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戦闘力B

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戦闘力B

ジークフリードは荷物を部屋に片付けると、ベッドに腰を落ち着けた。
窓から見える景色が、異国の情緒を感じさせる。
箱庭館は時代を感じさせる外観だったが、部屋は綺麗に掃除が行き届いていた。
幾人かの宿泊客も見受けられた。そこそこに繁盛はしているらしい。
フカフカのベッドの心地良さをごろごろと感じていると、ノックの音がした。
ドアを開けると自分の姉、ジークリンデが立っていた。

「どうしたの、お姉ちゃん」

「出かけるわよ、ジーク」

「……これから? もう夕方だし、明日にしない?」

「なに言ってんの、だからいいんじゃない」

呆れた顔でジークリンデは、弟の腕を引っ張った。
こらえきれずにジークフリードは廊下へと引っ張り出される。
そのままズンズンと、弟の腕を掴んで歩き出していく。

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、どこ行くの?」

困惑するジークフリードが解放されたのは、箱庭館を出て一つの施設へと着いた時だった。
時代を感じさせる木の看板に『泉温庭箱』と描かれてある。
状況をまだ理解できてないジークフリードに向かって、凄いでしょ? と言いたげに
ジークリンデがエッヘン、と胸を張る。

「温泉?」

「そ、温泉。アンタだって疲れを癒したいでしょ?」

「そうだけど、あそこにもあったんじゃないの?」

「あんな何所にでもある便所風呂なんて、入る気が起こらないわ」

(便所風呂じゃなくて、ユニットバスだよお姉ちゃん……)

「やっぱり旅先では情緒溢れる物がいいわよねー。で、管理人に聞いたらここを教えてくれたの。
 景色見れる風呂もあるらしいわよ」

なるほど、姉らしい。
まあこういうのも悪くは無い。
それでは、と姉と一緒に暖簾をくぐろうとしたジークフリードを、
ジークリンデが怪訝な顔をして見つめた。

「どうしたのお姉ちゃん」

「どうしたのって……アンタはあっちよ」

姉が指差した先には、同じ様な入り口があった。
青地の暖簾には白抜きで「男」と書かれている。
ふと目を戻し上を見上げると、こちらの暖簾には「女」と書かれてある。

「ひょっとして、僕一人で入るの?」

「当然じゃない、まさかアンタ此処にきて他の女性を視姦する気? このder HENTAI、
 我が弟ながら情けないわ。さぞかしお父様も嘆くのだわ」

「ち、ち、ち、違うよ! ただ僕、こんな場所初めてだから……」

「ただ湯に漬かるだけでしょ? 30分ぐらいしたらまた落ち合いましょう」

弟の狼狽を気にも留めず、姉はさっさと中へ入って行った。
後にはポツンと一人、ジークフリードが残される。

「……まったくもう、強引なんだから」

しばらく思案にくれていたが、どうという考えも浮かんでは来ない。
陽は落ちてだんだんと風も寒くなってくる。
ぶるると、ジークフリードは身震いをした。
このままでは風邪を引きそうだ。旅先早々で寝込むとは面白くも無い。
しょうがない、と意を決して中に入る事にした。

中には様々な人がいた。自分よりはるかに年配の人もいる。
各々湯に浸かったり身体を洗ったりしている。
その中をおずおずとジークフリードは進んでいた。
温泉という施設は知ってはいたが、何しろ勝手がわからない。
とりあえず人気の無いところでゆっくりとしたかった。
辺りを見回すと、ふと、一つの湯船が目に止まった。
側の看板には盛背之湯とある。結構な広さの露天風呂だが、湯船には誰もいない。
足の先を入れてみるが、なかなかの湯加減だ。
ジークフリードはこの湯に浸かることにした。
肩口まで湯の中に入ると思わずフゥ、と声が出る。
頭上を見上げると、一番星が輝いていた。
思えば遠くに来たものだ。
旅路の疲れが湯の温かさによって癒される。
頬を撫でる夜風が心地良かった。

