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なかよしハウス第六話

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なかよしハウス第六話

なかよしハウス第六話『えーりひくんのぽりしー(激突!不乱不編)』

 南国島に着陸したエーリヒくんは、メッサーシュミットからひらりと飛び降りるや否や、
わき目もふらずに走り出し、続けて到着したゆゆるちゃんもぺたぺたとその後を追う。
 二人が目指しているのは、岡の上に見えている南国フルーツの木だ。

 先を走るエーリヒくんが、ばさばさと特攻服を揺らしながら気迫に顔を歪める。

「“友情(キズナ)”って奴は、交えた“拳”の果てにあるもんなのさ……」
「“!?”」

 するとゆゆるちゃんの切り揃った前髪の下に、ごちんと何かが当たった。

「あいた!」

 おでこをさすりながらひょいと取り上げたのは、具現化した「!?」マークである。
 エーリヒくんは大変に気合の入った不良なので、その気迫が不思議な現象を巻き起こし
てもなんら問題はないのだ。

「魔法なんて“甘味的(あまっちょろい)”モンで俺に張り合うなんざ、十年はえェ」
「“!?”」

 次々と繰り出される「!?」マークを避けながら、ぺたぺたと走るゆゆるちゃんの目に
は、悔しさから涙が浮かびはじめ、口はぎゅっと結ばれている。

 ばさばさ、ぺたぺたと走る音が風となり、ついにたどり着いた南国フルーツの木の下で、
エーリヒくんが何故か不意に足を止めた――

 しばしの間を持って追いついたゆゆるちゃんも、丘の先に広がる光景に息を呑む。

「“!?”」

「こ、こいつは一体?」

 何とそこには、鉄パイプや木刀を持った数十人の不良たちがたむろしていたのだ。
 所々に停められた華美な戦闘機とトリコロールカラーの旗には「不乱不」と書き綴られ
ている。

「誰かと思えば八代目“毒威突”の“頭”エーリヒくんじゃん」
「ヒョオ! “熱愛(おあつい)”ねえ、お二人さん」

「何故ここに……」

 にじり寄る不良たちに対して、くぐもった声が響く。どうやら「不乱不(フランス)」
とは、エーリヒくんの所属する「毒威突(ドイツ)」の敵対組織であるらしい。

「とある親切な方が教えてくれたのさ。あん時の恨み、晴らさせて貰うぜ」
「ああ? デタラメ言ってんじゃネーゾ?」

“ビキビキッ”

 詳しい経緯は学園島スレを見ていただくことにして、とにかく穏やかならぬ因縁がある
らしく、エーリヒくんは呆れたように肩を落とすと、首をゴキゴキ鳴らしながら、ゆゆる
ちゃんをちらりと覗いた。

「悪ィなチビ助、ヤボ用が出来ちまった。この勝負、お前に譲るぜ……」

 そう言って特攻服をはだけながら、手にしていたフルーツをぽんと手渡す。
 唐突な展開ではあるのだが、こうなってくるとエーリヒくんが大変に勇ましく見えてく
るのが不思議と言えなくもない。

 しかしそんな見せ場をよそに、ゆゆるちゃんはふんだくるようにそれを奪うと、さっさ
と飛行機の方へ走り去ってしまうのであった。今までバカにされていたことで大変ご立腹
のようである。

「いけすかねえガキだが、あれでも“覇虎弐倭漢(はこにわかん)”の大事なメンツ。俺
一人のゴタゴタに巻き込んじまっちゃあ“漢(おとこ)”がすたるってモンよ」

 遠ざかるゆゆるちゃんの背中をしばし見つめ、エーリヒくんは不良たちへと向き直った。

「“!?”」

「それに喧嘩って奴ァ“拳”で決めるもんなのさ。こっから先は誰一人通しゃしねえぜ!」
「上等だゴルァ!」

 ――南国島の丘の上、“漢共(おとこたち)”の怒号と血飛沫が舞い上がった。


☆ ☆ ☆


「もー、わけがわからない。ゆゆる、あんなともだちいらない」

 息を弾ませながらロマンスフラワー号へ到着したゆゆるちゃんが、ふと胸のバッジに目
を落とすと、果たして一体どうしたことなのか、そこには既に3つ目の友達認定バッジが
光を放っているのだった。

 ――そう、エーリヒくんはこれまでの戦いの中でゆゆるちゃんの頑張りっぷりを認めて
おり、それは箱庭館の一員で、守らねばならない“仲間”だと認識していたからに他なら
ない。

「き、きずなとは……」

 見上げた丘の上には、黒い人だかりに囲まれる一人の「友達」が居た。

「まじえたこぶしのさきに、あるもの……」


☆ ☆ ☆


“ゴッシャァァア”

 血煙を巻き上げながら、一人の不良が宙に舞う。

「クソッ! こいつ“怪物(バケモン)”か!」
「“驚愕(ビッ)”てんじゃネーゾ! 全員で一気に押しちまえ!」

 肩で息をするエーリヒくんの周りには、既に何人もの不良たちが倒れていた。どうやら
彼はその憎みきれないキャラクターとは裏腹に、とんでもない力を秘めているようである。

「俺は八代目“毒威突”の頭……そして“覇虎弐倭漢”メンツの一人、エーリヒ様よ……」

 しかし次々に現れる不良たちの攻撃の前、その顔は苦悶に歪み、ついにがくりと膝を付
いてしまった。

「倒れたぞ! やっちまえ!」

 走り迫ってくる大勢の影に、諦めにも似た笑顔を作るエーリヒくん。

「……どうやらこいつが俺の“大往生(ラストギグ)”になりそうだぜ……」

 ゆっくり閉じる瞳に映ったのは――後方で吹き飛ばされる数名の不良たちだった。

「何だ、ありゃあ!」
「魔導兵器か!」

「“!?”」

 がしゃん、がしゃんと金属の足が地面が揺らし、伸びる腕が不良たちをなぎ払う。
 それはあのロマンスフラワー号の雄姿であった。

「チ、チビ助!」
「てめーら! あんまちょーしくれてっと、みんちにしちまうぞ!」

 口の端をにやりと曲げ、震える膝を押さえながら立ち上がるエーリヒくん。その姿は、
もう誰が何と言おうが“真打(イカスヒーロー)”なのである。

「お前の“拳”見せてもらったぜ! とことんやってやろうじゃねえか!」


☆ ☆ ☆


 戦いの果て――
 ついに数十人の不良たちを討ち倒し、向かい合う二人の姿があった。

「チビ助、背中出しな」

 黙ってこくりと頷いて、小さな背中を向けるゆゆるちゃん。
 エーリヒくんの手には、一体どこから取り出したのか巨大な筆が握られており、それを
ばしゃりとローブへ付けると、こう綴った。

 ――“遊”(あそび)
 ――“憂”(うれい)
 ――“流”(ながされる)

 ――“遊憂流”(ゆゆる)

 夕暮れの南国島。折り重なった不良たちの“瓦礫”の上で、拳を付き合わせる二つの影
が夕日に照らされていた。



つづく

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