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続・あるお茶会

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匿名ユーザー

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続・あるお茶会

 箱庭屋敷での生活も、すっかり私の日常になってきました。
 とはいえ、戦場生活に慣れている筈なのだから共同生活くらい当然じゃないか、などと思われるのも困ります。人は、水が違うだけで腹痛を起こすものです。
 況や乙女においてをや。……古い言葉なので、用法が適切であるのかちょっぴり不安だったりしますが。
 兎に角。共同生活には色々な障害があるものなのです。浮世は世知辛いものなのです。人間関係ともなると尚更に。
 ……つい先日も、へんてこりんな格好をしたちみっちゃい子と、早速やらかしちゃいましたしね。
 私としては、ちっともそんな心算は全くこれっぽっちもなかったのですが。生来人見知りする性格ですし。金持ち喧嘩せずといいますし。
 お紅茶の事となるとムキになってしまうのは、素晴らしき大英帝国民の数少ない悪癖かもしれませんね。反省。


「……うむ。まぁそういう訳だから、今日は二人とも仲良くやるように」
「ええ」
「心得ました」

 ハルトさんの短い口上に、私とはさみさんは返事をして頷きました。
 今日は仲直りのティーパーティーです。
 時計は夕方少し前。天気は良好。柔らかな南風まで吹いてお茶会日和。
 中庭のテーブルには下ろし立ての真っ白なクロス。その上には、前回と違う柄の可愛らしいティーセットとお菓子が盛り沢山。
 給仕係の倉刀さんも、遠く屋敷テラスの程近くに控えているため、男性恐怖症の私も安心です。
 まさにこれは、完璧なコーディネート&セッティングと言って良いのではないでしょうか?

「これは……見事ですね。本日はお招き頂き有難う御座います、閣下」
「うんうん、よいのだ」

 居住まいを正し、招待の謝辞を述べるはさみさんです。ハルトさんも嬉しそうに頷いてます。
 ですがはさみさん、その装いはいつもの燕尾服姿ではありません。なんとドレスです。時間が少し早めなので重ったるいものでもないのですが、ふりふりです。
 私と目が合うと、恥ずかしそうに頬を染めて目を伏せました。こ、これは何のフラグなのでしょうか?

「私にもお礼を言わせて下さい。今日は有難う御座います、ハルトさん」
「うんうん、よいのだ」

 先程と同じ言葉をこちらにも返してきます。なんだか故郷の祖母を思い出す笑みです。
 ……ですが。

「でもこのような衣装は、国許に居た時にもあまり……」
「わたくしも、こういう格好は……」
「そんな事はない。二人ともとても似合っているぞ」

 ハルトさんはそう仰いますが、あぁ、なんだか落ち着きません。
 ……実は告白すると、私もドレス姿なのです。あぁ、実家に居た時もこういう社交的なものは避けてたのに!
 出来れば詳しい描写は避けたい所ですし、言葉での説明が難しいというのはハルトさん作の服全般にいえる事だったりするのですが。
 それでも敢えて一言いわせて貰うなら、背中や腕に風が当たってちょっと寒いです。

「…………」
「…………」

 もう一度、はさみさんと視線が合います。
 恐らく、思っている事は同じはず。

《わたし、まるでシンデレラみたい!》

 ……いえ、敢えて正解を外してみました。本当に思ってる事なんて、まさか言える筈もありません。
 とかそんな事を思っていると、突如としてハルトさんが魔王の如く笑い出しました。

「フハハハハハッ! うむうむ、いいぞいいぞ!!
 それにしても、私の少女趣味も実にマニアックだなっ!!」

 ……本人に先に言われちゃいました。
 ハルトさん、絶対着せ替え人形とか好きです。

 まぁ……何はともあれ。
 紅茶が美味しいですねえ。
 今回の茶葉はごく普通のダージリンのようでした。前回、フレーバーの事で揉めてしまったので、これは気を使ってくれたのでしょうね。
 その心遣いにちょっぴり申し訳ない気になりつつ、用意されたお菓子を口に運びます。あら、こちらも美味。

「変わったお味のスコーンですねえ。これは何のハーブが入っているのですか?」
「あぁそれは緑茶だ。宇治茶を使っている」

 共同生活にも慣れた近頃は、言葉もくだけてきたハルトさんです。軍人さんみたいな口調ですが、これが彼女の素なんでしょうね。
 ……まぁそれをいう私も、学徒とはいえ軍人なのですが。
 近頃はうっかりするとそんな事も忘れてしまいそうな毎日です。

