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なかよしハウス第四話

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なかよしハウス第四話

第四話『はるとさんのぷらいど』

 次の日の朝、ちゅんちゅんと鳴く小鳥の声に目を覚ましたゆゆるちゃんは、ベッドから
飛び起きると早速部屋のドアノブに「営業中」プレートを掲げた。
 実はこれ、友達になってくれた倉刀くんが作ってくれたもので、小さな木の板に立派な
文字でその旨が書かれており、大変に素晴らしい出来である。

「これでよしと」

 ぱんぱんと手をはたくと部屋に戻り、ぼんやりと外の景色を長めながら待つこと数時間。
こつこつとドアを叩く音に続いて現れたのは箱庭館の重鎮、ハルトシュラーさんだった。

「邪魔するぞ」
「ゆゆるのおなやみそうだんじょへようこそ」

 ハルトシュラーさんは年端もいかない少女の風貌であるのだが、何やら荘厳なオーラを
纏っており、さらに言うと倉刀くんのお師匠様でもあるらしい。
 謎の経歴と相まって神秘的に輝く銀色の髪を揺らしながら、小さな布袋をゆゆるちゃん
の目の前に突きつける。

「倉刀の部屋でこのようなものを見つけてな」
「あ」

 それはホメオスタシスの種であった。
 いぶかしげな眼差しを向けるハルトさんに対し、ゆゆるちゃんはぽかんと開けた口を片
手で隠すという、もう言葉などいらずして「しまった」的な表情であり、こうなってしま
うと言い訳は不可能である。

「ご、ごめんなさい……」
「よいよい、責めに来た訳ではないのだ。それにしても人の悩みを糧に育つ植物など、不
思議なものをもっている」

 さすがはハルトさんといった所、その効果のほどまでお見通しのようだ。
 布袋を手渡したハルトさんは、用意されていた来客用のイスに静かに座って続ける。

「先日の事件。倉刀があのように壮大な悩みを抱えているとは知らず、師匠としても考え
させられるものがあったのだ。どうも私の考えや教えというものは、受け手によって曲解
されてしまうことが多分にあるらしい」

 ため息をつくハルトさん。しかし、大変な事にゆゆるちゃんは長い言葉の羅列に口をあ
んぐりと開けたまま、まったく意味が分かってないご様子である。

 ゆゆるちゃんは魔女なので大変に賢い頭脳を持ってはいるのだが、一度の台詞が長いと
理解できないという非常に心温まる性質を有しており、これは悩み相談所のカウンセラー
として根本から考え直さねばならない問題点だ。

「さて、どうしたものかと困ったところへ『悩み相談所』とくれば、これはものの試し、
魔女であるゆゆる殿に聞いてみるのもまた一興、とここへ訪ねて来たわけだ」
「はあ」
「自分の創作物に関しては黙して一切語るな、などという極右的な考えすら広まっている。
あれは端的にそういった意味でなく、闘争としての修羅、即ち心意気を――」

「むつかしくて、ゆゆるにはわかりません」

 さすがのゆゆるちゃんも秒殺である。

「もっとやさしくゆってください」

 大きく肩を落としたハルトさんであったが、目を細めてゆゆるちゃんを見つめたあと、
何かを悟ったように口を開いた。

「なるほど、受け手に分かるように言葉を創作しろと言う事か。奥が深い」

 ハルトさんは大変に聡明な方なので、ゆゆるちゃんの発したありのままの言葉ですら、
創作の指標にしてしまうのだ。恐るべし人物である。

 小鳥のさえずりが2匹、3匹と増え、一体どれくらいの時間が経ったのか、気づけば
ゆゆるちゃんの部屋の中では、おかしな会話が繰り広げられるようになっていた。

「もう、もう! ゆゆるちゃんったら、一体どう言ったら分かってくれるのよ!」
「だってはるとちゃん、ゆってることがむずかしいんだもん」
「じゃあ、もういっかい言うからね! ちゃんと聞いててよ!」

