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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 1/3



第六話『テロリストのウォーゲーム』


…ぁ……て…

…sぁ、おkて…

さぁ、おきて…

…―――

新しいあなたの、朝がきたよ…

―――…


1.「あの日の想い、今も色褪せず」
―数年前、初夏―
 夕闇が迫り、昼と夜の境界が曖昧な時間。親には子供だけでは入っちゃいけないって言われている山の
中。あたしとタケゾーは案の定道に迷い、途方にくれていた。当時幼かったあたしは、早く家に帰りたくて帰
りたくて、もう半分ベソかいてるようなひどい顔になってた。それなのに「泣いてるのか?」ってタケゾーに聞
かれても「泣いてない!」だなんて強がり言ってみせたっけ?そうそう、そんなやりとりを4、5回繰り返した
辺りだったかな、突然タケゾーが立ち止まったんだ。
 「おい…なんか、聞こえねー?」
 タケゾーがそんな事を言ったから、あたしも耳をすましてみると…なんていうのかな、声が聞こえてきた。
…それもすっごい美声。透き通った穢れの無い澄んだ声。声の主は聖母か天使か、とても人間には出せな
いような、もっと高位の存在のものなのだと、幼いあたしの頭の脳幹から前頭葉にかけて脳全域がその結論
に達したんだ。自分でも驚くぐらいの確信があった。だって、この声が聞こえてくる先からは、いつも身近で感
じていて、でも手の届かないような者の気配がした。

 …ああ、この先に居るのは、きっと神様なんだ。

 今思えば、それは間違っていなかったし、言い過ぎとも言えるかも。ただ、茂みの間からタケゾーと覗い
たあの光景を、あたしは将来忘れないだろう。

 ――みながわたしにつくすならば、―――

 「すっげぇ…」
 そこはまるで別世界。日差しが作り出す光のステージを舞う一人の女の子。まるで工芸菓子のようで、綺
羅びやかで、洗礼されていて、なにより目がその子から離れなかった。涙はいつの間にか止まっていた。

 ――わたしはみなにつくそう――

 ――われはりゅうじん、ひとのこら。このちをまもる、まもりがみ…――

 その子の頭には…きれいなきれいな銀色の角が生えていた。はっと現実に帰る。その子は異形だった。
この頃の私は、異形なんかには会ったことがなくて、大人からは「危険なものだ」と教えられていたから、
その時は逃げなきゃって思っていたんだけど…それよりももっとこの光景を眺めていたいって気持ちのほうが
強くって。それはどうやらタケゾーも同じようだったな。でもなんだかタケゾーの"見ていたい"は私の"見てい
たい"とは別のもののような気がした。

 後から分かったんだけど、タケゾーはこの時、あの子に一目惚れしていたんだと思う。

 幼いあたしがその事に気がつくのはもう少し後。今はただ、この光景がずっと続けばいいと、ありきた
りな言葉になってしまうけど…そう思っていたんだ。でもそれは、思いもよらない形で終わることとなってし
まった。

