞ勝負。別段なにかを賭けているわけでもなく、ゆゆるちゃん
自身もちょっとした気晴らしにと始めたものなので、あまり真剣になるのもどうかという
気がしないでもない。

 しばし眉間を手で押さえたあげく、小さく隙間をつくって鋭い眼光を放つ。

「実とみせて虚、虚とみせて実。俺の記憶に間違いがなければ、風呂でいいはずだ」

「ざんねん、こたえはちきゅう」
「何だと」

 魔女なぞなぞはゆゆるちゃんのお姉さんが作って持たせてくれた、大変に姉妹愛溢れる
ものらしく、その字のへたくそさに相反して非常にスケールが大きいのである。

「そうか、地球か……まるで自分の器を試されているようだな」
「つづけますか」
「当然だ!」

 壁でも殴りつけそうな気迫に押されつつ、ぺらりと紙をめくるゆゆるちゃん。
 ただやっていることは単なるなぞなぞなので、これもまたひとつのコミュニケーション
と言えなくもなく、友達作りにはかかせない要素である。

「それではだい4もん――」


☆ ☆ ☆


 ――こうして静かに繰り広げられる戦いは日付が変わろうとするまでも続けられ、とう
とう魔女なぞなぞも残すところあと2問となっていた。

「だ、だい99もん。めをあいてるとみえなくて、めをとじるとみえるもの、なーんだ」

 しかし、ここまで続けていたへげぞさんも、やはりただものではない。
 ぐっと目を閉じ、顎を擦りながら思考を巡らす。

「……アフィン空間か?」

「せ、せいかい……」
「ふん、これで49勝50敗だな」

 一体どこをどうしたらそんな回答に結びつくのかは分からないが、この魔女なぞなぞに
対し正解率5割を叩き出すその頭脳は、恐るべきものとしか言いようがない。


「どうした、続けてくれ。次で最後だろう?」

 窓の外で、薄いグレーの雲がゆっくりと三日月を覆いはじめる。
 かた、という音に顔を向けたへげぞさんの目には、ついに椅子に座ったまま首を落とし、
すやすやと寝息を立てるゆゆるちゃんの姿があった。

「寝てしまったのか」

 へげぞさんは残念そうにため息をつき、一度伸びをしたあとゆゆるちゃんをそっと抱え
上げてベッドに降ろした。

「さすがの魔女も睡魔には勝てんのだな……」

 ぱちんと電気を消すと、ぼんやりと柔らかい月明かりに染められる寝顔。
 それを少しの間だけ見つめ、床の上に散らばっていた魔女なぞなぞを拾い集める。

「しかし、俺もまた器を広げることに囚われ、その枠の外へは目がいかなんだか。いくら
大きな器を有していようとも、中にしか目を向けられなければ、それもまた小さなこと」

 最後に取り上げた一枚の紙には相変わらずのヘタクソな文字で、こう書かれていた。


 ――だい100もん

   ちいさなふたばにお馬さん もひとつふたばにお馬さん
   四つの葉っぱがくっついて ふんだらだめだよお馬さん――


 穏やかな笑いをこぼしながら、まとめた魔女なぞなぞを枕元へと置く。

「謎は謎のままであったほうが良い時もある。これで俺の負け……いや、部屋でゆっくり
考えさせてもらうとするか」

 すっと閉じられた扉の軽い金属音と共に、ゆゆるちゃんもまた夢の中へと包まれていく。
その安らかな寝顔の胸には6つ目の友情認定バッジが、暖かく優しい光を放っていた。



つづく

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