 ゆゆるちゃんの理解レベルまで下げられた会話は、悩み相談というよりも、これでは単
なるままごと遊びである。

「あ、わかった」
「やっとわかってくれた? 疲れるなあもう」

 おもむろに立ち上がったゆゆるちゃんは、ハルトさんのカチューシャを包むようにひら
ひらと手を動かす。ぽんという音が鳴り響くと、それはふわふわした耳あてに変化した。

「な、何をするのだ! やめんか!」

 続けてハルトさんの身体にむけて手をひらひらと揺らす。ぽんと言う音とともに、濃紫
のドレスは、ピンク色のトレーナーに早変わり。いたるところについている星型のラメが
安っぽさを過剰に演出しはじめる。
 立派だったハルトさんの風体は、あっという間にキッズエナジー溢れる、砂場の似合う
少女になってしまった。

「なんという無礼な! 早く元に戻せ!」
「ことばづかいがもどってますよ」
「ゆ、ゆゆるちゃん! もとにもどしてよ!」

 最後にぽんと現れたのは巨大な鏡、そこに映るのはどこにでもいそうな一人の少女と、
素朴な格好をした魔女だった。
 ――それはまさに小さな女の子が夢の中で思い描く、シンデレラのワンシーン。

「こ、これは……」
「たいへんおにあいです」

 ハルトさんは今までに着たことのない安っぽい服装を、身体をくるくる回しながら眺め
ると、難しい顔をして向き直った。

「そうか……頭が凝り固まっていたのは私の方かもしれないな」
「きらくがいちばん」

 ふっと笑いをもらすハルトさん。その顔にはどこかかわいらしい、子供のようなあどけ
なさが浮かんでいた。

「この堅苦しさが誤解を招くこともあったのかもしれないな。されど私は考えは変えぬぞ」
「ごじゆうに」

 いつのまにか消えていた小鳥のさえずりに代わり、聞こえてきたのはハルトさんを探す
倉刀くんの声。

「さて、そろそろ行くとするか。しかし良い息抜きになった、悩み相談所というのも伊達
ではないな。この服しばらく借りるぞ」
「おだいはけっこう」

 かちゃりと扉を開けたとたん、倉刀くんの驚きの声が上がった。

「し、師匠! 何ですかその格好は!」
「まあまあ、たまには良いではないか。ほら、行くぞ――」

 会話を切るように閉じかけた扉が、僅かな隙間をのこして動きを止める。
 そこから覗いたハルトさんのにこやかな口が、小声でささやいた。

「ゆゆるちゃん、また遊びにくるね!」
「いつでもどうぞ、はるとちゃん」

 笑顔を返すゆゆるちゃんの胸には、二つ目の友達認定バッジが輝いていた。

 魔女の進級試験である友達作り。最初は不安を見せながらも順調にこなしていく
ゆゆるちゃんであったのだが――ついにここへきて暗雲が立ち込めることになる。



「春斗(はると)の姫(あねご)……“堕ち”やがった……」

 アンティークな造りの部屋の中に、空き缶を潰す乾いた音が響きわたる。

「気にいらねぇ……“疼き”やがるぜ、この左目の古傷が……」

 青い特攻服に身を包む青年の前、高貴な雰囲気をかもし出す少女が静かに紅茶を置いた。

「物騒ですね。そのような荒れごと、私に持ち掛けないでいただきたいものです」
「アンタなら分かると思ったんだがな、あの“シマ”で戦ったオレらにゃ、ぬるすぎる」

 答えず目を細める女性は、この館に住むもう一人の魔女、フェアリーテールさんである。

「いっぺんシメとかねえとな……」
「穏やかでないですね。しかし止めませんよ、エーリヒさん」
「ま、見といてくれや。“毒威突”の根性、見せ付けてやんよ……」

 ばたんと締まる扉を見て、不適に笑う唇が紅茶を啜った。



つづく

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