「……まあ、こういうのもいいよね」

ずぶずぶと首筋まで浸かり、またため息を洩らした。
両腕で顔を撫でる。
ジークフリードはこれからの事に思いを馳せてみた。
色々と不安を感じるが、日本は治安の良い所と聞く。
大丈夫とは思うが、やはり一抹の心配を感じる。

「お姉ちゃんならどうするかな……」

姉ならどんな所だろうと自分を見失わないだろう。
きっと悪態をつきながらジークフリードを嘲るのだ。
そういう時は、少々姉の性格が羨ましくもある。
しばし思案にくれながら、ジークフリードは湯加減を愉しんだ。

どれほど時間が経ったであろうか。
ふと、備え付けの柱時計をみると大分時間が過ぎている。
そろそろジークリンデと会う時間だ。
ジークフリードは湯からあがる事にした。

「……あれ? あれれ?」

ジークリンデは先に外にでてジークフリードを待っていた。
ガラガラと戸が開き、ジークフリードが出てくる。
姉の姿を見ると、とことこと近づいてくる。

「お姉ちゃん……」

長湯したのかその頬は上気している。
もじもじと、落ち着き無く両手を動かしていた。

「ああジーク、どうだった? 露天風呂もいいものでしょう?」

「あ、うん、お姉ちゃん……あのね」

「ここにいると湯冷めしちゃうわ、さっさと戻りましょう」

「あ、あのお姉ちゃん、その、あの―――」

何か言いたそうなジークフリードを無視し、ジークリンデは腕を掴んで帰ろうとする。
そのままずんずんと帰路につき箱庭館へとやってきた。
中で管理人が二人を出迎える。

「よう、お嬢ちゃん。どうだった?」

「なかなかだったわ」

「そうかい、そりゃよかった。じゃあこれをどうぞ」

そういって二人に服を渡す。

「何かしらこれ?」

「これは浴衣という日本の服さ。宿泊するならこれを着るのが仁義さ」

「JINGI? よくわからないけど、しきたりなら仕方ないわね」

ジークリンデはさっそく受け取り、部屋へと戻ろうとする。
その後ろから、ジークフリードが声をかける。

「あ、あのお姉ちゃん、あのね」

「どうしたの、ジーク? そういえばさっきから何か言いたそうだったわね」

「う、うん……僕、おかしくなっちゃった」

「頭が?」

「そうじゃなくて……」

ジークフリードは服のボタンをはずし始めた。
上着をはだけ、ジークリンデの手をとって自分の胸へと押しやる。

「……え!?」

その感触に、ジークリンデは驚いて目を開いた。

ジークリンデの手に柔らかい感触が触れた。
わさわさと手を動かしてみる。

「お、お姉ちゃん。ちょ、ちょっと……」

「こ、これは一体?」

ジークフリードの胸は、少しばかり控えめに膨らんでいた。
そう、まるで女性の胸のように。

「知らなかったわ……弟と思っていたのが、妹だったなんて……
 ジークリンデ一生の不覚だわ」

「ぼ、僕はれっきとした男だよ!」

「じゃあこれは何なの!?」

むにゅ、とジークリンデは胸を揉んだ。
その感触にジークフリードは身悶えした。

「あ、ちょ、お姉ちゃん」

「しかも私より……ジーク、瘤取り爺さんて話は知ってるかしら」

ぎゅう、とジークリンデの手に力がこもる。
その強さにジークフリードはたまらず悲鳴をあげた。

「イ、イタッ! 痛いよお姉ちゃん!」

「おだまりなさい、抜け駆け野郎!」

喧々囂々とする二人に、管理人が割って入った。

「まあまあお二人さん、きっと坊ちゃんはあそこの盛背銭湯に入ったんだな」

「盛背銭湯? なにそれ」

「あ、僕入りました」

「その湯には老若男女問わず、胸を膨らます効果があってな。まあ坊ちゃんはまだ
 子供だから、効果が薄れたんだなきっと」

(だから誰も入ってなかったのか……)

ジークフリードは目の前が真っ暗なった気がした。
自分はいったいどうなるのだろうか。

「あなた、知ってるのに教えないで案内したわけ?」

ジークリンデは怒りを露にして、つかつかと管理人に歩み寄る。

「おいおい、落ち着けよ」

「これが落ち着いていられるの? 弟をこんな目にあわせて只じゃおかないのだわ。
 どうやって責任を取るつもり?」

「責任だ何てそんな―――」

倉刀が夕涼みにロビーに降りると、言い争う声が聞こえた。
カウンターに近づいてみると、管理人が少女から罵倒を浴びせられている。

(……師匠?)