 「おいお前達…ここで何している」
 「え…?」
 あたし達の背後から聞こえてきた、誰かの声。それは明らかな敵意を帯びてあたし達に向けられてい
た。心臓が、静かに鼓動を早めた。あたしは焦っていた。まさか、この踊りというか、儀式というかは
分からない神秘的な行為は人が見てはいけないものだったのか。こんな山奥でやっていたんだ、人に見ら
れたくなかったのかもしれない。ましてやあんな素敵な歌と踊り…
 「だ、誰だよ!」
 タケゾーは声の主の素性を知ろうとしていた。そんなに気になるなら振り向いてその姿を確認すればいい
のに。ふと、タケゾーの足元に目をやると、生まれたての子鹿のようにプルプルと震えるひょろい素足があった。
 タケゾーもあたしと同じ気持だったんだ。アレを見て、罰が来るのを恐れていたんだ。声の主は専らあたし
たちを攫いに来た誰かさんなのだ。姿を想像して出てくるのは、絵本で見た蛇の目のお化けに、あたしの体
の10倍近くある図体をもった赤鬼。骸骨頭の死神と言った、陳腐な、想像上の恐怖の有象無象。
 実際どれも本物を見た事はない。お化けは案外ドジっ子でうっかり人を呪い殺しちゃうようなのもいるかも
知れないし、鬼だって案外自分達とそう変わらない等身の、気さくな良いやつかもしれない。死神は…まぁ
おいておこう。それでもあたしにとっては前者のイメージの方が強くて、そういった類のモノが自分達の背後
に立っているのかと想像すると、恐怖で身が竦んだ。全身が粟立つのを覚えた。自分とは縁のない死という
非日常が、今この瞬間にも着々と自身に近づいていることがわかった。
 「…質問に答えろ。何をしているんだ。事と次第によっては、お前達をただで帰す訳にはいかない」
 「あ…、あの…えと…そのぉ…」
 必死に上手い言い訳を考えたけど、こんな心理状態でまともな返事などできるはずもなく。言葉らしい言葉
を発する事もできずにいたあたし、そしてタケゾー。そんなあたし達に助け舟を寄越したのは…他でもない
…あの子だった。
 「火燐、やめて。そういう脅しみたいな言い方…」
 長く艶やかな黒髪に銀の角。黒い髪故に、その角は一層存在感を際立てて。それらにあまりにも不釣合な
ボロボロの肌着を着込んだ女の子がそこにいた。他でもない、先程まであのきれいな歌声を披露していた彼
女だ。あの子が私達の方を向いている。あの子が、私達の方へと近づいてくる。10尺ない位の場所までやっ
きた所で女の子は足を止めた。間近で女の子の顔を見て、驚くほどの美人であることに気がつく。色白な珠
のような肌、吸い込まれるような、深くて、ガラス細工のような金色の瞳。あたしは思わず息を飲んだ。こんな
に「きれいなもの」がこんなに近くに存在していたことなんて、今まで無かったから。
 「こいつら、人間だぞ」
 「人間だからよ。人間を憎んではいけないと、お母さんも言っていたでしょ?」
 「…悪い連中かもしれない…」
 女の子とあたし達の後ろの奴は知り合いのようだった。
 「お、俺達はたまたま通りかかっただけだ!…綺麗な歌声が聞こえたもんだから、つい…」
 ここぞとばかりにタケゾーはペラペラと喋り始めた。誤解を解くために。あたしも変な誤解されっぱなしは嫌
だったし、このままじゃ話が前に進まないと思ったから黙ってそれを聞いていた。ところで、さり気なく歌声を
褒めているところは隅に置けないと思う。
 「こんな小さい子に、あなたは何をしようとしていたの?」
 「う…でも!」
 小さい子って、確かにあたし達はまだ子供だけど、この女の子も十分子供じゃないか。そりゃあ、あたし達
よりは年上のようだけど。
 ここであたしは後ろを振り向いてみることにした。今までどんな奴が後ろにいたのか、今ならば確かめられるし。
 「…なんだよ?」
 振り向き目に付く銀の一本角。そこにいた女の子のものだった。背はあたし達と同じくらいで…やはり黒い
髪に金の瞳だった。なんだ、案外可愛らしい顔しているじゃん、なんて、今までこの子に怖がらせられていた
自分達の間抜けさに笑みが溢れる。それが気に食わなかったのか、火燐とよばれるその子はむっと顔を強
ばらせた。
 「おいお前。私の顔に何か付いてるのか?」
 まずい。怒らせてしまった。
 「ストップ、お互い悪人じゃあないんだから、無理に啀み合わないの。ほうら、こうして」
 割って入った女の子は、あたしの手と火燐の手を取り、握手をさせた。突然だったからびっくりしたけど。
火燐は心底嫌そうな目であたしを見ていた。握るその手は小さくて、白くて、でも…
 「暖かいでしょ?これが人の温もりなんだよ…」
 暖かい。なんて優しいぬくもりなのかとあたしは思った。女の子は握手する私達の手を包み込むようにして
手をかぶせてきた。皆が一つになったみたいで、自然と穏やかな気持ちになれた。気がつけば。火燐の顔
から怒りは消えていた。不思議だね。
 「同じこの大地に住むもの…きっと仲良く出来るはず…」
 女の子がそう言うと、何故だか火燐に敵意は微塵も感じなくなった。今なら、仲良く出来るかもしれない。
それにしてもこの女の子は一体何者なのだろう…たった一言で、場を鎮めてしまうのだから…
 「おーい、俺も仲間に入れてくれよー…」


