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なかよしハウス第五話

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なかよしハウス第五話

なかよしハウス第五話『えーりひくんのぽりしー(疾風!毒威突編)』

 澄み広がった青空に、白い煙がぱんぱんとはじけて形を残す。
 その小さな塊をかき消すように、大きな声が響き渡った。

「それではこれより、第一回箱庭館、親睦ヒコーキレースを行います!」

 小さなマイクをもった管理人さんに向けられて、わーわーぱちぱちとささやかな歓声が
巻き起こる。
 芝生の上に広げられたビニールシートで住民の方たちが期待に胸を躍らせる中、ヒート
アップした解説はさらに続いた。

「では早速、今回の選手を発表いたします! まずはこのイベントの発案者である、自称
『蒼い韋駄天』エーリヒくんと、愛機メッサーシュミット!」

 ――そう、じつはこの親睦イベント、新参であるゆゆるちゃんを懲らしめてやろうと、
エーリヒくんが企てた策略なのだ。

 ぶろろんと音を響かせながら現れたのは、派手な装飾とエアロパーツに身を包む戦闘機。
鋼色の機体には「毒威突」と大きく書き綴られており、コックピットではエーリヒくんが
不適な笑みを浮かべている。

「そこらの“通常(シャバ)”い機体と一緒にすんじゃねーゾ……」

「“!?”」

「対しましては、箱庭館のニューカマー! 正体不明の『ゆるやか魔女』ゆゆるちゃんと、
愛機ロマンスフラワー号!」

 続いて現れたのは、時代錯誤もいいところなピンク色の小型複葉機。先端に取り付けら
れたプロペラなどは花びらのようになっており、エーリヒくんの愛機と比べてしまうと、
非常にがっかりなデザインと言わざるを得ない。

「ゆゆるがんばるー」

 首に下げていたゴーグルを颯爽と構えると、頭の上で結わえた髪もぴんと立ち上がる。

「遥か南の洋上に浮かぶ孤島「南国島」のフルーツを先に持ち帰った方が勝者! なお、
勝った方には本日のおやつ『りんごクリームサンドイッチ』が一つ多めに与えられます!
それでは位置について!」

 ざわめく住民の方たちをよそに、ぱーんと鳴らされる空砲。同時にジェット噴射で飛び
立つエーリヒくん。一方ゆゆるちゃんはというと何故か急いで機体から飛び降り、花びら
のプロペラを一生懸命に回しているところである。

「なんでいっつもこうなのー」

 ゆゆるちゃんは魔女なので不思議な道具や機械をたくさん持っているのだが、その概ね
がポンコツであり、大変にたよりないのだ。

「ゆゆるちゃん頑張れー」
「追いつけなくなるぞー」

 飛び交う声援の中、からからとプロペラは回り始め、勇ましく敬礼したあとに操縦席へ
と乗り込むゆゆるちゃん。
 力をこめてペダルを踏み抜くと、強烈な衝撃波を伴って、乾いた破裂音が鳴り響いた。
 それはいわゆるソニックブーム。音速を超えた証であり、顔を覆う住民たちが顔を上げ
た時には、ロマンスフラワー号は空の彼方で光となっていた。

☆ ☆ ☆

 にしても、硬派一徹のエーリヒくんが「りんごクリームサンドイッチ」を賭けて勝負を
挑むとは、どうも腑に落ちない。一体何のつもりなのだろう?

「甘えなぁ、勝負ってのはそうじゃねえ。報酬よりも結果が全て。あのチビ助にどっちが
“強者(ツエー)”か“調教(おしえ)”てやんのよ……」

 一体誰に向かって説明してくれてるのかは分からないが、このエーリヒくん。なにやら
ただものではない気迫を放っている。

「“!?”」

 と、その時。メッサーシュミットの目の前に現れたのは、初期加速を終えたロマンスフ
ラワー号の可愛らしいお尻であった。

「やるじゃねえかチビ助! これでも“喰らい”な!」

 エーリヒくんが操縦桿のトリガーを引くと機関銃がばりばりと発射され、ピンクの機体
を威嚇しはじめる。

「わ、あぶない」
「何人たりとも、俺の前は走らせねぇ……」

 たまらず高度を下げて前を譲ったゆゆるちゃんなのだが、実は非常に怒りっぽい一面を
もっており、頭の上で結わえた髪がめらめらと炎のようにゆらめきだした。

「ゆゆる、ゆるさないんだから!」

 迫りくる雲に目を細めながら「こうげき」ボタンをぽちんと押すと、ロマンスフラワー
号の胴体からにょきにょきと腕が生え、なんとその手にはハンドガンが握られている。

「“!?”」

 ぱんぱんと発射されるピンクの弾丸に、これはゆゆるちゃんが一枚上手かと思いきや、
伸びた腕は空気抵抗に耐えられず、後ろにむかってバンザイ状態になってしまった。

「あーんもう、やくたたずー」
「ハハッ! こいつは“哂(わら)”えるぜ!」

 ぎゅーんと加速する「毒威突」のエンブレム、それを追うロマンスフラワー号。
 水平線の彼方に見えた南国島に向かって、二つの機体が白い筋を伸ばしていく――

☆ ☆ ☆

 さてさて、一方こちら箱庭館では、二人の帰りを待ちつつも、のどかなティーパーティ
が催されているところである。

「どっちが先に戻るかなあ?」
「エーリヒ殿も気合が入っているからな」
「しかし、ゆゆるって子もあなどれんぞ!」

 わいわいがやがやと予想を楽しむ住民たちの声の中――

「まあ、二人とも戻らないという可能性もありますけどね……」

 ふっと空を見上げたフェアリーテールさんの冷たい言葉が、静寂を呼んだ。



『えーりひくんのぽりしー(激突!不乱不編)』へつづく

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