一瞬、ハルトシュラーと見間違えたがよくよくみると違う。
第一トレードマークであるカチューシャをつけていない。
それに、あんなきつそうな雰囲気を漂わせてはいない。
少女の身体には不釣合いな、落ち着いた雰囲気をかもし出している筈だ。
もっとも、口から出る言葉は辛辣だが。
おそらく、またあの管理人が何かやらかしたのだろう。
倉刀は騒ぎの場所へと近づいた。

「いったい、何の騒ぎですか?」

突然に声をかけられ、少女はハッと振り向いた。
アナタ誰? といった表情をする。

「ああ、僕のは倉刀 作。ここに滞在している宿泊客さ」

「そう、私の名前はジークリンデ・ハルトシュラー。そしてこっちにいるのが弟の
 ジークフリード・ハルトシュラーよ」

(ハルトシュラー?)

奇しくも師匠と同じ名。
何か縁でもあるのだろうか。
師匠との関係を聞きたかったが、騒動とは無関係だ。
第一、この子達と倉刀は初対面である。

「これはご丁寧にどうも」

「そして俺が、箱庭館の管理人さ」

「アンタには聞いていない」

軽く聞き流し、倉刀はジークリンデに尋ねた。

「それで、何を言い争ってたんですか?」

「実は―――」

ジークリンデが手振りを交えて倉刀にこれまでの経緯を説明した。
すでにジークフリードは涙目だ。
詳細を聞き終え、がっくりと倉刀はうなだれた。

「アンタ、僕以外にも懲りずにやってたのか……」

「ハハ、細かい事は気にするな兄弟」

「あー、うん、喋るな。……え、と、ジークフリード君だったね」

「はい」

「一日だけなら、数日あの湯に入らないでいたら元に戻るよ」

「本当ですか!」

「うん。僕の場合はもっと胸が大きくなったけど、三日で元にもどったよ。
 それ以上入っていたらヤバかっただろうけどね」

「俺はそれでも構わないんだぜ?」

「アンタには聞いていない」

倉刀の言葉を聞いて、ジークリンデとジークフリードは安堵した。

「よかったわね、ジーク」

「うん、よかったよお姉ちゃん」

「じゃ、もう寝ましょうか」

部屋へときびすを返すジークリンデの手を、ジークフリードが掴む。

「……今度は何?」

「あの……治るまで、ううん。できれば一晩だけでもいいから一緒にいてくれないかな」

「はあ? なんで?」

「大丈夫だと思うけど、心細くて……駄目かな」

「駄目に決まってるでしょ」

あっけらかんとジークリンデは言い放った。

「婚前の娘が殿方と一緒の閨を共にするのはいけないのだわ、たとえ姉弟だろうと。
 話を聞いたでしょう? 治るんだからしっかりなさい」

それを聞いてジークフリードは顔を曇らせた。

「まあ、異国の地でこんな事があって不安なんだね。よかったら僕が寝るまで側にいようか」

「あなたが?」

「小さい頃は子供のお守りをした事もあってね。まあ初対面だから断られてもしょうがないけどね」

ジークリンデはまじまじと倉刀を見つめた。
のほほんとした雰囲気だ。すくなくとも悪い人には見えない。
仲裁にやってきたのも、根がおせっかい焼きなのだろう。
それにわざわざ、滞在している宿で揉め事を起こすとは思えない。
ジークリンデはしばし考え、ジークフリードに尋ねた。

「だって、どうする? ジーク」

ジークフリードと倉刀は、浴衣に着替えて部屋にいた。
しばしの間ジークフリードは悩んでいたが、結局倉刀の案をうける事にしたのだ。
ジークフリードは人見知りをしていたが、やがて似たような境遇に親近感を覚え、
しだいに倉刀と打ち解けていった。