―焔…
 「そう。それが私の名前。次元龍・騎龍家の末裔…」
 あたし達は何とか和解することに成功した。その際、道に迷っている旨を二人に伝えると、何と山の麓まで
送ってくれるという事になって…こうして、道案内をしてもらっている。
 そこで女の子…焔は自分達の事について語り始めたんだ。次元龍だとか、なんだとか。昔、おばあちゃ
んに似たような話を聞いた朧気な記憶が頭に付きまとう。一方、タケゾーはなにか知っているようだった。
 「騎龍…聞いたことがある…昔、騎龍という龍神様があらゆる災害から守って下さったって…もしかしてお
前達。その龍神様なんじゃないのか?」
 「…私達は…もう龍神様じゃないの。そんな力…無いから…」
 そう言った焔の瞳に、僅かな濁りが生じる。折角の綺麗な目が、これでは台無し。あたしにはどうすること
も出来ないし、どんな言葉をかければいいのかもわからなかった。
 「ここを抜ければ出口だぞ」
 火燐はこの先の道を指さして言う。やっとおうちに帰れるという安堵感一気に押し寄せてくる。早く帰ってお
母さんの顔が見たい。今日ばかりは何でも適当にぶっこんで作る鍋物料理も我慢しようという気になれた。
 「じゃあ…さよならだね…」
 「ああ…」
 二人とはここでお別れ。色々あったけど…二人には感謝の気持ちでいっぱいだ。
 「ありがと、二人とも!」
 これは紛れも無い、あたし自身の言葉だった。
 「ほんとにありがとーよ、俺達このまま帰れないんじゃないかと思った…ああ、それとさ」
 「?」

 「また…会いに来てもいいか?」

 「へ…?」
 タケゾーは、単純だ。誰とだって仲良くなってしまうのだ…たとえそれが"異形"…であっても。
 「そんな…ここは、危ないし…」
 「いいってそんな事気にすんなよぉ!俺達…友達だろー?」
 「友達…!」

 「…そうだね、うん…!」

 ぱぁっと、花が咲いた。綺麗な花。初めて見せた焔の笑顔は白百合のように綺麗で。あまりにも綺麗だっ
たから、なんだかあたしは妬けてしまった。こんなのってずるい。

 こうして、あたし達にちょっと変わった友達ができた。夕日に照らされ、オレンジ色になった入道雲が空に浮
かび、蝉の羽音がうるさくなり始めたどうってことない日の事だった。


―私達は出会い、運命は繋がった。繋がってしまったー



 ―数日後―
    ―区内のとある道場―
 「おーうカナミ。今日もやまいこーぜ!」
 道着姿のタケゾーが帯を緩めつつあたしに話しかける。タケゾーの家は道場だ。何でも、タケゾーのお父さ
んは凄い剣豪らしく、以前の異形掃伐やこの街を襲った異形騒動で大活躍したのだとか。当然、息子である
タケゾーも剣術の腕はピカイチで、腕も立つ。この辺の子供達でこいつに逆らえる奴はいない。全く、体力だ
けはあるんだよなー、タケゾーは。
 「はいはい、ちゃんと着替えてからねー」
 「わぁーってるよー!!」
 そう言って、タケゾーは道場の奥へと引っ込んでいった。道場の奥の左側。二階へと上がる階段の隣にあ
る更衣室で着替えをするためだ。あそこは絶対に入りたくない。汗臭くて鼻がひん曲がりそうになる。


 「いやー、あいつら生きてっかなー?」
 「いきなり何いってんの?」
 タケゾーが着替を済ませた。焔達のいる山へといざゆかん。ここんとこ毎日焔達の場所へと行っている。
タケゾーはほむっち(焔のあだ名)の事を痛く気に入っているようだった。あたしもほむっちの事は接すれば接
するほど大好きになっていったけど、幼馴染として積み上げてきたものを、あっさり上回られた気がして、あ
たしとしては少し面白くなかった。
 「今日はやりたい事があるんだー」
 タケゾーは意味ありげな言葉を残して、あたしの先を走っていった。その両腕には、何に使うのか分からな
い資材やら道具が抱えられていて、がっちゃがっちゃと音を鳴らせる。甲冑の擦れたような音が徐々に小さく
なっていき、タケゾーの姿はもう豆粒ほどの大きさになっていた。どんだけ体力バカなんだあいつは…。

―――…

 「ひみーつきちを、つくるぞぉー!!」
 「ひみつ…きち?」
 いつもの平地に集まったあたし達4人。早々、タケゾーはそんな事を目一杯に叫んだ。バサバサと小鳥達
が飛び去っていく。ものすごい大声だったから、あたしは耳鳴りに襲われた。キーンという音が耳の中でやか
ましく響いた。
 「うっさいわタケゾー!いきなり大声だすなバカ!」
 「やっぱ俺達の活動拠点っていうの?そういうのあった方が良いかなーなんて思っちゃったりしてさぁ、ほ
ら、道具持ってきたしよぉー!」
 あたしの注意をまるで聞いていないタケゾー。正直むかついた。腹がたったあたしはこっそり魔法で氷の塊
を作り出し、タケゾーのシャツの中に後ろから2、3個放り入れた。ひゃい、という情けない声が聞けたのであ
たしは満足だ。
 「秘密基地って、ここに作るのか?」
 火燐はシャツから氷を取り出すタケゾーに尋ねた。
 「あったりめーよぉ!さぁお前ら、やるゾー!!」
 「元気いいね、君は」
 そう言った焔は、相変わらず美人だった。同姓から見ても、ドキッとしてしまうほど。何気ないその笑顔に
不覚にも心揺さぶられてしまった。いや、ノーマルだよあたしは。
 「それだけがこいつの取り柄だかんねー」
 「うっせーぞカナミィ…」
 …そんな訳で、秘密基地を作ることになったのだけど…