「緑茶、ですか? ……どうやらわたくしは、閣下に大変気を使わせているらしい」
「気にするな。お菓子作りもまた創作だ」
「忝いです。頂きます」

 はさみさんは件のスコーンを少しだけ砕いて口に運びました。そのままだと大きすぎますからね。
 ハルトさんもそれを見て眩しそうに微笑みます。絵になる人ですねえ。マダム・タッソーに置いたら見物人の行列が出来そうです。
 あ、ハルトさんと目が合ってしまいました。私は咄嗟にどういう表情を作れば良いのか、一瞬だけ迷います。
 ……私も同じように微笑みました。
 というより、最初から微笑んでいたみたいです。

「いいにおいのけはいー」「おかしたべたし」「われもわれもー」

 あら、無意識の内に妖精さんを呼び出してしまいました。我ながら気が緩んでますね
 一旦呼び出すとわらわらと集まってくる彼らは、どうやらはさみさんの食べかけのスコーンに興味津々の様子。

「え? あ、あの?」
「……すみませんが、少しだけ分けてやっていただけますか?」

 彼女と正面からこうして話すのも、随分久しぶりな気がします。
 多少戸惑いつつも、はさみさんはテーブルの上をゆっくり後退しながら、スコーンの欠片を配ってゆきます。妖精さん達がそれをよたよたと追いかけます。
 ――Oh, the brave old Duke of York,――なんて、マザーグースの一節を連想しました。
 その動きを不思議に思ったのは、ほんの一瞬です。すぐにその理由が推察できました。
 妖精さんの背丈は、はさみさんの丁度半分ぐらいです。妖精さんが彼女の足元に群がってしまうと、スカートの下のその鋏の刃で彼らを傷つけてしまいます。
 そうならないように巧みにかわしながら、はさみさんはお菓子を配っているのです。なんという紳士イズム。

「……彼女と、仲直りしてみないか?」

 ハルトさんが私に小声で問いかけました。
 まだ発展途上の私の胸に溢れたのは、戦争に明け暮れる毎日の中で、とっくに忘れてしまったと思い込んでいた感情だったかもしれません。
 持っているお菓子もなくなったというのに、妖精さん達はまだ追いかけっこをしています。いつの間に、手段が目的にすりかわってしまった様子です。
 空は良い天気です。とても静かで、聴こえるのはキャイキャイはしゃぐ妖精さん達と鳥のさえずりぐらいなもの。空気もきれいで紅茶も美味しい。

「……はい。きっと、仲良しになれると思います」

 私は答えます。
 それを聞いてハルトさんも、今日一番の笑顔を見せてくれました。

「やあやあ、お嬢さん方。楽しんでるようだね」

 と、やって来たのは怪しい管理人氏です。
 ……私も男の人は全般苦手なのですが、この人は特に嫌ァな感じです。なんだか視線が自然にいやらしいんですよね。

「ああ、実に楽しいね。そういうわけだから帰れ。煙草の臭気で紅茶が不味くなる」

 おお! ハルトさんは純真な乙女の代弁者です。

「手厳しいね。煙草との組み合わせとしちゃあ、俺は結構好きな部類だぜ?」
「そうか。まぁ味覚の好みは個人の自由だ。
 言い換えてやる。貴様がいると紅茶が不味い」
「……この屋敷の管理人にいう事か、それ?」
「平穏な生活を住人に提供する事が貴様の仕事だろう?」

 ハルトさん、容赦ないですねえ。言ってる事は全くの正論ですが。

「……やれやれ。折角、お嬢さん方が退屈しない為のネタを持って来てやったのに。
 せいはい、って知ってるか?」
「…………」
「…………」

 私とハルトさんは無言で顔を見合わせます。
 知ってるも何も。

「聖杯……というと、あの?」
「お、鋏の子は知ってたか。
 そうそう、お嬢さん方の」

 管理人氏はそこで言葉を止め、いやらしい目で私達を見ました。
 ……いえ。具体的には、私達の胸元を。

「そう、お嬢さん方が胸に秘めた発展途上な願いを叶えてくれるという、ご近所の奥様連中にも評判のアレさ」

 この男性、何たる破廉恥な。紳士の風上にも置けません。
 しかし……彼の言った事は本当なのでしょうか?