「そうですか、そんな事があったんですか」

「うん、あん時は師匠の突拍子の無い言動にビックリしてね」

「あはは、僕もお姉ちゃんの行動に振り回されてですね」

部屋で小腹を満たしながら会話を交わす。
そんな事を続けていると、ジークフリードが欠伸をかみ殺した。

「ああ、ねむくなって来た?」

「……はい。すみません」

「謝る事ないよ、色々あったからね」

少年の身には旅路は疲れるものであろう。
ましてや、こんな事があったのだ。気が抜けるのも無理はない。
少年に眠るように促し、倉刀は部屋を出ようとした。

「まって下さい……倉刀、さん」

「なんだい?」

「その、あの、初対面の人に頼むのもどうかと思いますが、一緒に寝てくれますか?
 姉にも呆れられますが、生来の怖がりなものですから……」

「はは、そんな事か」

倉刀は明るく笑った。まだ親と離れたくない年齢だ。
人恋しくなるのも無理はない。
人助けは師匠も無言で推奨するだろう。

「ちょっとベッドが狭くなるけど、いいかな?」

「ええ、構いませんよ」

倉刀は、ジークフリードに付き合ってやることにした。

すうすうと、背中越しに寝息が聞こえる。
どうやらジークフリードは寝入ったようだ。
自分も寝入るまで、倉刀は考え事をすることにした。
ジークリンデとジークフリード、対照的な二人。
そして師匠と同じ、ハルトシュラーという姓。
師匠か二人にその事を聞きたかったが、はたして喋ってくれるだろうか?

(まあ、いいか)

どのみちこの箱庭館に同じく滞在してるんだ。
顔を合わせれば、おのずとわかる事だろう。

「それに、世間じゃあ似たような人は三人いるっていうしな」

姓の件も、日本の鈴木や佐藤といったような感じなのだろう。
あまり気にする事ではない。
そう思い直し、倉刀は肩口にシーツをかけなおした。

「う……ん……」

倉刀が動いたのにあわせて、ジークフリードも寝返りをうった。
倉刀の背に、ジークフリードの胸の感触があたる。
温かい、子供特有の体温を感じさせる。
両手が間で押さえつけられるのか、ジークフリードは無意識に手を伸ばし
倉刀の脇から前へと腕をまわす。
背中越しに抱きつくような格好になった。
さらに胸の感触が強くなった。

ぷに。

そんな音が倉刀に聞こえた気がした。
実際には幻聴であろう。
なぜなら、その音は背中に押し付けられた胸から聞こえてきたのだから。
少女の未発達な乳房。
それが背中を通じ、倉刀の心臓を鷲掴みにする。
師匠に従っての修行の毎日である。
そのような倉刀に、女の性は激しく心を動かすものであった。

(―――女、いやいや待て。相手は少年だぞ、少年。落ち着け倉刀)

大きく深呼吸をする。
相手は少年、自分は何を考えているのだろうか。
倉刀は自分の不明さを恥じた。
そんな倉刀を戒めるかのように、ジークフリードの両腕が締まる。
まだ筋肉がついていない、少年の腕。
そして背中越しに感じる、ちんまりと自己主張している胸。

ふに。

その柔らかさと温かさが、倉刀の身体を駆け巡った。
倉刀は思わず、身を硬くした。

(揺れるな俺の心、揺れるな俺の心、相手は少年、しかも俺を慕ってきたのだぞ!
 落ち着け、素数を考えて落ち着くんだ、素数は1とその数字でしか割れない孤独な数字
 僕に力を与えてくれる―――)

「うん……」

ジークフリードが身悶えし、倉刀の背中に頬擦りするような格好になった。
倉刀は身震いをした。

(落ち着け、落ち着け、素数を考えろ―――2、4、6、8、10、12……)

それから三日三晩、ジークフリードに請われ、倉刀は眠れぬ夜を過ごした。
倉刀の姿をみたハルトは、こう呟いたという。

「漢の顔になったな、倉刀」

倉刀は乾いた笑みを浮かべてこう返したという。

「士、三日会わざれば克目して見よですよ、師匠」

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