 「ああー、屋根は適当にダンボールでいいか」
 「…壁は?」
 「適当にダンボールでいいんじゃねぇ」
 「全部ダンボールかッ!!」
 ろくに考えないで作ったものだから…

 「火燐、ボンドとってくれよ」
 「…まさか、それで接着するつもりか?」
 「接着以外で何にボンド使うんだよ!!」
 結果はわかりきっている訳で…

 「かんせーい!!」
 「…これは酷いな…」
 できたのは、豚小屋の方がまだマシといったレベルの代物だった。台風なんか来た日には跡形も残らない
ような貧弱な外装。皆微妙な顔をしていたけど、タケゾーは
 「外見は問題ではなーい!居心地がいいかどうかだ!」
 なんて言って誤魔化すのだった。
 「さぁ、入ってみようぜ!」
 急かすタケゾーに背を押され、秘密基地とは形容し難いそれの中にはいる。結論から言うと、中はいうほど
酷くは無かった。快適でもないけど。
 「…まぁ、悪くないな」
 「うん、いいよー!すっごくいい!」
 龍二人も気に入ったようで何より。私達の活動が…ここから始まる。

 「…で、何する?」
 「…知るかッ!」

 夏の終わりの事だった。
 秘密基地の上空に浮かぶ飛行機雲と、太陽に重なるようにして飛ぶトンボ達。
 タケゾーが持ってきたソーダ水があたし達のカラカラの喉を潤した。
 何も考えないで皆笑い合えたあの日。あの頃のあたしたちは、何も知らなくて、何でもできた。


 ―数年後・夏至―

 「今日はよ、皆で街に行こうと思う」
 ほむっち達と出会って数年。あいも変わらずあたし達は"いつもの場所"に集まっていた。最初はひどい有
様だったけど、数回の改築によって少しはマシになった気がする。我らが秘密基地。
 「…だめだよ…私達は異形だから…あまりいい目で見られないから…」
 タケゾーは山から出たことが無いという二人の話を聞いて、思いつきで言ったのだろうが…ほむっちはそれ
を断ったけど、尚もタケゾーは食い下がらない。
 「角を隠せばいい!そうすれば俺達と外見変わんねーだろぉー?」
 「…尻尾はどうするんだ」
 火燐は緑色の尻尾をだらんと垂らして言う。
 「腰に巻け!」
 ベ○ータかて。まぁそんな感じで強引にタケゾーに連れられ、今日は街で遊ぶことになった。
あれから随分時間がたったけど、ほむっちと火燐は全くと言って良いほど容姿に変化がなかった。やはり異
形だからか、龍は人に比べて成長するのが遅いらしい。
 対して育ち盛りのあたし達の身長は、気がつけばほむっち位の大きさになっていた。なんだかあっという間
だ。お姉さんに見えたほむっちも、今じゃ同年代にしか見えなかった。
 街へ行くに、角を隠さなきゃいけないみたいだから、あたしは二人に帽子を貸して上げることにした。一足
先に街中へと着いたあたしは帽子をとりに自宅へと戻る。お母さんは二つも帽子を持っていったあたしを不審
な目で見ていた。ごまかしが思いつかなかったあたしは、逃げるようにその場を後にしたっけ。


 「うわぁ…すごいなぁ…」
 帽子を被り街中へと入れたほむっち達。目に映るもの全てが珍しい物みたいで、しきりにあたりを見回して
は「はえー」だの「ほえー」だの一々感心するのだ。それがあたしにはとても面白かった。
 うだるような暑さ。風鈴の音。八百屋のおじちゃんの野菜をたたき売りする声。街の匂い。
 そんな街のいつもの様子が、ほむっちと火燐にはどんなふうに見えているのだろうか?
 「すごいねー、火燐」
 「ふん…人が多いのは苦手だ…」
 ほむっちも火燐も別々の反応を見せるんだけど…顔はどちらも楽しそうに見えた。あぁ、楽しんでるんだなぁ
って。ここであたしは二人のある部分に目がいった。服だ。二人ともすごい綺麗なのに、服がこんなにボロ
じゃあ台無し。
 「ねぇ、ふたりとも」
 「ん?」
 だからあたしは、二人に服を買ってやる事にした。