「莫迦な。そんなものがあるわけがない」
「いやいやいや、ところがあるんだよ……というより、俺はお嬢さん方もてっきりそれ目当てだと思っていたんだがね。
 なのにいつまでも仲良くお茶してるもんだから、拍子抜けしていたところさ」

 俄かには信じがたい話です。
 聖杯。
 それは最も有名な聖遺物です。救世主である神の子の血を受けたその杯は、持つ者の願いを何でも叶えると聞きます。
 もしも。もしもそんな物があるのなら……いえいえ、ありえません。

「……はさみさんはどう思う?」

 三人が顔を見合わせると、ハルトさんが問いかけました。

「……そうですね。聖杯と呼ばれる物質自体は、存在するものだと思っています」
「それはつくも神としての意見か?」
「はい。もっとも、件の聖杯がこの箱庭内にあるかどうかはまた別の問題ですが」
「では管理人が嘘を吐いているように見えるか?」
「……わかりません。ですが、彼が嘘を吐く理由も見当たらない……」

 まさか。
 そんな事が許される筈が……。

「フェアリー・テールさんはどう思う?」

「私は……」

 ハルトさんに訊かれ、私は言葉に詰まります。
 私は? どうしましょう?
 そのようなものがあれば、勿論……。

「ううむ……まぁこのようの事は不毛な問いであ」
「大英博物館に寄贈されるべきです!」

 かつて、魔法を学ぶ課程で学んだ事があります。いえ、それは教師の何気ない雑談だったのですが。
 聖遺物を求めるものは、その聖遺物の眠る地で戦いをする必要があると。その戦いで流された血が、聖杯の降臨に欠かせないものなのだと。
 それはすなわち。


「聖杯戦争です!」


「……何だと?」
「聖杯を得る為には、七人のマスターが戦闘を行う必要があります。
 そうですね、管理人さん?」
「ん? せんとう? ……まぁ、そうなのかな?」

 歯切れの悪い返事です。それでも聖杯戦争の監督人なのでしょうか?
 ……いえ。もしやこの人も、参加者――マスターの一人?
 そう。
 そういう事なのですね。
 この不思議な土地に迷い込み、只者でない人達に出会った時に気付くべきだったのです。――この屋敷での生活が、ただの同居で終わる筈ないのだと。

「誇り高き大英帝国臣民である私が、必ずや聖杯を勝ち取る事をここに宣言します。
 チョビヒゲ第三帝国の魔女や、ハラキリ大日本帝国のガラクタに、我らが至宝は渡しません」

「…………」
「…………」

 言ってやりました。二人とも呆気に取られたように固まってます。
 本来ならこのような挑発的行為は、純真乙女の心臓にはキツーいものがあるのですが。わが帝国への忠誠心にはかえられません。
 奇しくも三大帝国三つ巴。かつてない壮大な戦いの予感がします。

「……まあ、全ての創作物の魔王として、聖杯を宝物に収めるのも悪くない」
「……わたくし自身は聖杯なんぞに興味はないが、婆殿への良い土産が出来そうだ」

 ゆらりと。
 二人から強大なオーラ――いえ、魔力と妖力が立ち昇るのがわかります。どうやら挑発に乗ってくれたようです。
 屋敷の住人は現在六名。私、ハルトさん、倉刀さん、はさみさん、記憶氏、管理人氏です。
 聖杯戦争の開始には、最低でもまだ一人足りません。倉刀さんはハルトさんの助手ですし、管理人氏の進退は不明。記憶さんは……何もいわずとも首を突っ込んでくる展開が見え見えですが。
 或いは一名といわず、更なる参加者が必要になるのかもしれません。

「続きは次の入居者が来てからです。それまでは休戦としましょう」
「よかろう」
「心得ました」

 互いの意思を確認すると、私達は中庭のティーテーブルを後にしました。

「え? 何の話で盛り上がってんの?」

 わざとらしく管理人氏がちょっかいを掛けてきますが、思うに彼は敵です。マーボー神父のポジションです。無視するのが良いでしょう。
 何しろ私にとって久しぶりの、これは戦争なのですから。

――To be continued on the next time.           ?



各方面に土下座しつつ投下終了

……と思いきや、今回のオチ


「あ、管理人さん。師匠たちと何を話してたんですか?」
「ん? せいはいの話さ」
「せいはい……ですか? なんです、それ?」
「背を盛るって書いて、せいはいって読むんだ。盛背だな」
「はあ」
「この土地には温泉が湧いててだな、おっぱいが大きくなるという効能があるんだ。
 つまり、どっちが背中かわからん胸板に乳を盛るわけだな」
「はあ。なるほど、それで胸の貧しい彼女達にそれを薦めて……///」
「チクショウお前のリアクションは可愛いなぁ。ま、その温泉に入れる銭湯があるわけだ」
「せんとう、ですか……」
「つまり盛背銭湯だな」
「せいはいせんとう……変な名前ですね」
「まあな。ぶっちゃけアンフェアだ」
「あんふぇあ?」
「まあギャグだと思ってくれてもいいし。マジに第一次創発聖杯戦争編始めちゃうのもありじゃないか?」
「投げっぱなしですね」
「全力で遊ぶスレだからな」

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