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なかよしハウス第七話

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なかよしハウス第七話

第七話『きおくちゃんのおもいで』

 紺色の空に星が輝く夜。さらさら流れる川を見下ろす橋の上に、とことこぺたぺた歩く
二人の少女の姿があった。

「ごめんね、ゆゆるちゃん。急に無理言っちゃって」
「おかまいなく」

 ゆゆるちゃんの隣で小さなお風呂桶を抱えているのは、だいぶ前から箱庭館で生活して
いる「記憶喪失した少女」ちゃん。
 視線を落として、ちらちらとゆゆるちゃんの顔色を伺いながら続ける。

「うらやましいなって思ってたの。私よりもあとに来たのにたくさん友達つくれて……」
「そう?」

 誇らしげに謙遜するゆゆるちゃんに苦笑いしつつ、足を進める記憶ちゃん。

「だから私もみんなと仲良くできるように頑張ろうって、それで誘ったの」

 人の少なくなった商店街を横切り、ひんやり冷えた路地を進む。
 近づいてくる古ぼけた照明に「背盛銭湯」の文字がぼんやりと浮かんでいた。

「ここに入るとね、少しのあいだだけ、おっぱい大きくなるんだって」
「おっぱいとともだちと、どういうかんけいが……」

 ゆゆるちゃんは魔女なので大概の不思議なことは華麗にスルーしてしまうのだが、稀に
こうした突っ込みを入れることもあり、大変空気の読める魔女だと言える。
 とは言え、二人の共通事項として大人に憧れているという気持ちがあるのは確かであり、
また、この年頃の少女にとって秘密を共有するというのは何にも代えがたい友情の証なの
かもしれない。

「いやだったかな……」
「い、いやじゃないけど」
「じゃあ行こう!」

 ぐいぐい手を引っ張られながらたどり着いたのは、もうもうと湯気の立ち込める立派な
天然岩の露天風呂だった。

「こっちこっちー」

 ゆゆるちゃんは大の風呂嫌いであり、4年間風呂に入らなかったという輝かしい過去を
持っているのだが、そのへんは魔女スレまとめでも読んでもらうことにして、なかなかに
足が進まない。
 しかしそれを気にせず、ちゃぷんとお湯につかった記憶ちゃんが驚きの声をあげた。

「すごーい! ゆゆるちゃんもはやく!」
「よ、よーし! いくぞー」

 えいやとゆゆるちゃんがお湯に飛び込むと、たくさんの湯気と飛沫が飛び散り、湯面に
はぶくぶくと泡が上がる。
 少しの間を置いて、ふたたびざばんと立ち上がったのは――

「え?」

 驚きに口をふさぐ記憶ちゃんの前に、すらりと伸びる白く長い足。
 ちょうどよく膨らんだお尻の上には、くびれたウエストとふんわり丸い胸。

「ゆ、ゆゆるちゃん?」

 その頭の上では髪が短く結わえられ、おでこの上では前髪が綺麗に切り揃っている。

「あ、あれ? ゆゆるおかしくなった」

 それはすっかり可憐な女性の姿に成長した、ゆゆるちゃんの姿だった。
 ゆゆるちゃんは魔女なので、胸が大きくなるという背盛銭湯の効能が何かしらの過剰な
効果をもたらしたとしても全く不思議ではないのである。

「あはは! ゆゆるちゃんってば大人になっちゃった! なんでー!」
「なんでとゆわれても……」
「これじゃ『ゆゆるさん』だね! ちょっといろいろ見せてー!」

 ということで、これ以上の描写はゆゆるさん自身のキャラクターを損壊してしまいかね
ないので省略し、やがて背盛銭湯から出てきたのは、手をつないで歩く記憶ちゃんとゆゆ
るさんであった。その二人の歩く姿はどこか、仲の良い姉妹のようにも見える。

「なかなか直らないねー、私もう戻っちゃったのに」
「ずっとこのままだったら、どうしよう……」

 手を振り解いて数歩先を走った記憶ちゃんが、ゆゆるさんに振り返る。

「いーじゃん別に。でも大人になっちゃうとはねー!」
「このことは、ごないみつに……」

 ぷっと吹き出す記憶ちゃんの顔はなんだかとても楽しそうで、それは来るときに見せて
いた不安な表情など思い出せないぐらいに明るいものだった。

「私ね、どうして箱庭館にいるのか分からないの」

 再び前を向いて歩き出す記憶ちゃんが、思い立ったように口を開く。

「自分の名前も思い出せないし、お父さんのことも、お母さんのことだって」

 橋の上で足を止め、欄干へと手を伸ばす。
 川の流れは静かに夜の闇へと吸い込まれていた。

「私のことなんか、誰も分かってくれないって。いつも泣いてた」

 後ろから包み込むように手を重ねたゆゆるさんの腕に、顔をそっと埋める。

「でも、今日はなんだか楽しかった。過去を思い出そうとすることよりも、これから楽し
い思い出をたくさん作らなくちゃね」
「きおくちゃん……」

 微笑んだ記憶ちゃんが、すっと息を吸い込むと、口に手を添えて大きな声を出した。

「みなさーん! ゆゆるちゃんは温泉に入るとー! 大人の身体にー!」
「ちょ、ちょっと、やめてー」

 笑いながら走って逃げる記憶ちゃんを追いかけるのは、ようやく元の姿に戻ったゆゆる
ちゃん。箱庭館へ伸びる細い道に、賑やかな二人の笑い声が響き渡る。

「まてー」
「やーだよーだ」

 ぺたぺたと走るその胸には、4つめの友達バッジ輝いていた。



つづく

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