 「に…似合う…かな…?」
 早速服屋へとやって来たあたし達。きっと二人とも可愛い服を着れば今より、数倍その魅力を引き出せる
筈。一番期待に胸ふくらませているのは他でもない、あたしだった。店に入るや否や、数着の服を掻っ攫って
試着室へとほむっちを引っ張り込む。あたふたする彼女を強引に脱がすのはある種の背徳感を感じえずには
いられなかった。失礼、そういう展開にはならない。
 隼の如く着替を終わらせる。今ほむっちが着ているのはカジュアルなシャツにチェックのスカート。黒のタイ
ツで止めだァ!!
 「ぐ…グレイトォ…!!」 
 当然それを見たタケゾーはあたしに最大限の賛辞を、立て親指で示した。「お前わかってんじゃん」と。
 「は、はずかしい…」
 「そんなに恥ずかしがる事無い。焔…すごい綺麗」
 「んじゃー次、火燐いってみる?」
 「はぇ!?な、なんで私が!!」
 「はずかしがんなくていーよ、ほーらこっちゃこーい」
 ほむっちの華麗なる変身に見とれている所の火燐を不意打ちで更衣室に突っ込む。
 「きゃあぁぁぁぁぁ~!?」
 おやおや、火燐もこんな可愛らしい声を出すこともあるんだなとあたしは関心する。そしてあたしは自前の
テクで火燐を一人前の女にしてやるのだ!!
 「ら、らめぇぇぇぇぇ…」

 小休止、幾数分。

 「ぐす…ムリヤリ…強引に…」
 …ふぅ。
 こっちは暴れるものだから時間がかかった。服装はズバリ「甘ロリ」ッ!!ピンクのふわふわとしたフォル
ム、これでもかと言う程のフリルに包まれた無垢な少女…完璧だ…
 「私にこんなのは似合わない…」
 「そんな事無い。火燐、スゴク可愛いよ」
 「…ッ!!」
 百合色夢気分的な雰囲気が展開される。ほんとほむっちは男でも女でも関係ないんだから。なんという
リーサル・ウェポン。ギャルゲ主人公も真っ青な安心のフラグ構築率。そんなあたしもマジでぞっこん恋してる
…いやいや、そういう趣味は無いって…多分。

 「ほ、ホントに買ってもらっていいの…こんなに…」
 「だって可哀想じゃん…その服じゃ…」
 「でも…お金…」
 お金のことを心配するほむっち。だけど安心して、気にしなくていいよ。
 「大丈夫!!タケゾーと割り勘だし!」
 「ちょ、聞いてねえぞそんなのぉー!!」
 あたしだけなけなしのお小遣いを減らすのは割に合わない。タケゾーも巻き込んでやるのだ。
 「おかいけーおねげーしますー」
 「はいはい、これ全部でいいんだね」
 会計へとそれら大量の服を持っていく。このまま何事もなく買い物を終えれるかと思ってた…
 「…ん、そっちの子は見ない子だねぇ…一体…!?」
 服屋の店主の様子が一変する。みるみる顔が青ざめていき、そして…
 「い、異形よぉぉぉぉぉぉん!!だれかぁぁぁぁぁ!!」
 「えっ…何で…」
 何故バレたのか…それは人目でわかることだった。ほむっちの頭に帽子はなく、その綺麗な角を覗かせて
いたから。
 「あ…さっき更衣室に忘れ…」
 「とりあえずここはマズイ!!にげんぞぉ!!」

 走る、走る、街の中。道行く人は皆、あたし達の事をふりかえっては奇異の視線を浴びせる。何にって?
ほむっちの角に決まってる。そんな纏わり付くような人の目から逃れたくて、あたし達はただ必死に駆けた。

 「ごめんね…ほんとに…ごめんね…」
 「まぁ、こういう事もあるって…気にすんなよ…また今度あそびにいこーぜ…」
 何とか街の外までやってこれたあたし達。当然服なんかは買えなかった。
 「服…残念だったね…」
 「うん…」
 しゅんとテンションの下がる音が聞こえてきそうな落ち込みを見せるほむっち。結構乗り気だっただけに、
余計悲しそうに見えた。なんだかぬか喜びさせたみたいで…いたたまれなかった。

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